Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district Medical Facilities
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
20 July 3151
夜になっても、しばらくは日中の暑さが残る。
エステロスの夏は、地域によっては陽が落ちた後も気温がなかなか下がらない。
鉱山基地もそんな場所だった。
この医療ブロックだけは年中空調が効いている。
ドルジのケガの初期の処置は終わり、麻酔で眠りに落ちた彼は個室に移送された。
ベッドの傍らにひとり残ったプリヤンカは、丸椅子に腰かけたまま、薄暗い照明の下で彼の寝顔を見つめていた。
医官と相談して彼には睡眠薬を投薬した。
そうでもしないと、彼はここに留まらないから。
制服の襟元を緩めた彼女の姿は、いつもの若い眼鏡の少尉ではなかった。
結われた黒髪が肩の上にかかり、深い褐色の肌が灯りに照らされて柔らかく揺れる。
ノンフレームの眼鏡はその表情を覆い隠すことなく、彼女の目元の知的な寂しさを映し出していた。
凛とした眉と、彫りの深い顔立ちが、静かな哀しみの色に染まっている。
思い返せば、ここに来た最初の数日はひどいものだった。
連絡員の肩書きを振りかざして、アリマと衝突し、バヤルに振り回された。ツェレンに困り顔をさせて、ドルマーに怒られた。
夜のドルジに近づこうとして、部屋の中から漏れる迫力と神秘に負けて脚が竦んだ。
気がつけば、寝不足で夢遊病者のようになっていた。アリマにバカにされて、トヤーに顔に落書きされて、ゾリグには寝ろ。って言われた。
ツェレンが夜通し看病してくれていた。アンネが薬を口移しで与えてくれた。
──こんなはずじゃなかった。
そう思うのに、胸の奥が穏やかだった。
いつの頃からか、自分の言葉が、任務のためではなく、誰かのために出るようになった。
もう、戻れない。
この席をくれた彼が今、目の前にいる。
「好きにしろ。」
着任したあの日、自由を与えてくれたのが、彼の一言だった。
2度の出撃を経て、彼はまた傷だらけで戻ってきた。
彼は寝顔さえ表情がないことに今更気がつく。でも、どこか穏やかだった。
いつもならば、この場所はツェレンの席だ。
だけど、今は違う。今は、プリヤンカがこの人のそばにいる。
そっと彼に手を伸ばした。
包帯に覆われた胸を、確かめるように指がなぞる。
彼の体温が、生きていることを教えてくれる。
「……ありがとう」
声に出したのは、自分でも驚くほど自然だった。
誰かに聞かれる心配もなかった。
彼の呼吸に合わせて、胸の奥のものが少しずつ溶けていく。
この感謝が、彼の生還への感謝なのか、
それとももっと個人的な事柄についての感謝なのか、
プリヤンカ自身にも整理がついていなかった。
プリヤンカは目を伏せた。
なぜか、泣きそうだった。
生きている。それが、ただ嬉しかった。
彼女は何も言わず、椅子から立ち上がった。
シーツをそっと直し、汗ばんだ額を軽くぬぐう。
消灯の時間は過ぎていた。灯りを落として、そのままベッドの縁に腰を下ろす。
指先で一度だけ、彼の髪をすく。
「……大丈夫。朝まで、そばにいるから」
彼の手を両手で包んで、自分の頬に当てた。
彼の指が微かに動く。
それが夢の反応であっても、構わなかった。
プリヤンカは、そっと椅子から立ち上がった。
静かに軍服のボタンに指をかけ、一つずつ外していく。
乾いた銀の音が、病室の空気を細く震わせるたび、褐色の肌が月光にさらされていった。
深く焼けたその肌には、無駄な贅肉は一切ない。
けれど、肩の丸みや背中の柔らかい起伏は女の輪郭だった。
シャツを脱ぎ、軍靴を外す。
下着に指をかけ、ためらいをひとつ飲み込んでから、腰を滑らせるように脱ぎ捨てた。
硬い椅子の上に、軍人としての殻が山をなした。
結わえた黒髪が肩にかかる。
彼の傍らにひざまずき、包帯の隙間から覗く肌に、そっと唇を寄せる。
彼の鼓動を確かめながら、肌の温度を追った。
指先で彼の腹部をなぞり、太腿をかすめる。
肌に走る傷のひとつひとつに、目を伏せては静かに息を吐いた。
ある瞬間、自分の手の中に、確かな熱があるのに気づく。
まだ眠っているはずの彼の肉体が、彼女の存在に応えるように、静かに、しかし力強く反応していた。
プリヤンカは、一度目を伏せた。
深く息を吸い、身をかがめる。
唇が触れ、舌が添い、口が彼を包み込んでゆく。
喉の奥まで、何も拒まずに受け入れる。
彼の鼓動を、その形を、その匂いまでも。
眼鏡がかすかに曇る。息が乱れる。
それでも、彼女は口を離さなかった。
静かな音を立てて、彼を口で奉じ続ける。
褐色の肌が汗を帯び、熱を帯びた肩と背に艶が増す。
触れていないはずの胸が、彼の温度に反応して膨らみ、先端は張り詰めていた。
彼が吐き出した熱を受け入れて、嚥下して、それを全身に染み渡らせる。
一度、彼の昂ぶりが静まった。
だが、プリヤンカは手を休めない。
再び、口に含んで、舌を使って繊細に奉仕する。
荒れる彼自身を豊かな胸の膨らみで柔らかく包み込んだ。
彼の形は既にプリヤンカの全身に刻まれている。
ドルジの目は閉じたままだ。だが、まるで眠りながらも彼女の存在を感じているようだった。
その幻想にプリヤンカは悦んだ。
朝が近づく頃、ようやく彼の熱が収まりきった。
彼女は最後の白濁をゆっくりと受け止め、口を離す。
唇の端に残ったそれを指でぬぐい、無意識に舌で舐め取った。
そして、静かに彼の胸元に頬を寄せる。
ぬくもりと共に伝わる、ゆるやかな呼吸。
彼の手を、自分の胸のふくらみの上に置いた。
もう、言葉はいらなかった。
彼に愛を捧げるだけでは足らない。
──自分の全てを彼に捧げよう。
この飢えにも似た感情をなんと呼べばいいのか。
プリヤンカにはわからなかった。