Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
3 August 3151
5番機がエンジントラブルを起こした。
たった1機の故障ではあったが、アリマとプリヤンカの2人を震撼させるには十分だった。
部隊唯一の長距離偵察機。それだけの機体じゃない。
ゾリグの数々の危険飛行は、確かに彼の腕ゆえだ。
だが、彼が限界の先まで踏み込めていたのは、5番機のセンサー類があればこそだった。
正確な数字、精緻な技術。人馬一体の境地の果てに手にした神の目。
前々から、砂嵐の中で飛びすぎだと整備班からは苦情が上がっていた。
しかし、鉱山基地や現地の情報は精度が低く、部隊は彼の目を失うわけにはいかなかった。
それが失われた。
ゾリグが得るはずだった最新の気象情報も、精緻な地形情報や敵情も、すべて得られなくなった。
どんなに急いでも5番機は5日間の修理が必要。
修理の内容を聞いてみれば、機体を一度分解してエンジン部分を丸々取り換えるらしい。
仮に予定より、早く修理が終わったとしても、慣らし運転無しに戦場を飛ぶことを期待してはいけなかった。
つまり、3日後の作戦は5番機抜きでの決行となる。
アリマは静かに部屋に迷い込んだ羽虫を片手で握って潰す。
彼女の苛立ちは手の平に残った不快感を超えていた。
皆の前では努めて平静を装ったが、内心ではいっそ、アンネの幻視を頼ろうかと考えるほどに追い詰められている。
機体が無いなら情報は足で探す。
彼はそう言ったけれど、そもそも空からと地上からでは集まる情報の内容が違った。
整備班と何やら相談をしていたようだけど、彼自身がもう空からの情報収集を諦めているのは明らかだった。
敵情視察は、彼なしで回すしかなかった。
――それだけじゃない。
アリマは静かに頭を抱える。
当日の作戦中も彼の目が無い。
今までは当然のようにあった戦況を俯瞰する視界がなくなる。
装輪偵察車で代替できる内容じゃない。
きっと、今頃プリヤンカも同じことで頭を抱えているだろう。
軍閥側に、攻勢の承認をもらってしまった以上、作戦中止には余程の理由が必要だった。
あっさりと却下されてしまったけれど、ドルジに作戦の中止を提案した彼女の勇気には密かに感謝をしていた。
少なくとも、アリマは1人ではない。
そう考えると、とたんに気分が楽になった。
無用な殺生よりも、ずっと建設的な苛立ちの解消法を思いつく。
――少し気晴らしに付き合って貰って、作戦はその後に彼女と一緒に考えよう。
アリマは褐色の少尉の困り顔を思い浮かべて、唇を舌で湿らせた。