Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district Cabin
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
23 July 3151
ドルジの部屋を出て、居住棟の自室に向かう。足取りがどこか軽くて、心も生の充足に満ちている。
自分の個室のそばまで来たところで、フライトスーツ姿のゾリグと鉢合わせた。
彼の表情を見るだけで彼が彼女を探していたことを察する。彼も彼女の顔を見て全てを察したように鼻を鳴らす。
「なるほど、ようやくか。」
女スパイの表情を見て、情報を読み取れるこの男は本当に何者なのか。職業の危機を覚えながら、彼の顔を見上げる。
「おめでとう。と言えば良いのか?」
「ありがとうって言っておくわ。」
ゾリグの祝福の言葉には簡単に礼を返した。
隠すことでもないので、隠さない。でも、あれこれは喋らない。気恥ずかしさは胸のうちに隠す。
「これでアリマにも迂闊に手を出せなくなったな。」
「そんな気も無かったでしょ。」
彼と軽口を交しながら廊下を進む。
ゾリグの用事は大抵、外に漏らせない話だ。場合によっては内にも。
「旦那の運命の女に手を出すほど飢えてない。」
--警察病院のお堅そうな受付嬢は持ち帰ったくせに。良く言うわ。
アリマは鼻を鳴らすと、何も言わずに彼を自分の個室に誘う。
きっと分厚い壁の中、盗聴の心配の少ない部屋でしか話せないような内容だ。
「アンネの件だ。」
部屋の奥に案内されるとゾリグが唇が触れそうな距離まで顔を近づける。
「怪しいやつを見つけたんだが、どうやら別件のような気がしてな。」
差し出されたパッドに目をやって確認すると基地内で働いている男の顔が映り込んでいた。
「SeaFoxの臭いがする。お前の相手だろ?」
この男の名前も特徴も言わない。
この不親切がゾリグなりのアリマへの信頼の証なのかもしれない。
「わかったわ、調べてみる。」
簡潔に短い返事で答える。
アンネの件か、核疑惑の件か。どちらにしてもアリマもこの男の目当ては知りたかった。
いくつかの他の情報もお互いに交換してから、ゾリグを解放する。
ドアを開ける直前、彼はアリマを振り返り言った。
「姉御への感謝を忘れるな。俺はそれ以上は望まない。」
このナイト様の洞察力には、本当に敵いそうにない。
アリマの答えを待たずに彼はそのまま個室を後にする。
ゾリグの背を見送りながら、アリマは昨晩の肩を押される感触を思い出した。
--生涯、忘れないわ。
きっと、この感謝は一生かけても返しきれない。