Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
6 August 3151
基地に帰還したゾリグとトヤーは大勢の出迎えを受ける。
ゾリグを盾にしようとしても彼らの視線はトヤーに集中した。
凄惨な残骸となったKitFoxからほぼ無傷で生還した彼女が注目を浴びるのは無理もない。
「幸運の少女」と影では渾名が付いているが、本当に彼女が幸運であるならば、そもそも機体は撃破すらされていないだろう。
だが、そこまでの幸運ではないところが、かえって皆に受け入れられていた。
人ごみをかき分けて医官と衛生兵が担架と共に駆け付けたが、彼らには病室よりも先に行く場所があった。
シタには「聖域に行く。」とだけ伝える。
何かに導かれるままに進み、ゾリグはトヤーと共に見慣れた入り口をくぐった。
部屋の外はまだ日が高く昇っているにも関わらず、中は夜のように静かで暗い。
中央に敷いた布の上に石で組まれた小さな石炉。
部屋の主は小さな鍋で何かを煮ながら、彼らを待っていた。
炉から漏れる小さな明かりに照らされたアンネにゾリグは短く帰還の報告をすると、彼女にちぎれた草の紐を差し出した。
トヤーも彼の真似をして、アンネに同じものを差し出す。
アンネはそれを一つ一つ受け取ると、取り出したろうそくに火を灯し、丁寧に燃やす。
指に残った消し炭を払ってゾリグの右手を手に取り、どこからか取り出した草の紐を結ぶ。
同じようにトヤーの右手首にも新しい草の紐を結んだ。
ゾリグとトヤーはそれぞれアンネに無言で頭を下げる。
作戦前にゾリグはトヤーを連れてアンネの元を訪れた。
そして、トヤーに草の紐を願った。
アリマの作戦で一番の危険に晒されるのはトヤーで間違いない。
彼女を生還させるために、ゾリグにできる最後の一手はトヤーをここに連れてくることだった。
多くの人間はゾリグほどには信じていないのだろう。
しかし、何度も死線を潜っているゾリグからすれば、これ以上の最後の頼みの綱は無かった。
氏族の戦士に似合わない神頼み、と言われればそうかもしれない。
だが、どんな批判も結果に比べれば些事に思えた。
出撃前のトヤーはこの儀式の意味を理解できていなかった。
今は理解できているのか、静かにこの儀式を受けている。
新しい草の紐を受け取って、立ち上がろうとするゾリグをアンネは無言で制した。
彼女は視線だけで服を脱ぐようにゾリグに促す。
言葉を発することはない。まっすぐに彼と視線を合わせる。
抗うことの無駄を悟って、ゾリグは分厚いコートを脱ぎ、傷だらけの上半身を露わにした。
これで良いか?とアンネの顔を伺うも、彼女の納得していない顔を見て、しぶしぶ残りの全てを脱ぎ去る。
脱いだ服は彼の横にいたトヤーが両手で抱えた。
アンネは煮立った薬液を含んだ布を鍋から取り出す。
自身が濡れるのも構わず熱された薬液を刷り込むように彼の全身をそれで拭き始める。
次々と新しい布を鍋から取り出すたびに暗い部屋中が薬液の蒸気で満ちた。
皮膚の爛れた部分や裂けた傷が清められていくのをトヤーは羨望のようなものの混じった眼差しで見ている。
それに気がついたのか、アンネが彼女に声をかけた。
「お手伝いいただけますか?」
トヤーは大きく頷いて、鍋の中から新しい布を受け取る。
ゾリグは2人に全身を磨かれて、紫色の布で全身を丁寧に巻かれるまでは静かに待つしかなかった。