Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
20 July 3151
視界は死んでいた。
砂嵐のただ中、機体の外装を叩く粒子の音がヘッドセット越しに重低音で響く。
ゾリグのVisigothが峡谷の底を這うように飛ぶ。高度は地上から100ft。地形図とセンサーだけが頼りのほぼ無視界飛行だ。
機体が風に煽られるが、負ければ岸壁に叩きつけられる。操縦桿を握る手にも力が入る。
砂嵐の上に上がれば、墜落の危険は減るが、相手の索敵網に引っかかる上に地表の敵を発見できる可能性がガクンと落ちる。
風防の向こうはほとんど茶色の壁だ。HUDの輪郭補正も焼け石に水。まともに敵影を捉えるには、レーダーと直感しかなかった。
僚機は上空にいる。このミッションを飛べるのは、センサーを満載したこの5番機だけだった。
渓谷を一度抜けた。高度を変えずに操縦桿を倒す。
センサーに感。
レーダーの光点がどんどん近づいた。
頭上に傘のようなレーダーRifleman。不格好なブリキ缶のお化けJagermech。
ジャンプジェットを吹かして5番機の真上を飛び越えて行ったのがDervishだ。
全て、事前情報のまま。
味方に位置データを送信しつつ、機体の推力を上げる。
「敵メック小隊目視ッ。ツェレン、ドルマー。そっち見えてるか!?」
応答にはノイズが混じっていたが、それでも返事が返ってくるだけマシだった。
全部隊が動き始めている。ゾリグの仕事はもうほぼ終わりだった。
高度を上げる直前にもう一つの光点を見つける。
「Longtom1両!」
この砂嵐の中で有効とは思えない。だが、相手は野砲を連れてきていた。
巨大な大砲は砂嵐の中、ほとんど立ち往生しているように見えた。
砂嵐の上空に機体を引き上げる。
途端にレーダーに複数の光点が浮かび上がる。
「敵航空編隊を見つけた。半分近く爆装している。」
距離を離しながら大きく旋回。光学センサーで敵の装備を確認する。
確認が済んだら、さっさと離脱する。
砂の中、明るい点が一つ浮かぶ。複数の連続した爆音が遠くから聞こえる。TimberWolfのLRMランチャーが火を吹いた。
続いて、ミサイルキャリアーの咆哮が聞こえる。
2番機と4番機が敵の護衛機をすり抜けて砂嵐の中にダイブする。
ミサイルは使わない。光弾で敵メックの装甲を正確に焼く。
その効果確認のため、ゾリグも機体を低空へ戻し、濁流のような視界の中へ進む。
KitFoxの放ったArrowⅣの弾着がちょうど確認できた。
ドスンと機体のど真ん中に着弾した。相手の指揮官機のRiflemanが前のめりに倒れる。
ふと、異質なことに気がついた。
TimberWolfが敵の前衛、Jagermechの真横を全速力で駆け抜けた。
少し離れたところでアレフのFleaがDervishに猛接近している。
一つの言葉がゾリグの頭をよぎった。
「モンゴル・ドクトリン......」
かつて、彼らの氏族が通った誤りの道を彷彿とさせる突進。
その姿にゾリグは、背筋が僅かにざわついた。
砂嵐の下、ドルジ達は機体が触れ合いそうな近距離で、戦闘を繰り広げていた。
敵の火線が次々とTimberWolfを掠め、いくつかは装甲を抉った。
ゾリグは自分の思い違いをすぐに悟る。これは、かつてマルヴィナによって残虐に捻じ曲げられた“あの戦術”ではない。
ドルジ達はするりと相手のメックの横を交差した。
その姿は古き軽騎兵を思わせる。
ゾリグは直感した。
彼がデルタで居場所を失った理由はこれに違いない。
氏族の中には、マルヴィナの戦略に疑念を抱く戦士達がいる。
彼はその古き伝統の中に生きる一派の一人に違いなかった。