Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district Sacred Realm
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
20 July 3151
夜の居住区は、窓の外の風さえも遠く感じるほど静まり返っていた。
ツェレンは粥をのせた盆を手に、アンネの部屋の前に立つ。
彼女の部屋の入り口は開いている。
中に入ると、ほの暗い照明に照らされて、汗で全身を濡らしたアンネが床にうつ伏せで倒れていた。
抱き上げれば滴るほど汗を含んだローブに包まれて、浅い呼吸で胸を上下させていた。
気がつくと、入り口の扉は閉ざされている。
ーー甘えんぼさんめ。
彼女の意識があるらしいことを確かめられたツェレンは、半分安心して嘆息した。アンネの濡れた着衣を一枚一枚静かに脱がしていく。白磁の肌を露わにして、彼女の身体の端から端まで汗を拭った。新しい服を着せるために後ろから抱き上げればツェレンの腕にアンネの抜き身の胸の重みがずっしりとかかる。
服を新しいものに着替えさせると、彼女の華奢な肩が小さく揺れた。
ツェレンは寝台に腰を下ろし、アンネの体を抱き起こす。
彼女の体は無防備なまでに力が抜けていて、普段よりも軽い気がした。
ツェレンはアンネの頭を腿にそっと載せる。アンネは、その温もりを求めるように顔を埋めてきた。
夜の静けさが、二人きりの世界を満たしていく。
匙で掬った粥をアンネの唇に運ぶと、小さな音が不自然に響く。
「……彼は?」
掠れた声の問いにツェレンは小さく微笑み、耳元でささやいた。
「大丈夫よ。あの人は今夜、ちゃんと眠ってる。」
アンネが安堵の吐息を漏らす。その頭を、不安を鎮めるようにツェレンはそっと撫でた。
「彼の側にいないの?」
「今夜は、あの子がそばにいるから。」
プリヤンカが彼の元にいれば、ツェレンも安心だった。
アンネはツェレンに同意するかのようにうっすらと微笑み、もう一匙、粥を口に受け取った。
だがその次で咳き込み、小さな咳が夜の静けさを破る。
「無理しないで。」
匙を置き、背中をやさしく撫で、安らぐまでそっと抱く。
アンネの口が声にならないほど、弱くママと囁くように動いた。
ツェレンはアンネの身体が落ち着くまで、抱いてそっと彼女を撫で続ける。よしよしと声をかけると弱々しい腕がツェレンの柔らかな身体にぎゅっとしがみいた。
一度匙を置き、器の中の粥をじっと見つめた。椀の中身はほとんど減っていなかった。
アンネの喉がまだ弱々しく動いている。
粥をすくい、口に含む。まだ残る熱が、舌の上をじわりと広がる。そのまま、アンネの唇にそっと自分の唇を重ねた。舌先で柔らかく粥をアンネの口の中へと押し込む。
アンネの舌がゆっくりと動き出す。慎重に粥を受け取りながら、自然と二人の舌が触れ合い、やがて粥だけでなく“互いの温度”まで確かめ合うように絡み合う。ツェレンはアンネの不安や心細さ、全てを舌で唇で受け止めて溶かしていく。
夜の静けさの中で永遠にも思えるほど長く互いに舌を絡め合うと、粥の甘みも、彼女の息づかいも、全部が口の中で混じり合っていった。
ツェレンが唇を離しかけても、アンネの舌が名残惜しげに彼女の舌を追う。
粥をのみ込むたび、アンネの細い喉がふるえ、全身を余韻に震わせた。ツェレンもまた、その感触を舌先で、唇で、全身で受け止めた。
椀が空になっても、二人の唇は離れなかった。夜も、時の流れも関係ない。
冷たい夜の空気に、白い呼吸だけが混じり合う。アンネの熱とツェレンの体温とが二人の合間で静かに溶け合った。
この沈黙のひとときが、二人だけの世界を満たしていた。