Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Washout
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
6 August 3151
ピンチになったお姫様には王子様が助けに来てくれる。
「この部隊だと、白馬のプリンスの代わりにドルジが助けに来るのよ。」
そんなことを言っていた子が部隊にいたのをトヤーは思い出した。
同い年くらいっぽかったけど、色々なことに妙に詳しい子。
キャノピーの外に向けていた視線を足元に落とす。
コクピットの床にはスピーカーからの雑音すら無くなった通信機が転がっている。
破壊されたメックから脱出しようとした時に持ち出したが、砂に打たれているうちにすっかり壊れた。
機体から脱出したトヤーも、激しく叩きつける砂の中では、そもそも目を開けることすらできなくて、しぶしぶ元のコクピットに戻ってきたのだ。
――暑いから身軽な方がいいとか言わなきゃ良かったな。
パイロットスーツの上に更に分厚い防砂服とか、バカじゃないの?って思っていたけれど、あの中でバカはあたしだけだったみたい。
おへそ丸出しのノースリーブのシャツにホットパンツで出撃したことについては、心底後悔している。
「バヤルー、助けに来てよぉ〜。お姫様だぞ〜。」
壊れた通信機に話しかけても返事はない。
ただ、寂しさが増しただけだった。
――がんばれトヤー、なんか考えよう。
通信機、壊れた。生命維持装置、生きてる。外は、危ない。砂、痛い。
どう考えたって、コクピットの中が一番安全じゃん?
何度考えても同じ結論に達する。
ゾリグの今日の砂嵐の話、ちゃんと聞いとけば良かったな。
というか、たぶんこういうことがあるから、ブリーフィングで説明してたんだよね。
ちゃんと聞いていれば、この砂嵐がいつ止むのか、わかったかもしれない。
今更一つ賢くなっても遅かった。
頭の中が後悔で満ちて、何も考えられなくなった。
その時、コクピットのハッチが外から開く。
「無事か?」
砂まみれの全身を分厚い布で覆われた王子様はゾリグだった。
さっと、コクピット内を見渡しただけで状況を理解したらしく、マントの中から通信機を取り出す。
ゾリグは防砂ゴーグルを外すと、トヤーにその重たい機械を手渡した。
「大事なことはお前の無事とArrowⅣ発射機が無傷なことだ。回収班を回して欲しいことをプリヤンカに伝えてくれ。」
それだけを伝えると、彼はまた布で顔を覆い直してコクピットの外に出ていく。
機体越しにArrowⅣの発射機を弄る音が聞こえる。
あたしと狐ちゃんの感覚を合わせるのにニューロヘルメットは要らない。
トヤーは目を閉じて、機体の隅々までに感覚を伸ばした。
外の砂嵐に身体中を叩かれるのは、ヒリヒリどころではなくて、肌が痛い。
その裏側に意識を向けると、ちょうど、ゾリグが両の手を使って機器の状態を確かめて、配線を一本一本丁寧に抜くところだった。
身体の奥に生えた毛を連続で抜かれているような感触がくすぐったい。
――あ、通信しないと。
ふと、我に返って、ゾリグに言われた通りのことを通信機の先に伝える。
通信機の先から、彼女の無事を喜ぶメガネの士官さんの声が聞こえた。
10年以上も歳が上の大人の中に混ざれる気がしなくて、部隊に入ってからはずっとバヤルの側をついて歩いてた。
子供みたいにはしゃぐ大人の影にいると目立たなかったし、好奇の目からも逃げられる。
彼への好意もあったかもしれない。
でも、一番の理由は他の大人から身を守るためでもあった。
少し勇気を出して、外の大人に声をかけてみることにする。
「ゾリグもコクピットの中おいでよ。外、危なくない?」
「ダメだ。コクピットの中は音が聞こえなくなる。」
――なんか聞こえるんだ、この人。
数メートル先は何も見えない砂嵐の中で、この人はいったい何を聞こうとしているか興味が湧いた。
分厚いフード付きのマントとゴーグル、顔面を覆う布。
メックの残骸を盾にしてるとは言え、彼の姿は常に砂に襲われている。
それに、彼が身を隠している場所には機能を停止して露出した核融合炉があった。
――生きるって難しいんだな。
海賊に居た時は大人はみんな危なかった。
それでも、大人に守られて生きていく方が楽に決まっている。
でも、ドルジの部隊にいる大人は皆、多才で物知りで、危なくなかった。
彼らに甘えることなく暮らす。というのはとても難しいことに思える。
『迎えが来たぞ。』
難しいことを考え過ぎて頭がパンクしそうになっていると、通信機の向こうからゾリグに声をかけられた。
耳を澄ましていたけれど、砂嵐の向こうから重輸送ヘリの姿を現す方が早い。
現場に到着したことを告げるヘリのパイロットの声が通信機から流れてきた。
ゆっくりと高度を下げるパイロットと一瞬目が合う。
『パイロットを視認した。コクピット内に避難している。』
周りの雑音に紛れていて気が付かなかったけど、ヘリのパイロットはずっとあたしに呼びかけていたのかもしれない。
なんかゴメン。とトヤーは心の中で名前も知らないパイロットに謝った。
自分と違って砂嵐の最中に居るはずのゾリグの聴覚を試すように、通信機のマイクに向かって呟いてみる。
「ねぇ。狐ちゃん、直るかな?」
丸焼けの赤黒い残骸になった、かつての愛機JennerIICを思い出す。
胴部大破、腕部と脚部もほぼ全損、今のKitFoxも似たようなものだ。
かろうじて頭部と肩が残ったこの子はどうなるんだろ?
――スクラップ。
実際にJennerIICはそうなった。
『頭部に傷はない。ArrowⅣの発射機も無事だ。』
少しだけ、遅れてゾリグからの反応が返ってくる。
なんて、答えるべきか考えてくれていたらしい。
『ほとんど丸ごと交換みたいなもんだが、KitFoxは再建できる。』
通信機越しの優しい言葉にトヤーの顔が緩んだ。
やっぱ、甘えないとか無理じゃん?
ここの大人はみんな花マル過ぎる。