Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
20 July 3151
崖を越えた瞬間、視界が一気に開けた。
砂嵐の中、煙の向こうに、二つの影がいる。
JagermechとRifleman。
機体が飛び出したのは彼らの目の前だった。
それにも関わらず、アリマの戦闘ヘリはレーダー照射を受けていない。
どちらも彼女に気づかなかった。あるいは、すでに他の標的に集中している。
アリマは素早く機体を2機の側面に移動させた。
ビーコンを先頭のJagermechに向けて発射する。
戦場の後方にいるKitFoxと、ミサイルランチャーが誘導信号を待っているはずだった。
機体の制御に精いっぱいで反応が遅れる。
コンソールに目を走らせるが、命中を示すランプの反応はない。
アリマのビーコンは外れていた。
隣で低く回転音を響かせていたバヤルの発射したビーコンは信号の発信を始めている。
この砂嵐の中、回転翼機を飛ばした上での正確な投射。
無線の向こうは砂嵐のせいで何も聞こえず、いつもの無駄口が流れてこない。
──ミサイル、撃たせない方が仕事するんじゃないかしら。
命中度外視でミサイルを乱射するいつもの彼の姿を思い浮かべて、アリマは首を振る。
戦場の前面に機体を進めたアレフが索敵情報を発信し始めた。
アリマの目前のHUDの情報がみるみる更新されていく。
数秒後、砂のスクリーンの向こうで火球が閃光を放った。
Arrow IVの第一射が胴を直撃し、Riflemanは倒れかける。
相手の指揮官機の姿勢が崩れ、下半身が軋みながら砂地に食い込んだ。
次の照準をつけようとして、アリマは風の中に混じる別の異音に気がつく。
TimberWolfが、ドルジが予定以上に前に出ていた。
遮蔽物もなく、敵の真正面に深緑色の威容をさらけ出している。
敵の全ての射線があの機体に集中していた。
彼らしいと言えば彼らしい配置だった。
あの機体が前にいることで、装甲の薄いFLEAやアリマたちが敵の照準に晒される可能性が減る。
それでも、アリマは彼に目立つ行動を控えてほしかった。
──「ドルジ暗殺計画」。
ふと、脳裏に単語が浮かぶ。
この星に来たばかりの時に、現地の傭兵から聞いた話だ。
計画は複数の傭兵部隊に打診されていた。大金が動いて彼を仕留めようとしている人間がいた。
話を聞いたときは与太話だと思っていた。
だが、今は……。
Jagermechの機関砲が唸りを上げる。砲身が回転して、TimberWolfの頭部を連打した。
火花が散る。装甲は耐えていた。
でも、万が一は——いつだって起こりうる。
一発でもコクピットの中に通ったら、全てが終わる。
その想像だけで、喉の奥がひりついた。
だが、TimberWolfが彼女の願いを聞き入れることはない。
それどころかそのまま地形を滑り下り、勢いのまま突進してRiflemanとJagermechの間へ突っ込んでいく。
間髪入れず、Arrow IVの第2射が再びRiflemanの胴部を直撃する。
胸部の装甲が吹き飛び、むき出しになった内部機構が火花を吹く。
追い打ちをかけるように、空から光弾が降った。
砂嵐を突き破って、現れたドルマー達のレーザーが敵機の胴体を貫く。
Riflemanが膝を折り、重力に従うように崩れ落ちた。
センサーが熱源の急速な低下を示す。
中枢が黙りこくり、巨人が一人静かな彫像になった。
──首狩兎が大将首を取った。
戦場の航空優勢は相手のものだった。
空の味方はドルマ―達4機だったが、相手は倍以上の数が飛んでいる。
爆撃機にその護衛機と構成は単純な2種類だったが、その数がやっかいだった。
その合間を縫って、砂嵐に紛れてゾリグが、ドルマ―達が飛んでいる。
敵の爆撃機は止めなくていい。それがドルジの指示だ。
彼らはそれを忠実に守り、味方の航空攻撃は、敵メックに集中している。
その代わり、敵の航空攻撃はTimberWolfに集中していた。
爆撃の煙と爆炎を突き破ってTimberWolfは戦場を突進し続けている。
Jagermechの脇をかすめて通過すると、連装ミサイルの煙条を次の獲物、Dervishに向けた。
アリマも彼の背中を追って操縦桿を倒す。
戦場を跳ねるように逃げ回っていたDervishの後ろには、Fleaが貼りついていた。アレフだ。
器用に機体を躱しながら、至近距離で圧をかけ続けている。
──この子も、勇敢すぎるのよね。
ちょっと前まで工業用重機のパイロットだった子が、ここまでやるなんて。
飼い主に似たにしても、世の中には限度というものがある。
アリマはDervishの進路を読んで、その側面へと機体を滑らせた。
自分の存在で気を引ければ、それでいい。
少しでもアレフから敵の意識を逸らせれば、彼の生存率が上がる。
だが、敵はもう逃げ腰だった。
指揮官機を失った傭兵部隊は、明らかに壊走の兆しを見せている。
ドルジがそれを許さない。
長距離ミサイルの群れが砂のカーテンを裂き、いくつものレーザー光がDervishの背を焼いた。
宙に浮いた機体が跳ねるように暴れると、砂煙を吹き上げながら斜めに傾いてそのまま落ちる。
水平器を喪失して、最早立ち上がれる様子はない。
計器に目を走らせる。アリマの機体には異常がなかった。
次はKit Foxを助けないと。
そう思って機体を旋回させる。
ドルジが、TimberWolfの全ての火器を撃ち放っている。
砂嵐の向こうに真っ白な閃光。
アリマが彼のそばにたどり着いたとき、Jagermechは左胴部から爆煙を上げていた。
足元がぐらつき、姿勢を失う。そして、砂の中に沈む。
ブリキ缶のお化けは再建が不可能なまでに破壊されていた。
──勝った。
一息つきかけた、そのとき。
通信機が鳴る。バヤルの声だった。
『救助ヘリを回してくれ、パイロット負傷だ。ドルジ重傷。』
TimberWolfの頭上でホバリングするヘリからの通信。
目を凝らせば、確かに機体の頭部装甲は灼け、コクピットブロックが露わになっていた。
砂嵐の中、TimberWolfはまるで彫像のように立ち尽くしている。
コクピットの中の彼の姿はアリマからは見えなかった。
でも、傷だらけの緑の巨躯は、間違いなく彼女たちのドルジの姿だった。