人生舐めてるちょいエロ系女性配信者が自分の意志でザーメンジョッキを一気飲みするまで。 作:鬼金目なむか
目の前にあるビールジョッキはキンキンに冷えてないし、中身も黄金色の液体と真っ白な泡のコントラストが美しい人類の叡智たるビールが注がれてるわけでもない。
大のビール好きのアタシが、目の前に置かれたそれを見て、喉が鳴るどころか吐き気を催してる時点で、お察しだろう。
「ほら、アンナちゃん! いっきいっき!!」
脂ぎったおっさん達がまくしたてる。その風景は会社の飲み会でうんざりするくらい経験してきた。
でも普通の飲み会なら、ジョッキをあおってキンキンに冷えたビールを喉に流し込めば結局たのしくなって加齢臭やばかろうが多少のセクハラがあろうがおっさん達と肩組んでドンチャン騒ぎしちゃうんだ。
普通なら。でも──
いつものノリで飲まされようとしてるそれは、いつものではなかった。
個室居酒屋のテーブルに置かれたビールジョッキになみなみと入っているのは、アタシを取り囲むおっさんどもの、
──精液だった。
(くっさぁ……最悪……なんだよこれぇ……)
精液って白いと思ってたけど、ジョッキに満載のそれは黄色がまじってにごっていた。
(それに……くそっ、陰毛浮いてるじゃねぇかよ)
アタシは正座したままじっとしてることしかできなかった。
「ほらどしたのアンナちゃーん?」
「今日は僕たちのザーメン飲みたくてきてくれたんだよねぇ?」
「はは……あは……そ、そうですよねぇ。あは……」
お愛想で笑う。時間稼ぎにもならない。意味ないことはわかってる。アタシはこれを飲まないといけない。
◆
アタシ、ちょっと前までイケてるちょいエロ系Youtuberだった。
顔と身体がよけりゃ男なんてチョロいもんで、ちょっと煽ればスパチャが飛んで、チャンネル登録者数1万人までは秒だった。
したらさ、乗るよね、調子に。
仕事辞めて、高級機材買ってさ。
──でも、甘かった。
すぐ伸び悩んで、必死なのがダメだったのかファンも離れて、残ったのは利子の膨らんだ借金だけ。
そんなとき借金取りが来た。
高そうなスーツを着たそいつは、アタシを一度舐めるように見たあと言った。
「どんなクズが滞納してるのかと思ったら、こんな可愛いお嬢さんだったとは驚きましたよ。ね、イッパツで借金をチャラに出来る良い方法があるんですよ。あなたならきっと彼ら好みだ」
なんかさらっと言われてあんまり意味わからなかったけど拒否権はないっていうのはわかって「あ、詰んだ」って思った。
しばらくしたら、借金取りから連絡がきた。
で、足を運ぶように指定されたのが、「
そこに金持ちの変態親父どもがエロいことするのに使ってる会員制の地下フロアがあって、店員の案内でアタシは個室のひとつにお邪魔したってわけ。
◆
──で、今。加齢臭むんむんの脂ぎったおっさん共に囲まれてる。これが「今」かよ。アタシの人生の最先端がこれかよ。
こぽっ──と目の前のジョッキに満載の黄色いザーメンが呼吸するみたいに泡を吐いた。
「……うっ、臭っ」
おっさん達はワクワクした顔でこっち見てる。クソっ、キモすぎだろ。アタシがこれを飲むのを今か今かって待ってる。
(借金チャラにする代償がこれかよ……変態どもが!)
アタシは正座してる膝に置いた手をゆっくり動かす。脊髄がもう拒否してて、手がめっちゃ震えてる。
(ありえないムリ絶対ムリこんな汚物飲むくらいなら死んだほうがマシ!)
めっちゃ心臓ばくばくいってる。中華ファンタジーとかに出てくる毒味役ってこんな気分なのかな。
(あー帰りたい帰りたい馬鹿馬鹿バカばか調子のったアタシの馬鹿!! ああああ、でもこれ飲んだらリセットできる、やり直せるんだ死ぬわけじゃないダイジョウブ死なない死なない死なない死なない…………)
アタシはなんとかジョッキの取手を掴んだけど──そしたら、あ、ほんとに飲むんだって確定した気がして、覚悟決めたつもりなのにやっぱ無理すぎて、世界一汚いこんなもん口に流し込むって想像するだけで喉とか鼻の奥とか痛くなって、
──なんか、涙が溢れた。
「うっ……くっ……」
「アンナちゃん、泣いちゃったぁ!」
おっさん達が嬉しそうに笑う。いや笑ってんじゃねえよ……赤ちゃんが子犬にびっくりして泣いてる微笑ましいシーンじゃねえんだよ。
でも、それでもアタシはもう泣きながらジョッキを口に運ぶしかなかった。