Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
23 July 3151
ナランは大柄な割に目立たないが、ゾリグと長年共に飛んでいる付き合いの長い男だ。ゾリグの相棒の割に偵察には向かない。ただ、彼の眼がゾリグを狙う不埒者を見逃すことはなかった。
この信頼関係は地上でも空でも変わらない。
今、ナランはゾリグが締め上げていた軍閥の兵士を拳で黙らせているところだった。
「もういい、通信の発信元はコイツで間違いない。」
ゾリグは手を上げてナランを制止した。
先の作戦でアンネの乗っていた救助ヘリには発信機が付いていた。それが発振する信号を5番機のセンサーが捉えていた。発振する信号は戦域の外から6機の戦闘機を呼び寄せていた。ゾリグはナランと共にこれを迎え撃って彼らの目論みは潰した。だが、狙いが腑に落ちなかった。
救助ヘリのパイロットを詰問しても成果はなかった。
監視カメラの映像記録を洗い出し、不審な動きを見せた整備員と兵士を全員、一人ずつ締め上げた。
何人目かで発信機を取り付けた奴が分かった。
目標を狙う理由まではその兵士は知らなかったし、彼の目当ては僅かばかりのお小遣いだった。
ナランが泣きも叫びもしなくなった兵士を草地に放り投げた。
ゾリグ達が彼の命を奪うのはただのケジメだ。
ゾリグはドルジ隊の駐留する基地の会議室に向かった。
会議室は狭く、簡素な端末とスクリーンが据え付けられた実用本位の空間だった。狭くてブリーフィングには向かない。一方壁は分厚く密談に向いていた。
彼のお目当てのアリマとプリヤンカが室内にいた。2人ともそれぞれ書類と端末を前に押し黙っている。
ゾリグの突然の来訪にアリマは怪訝な顔を隠そうともしない。
「パイロットスーツを着てないなんて、弛んでるんじゃないの?」
「最近は物騒だから、偵察機は出番が減ってるのさ。」
実際、偵察機としての出動より、迎撃機としての出動の方が多い。
軽口を叩きながら、ゾリグはプリヤンカの背後に回る。
そして、尋ねた。
「どこまで掴んだんだ。そのドルジ暗殺計画の全容は?」
アリマとプリヤンカの周囲の空気が凍りつく。
彼女達は内密に調査しているようだったが、気圏戦闘機隊を舐めてもらっては困る。
ここ数日のこの2人の議題はそればかりのようだった。
前回の作戦でドルジが全治3ヶ月の重傷を負って、議題はより深刻さを増している。
ただ、焦りが彼女達の視野を狭めていた。
ゾリグは手元の装置を操作して、撮れたての音声データを再生した。
ゾリグの声とナランの拳の打撃音に混じって、この基地の兵士の悲鳴混じりの声が流れる。
『......アンネさんですっ。発信機をアンネさんの乗ったヘリに装着しましたッ......。』
プリヤンカがアンネという言葉に反応して席を立った。
音声をそこまで流し終えるゾリグは続けて会議室のスクリーンに先の作戦での飛行記録を投影する。
アンネの乗った救助ヘリを狙う戦闘機群が赤くマーキングされている。その進路を表す緑色の矢印が真っ直ぐにアンネ達の進路を指していた。
「ドルジだけじゃなくて、アンネも狙われてる?」
アリマが席に座ったまま、ゾリグの意図を探るように彼の顔を伺う。
「2正面作戦かもな。傭兵隊にドルジを襲わせて、背後で救援に動くアンネを狙う。」
そう言いながら、ゾリグは戦場を思い返す。
相手はあの作戦に大量の航空戦力を投射していた。敵が本気でどちらも排除する気だったとしても、納得は出来た。
「相手の狙いは......アンネママだと思います。」
プリヤンカが口を開いた。ゾリグは右の手首に結ばれた草の紐を眺めながら、黙って話の続きを促した。
眼鏡のずれを直して彼女が推論を披露する。
ドルジ暗殺作戦の発端は、彼の部隊にかけられた核弾頭保有の疑いだった。
しかし、そもそも彼らが核を保有しているという話には明確な論拠は示されていない。
敵も味方も関係なく、推測が一人歩きしているような状態だった。
核を保有の可能性だけトップを消すのは、さすがに飛躍が過ぎる。
プリヤンカ自身も連絡役という名目で核弾頭捜索のために軍閥から派遣されていた。
一方、アンネは違う。名前と存在だけ確かめられれば十分だ。
彼女はある意味核弾頭より危ない存在だと言える。
ささやかな力なら、誰も気にしなかっただろう。
でも、先日のアンネは彼女の価値を立派に証明していた。砂嵐で隠されていたとは言え、少なくない人数があれを目にしている。
もう二度と彼女が軽く扱われることはない。
かつてどこかの勢力が強力な能力者を囲っていたが、持て余して排除作戦を実施した。
そんな話を聞いたことがある。
彼女は軍隊を動員して排除するような対象だった。
だが、軍閥には彼女の排除に力を回す余裕はない。
それをやれるのは、経済的に豊かな外部の誰かだった。
プリヤンカの分析はゾリグの推察より具体的だった。
内容は彼らの長、ドルジの見解ともほぼ一致する。
これで次の作戦でドルジの出撃を止められる人間がいなくなった。
副官のツェレンはそれでも反対しそうだが、彼は女の悲鳴で思いとどまるような人間ではない。
無意味とわかってても叫ばなければならない。そして、共に戦場に出なければならない。
愛人だけの立場ではいられないツェレンにしかわからない悲哀。
それがどんな感情なのか、男のゾリグには想像することすらできなかった。