Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
22 July 3151
男、オーケ三十八歳。このたび無職と相成りまして候。
二十余年、機械整備に身を捧げ、腕には多少の覚えあり。
──どなたか拾ってちょんまげ。
なんて冗談も、今は喉から出てこなかった。
出身惑星から百光年以上も離れた辺境の惑星で、あてなどあろうはずもない。
顔の利く職人仲間も、声をかけられる古い顧客もいない。
犯罪の香りがする仕事はいっぱいあったが、まだそういう仕事に手を染める覚悟はできなかった。
久々に、フリーの現実が骨の芯までしみた。
右の手のひらをじっと見つめる。
整備用グローブの跡が、手首にくっきりと残っている。
──働けど、働けど。
ふと、導かれるように、この鉱山基地へ足が向いていた。
理屈ではなかった。ご縁、というやつだ。
入り口で「ドルジちゃん」と口にしたら、警備兵に身構えられた。
だが、続けて「ツェレンさん」「アンネさん」と添えると、警備の目がわずかに緩んだ。
どうやら、本当に関係者らしい、と認識されたようだ。
駐留棟が近づいてくる。知った顔がひとつ、視界に入った。
軽く声をかけただけなのに、アリマに鋭い目で睨まれた。
「こんなところで何してるのよ」
ピリッとした口調だった。
だが、こちらも黙っているわけにはいかない。
「空港のベイでどっかの誰かが銃撃戦なんかするもんだからさ。俺、失職したんだわ。」
努めて軽い口調を保ってみた。が、アリマの眉が一瞬ピクリと動いた。
「宇宙港で……銃撃戦?」
すぐ隣で話を聞いていた眼鏡の女士官が目を見開いた。
「警察の取り調べで船が足止めされてさ。契約が切れて、そのまま契約終了。
まだ船は戻らなくて、整備契約も流れて──気づいたら、こう」
その場にぺたんと座り込み、バンバンと床を叩く。
都合よくメカニックの求人があるはずもない。頼れる先も、心当たりも、ない。
「だから、拾ってくれって、ドルジに頼みに来た。」
できるだけ胸を張ってみる。
せめてもの虚勢だった。
隣にいた眼鏡の女士官が、何かを言いかけて口をつぐむ。
アリマが目だけで彼女と視線を交わす。
二人のあいだに、何か言葉にならないものが流れた気がした。
ドルジに会う前に門前払いされるかもしれない。
ふと、オーケはそんな予感に襲われて、無意識に右手首の草の紐を指でなぞった。
アンネに結んでもらったおまじないだ。
──草の色はご縁を意味する赤。
その時、背後から足音が響いた。
「……班長?」
振り返ると、知った顔がそこにいた。
「お前……どうしてここに?」
「気がついたら、なんか……足が勝手に」
それから、まるで何かの合図のように次々とひとり、またひとりと、かつての仲間たちが鉱山基地に集まってきた。
歩いてきたやつ、車両を調達したやつ、集団で来たやつ。
誰も彼も、草の紐を腕に巻いていた。
オーケは、もう一度自分の右手首の草の紐を眺めた。
今回も、また効いたらしい。