Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district Breafingroom
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
23 July 3151
基地内の会議室で、プリヤンカは何度も喉を鳴らしていた。
横にはアリマが並んで座っている。
アリマを呼び止めたのはプリヤンカ自身だった。
でも、彼女に話したいことはまだ頭の中でまとまっていない。
乾いた風がメガネの縁をなぞるが、室内の空気はどこか重かった。
今までは言う機会がなかっただけだったけど、もう黙っていることはできない。
アリマの調べが彼女の元に届くのは時間の問題に思えた。
それでも、視線が合えば何かが壊れてしまいそうで、彼女は俯いたまま口を開く。
「私、本当は連絡係なんかじゃなくって......。この部隊にあるって噂の戦術核の無力化のために、少佐の命令で......」
言葉の先が続かない。そもそも、伝えたい言葉がバラバラで繋がらなかった。
吹き抜ける風が、そのまま小さな声をさらっていく。
静かな時間の中で、ふいにアリマが息を吐く音が聞こえた。
「......で?」
彼女は驚きもしなければ、非難もしない。
「え……?」
プリヤンカは目を見開いた。
アリマは肩をすくめて、あくびでもするかのように淡々と続けた。
「だから、“で?”よ。あなたが来た日からずっと知ってたもの。私も、ドルジも。あなたが何者かくらい。」
着任初日。その言葉に、プリヤンカは小さく身を震わせた。
「じゃ、じゃあ......今までの私......全部、見られてたんですか......?」
「当然でしょ?それでも、ドルジがあなたに自由に行動させろ。って言うから、異論の挟みようが無かっただけよ。」
アリマの口調は冷たく聞こえる。ただ、突き放されている感覚はなかった。
「......じゃあ......ママ達は?」
プリヤンカはゆっくりとアリマを見る。声が自然と震えた。
──ドルジが知っていて、アリマが知っていて、アンネとツェレンが知らないなんて、そんなこと......
「アンネは知ってるわよ。そもそも、彼女に隠し事は無理。千里眼でなんでもお見通しよ。」
アリマがお手上げとばかりに手を上げる。
確かに、あの力に抗う術などなかった。
アンネから渡された、青く光る飲み薬を思い出す。
もしも、あれが毒だったら。彼女が無慈悲だったなら。
プリヤンカの命はあの夜、終わっていたかもしれない。
でも、アンネはそうしなかった。プリヤンカを受け入れて、彼女に居場所を与えることをドルジに進言したのも彼女だったかもしれない。
だとすれば、やっぱり、ツェレンも......
「でも、ツェレンにはこのことは伝えてないわ。誰も。」
──どうかツェレンだけは何も知らなかったと応えてほしい。
一瞬でもそう祈った自分を、プリヤンカは呪った。
彼女の愛に少しでも誰かの計算や謀が混じっていたら、こんなにも胸を抉られることはなかった。
でも、そうじゃなかった。
プリヤンカの告白で、一番傷つくのはただ、純粋に若い連絡係を心配してくれた彼女だった。
ツェレンのただ優しい哀しげな表情が脳裏をよぎる。
堪えていた涙がプリヤンカの頬を伝った。
「......で?どうするのよ?」
アリマが再び同じ質問を容赦なく繰り返す。彼女が知りたい内容は単純だ。
プリヤンカがこの部隊の味方かどうかはもはや問うていない。
言葉通り、決意のほどを聞いていた。
プリヤンカはゆっくりと顔を上げる。
今や彼女に迷いはなかった。
「もう、軍閥には帰れない。」
疑う理由も、言い訳も、何も残っていない。
今度こそ......
「今度こそ、ママの笑顔は私が守る。」
プリヤンカの宣言を聞いた、アリマの顔がなぜだか引きつった。