才能の卵を孵化して最強って母性の発露は聞いてない 作:鴨鶴嘴
【テオ人形】
どうやら、金色のタトゥーから得る才能は他者にまで干渉することが、生徒達の傾向から見えてきた。
……そんなこと、分かったところで意味がないのにな。
俺は精霊に宿った記憶であり、いずれはシャロンさんの一部になる、そんな泡沫の夢のような存在でしかない……そう思っていた。
しかし、このセレスティア神聖国の実質的な最高権力を持つ暁の聖女様から、銀のグラスに入った謎の黒い液体を賜ってからは、風向きが変わっていた。
結論から言うと、その液体の一滴は魂の宿らない肉体の設計図になっていた。
「テオ君……体の具合はどうですか?」
「温かい……血液が、流れてる。……うわっぶ」
久しぶりに感じる本物の肉体を動かす感覚、重たい肉体の檻に感動して涙を流していると、視界いっぱいにシャロンさんに強く抱き締められて、クラクラする。
「……聖女様は、どうしてこんなことを」
「私には、なんとなく分かる気がします」
大陸全土のクレリック達を排出する学舎では、座学による勉強を行う意味が消失していた。
金色のタトゥーを通じて教師であるシャロンさんと生徒達が繋がったことで同水準の知識レベルになり、テストでは全クラスで満点を取る異常事態に騒ぐ教師達も、最近はシャロンさんの洗礼を受けて静かになった。
俺という精霊がシャロンさんの才能であるからして、その歪で驚異的な洗脳の恐ろしさは本当の俺──アレンすらも飲み込んでしまったのだから、この俺──テオドールが一番よく知っている。
「テオ君……かわいくて愛おしい、私の子」
俺が聖女さまの働きかけで受肉してからも、シャロンさんとの心の繋がりは続いているままで、俺のことを母親のように包んで愛してくれる母性の中に、ドロドロと粘着質な女の性欲が潜んでいることに俺は気づいていた……そのことを、シャロンさんもまた気づいているワケで。
必要性が消えて形式的な授業をシャロンさんに付き従っていたが、生徒達の俺に向けられる好奇心に何度も触れて、聖書の聖痕の解釈が歪んでいき、やがて秩序が崩壊するときはあっという間だった。
「テオ君……今度の体の具合はどうですか?」
「こんなこと、もう止めましょうよ」
銀のグラスからまた一滴を消費して、再び俺は受肉する。
生徒達の知らない性への好奇心の玩具にされて、壊れてしまった前の体は廃棄され、資本主義のように消費される俺はいったい何なんだ!という怒りは通り越して、シャロンさんがぎゅっと抱き締める。
「愚かな私達を許してください。次はきっと、うまくやりますから」
……ああ、こんなことになるのなら、コピーでしかない俺の意識なんて消えてしまえばよかったんだ。
「この出会いに祝福を」
それは俺にとって、呪いの言葉だった。
【IF 暁の聖女】
「俺はとても……受け入れられない」
そう言って、礼拝堂からアレンが逃げ出したとき、私は彼に失望してしまいました。
少し期待をしていたのに……短慮で、マクロな視点で物事を考えることが出来ない。
結局はその程度の男だったのだと、信者の目を通して私は大きなため息を吐きました。
◆
「すみません、この先あなたを守れそうに──」
言葉の続きを永遠に失って、アイシャが黒い液体に飲み込まれる。
「安心して委ねてください。私は次に行う異世界からの召喚に必要な才能を全て把握していますので、今回からは試行錯誤は省略されます。必要な才能を獲得するのに、何度もあなたの心に苦痛を与えることになると思いますが、少しの間の辛抱です」
磁性流体のような液体が、アイシャの口を動かして、いまさら俺は自分が選択を間違えたことに気がついた。
「お前は……何者なんだ。何が目的なんだ」
「私は、私達は……世界の暁を見届けたい。不死を望まなかったあなたは、人間として正しいのでしょう。ですが、この世界は理不尽で満ちていて、それに抗う術と戦略が必要で、その為の私達なのです」
「……お前は」
「もう、委ねてください」
黒い液体が夜の帳のように俺を包み込んで、黎に染まるのは慈悲だった。
死に損ねた先代達の集合体──魔王誕生の暁を待ち望んでいた魔大陸の勢力は、大きな歓声を上げたのだった。
後日譚とか書いてもよかった気がしますが、以上です。
女学院おねショタハーレムを書きたくて隕石まで落としたはずなのに、シリアスになって駄目だった。
プロット無しでGW終わりにはエタる気満々だったので、めちゃくちゃな作品でしたが、整合性に何度も脇を刺されながらも書きたいことは全部出したので、楽しんでいただけたなら幸いです。
これでナイトレインに行けます。ノシ
(※これから推敲をするかもしれませんが、大きな加筆をするつもりはありません。)