※この作品はR-18です。

才能の卵を孵化して最強って母性の発露は聞いてない   作:鴨鶴嘴

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才能の卵を孵化して最強って母性の発露は聞いてない

「うちで働いてみないか?前々から、お前さんのスキルが有用だと思っていたんだ」

 

 露店で牛串焼きを売る商売が同業者の嫌がらせで出鼻を挫かれて失敗して、ずるずると落ち込んでいるときに、冒険者ギルドのカレイユ支部で職員をやっている赤髪にデザインされた髭のリックスさんに話があると飯を奢られてみれば、勧誘の話だった。

 

「なんであんたが俺のスキルの詳細を前々から知っているんだよ、って冒険者ギルドのことがたった今怖くなったところだが、それよりもギルドで働けだって?……俺のスキルが有用となると、新人冒険者の教育あたりか」

 

「ハッ、まさか!すぐに冒険者を辞めれるようなヤツらよりも、停滞しているベテランや才能のあるエースを強化してほしい」

 

「それは、そうか。……でもなぁ、商売で失敗したこの町にいるだけで、鬱々とするというか。そろそろ旅に出ようかと思っていたところなんだ」

 

「む。安心しろ、それは問題にはならない。では、望む場所で働けるように他の町の冒険者ギルドに私が話を通すだけだ。安定するまで衣食住もこちらから用意しよう」

 

「……ちょっと、買い被りすぎじゃないか」

 

 聞いたことがないような厚待遇に疑うような目線でリックスさんをマジマジと見てから軽く引いていると、真剣な表情で静止したままクスリとも笑わないので居心地が悪くなる。

 

 俺の目線は木製のジョッキに注がれた琥珀色のエールに移り、水面に映る不安そうな顔をしている無精髭を生やした自分の顔を見つめて、情けねぇな、と小さく笑う──逡巡の後に、俺はいっきに全てを飲み干した。

 

「さっきまでの言葉は、どうか忘れてください。……この町で失った自信から逃げるのは俺らしくないと、ずっとこの町で燻っていたんです。そして今、俺は俺を評価してくれるリックスさん達とこの町で働いてみたいと思っていますっ!」

 

 胸のモヤモヤになってたまっていたこと、全部言っちゃった。

 

 そして、緊張が解けるように大男の豪快な笑い声が響いた。

 

「がははははっ!いい眼をするようになったな。挑戦と失敗を怖れる必要はない。若さはいつだって君の味方だ。若者はそうでないイカン!……こほん、カレイユ支部を代表して君を歓迎しよう。名前は──」

 

「アレン・テオドールです。あの宙より遠いところにある世界の言葉で、剣の祝福という意味だそうです」

 

「アレン・テオドール。随分と詩的なことを言うではないか。では、これからはアレン君と呼ばせてもらおう」

 

 まぁ、これは俺が自分でつけた異世界らしい名前なのだが。

 

 ……そう、俺は異世界の転生者だ。

 

 それだけで、今は若輩者の一人にすぎない。時間潰しの露店も失敗してしまったが、種を撒いて待つことしか出来ないなりに、胡椒シンジケートや商人組合などとの交渉はいい社会勉強になったとも言える。

 

 そして、俺の撒いた種がようやっと開花する予兆とこの転機が重なったことには、きっと意味があるのだろう。

 

 ◆

 

 ギルドから与えられた個室で待機していると、コツコツと石の床を叩く足音が聞こえてきて、部屋の前で立ち止まった。

 

 そして、ゆっくりと扉が開かれる。

 

「さて、リックスさんが直接スカウトした凄い新人というのは、あなたのことでしょうか?……フフッ、これは。随分と面白いオーラの色をしていますね」

 

 丈がおかしい袴はもはやスカートのようで、露出した太股に用途が謎のベルトを巻いた紫の和装を着こなす女性。

 

 その脇に差している太刀をみて、どうやらこの人が聞いていた冒険者なのだと判断する。最初の優しい目元の雰囲気が、じぃっと黒で塗り潰したような瞳で視られて俺が底知れなさを感じたように、向こうも俺の何かを感じたようだ。

 

「そのオーラ?がいろいろと混ざって見えたのでしたら、それは俺のスキルの影響ですね。初めまして、俺……僕はアレンです」

 

「あら、やっぱり。私はナユタ・スメラギといいます。今日はそのスキルを他者に試す第一号として、私が選ばれたということですね。今より強くなるのに鍛練だけではない方法があると聞いて、ワクワクしているんです。……よろしくお願いしますね?」

 

「……ッ!?」

 

 ゾッとした。

 

 ただ微笑まれただけなのに、期待を裏切るなよ?と首に太刀を添えられたように錯覚して、繋がっている首を手でペタペタと確認してしまった。

 

 おそらく、スメラギさんは視線で一度、俺の首をなぞったのだろう。今ので、実力では俺の遥か格上なのはよく分かった。

 

「?どうかしましたか」

 

「いえ、なんでもありません。では、改めて俺のスキルを説明すると、宿主が強く望んでいることに沿った才能の卵を手の甲などにタトゥーの形で与えて、孵った精霊がある段階まで成長すると宿主と同化して後天的な才能として習得出来るというものです。数に上限はありますが、今はいくつか空きがある……といった感じです」

 

「ずるい」

 

 口をへの字に歪めてわりと強めに肩を一発殴られ、突然の理不尽な暴力に戸惑っていると、すん、と瞬きをした合間に割り切った顔になっていた。

 

「手の甲など、ということは、タトゥーはどこでも自由なのですか?」

 

「僕が一番やりやすいのが手の甲なだけで、常識の範囲内でしたら希望に沿えますよ」

 

「では、そのタトゥーを首によろしくお願いします。万が一にも、腕の感覚に違いが出ては嫌なので」

 

「分かりました。では、首を失礼します」

 

 チュッ。

 

「……何故に、首へキスをしたのでしょうか」

 

「?首が良かったんですよね。これで終わりましたよ。最初の段階として、孵化をするまではなるべく毎日ここへ来てください」

 

「……そうですか。ならば、よしとしましょう。では、また来ます」

 

 抜刀の瞬間が全く見えなかった。チン、と後から鍔を鳴らして納刀したときにようやく気づいて、そのときにはすでに背中を向けたスメラギさんが廊下へ去っていく姿を見送った。

 

 ……他者にスキルを使ったのはこれが初めてのことだったが、意図的にスキルの説明の一部を省いたのは、偏に俺がスメラギさんの首にキスが出来るという好機を前にして、命懸けの誘惑に負けたからだった。

 

 ◆

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 チュッ。

 

「そういえば、今朝から首に熱を感じるのですが」

 

「!それは、失礼しますよ」

 

 あれから三週間が経ち、簡潔に済ませた後からスメラギさんから報告があり、俺は首に指で触れる。正直、白い肌にある生々しい傷のような赤いタトゥーに触ったところで何も分からなかったが、経験則から言えることはある。

 

「もしかしたら、今日中に卵から精霊が生まれるかもしれないですね。……もし、不安でしたら臨機応変に対応出来るように一緒にいますが、どうしますか?」

 

「もちろん、いてください」

 

「分かりました」

 

 そして3時間後に、卵から孵った精霊が産声をあげた。その姿はまるで龍のようだった。

 

「ガウッ♪」

 

「……すごくかわいい」

 

「おめでとうございます。その子は精霊なので、スメラギさんにしか見えない……はずでしたが、他者が宿主の場合でも俺には精霊の姿が見えるようですね。精霊は他者からの物理的な干渉を受けません、なので、冒険者稼業に問題は無いはずです。それと、すでに自分の一部が変化していることを感じているとは思いますが、これからは精霊と一緒にその才能を伸ばすことを意識してください」

 

「ええ、新しい力とその出力の方法もはっきりと感じます。今日まで半信半疑でしたが、ありがとうございました。これでまた、私は強くなれる……」

 

「ガウガウッ♪」

 

「おっと、なんだ。遊んでほしいのか?」

 

 胸にグリグリと頭を押しつけてきた龍の精霊の頭を撫でてやると、「キュウルル……」と甘えた声を出して嬉しそうだったので、少し構ってやると満足したようで、スメラギさんの胸の中へと消えていった。そのとき、ビクン、と小さく跳ねて驚いた様子のスメラギさんが、以前にも見たことがある、真っ黒に塗り潰したようなあの大きな瞳で俺の顔をじぃっと視ていることに気づく。

 

「この感情は……なるほど。そういうことですか」

 

「どうかしましたか」

 

「精霊は私から生まれた純粋な私であり一部なのだということがどういうことなのか、今理解しました。この精霊の経験が私にも返ってくるというシステムには、どうやら感情も含まれるようです。つまり、私はあなたに頭を撫でてほしいということです」

 

「なっ」

 

 冗談だろ、と言いたくなるが、グンッと歩み寄ったスメラギさんが俺の胸にぴったりと張りついて、頭をグリグリと擦りつけてくる。

 

 体が硬直して動けないでいると、上目遣いの物欲しそうな顔が迫ってきて、距離をとろうと肩を掴んで離そうとする俺の動きを読むように、手首をガッシリと掴まれた。

 

「精霊を体の外に出してください!その仮初めの感情は、まだスメラギさんに定着していないはずですからっ!今ならまだ切り離せます」

 

 咄嗟の思いつきだったが、この場の解決案としてはかなりいい線をいっている気がする。

 

 しかし、現実では強引にスメラギさんの頭が俺の手のひらの中に収まっていた。

 

「冒険者稼業って、凄く疲れるの。肉体的にはもちろん、精神的にも、ね。私は今も理知的よ?それでも、こんなにお手軽に癒されてしまうことを知ってしまったら、利用しない方が損ですよね。私はこの程度のことなら問題ないと思っていますので、頭を撫でてほしいです──でないと、折りますよ?」

 

「分かりました。……ごめんなさい」

 

 その物騒な発言はとても理知的とは思えなかったが、断わり続けたら本当に手首をへし折られる気がしたので、我が身可愛さに要求を飲んでしまった。こんなこと、問題の先送りにしかならないのに。

 

「……ぁ……ん゛ん……くふふっ♡」

 

 無心で撫で続けて、二十代後半から三十代前半ぐらいの女性が、頭を撫でただけで出していい声ではないし、見てはいけない顔をしている。

 

 だが、決して心を動かしてはいけない。

 

 この失敗は次からの教訓になるが、ここで手を出してしまえば、次は来ないだろう。

 

「ふぅ……スッキリした。その、我が儘を言ってごめんなさい」

 

 ようやく頭撫でループから解放されて、艶々としたスメラギさんとは対照的に、俺は疲れ果てていた。

 

「ガルル?キュウキュウ……」

 

 そこへ元気づけようと頬を寄せてくる龍の精霊の純粋な善意が、今の俺を追い詰めてくる。

 

「キュゥルル……キュイ!!」

 

 邪険に払い除けることが出来ないでいると、油断していた俺の唇が龍の精霊に触れてスキルが発動し、精霊の顔にタトゥーが浮かび上がった。そして、スメラギさんの中へと驚いた精霊が戻っていったのを見て、まさか……もうやめてくれ!と心の中で叫ぶ。

 

 それを嘲笑うかのように、スメラギさんの唇にタトゥーが浮かび上がった。

 

 ……俺はその光景に、頭が痛くなった。

 

「これは……この子は兄弟がほしいようですね。また卵から頑張りましょう?」

 

 鏡を見たスメラギさんが母性の溢れた顔で俺に笑いかけてくる。真っ赤な口紅のようなタトゥーが重なった唇が蠱惑的で、俺は──

 

「ナユタ、おいで」

 

「アレン君、今日もお願いね」

 

 足を開いて座る俺の中央に収まったスメラギさんが身を捩り、唇を重ねる。

 

 あれから発展して、今は恋人の関係になっていた。

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