才能の卵を孵化して最強って母性の発露は聞いてない 作:鴨鶴嘴
どうやら、俺のスキルで産み出した精霊達の成長は注がれた愛情によって比例するようだと分かってきた。
仕事を通じてこれまでにタトゥーを刻んだ男性よりも女性の方が成長が早く、個性的な才能の大小を比較することは難しいが、女性の方がより大きな才能を獲得しているように感じていた。
というのも、他者の男性が宿主の精霊達は俺を警戒して姿を現さないことがほとんどだったのに対して、他者の女性が宿主の精霊達は姿を現して戯れたり甘えてくることが多く、性差があるのは明らかだった。
今まで本能的に俺からタトゥーへのキスをすることに大きな意味があると思っていたが、それは間接的な要因でしかなく、自分や他者の宿主の精霊へ俺が意識的に愛情を注ぐことで精霊の親のような存在が増えた人数をそのままに係数となって才能も大きくなっているのではないか、と確信までには至っていないが傾向がみえてきた……そんな矢先に決まった王命による他国への出張は、俺が報告書を提出したギルドの上層部が目を通して働きかけて、国王様を動かしたのだろう。
恐ろしいことに、巻き込まれなければいいが……長いものには巻かれるしかないのがツラいところだ。
スメラギさんとサァラさんにも説明したが、口では分かったと言いながら目が1ミリも納得していなかったので、地雷を埋めてしまったのだとしたらそっちもかなり恐ろしい。
「あっ、スメラギさんとサァラさ──」
宿での荷づくりを終えてお茶でも淹れようかというときに、空間が縦に破れてラフな格好の二人が現れて、そのまま速やかに両脇を抱えられて破れた空間の向こうへと連れ去られてしまった。
翌朝。
カラカラになった俺は、ムッ、と一瞬鼻に皺を寄せた馭者と挨拶をした後に馬車に揺られて、街道で車輪が大きく弾む度に痛む腰を撫でていた。
◆
隣国のセレスティア神聖国は俺の人生よりも歴史が浅く建国から今まで王が居らず、それでいて大陸の三大国の一つだった。
その下地には古代の種族達が住まう禁足地の森があることや、唯一の魔大陸との海洋貿易国であることと、そこから流入してくる多種多様な人程度の知性を持つ者達を含めた国民の信心を集める『世界に暁を齎す聖女』様の存在が、大国へと押し上げていた。
……そんな国へと向かう途中、禁足地である森を渡すのに遵守しなければならない水先案内人のような役割の、森の入り口で雇われていたエルフが森の半ばで消えてしまい、馬車の周りで呼びかけていると、馭者の男が短い悲鳴をあげた。
慌てて駆けつけたときには、案内人だったエルフの手によって、馭者の男が地面に寝かされたところだった。
「……まだ、眠らせただけです。用事があるのは、あなたのその特異な魂の在り方と、内在する精霊達についてです。我々の隠れ里に来て全て話していただきますが、よろしいですね?」
穏やかな語りだが、まだ眠らせただけの『まだ』には、どうすることも出来るぞ、という脅しが含まれていた。
俺は肌身に紐で固定していた筒から、書状を取り出した。
「私はこの王命により、セレスティア神聖国へ向かう途中でした。その用事は王命よりも優先されることでしょうか?」
「む……。しかし、いや……それも含めて、隠れ里に着いてから判断します」
最強の手札を切ったつもりだったが、セレスティア神聖国とエルフ達の関係値を読み違えたようだ。
心の中で、チィッ、と舌打ちをして、より興味と警戒を深めたエルフが、溝を彫って銀を流した翡翠を額の上まで掲げると、宝石が魔術的な光を放った後に、森の木々が左右に避けるようにして一本の脇道が現れた。
「……急ぐようなので、失礼します」
肩に担がれて、ビュウ、と風を切る音がして、景色があっという間に流れていく。
いつも涼やかな表情だったエルフが全力疾走で顔を赤くさせて、ぜいぜいと息を整えて降ろしてくれたときに、衣服の腹に汗のシミが広がっているのをみてつい、「うえっ」と声が漏れてしまったら、ピクッと片眉を上げて「ちょうどタオルが欲しかったところです」とビショビショな抱擁をされて、俺は今度こそ悲鳴を上げた。
「では、改めて俺のスキルを説明すると、宿主が強く望んでいることに沿った才能の卵を手の甲などにタトゥーの形で与えて、孵った精霊がある段階まで成長すると宿主と同化して後天的な才能として習得出来るというものです。エルフの皆さんは精霊の姿や魂の色が視えるそうなので驚いたかもしれませんが、それだけのことなんです」
「……この者を捕らえよ」
「なんでっ!?」
連れられたエルフの里の女王様の前でスキルの説明をして、いつものパターンなら肩を殴られて話に落ちがつくのだが、続く女王様の一言で空気が緊張し、ガチャリと金属の軋む音が鳴った。
「待て、先の言葉は冗談だ。武器を下げよ。暁の聖女との盟約がある故に、手出しが出来ないことが惜しくはあるが、この者は行かせるしかあるまい。しかし、惜しいな。……では、こうしよう。禁足地の行きと帰りの安全を保証する専属の案内人として、エルフの里から一人つけよう。これでよいな?」
「えぇっと……寛大なご配慮、ありがとうございます女王様」
「ふむ、人間にしては弁えておるな。しかし、まだ足りぬ。……では、妾への敬意の度合いを、足の甲への口づけの数にて試すとしよう」
「……はい。恐れ多いですが、おみ足を失礼します」
チュッ、チュッ、チュッ──チュッ。
「待て、もうよい」
俺のスキルはあれからさらに成長して、数の余裕は四桁に迫っていた。これからの成長も考えれば、セレスティア神聖国でまず上限には届かないだろうという計算もあって、エルフの女王様へ出し惜しみをしなかったが、精霊や魂が視えるエルフ達には、人間の視覚的には隙間なくタトゥーで赤く染まった足の甲よりも、異質に視えているのだろう。
それらが光を放ち、タトゥーは魚群のように渦巻いて──鮭の帰巣本能のように、足を上っていく。
そして、女王様のお腹に三重となった♡によく似た模様の一際大きなタトゥーが服の下から滲んで浮かび上がっていた。
想定外の結果に、背中に嫌な汗をかく。
「なんと……美しい」
エルフの戦士の誰かが漏らした一言に、皆が同意した。
エルフの女王様がはらりと上の衣服を床に落とすと、感嘆のため息が漏れた。
俺はというと、最近出した自分の仮説のつづきを思い浮かべていた。
精霊の姿が視えるエルフ達が、敬愛する女王様の精霊に惜しみ無く愛情注いだのなら、その係数はどれほどの大きさとなるのかと。
そして、その成長の速度はずっと早いはずだと。
そのことを最も体感しているのは、エルフの女王様だろうというところまで思考を巡らせて、女王様と目が合うと、にぃ、と肩書きの外れた一人の女性の姿として、笑みを深めた。
「……ここに全ての民を集めよ!そして、全ての戦士の腹に妾と同じ印を刻むのだ!」
その日は後に、エルフの里で謝肉祭と呼ばれて、毎年祝うようになるのだが……今の俺には知る由もなく。
エルフの老若男女を問わず精霊の卵を授かる祝福の儀式は行われ、他者の男にはタトゥーを刻める上限が三つまでだということを知り、そのタトゥーが混ざることは起きなかった。
そして、最初に女王様から人型の精霊が誕生して集まったエルフ達からはエルフらしからぬ歓声が大地を揺らし、女性のエルフの戦士達は見せつけるように服を胸の下で縛って、露出したお腹の♡のタトゥーを皆で撫でて慈しみ、俺からはタトゥーへのキスを強要され、それが一人二人のことではなくほぼ全員だったので、やはりこのタトゥーへのキスは意味のある行為だったのだと理解した。
集まった大人達によってご馳走と蜂蜜酒が惜しみ無く振る舞われ、あれだけあった精霊の卵のストックが空になりかけて、急速に戻ってくる。
それと同時にあちこちで歓声が上がり、狂喜を孕んだこの場のボルテージが上昇するのを感じた。
「「「「「パパ~~♪」」」」」
「「「「「ピュウィ♪(ギャウ♪)」」」」」
息苦しいと感じるほどに、いろんな生物の精霊や天使のように愛らしい人型の精霊達が俺に殺到して、多幸感と疲労でクラクラする。
俺の中に内在していた精霊達は、その全てが育ち切って同化してしまっていた。
里単位のエルフという種族は、俺のスキルとの相性が良すぎると、心拍音が警鐘のようにうるさく聞こえてきて、秘蔵の蜂蜜酒を一口飲むと美味さが喉を通り抜けて、気づけばジョッキを干していた……世界が蕩けて、今はこの酩酊感に、身を委ねてしまいたい。
「……パパ、大丈夫?」
「うん、うん、ありがとうね」
「えへへっ!大好き!ちゅっ」
?いつの間にかタトゥーをつけた精霊がふよふよと飛んでいって、女王様の中へと入っていく。
……口が痺れて、体がとても熱い。
そして、女王様の唇に赤いタトゥーが浮かんでいるのが見えて、あ、と声が出ると、赤らんだ顔の女王様の熱っぽい流し目を最後に、テーブルに伏した俺の意識は暗闇に落ちた。
『ふーーっ♡ふーーっ♡』
あれから何時間寝たのだろうか。
二日酔いに頭が痛んで最悪な気分を、精霊で得た力でアルコールを分解して正常な思考力を取り戻す。
すると、寝落ちした間に差し込まれたような知らない記憶が断片的に蘇ってきて、ボリューミーで柔らかな唇の感触を思い出して──どんどん溢れてくる記憶に、血の気が引いた。
『んーーっ……ここに蜂蜜酒を隠しておるな?白濁として重くこってりとした、濃密な蜂蜜酒を……くふっ♡なんてなっ♡……あうっ』
バキバキに勃起した俺のチンボに頬擦りをする女王様が、鼻の下の人中を伸ばして、クポクポ、と亀頭を咥えて、ずりずりと喉奥まで入っていく。
そうして、舌を出して涙目の顔に大量のザーメンをぶっかけて、それを高校生ぐらいまで大きくなった精霊が、幼さの残った顔で美味しそうにザーメンを舌で舐め取って「えらい?」と聞いてくる頭を撫でて、そのまま両手で頭を掴み──
まずいまずいまずい。
『妾は女王である。……故に、易々と子を孕んでやるわけにはいかぬ。しかし、この機会を逃すのは惜しい。そこで、妾の替わりに孕む腹を家具達から募った。里の外で共に暮らすことは出来ぬが、子はエルフ達で大切に育てると妾が約束しよう。……出来るだけ、たくさん孕み、孕ませるのだぞ?』
女王様から『家具』と呼ばれたエルフ達が横に並ぶと、そのスラリと長い手足が壮観で、どっしりとした腰骨と大きな胸にエキゾチックでミステリアスな鋭くも美しい顔立ちは、童顔が好きな日本人の想像力の外側にある美女達だった。
パールのような美しい肌、それは実際に何かしらのクリームによって、輝きを増していたのだろう──がっしりと掴んでお尻の肉に腰をぶつけたとき、これほどの雌と交尾をしているという事実が、雄としての悦びとなって細胞レベルで稲妻のように走り抜ける。
そのときふと、スメラギさんとサァラさんの顔が、頭を過った。
これは完璧な浮気行為だが、どこかで俺は媚薬を盛られたようだし、女王様は俺に逃げ道を用意してくれたので、この浮気は禁足地である森のエルフ達の隠れ里の中で完結している……故に完璧な浮気行為なのだ。
これからはスメラギさんとサァラさんの二人を満足させたいという男の見栄から、密かに得ていた絶倫の才能が、昨日の今日の急成長で今、遺憾なく発揮されていた。
ギュルル……と低く不気味な水音を立てて何度も膨らむ金玉は、この状況に笑っているようにも泣いているにも聞こえたのだった……。
──そして、今に至る。
俺の顔は、青を通り越して紫色になっていた。
「俺は……なんということを」
今まで守ってきた一線を越えてしまったカタルシスと呼ぶことすら烏滸がましい行為の数々に鬱々として、それでも俺のチンポは勃起していた。
それがひどく情けない。
「昨日は楽しい祭りでしたねっ!」
「……ああ、そうだな」
昨日は著しく成長した人型の精霊はすっかり大人の雰囲気で、未だに宿主と同化していないのは三重♡のタトゥーの愛を受け止める器の総量=成長限界が大きいからだろう。
案内人のエルフの戦士は昨日から引き続いてアイシャとなり、その後を知らないアイシャの普通さが、今の俺には癒しだった。
それも全て、森を抜けてセレスティア神聖国が遠くに見えた頃には、“いつもの調子”に戻っていた。
「記憶を土地に封印するとは、面白い力を得たな。よくやった。これでアレンは何度でも、セレスティアとクレイナールを往復する度に、無警戒にエルフの里へ戻り、思い出すことだろう。……それまでに、この精霊の力を完璧に制御してみせねば」
エルフの女王は『家具』を褒めると、遠い目をしてから、頭を振った。
どこまでもふざけた力を持つアレンを中心に、この世界のパワーバランスは崩壊するだろう。
暁の聖女に、今はアレンを預けてやる……それでも、最後に勝つのはいつだって長命種なのだ。
今は気長に、種が芽吹くのを待つとしよう。