Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
15 August 3151
プリヤンカは時計を一瞥した。ツェレン達の誘拐が発生してから2時間。
発覚からの対応の早さにプリヤンカの顔が綻びそうになる。夢か魔法か、少なくとも軍閥には同じ速度で展開できる部隊は無かった。
鉱山基地はほとんど抵抗がないまま、ドルジ隊の手に落ちた。
通信設備の大部分を乗っ取り、主要な人員は武装解除して一ヶ所に集めた。
ボルド達と武装したオスキャル、整備班が見張りに付いて監禁している。
プリヤンカの担当はこの管制塔の制圧だった。拳銃を片手に乗り込んだが、管制塔の職員は彼女の背後を守っていた大男が1発も撃たずに圧だけで全てを黙らせた。彼の手にした重機関銃の輝きを前に、逆らう勇気のある者はいなかった。
銃の安全装置を元に戻して、腰のホルスターに収める。
ナランはここの職員を全員拘束すると、空いた椅子に座り、機器を操作した。ゾリグとの通信回線が開くと彼女に頷いてみせる。
『郊外の穀物倉庫から姉御の発信器の反応がある。』
地形情報、航空写真、気象情報。現地の全ての情報が5番機から送られてきた。
先の作戦では手に入らなかった情報が今回は全て手元にある。
ゾリグの情報は軍閥のデータベースからすぐに照会ができた。穀物倉庫は軍閥の、それもアリンダム少佐の管区の所有する物件だ。
ヘッドセット越しにプリヤンカがドルジへ全てを報告し終えると、チャンネルが切り替わった。
通信の向こうの全員が、あの人の言葉を待っている。
『全てを使え。何を為しても構わん。2人を生かしたまま還せ。』
「はいっ!」
短い指示だったが、彼の意思は明瞭。プリヤンカは声を張って、通信機の向こうにいるはずの彼に反射的に敬礼を返した。ナランの視線と耳を二度叩く仕草でヘッドセットのチャンネルが全体だったことに気がつく。
慌てて、ヘッドセットをドルジとの専用回線に調整する。
ついでに、アリマの通信機のステータスを確認した。
先任の作戦参謀役は何も発言していない。彼女なりにあれこれと手を考えているのかもしれなかった。
でも、いま必要なのは手順じゃない。倫理に構っている時間もない。
プリヤンカは自分が口火を切る覚悟を決めた。
「プリヤンカ、作戦具申致します。」
背筋を伸ばして、息を大きく吸い込む。
「星系首都ベルンへの核攻撃の提案を致します。」
迷いのない言葉を放ったプリヤンカに、管制室にいた全員の視線が刺さる。
冷え切った室内で、彼女の胸の奥だけが、火を灯したように熱を帯びていた。
彼女の心に迷いはない。
今回こそは、負けるわけにはいかなかった。