Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.09_01
Mining district Ground
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
22 July 3151
大柄な屈強な肉体の周りで小柄な身体が左右に跳ねる。
お互いに装甲を纏わぬ肉弾戦。
鋼の装甲服が無くても、バトルアーマー隊の隊員の肉体は分厚い鍛え上げられた筋肉に包まれている。
生半可な打撃では、痛みすら感じず、逆に相手を体格、体重の差で押し切る。装甲に任せるだけでなく、中の人間の力と技術でも圧倒する。
そうで無ければ、過酷な任務に耐える兵士足り得ない。
ボルド隊はこの哲学で訓練をしている。
彼の訓練に混ざる新参者がいた。
アレフとトヤーの2人のドルジが連れてきたメック操縦士。
アレフは民間人にしては体力があり、体格が出来ている。トヤーは浮き沈みの激しい性格に難があったが、まだ若く才能があった。知識と技術の吸収が早く、物覚えもいい。
ドルジの眼の確かさには感心するしか無かった。
トヤーと相対している隊員は、トヤーの小柄さに難儀していた。
身長差が3フィート以上あると、素手の打撃は届きにくく、屈まないと手が届かない。
彼女はそこにつけ込んでくる。
強い踏み込みから、トヤーが一気に相手の至近距離に入り、胴に肘打ちが叩き込まれる。
大振りの手が彼女を掴もうとするが、素早い動きでひらりと身を躱して逃げていく。
一見、大熊が子鹿を襲っているように見える。
だがこれで隙を見せると、熊の頭に子鹿の蹴りが入るので、トヤーとの訓練はまるで油断がならない。
何回かの訓練で隊員に生半可な打撃が伝わらないと知った彼女は容赦なく、彼らの急所や脳を狙ってくるようになった。
訓練とは言え、油断する隊員が迂闊だと言って、ボルドは敢えてそれを止めない。
危機を覚えた隊員達も彼女の奇襲のクセを覚えて、対策を重ねている。トヤーも基礎体力や肉体が出来て、打撃力を増している。この数ヶ月で彼女を小動物のように扱う男はほとんどいなくなった。
それでも、彼女の柔軟性が彼らの想像力を上回ることが度々ある。
隊員の拳を避けたトヤーが突然跳躍した。
そのまま隊員の顔面に取り付いて、正面から脚で首を絞めようとしている。
ーー首を絞めるなら、身体の位置が逆だ。
大男の頭と首に腕と脚でしがみついているだけでは、何も効果はない。目的を達するためには相手の背面に回って、脚で首の気道か脈を抑えなければならなかった。
座学の必要性を感じるが、トヤーは10分以上の座学に耐えられない。彼女は睡魔に襲われれば一切の抵抗をしない。
少し考えているうちにトヤー達の異変に気が付いた。
隊員は顔面にしがみ付くトヤーを引き剥がせずにいた。だが、動きが悪くなっている。
「酸欠か。」
トヤーの身体は小柄な割に起伏に富んでいる。ハマり方が悪ければ、鼻と口をピッタリと塞ぐこともあるだろう。
ボルドは手を叩いて2人の訓練を止めた。
締め付けていた側も締められていた側も顔を赤く染めて大きく肩で息をしている。
「や...柔らかかった...」
隊員が窒息よりも顔に残る感触に戸惑っている様子を見て、ボルドはトヤーの方へ足を向ける。
座り込む彼女の後ろに回り、首に手を回す。
指の節を使って、彼女の首の一点を押さえる。
「あっ......」
吐息に混じって、少女が声を漏らす。
すぅっと、彼女の身体から力が抜けてボルドに体重の全てを委ねようとする。
「寝るな。」
無防備なトヤーの頭に拳を落として、彼女の目を覚ます。猫の鳴き声のような叫びをあげるがそこは気にしない。
「口と鼻を押さえて窒息させるのは効率が悪い。頸の脈を押さえるんだ。その方が短時間で済む」
「ボルドがイジメる。また、トヤーがバカになっちゃう。」
片手で目を隠して泣き真似をする割に、もう片方の手はボルドが押さえてみせた部分を探っている。
「多少ならバカになっても変わらん。」
この才覚はその程度で、揺らぐようなものではない。
明日にも隊員は脳に加えて、頸も狙われるようになる。背後から、彼女の器用な腕と指が脈を狙う。
最早、彼女の技術は護身を大きく逸脱している。だが、ボルドは彼女に出来る限りを教えるつもりだった。