Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district Medical Facilities
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
22 July 3151
真っ白な壁、真っ白な床、小さな黒い影が宵闇を縫うように進む。
音も気配も、己の存在の全てを消した彼女を捉えられる目はない。
関係者以外立ち入り禁止のエリアの奥。
彼のいる扉の前まで進んで、アリマはそこで立ち止まった。
心臓の音が、耳の奥で暴れている。
息が苦しい。喉が焼けそうだ。
ここに来るまでに、何度も引き返そうかと迷った。
ここに来てしまってからも、どうしても、扉に手が伸びなかった。
先に誰かが室内にいれば諦めがついたのに、聞き耳を立てても部屋の中は静かだ。
今夜は、誰が彼の相手なのだろう?
もし、先にアリマが部屋に入れば、その誰かは今晩、彼に愛してもらえない。
初めて彼に会った時から、アリマは自分こそがドルジの運命だと思っていた。
彼の横に自分が添うことに遠慮など必要ないはず。
──わたしなんかが、入っていいの?
それでも、心に浮かんだのは、いつもの疑問。
扉から、押し返すような力を感じたような気がしてアリマは後退る。
──引き返そう。
そう決意して、足を返した。
そのとき。彼女の背中に、ふわりと手が触れる。
振り返ればいつもの笑顔、ツェレンがいた。
今晩のお相手は彼女だったらしい。
──邪魔したわね。
いつもの調子で立ち去ろうとしたのに、ツェレンは声も出さずにただアリマの両肩に手を置いて、彼女の向きを戻す。
そして、そのまま前へ押し出される。
アリマの存在に反応して、スライドドアがすっと開く。
ツェレンは声を発さない。
でも、ツェレンの唇が「がんばって」と動いたように見えた。
アリマは、なぜか涙が込み上げてくるのを堪えながら、小さく頷く。
ぎゅっと胸が締めつけられた。
2歩進むと、病室のスライドドアが後ろで静かに閉まる。
室内の灯りは落ちていた。
ベッドの上、包帯に覆われた彼の影が、微かに浮かんでいる。
アリマは震える手で、そっと近づいた。
何に怯えてるのか、と問われても彼女には答えられない。
手を伸ばしたいのに、身体が固まってしまう。
目を堅くつぶって、身を投げ出すように彼の体の上に馬乗りになる。
彼の胸元に手を置いた。思っていたよりも、ずっと温かい。
目を開くと、彼と視線が合った。
それだけで、胸が張り裂けそうになる。
「……今日はツェレンじゃなくて、わたしでした……」
小さな声で、自分でも意味不明な言葉が喉からこぼれた。
さっきから調子狂って仕方がない。
伝えたい言葉は短いのに、どうしてそのたった数文字が言えないのか?
今やアリマの頭の中はめちゃくちゃだった。
偽りの愛なら幾らでも囁けた。
でも、本心は......本心は......?
本当の私って、なんだろう?
口を開けないまま、目から涙がボロボロとこぼれた。
──どうしてこんなところに来ちゃったのだろう?
ここまで来ておきながら、後悔だけが胸に広がっている。
彼は何も言わない。
でも、彼の手が、アリマを力付けるように優しく髪を撫でた。
頬を、額を、包むように触れてくれる。
「……好き。」
ようやく言葉を絞り出した。自分でも驚くほど幼稚な言葉が口から出た。
伸ばして触れた手に、ぬくもりが返ってくる。
次の言葉を見つけられずにいたアリマを、彼の腕が迷いなく抱き寄せた。
頭が彼の匂いに包まれたその瞬間、アリマの堰が崩れた。
口を押えても、涙と嗚咽があふれてくる。
ズハイの沼地で出会ったあの日から、TimberWolfに撥ねられたあの日から、
ずっと、ずっと......
「やっと言えた……やっと……」
震える手でドルジの頬に触れて、勢いに任せて唇を重ねた。
彼の熱が伝わるたびに、アリマは呼吸を震わせた。
ずっと、そばにいたかった。
怖がっていたのは、自分だったんだとようやく気が付く。
彼の熱をもっと感じたい。
そのためには身に着けているものは全て邪魔だった。
一枚一枚脱ぎ放つたびに彼の熱が直に伝わる。
彼の前に、なにも隠さない自分を晒したら、何かが壊れてしまいそうな気がしたが、今のアリマにとってはそれすらもどうでも良かった。
少女のようだった肌は艶を増し、感情を抑えていた顔は涙と鼻水を振り払うと一気に色気を増した。
身体の膨らみを抑えていた布を解き、アリマは蛹から孵るように背を反った。
冷たい空気に触れて、アリマの身体が敏感に震える。
彼の手がそっと伸びてきて、揺れる果実をしかと手に収める。
彼の両手で双丘を弄ばれ続けるうちに、口から止めどなく溢れ出る愛の言葉に甘い吐息が混じり始めた。
アリマは目を閉じて、その手に全身を預ける。
あたたかかった。拒まなかった。ちゃんと、触れてくれた。
彼の前で、ただのアリマになる。
もう、我慢ができなかった。
自分の理性を吹き飛ばしてそう決める。
彼の下着をずらすと、腰を浮かせて、迷いのない心で、彼を迎え入れた。
「だいすきっ……!だいすき、だいすき……!」
体が跳ねるたびにずっと言えなかった言葉が口から飛び出す。
幼稚な言葉かもしれない。でも、偽りのない彼女の言葉だった。
アリマが力尽きても、彼は身を起こして彼女を満たし続けてくれる。
力強い腕に抱かれながら、アリマは泣いて、笑って、叫んだ。
もう誰が聞いてもいい。
ここが病室でも、誰かが外にいても、関係なかった。