Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Outskirts of Bern
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
15 August 3151
――いや、人生って、本当に何が起きるか分からないね。
ツェレンとの買い物の帰り道。まさか、こんな目に遭うなんて。
悪い予感はしてたけど、まさか駐車場で武装したチンピラ十五人に囲まれるとか、運がなさすぎる。
軍閥の下っ端の人たち、こっちが丸腰って分かっててもすごい数で囲むんだもん。やりすぎじゃない?
でも、銃口を向けられてると、さすがのトヤーさんでも動いちゃいけないのはわかる。
ツェレンは、一歩前に出てあたしを庇う。背中がいつも頼もしい。ツェレン一人ならなんとかなったりするのかな?
ドルジじゃないから無理だよね。そう自分を言い聞かせるけど、どうしても、ちょっとだけ、情けなくなる。
――ああ、人生でこんなにきっちり縛られるの、これが最初で最後だといいな。ほんと、冗談抜きで。
目隠し、手錠、さるぐつわに足まで縛られて、トラックの荷台みたいな場所に転がされる。車が跳ねるたびに床に打ち付けられて、もう心も体もバラバラ。
何も見えないまま、ゴトゴトとどこかに運ばれていく音だけが頭に響く。
――はぁ、これ、詰んでるよね?
下手に騒いでも無駄だし、今はツェレンに倣って大人しくしておくのが、きっと最善。
気がついたときには、倉庫みたいな場所に転がされてた。
ようやく目隠しを外されて、薄暗いライトの下に、ぼんやりと見張りのチンピラたちの顔が並んでる。
「で、これからどうすんだよ」「金、金を要求しようぜ」「脱がせとけばインパクト出るだろ」「とりあえず下着姿で動画撮ろうぜ」
訛りの強い男たちの声が聞こえる。
え?今から打ち合わせ?
内容もまるで頭の悪い学生みたい。馬鹿ばっか。
あたしもツェレンも、さるぐつわで声が出せない。
ただ、ツェレンがちらっとあたしの方を見て、小さく首を横に振る。
――“逆らうな”
はいはい、分かってます。
結局、彼らの話し合いでは何も決まらなくって、男たちの要望全部盛りになった。
脱がして、下着姿を撮影して、お金を要求する。
――え?それでいいの?ちょっと想像力が足らないんじゃない?
最初に脱がされたのは、あたしだった。
紺のワンピースを無理やり剥ぎ取られる。やめて、と叫びたくても、さるぐつわが口を塞いで声にならない。
下着だけになったあたしの身体を、何人ものチンピラが囲む。その目つきが、値踏みするように舐め回してくるのが分かる。
これでも自分では“胸もお尻も、平均よりはずっとある方”だと思ってた。
海賊にいたころは服を地味にすることで目立たなくしていた。
そうしないと、こういう目に遭うからね。
そういう心配が無くなってからは褒めてもらいたいぐらいだった。でも、それはこいつらにじゃない。
息を殺しても、羞恥はごまかせない。
指先が胸の上をなぞる。下着の薄い布越しに、男たちの体温とざらついた感触が直接伝わる。腰も、お尻も、ぐいぐいと撫でられるたび、身体が無意識に震えてしまう。
あたしの下着は布の面積が少ない。大人のデザインだ。高かったのに、こんな奴らに弄ばれるために着てるんじゃない。なのに、ここにいる男たちは誰もそれを気にしちゃくれない。
ただ“モノ”みたいに弄ばれて、悔しかった。でも、恐怖の方が勝っている。
ベルトに手がかかる音がして何人かの男たちがズボンを脱ぎ始めた。
――絶対にイヤ。
叫んで逃げたいのに、身体中の拘束がそれを許してくれなかった。
心の中でドルジを呼ぶ。目に涙が溢れた。
カンと倉庫に響いた乾いた音が男たちの盛り上がりに水を差す。
全員の視線が音のした方に向いた。
倉庫中に不自然なほど大きく反響した音の正体はすぐに分かる。
ツェレンが足元に転がっていた金属のパイプをさりげなく蹴り飛ばしたのだ。
その音でチンピラたちの手が一斉に止まっている。
偶然なハズはない。
男たちの興奮を削ぐ、最低で最高のタイミング。
ツェレンは脚をモゾモゾさせるだけで、何も言わない。
でも、男たちの注目は彼女の綺麗な脚に集中した。
彼女が少しだけ、あたしに目を配った。
それだけで、私の中に張り詰めていた恐怖が一瞬だけ薄らいだ。
「そういえば、俺たちは撮影をするんじゃなかったか?」
剥きかけのあたしをほったらかして、ツェレンに手を付けるための言い訳だ。
その声に他のチンピラ達も同意する。男たちの目は誘うようなツェレンの動作に釘付けになっている。
――そうだよ、ズボン穿けよ。
あたしは心の中で毒づいた。
あたしを囲んでいた時以上に男たちの周囲の熱が高まっていくのが伝わって、嫌な暑苦しさを感じる。
パイロットの制服の上からでもわかるツェレンの迫力の身体。
彼女の少しの仕草だけで、熱が蠢いた。
これがツェレン。
緑の悪魔の寵愛を毎夜のように受ける女帝。
――ああ、やっぱりこの人には敵わない。
そう思う自分が、どこかにいた。
男たちの1人がツェレンの前に立つ。
無理やりその場に立たされた彼女は目の前に立つ男と目を合わせないように少しだけ顔を背けた。
その所作だけで何人かの男が興奮で叫び、唸り声をあげる。
ツェレンの制服のボタンが一つずつ外されるたびに、空気が熱狂に変わっていく。
薄闇に浮かぶ白い肌。
倉庫は興奮と熱に満ちていたが、それはついさっきまでの野蛮な饗宴とは違う。
いつのまにか男たちは揃って、声一つ上げずに次に何が出てくるか期待を寄せている。
あたしの身体を値踏みしてた連中が、今は彼女の肢体の虜になっていた。
シャツが脱がされ、胸があらわになると、誰もが息を呑む。
重力を裏切るみたいに高く、ふっくら張った胸。
布地は彼女の豊かなむっちりとしたふくらみを、ほぼ隠していない。
普通なら目につくはず位置にあるはずの、紐や結び目は見当たらなかった。
首にかけられた、一本の銀糸で吊るされる二枚の小さな紫色の布片は、まるで天秤の皿のように、彼女の胸のふくらみの上に載っている。頂点だけをかろうじて覆う、わずかな重みで滑り落ちそうな三角錐の布は、どういうわけか形を崩すこともなく、乳房の柔らかい曲線に寄り添い続けていた。
どうしてそれが、隠すべきものだけを選んで隠せるのか、誰にも分からない。
剥き出しの柔らかな谷間の魅力は、布地の色で強調されていた。
視線を下に移せば、腰の高い位置から鋭いV字を描いて細い紐が走り、お尻の割れ目のすぐ上で交差している。
腿の付け根には、かろうじて隠すべき場所に、極小の布地が食い込んでいた。
鍛え抜かれているはずなのに、どこか、女らしい柔らかさと丸みが、一緒に同居している。
腿の内側や、骨盤のくびれ、引き締まったお腹まで、肌のどこにも無駄がなかった。
背筋はすっと伸び、肩の骨が美しく浮き出て、鎖骨から胸元まで、艶のある肌が柔らかな光をまとっている。
小さな布片と糸は、ただの裸体以上に周囲の想像を掻き立てていた。
手錠と足を縛る紐は、ただの雑音でしかない。
彼女の目の前に立つ男もそう思ったのか、ツェレンの口を塞いでいたさるぐつわを解いて、その美貌から余計なものを取り除く。
あたしも男たちも、その場で姿勢を変えることもできずに彼女に見惚れていた。
何人かの男達が、その場で腰砕けになって、へなへなとへたり込む。
あたしでも、頭が現実を受け入れきれなくて、ただ息を呑むしかなかった。
弱々しい呟きが漏れるばかりで、誰もそれ以上はツェレンに触れようとはしない。
もう、呪いの域に達している美しさ。
次に何をしたらいいか、誰もが分からないでいる。
こっちを向くツェレンも、指一つ動かさない。
――同じ女なのに、どうしてここまで違うんだろう……。
ちょっとした嫉妬と、理解できない畏怖がトヤーの胸の奥で渦を巻いた。
ツェレンをそこに、無理矢理に立たせていた2人の男は彼女の両脇を離れている。
気がつけば彼女は自らの足で立って、男たちを見下ろすように立っていた。
ふと、あたしたちが誘拐されていることを忘れそうになる。
――いや、やっぱりズルいよ。
あたしは首を振った。
勝てる気がしない。“迫力のある美”って、こういうものなんだろうか?
あの下着の紐を解いたら、何が見えるんだろう?あたしですら、そんな馬鹿げたことを考えている。
そんな考えが通じてしまったのか、あたしの隣に立っていた男が、ハッと何かに気がついたように動き出す。
勇気のある一人のバカは、ツェレンの前で立ち尽くしていた男を脇に押しのけて前に進んだ。
薄く汗ばんだ手を、ガタガタと震わせながらツェレンの胸を覆う布片へと伸ばす。
彼女の胸の先の小さな尖った二枚の布片を両手で同時に摘まもうとする。
彼の戸惑いと興奮が周囲に伝染した。
それを見ていただけの男が、また何人かその場に座り込む。
鼻につく、淫靡な臭いが、だんだん濃度を増していく。
ほんのわずかに、男の指先が布の下の頂に触れ、布の頂点が指で摘まれた。
ツェレンの背筋がぴくりと反応し、彼女の口から甘さを含んだ声が漏れる。
その下から、信じられないほど美しい実が、重力をも捻じ曲げてこぼれ出す。
布はその膨らみに載っていただけだった。
布の位置をずらしても、二つの球が形を崩すことはない。
「……すげぇ……」
誰かが呟く声が聞こえる。
今度は誰の耳にも聞こえるような音を立てて、3人の男が前のめりに倒れた。
身体が痙攣するかのように、何度も小さく跳ねている。
他の男たちがそれを気に留めることはない。
封印を解いてしまった男の手は、行き場を失って彷徨っていた。
遂に全容を顕した果実を捥ごうという勇気のある男はここに居ない。
皆が言葉を失い、やがて場の空気すら動かなくなった。
触れてはならないものに触れた感覚が、倉庫の空気をぴんと張り詰めさせる。
もう、誰もあたしなんて見ていない。
周りの男たちと同じように、あたしは呆然とする。
神話の豊穣の女神を目の当たりにした、ただの群衆の一人になった。
男たちは誰もが固まったまま、ツェレンの肢体から目を逸らすこともできずに、浅い呼吸を繰り返している。
ふと、その様子を見ていたツェレンの纏う雰囲気が、急に変わった。
女神の艶かしい表情の仮面が落ちて、鋭い猛禽の視線が獲物を射抜く。
場の空気は一瞬で彼女の狩場になる。
男たちだけでなくて、あたしまで喉が狭まって息が吸えなくなった。
ビュッと小さな水音がしたかと思うと、男たちの1人が腰を抜かしたかのようにして、その場に座り込む。
続けて、同じような音が連続して部屋のあちこちから聞こえて、彼らは次々と腰を抜かしていった。
部屋中に強い雄の臭いが立ち込める中、女神はただ、男達を見下ろす。
彼らを嘲るような、誰かの笑い声をあたしは聞いた気がする。
ほとんど同時に、座り込んだ何人かの男が、再び水音を立てて、身体を震わせた。
股の間を両手で抑えて、その場に倒れ込む男もいる。
身体の中から精が抜けていくのを抑えられずに、助けを求めるような表情で何度もその場で果てていく。
狩人と獲物の関係はどうしてか、完全に逆転していた。
恐怖と畏敬とが、場の空気を完全に支配している。
あたしももう、闘志を失っていた。
――ムリだよ。
もうなんか、ツェレンと色気で争うことを考えるのが、そもそもの間違いな気がした。