※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

83 / 281
Ep.09_02

Mining district Medical Facilities

Esteros System,Alkahera

Jade Falcon

22 July 3151

 

 真っ白な壁、真っ白な床、小さな黒い影が宵闇を縫うように進む。

 音も気配も、己の存在の全てを消した彼女を捉えられる目はない。

 関係者以外立ち入り禁止のエリアの奥。

 彼のいる扉の前まで進んで、アリマはそこで立ち止まった。

 

 心臓の音が、耳の奥で暴れている。

 息が苦しい。喉が焼けそうだ。

 ここに来るまでに、何度も引き返そうかと迷った。

 ここに来てしまってからも、どうしても、扉に手が伸びなかった。

 

 先に誰かが室内にいれば諦めがついたのに、聞き耳を立てても部屋の中は静かだ。

 

 今夜は、誰が彼の相手なのだろう?

 もし、先にアリマが部屋に入れば、その誰かは今晩、彼に愛してもらえない。

 

 初めて彼に会った時から、アリマは自分こそがドルジの運命だと思っていた。

 彼の横に自分が添うことに遠慮など必要ないはず。

 

──わたしなんかが、入っていいの?

 

 それでも、心に浮かんだのは、いつもの疑問。

 扉から、押し返すような力を感じたような気がしてアリマは後退る。

 

──引き返そう。

 

 そう決意して、足を返した。

 

 そのとき。彼女の背中に、ふわりと手が触れる。

 振り返ればいつもの笑顔、ツェレンがいた。

 今晩のお相手は彼女だったらしい。

 

──邪魔したわね。

 

 いつもの調子で立ち去ろうとしたのに、ツェレンは声も出さずにただアリマの両肩に手を置いて、彼女の向きを戻す。

 そして、そのまま前へ押し出される。

 アリマの存在に反応して、スライドドアがすっと開く。

 

 ツェレンは声を発さない。

 でも、ツェレンの唇が「がんばって」と動いたように見えた。

 アリマは、なぜか涙が込み上げてくるのを堪えながら、小さく頷く。

 ぎゅっと胸が締めつけられた。

 

 2歩進むと、病室のスライドドアが後ろで静かに閉まる。

 室内の灯りは落ちていた。

 

 ベッドの上、包帯に覆われた彼の影が、微かに浮かんでいる。

 アリマは震える手で、そっと近づいた。

 何に怯えてるのか、と問われても彼女には答えられない。

 手を伸ばしたいのに、身体が固まってしまう。

 

 目を堅くつぶって、身を投げ出すように彼の体の上に馬乗りになる。

 彼の胸元に手を置いた。思っていたよりも、ずっと温かい。

 目を開くと、彼と視線が合った。

 それだけで、胸が張り裂けそうになる。

 

「……今日はツェレンじゃなくて、わたしでした……」

 小さな声で、自分でも意味不明な言葉が喉からこぼれた。

 さっきから調子狂って仕方がない。

 

 伝えたい言葉は短いのに、どうしてそのたった数文字が言えないのか?

 今やアリマの頭の中はめちゃくちゃだった。

 偽りの愛なら幾らでも囁けた。

 

 でも、本心は......本心は......?

 

 本当の私って、なんだろう?

 口を開けないまま、目から涙がボロボロとこぼれた。

 

──どうしてこんなところに来ちゃったのだろう?

 

 ここまで来ておきながら、後悔だけが胸に広がっている。

 彼は何も言わない。

 

 でも、彼の手が、アリマを力付けるように優しく髪を撫でた。

 頬を、額を、包むように触れてくれる。

 

「……好き。」

 

 ようやく言葉を絞り出した。自分でも驚くほど幼稚な言葉が口から出た。

 伸ばして触れた手に、ぬくもりが返ってくる。

 次の言葉を見つけられずにいたアリマを、彼の腕が迷いなく抱き寄せた。

 頭が彼の匂いに包まれたその瞬間、アリマの堰が崩れた。

 口を押えても、涙と嗚咽があふれてくる。

 ズハイの沼地で出会ったあの日から、TimberWolfに撥ねられたあの日から、

 ずっと、ずっと......

「やっと言えた……やっと……」

 震える手でドルジの頬に触れて、勢いに任せて唇を重ねた。

 彼の熱が伝わるたびに、アリマは呼吸を震わせた。

 

 ずっと、そばにいたかった。

 怖がっていたのは、自分だったんだとようやく気が付く。

 

 彼の熱をもっと感じたい。

 そのためには身に着けているものは全て邪魔だった。

 一枚一枚脱ぎ放つたびに彼の熱が直に伝わる。

 

 彼の前に、なにも隠さない自分を晒したら、何かが壊れてしまいそうな気がしたが、今のアリマにとってはそれすらもどうでも良かった。

 少女のようだった肌は艶を増し、感情を抑えていた顔は涙と鼻水を振り払うと一気に色気を増した。

 身体の膨らみを抑えていた布を解き、アリマは蛹から孵るように背を反った。

 

 冷たい空気に触れて、アリマの身体が敏感に震える。

 彼の手がそっと伸びてきて、揺れる果実をしかと手に収める。

 彼の両手で双丘を弄ばれ続けるうちに、口から止めどなく溢れ出る愛の言葉に甘い吐息が混じり始めた。

 

 アリマは目を閉じて、その手に全身を預ける。

 あたたかかった。拒まなかった。ちゃんと、触れてくれた。

 

 彼の前で、ただのアリマになる。

 もう、我慢ができなかった。

 自分の理性を吹き飛ばしてそう決める。

 彼の下着をずらすと、腰を浮かせて、迷いのない心で、彼を迎え入れた。

 

「だいすきっ……!だいすき、だいすき……!」

 体が跳ねるたびにずっと言えなかった言葉が口から飛び出す。

 幼稚な言葉かもしれない。でも、偽りのない彼女の言葉だった。

 

 アリマが力尽きても、彼は身を起こして彼女を満たし続けてくれる。

 力強い腕に抱かれながら、アリマは泣いて、笑って、叫んだ。

 

 もう誰が聞いてもいい。

 ここが病室でも、誰かが外にいても、関係なかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。