※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.11_04

Outskirts of Bern

Esteros System,Alkahera

Jade Falcon

15 August 3151

 

 報告を受けたのは真夜中だった。

 アリンダム少佐は受話器を叩きつけ、装甲車と兵の用意を命じた。

 連絡を受けた倉庫に辿り着くと同乗していた兵隊を置いて、半分ほど開いていた穀物倉庫の管理棟の鉄扉を潜る。守衛室の見張りは一瞥して倉庫の司令室に直行した。

 

「状況は?」

 彼を呼び出した上等兵に怒鳴りつけるように報告を要求した。

 ニヤついた顔の上等兵は自慢げに答えた。

「ドルジの部隊の女2人で間違いないです。倉庫で手下どもが今、服を剥いでそろそろ身代金要求用の撮影会……」

 その言葉に少佐は眉を寄せたまま、口を開かなかった。冷え切った沈黙が室内を支配し、上等兵のニヤついた顔が一瞬で引き攣る。

 アリンダムは監視カメラの映像の幾つかに目を走らせて、目的の映像をすぐに見つけた。

 

 カメラの先の倉庫は埃っぽく、夜通し点けられているのであろう裸電球が天井から黄ばんだ光を投げている。

 捕虜は2人いた。剥き出しになった肩、かすかに光る鎖骨、破り捨てられた服。

 だが、そこに広がっていたのは支配や暴力ではなく、異様な緊張感だった。

 一人の女の目が、静かにその場にいる全員を見下ろしている。

 

──身の程知らずめ。

 

 心の中で毒づく。

「何時間前だ?」

 アリンダムの声が硬くなっていた。

 上等兵が首を傾げながら戸惑いがちに答える。

「……おそらく、5、6時間前ですねぇ。」

「5、6……?」

 ドルジの部隊が誘拐にいつ気がついたか次第だが、彼らがもう動き始めていてもおかしくない時間だ。

 

 アリンダムは司令室の、通信機を急いで操作した。だが、彼らのいる鉱山基地には繋がらない。音も、応答もない。

 焦りが、首筋を這った。

 

 プリヤンカへの直通回線を繋ごうとしたその瞬間、手元の通信機が勝手に再起動を始める。

 黒かった画面が再び揺れながら光を放ち、何処かとの通信が始まる。

 映し出されたのは、黄色いクレートの山と、見慣れた女の顔だった。

 

ーープリヤンカッ。

 

 軍閥の制服の上から白い防護服を着ている。彼女の背では赤やオレンジで彩られ、黒いラインで封印処理を施されていたミサイルの弾頭が次々と大型のミサイルに装着されている。

 彼女は淡々とした口調で告げた。

 

「ルヒの軍勢の手によるツェレンとトヤーの誘拐は、我々への明確な敵対行為と見做されます。我が部隊はこれを受け、エステロス首都に対してARROWⅣによるミサイル攻撃を含む報復攻撃を開始します。」

 プリヤンカの後ろでは、白や黄色の防護服を着た作業員たちが、ミサイルを装填装置に取り付けていた。ミサイルの装着された装填装置が静かにカメラの外に送り出されて行く。

 白い防護服の作業員たちの無言の動きは、これが決してコケ脅しではないことを物語っていた。

 

 プリヤンカは核兵器技術に通じた士官だ。こういう有事の時のために、それなりの費用をかけて専門の教育を受けさせている。

 わざわざドルジが彼女を使う理由。

 アリンダムは確信した。やはり噂通りドルジの部隊は核弾頭を保有している。そして今、それらが全て自分たちに向けられていた。

 

 震える指で他基地へ連絡を試みる。

 だが、繋がった回線の向こうからは交戦中の回答か、救援の要請が返ってきた。

 既に火の手は上がっていた。

 アリンダムは司令室を飛び出て、管理棟の屋上から各基地の方角を確認した。サーチライトと赤黒い煙が夜空を照らしていた。

 更に何発かのミサイルが夜空を切り裂いて、基地に降り注いでいる。

 

 アリンダムの管区は目と耳を潰されていた。

 プリヤンカの映像が冗談ではないことを確信した。少佐の部隊はドルジの逆鱗に触れたのだ。

 過去の悪夢の再現が始まっていた。

 

 アリンダム少佐は管理棟の屋上から倉庫に降りると捕虜の元に向かった。

 彼女は未だその場に座り込んだアリンダムの部下たちを見下ろすように、倉庫の真ん中で不動の彫刻のように立っている。

 軍服は剥がされて、どこかの神話から舞い降りた女神か神官のような下着だけを身にまとっている。

 肌の殆どが隠されていない。それでも彼女は、背筋を伸ばして、静かなまなざしで新たな来訪者を迎えた。

 

 床に座り込んでいた少女が怯えた表情でわずかに顔を上げる。だが、アリンダムは彼女のことはチラッと目を向けただけで、真っ直ぐにツェレンへと向かった。

「2ヶ月ぶりにお会いします、ご婦人。」

 少佐は帽子に触れることもなく、ただ静かに告げた。制服のコートは埃に汚れ、歳月に擦り切れている。それでも彼の口調は丁寧だった。 

 例え彼女が娼婦のような出で立ちであっても、ツェレンは「威厳ある者」として扱われるべき存在だった。

「こうなったのは残念ですが、もはや手遅れでしょうな。ドルジ殿は、撃つおつもりのようだ。」

「我ら隼は、今までも撃つと決めたらそうして参りました。此度もそのようにするでしょう。」

 ツェレンはアリンダムに合わせて言葉を返す。そこに感情はない。あるのは、ただ揺るぎない自信とプライドだけだ。

「なるほど……」

 アリンダムは小さく頷き、目を伏せた。

 流石にあの男の副官だった。彼女の周りで腰を抜かしている雑兵とは格が違う。

「……あの娘、プリヤンカのことは、上手く抱き込まれましたな。彼女の宣告、あれは脅されて言わされたものではあるまい」

「ご家来衆のお行儀が、もう少し良ければ。あの子も、躊躇う素振りくらいは、見せたかもしれませんのに。」

「違いない。」

 痛いところを突かれて、アリンダムは苦い顔をする。

 短く交わした言葉を終わりにして、ツェレン達を独房に移送するように、部下の何人かに命じた。

「最後に、美しいご婦人と話せて光栄でした。ウチの堅物が、いろいろと面倒をかけます。ご無事と、これからのご武運をお祈りします」

 帽子を取って、軽く胸に当てる。古風で真摯な、戦場の礼節だった。

「……ご生還を、お祈りいたしますわ」

 ツェレンは微笑もせず、ただ静かに挨拶を返す。

 そして、アリンダムの部下達を率いるかのように颯爽と歩き去っていった。

 

 アリンダムは彼女達を見送ると未だに呆けている雑兵達を蹴り起こした。

 プリヤンカの過去の報告書の内容が正しければ、この倉庫の所在はとうにドルジの部下の超能力者に探知されている。捕虜2名の救出には最低でもバトルアーマー2分隊が割り当てられるだろう。

 

 ドルジが交渉という選択肢を一切考慮せずに、即座に行動を開始したのだとすれば、彼らに残された時間はわずかしか無かった。

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