歪んだTS転生者の汚話(旧題:純愛に挟まりたいTSふたなり転生者の汚話) 作:アスタロット
後藤密は五十鈴茉莉花のクラスメイトである。
後藤密は五十鈴茉莉花のテニス部仲間である。
後藤密は五十鈴茉莉花の勉強相手である。
後藤密は五十鈴茉莉花の友達である。
後藤密は五十鈴茉莉花の親友である。
後藤密は五十鈴茉莉花の憧れである。
後藤密は五十鈴茉莉花のー
♢
先刻の晩餐会により、スケジュールにゆとりができた。
私が主導して、フリーな日時を作ることができるようになったのだ。
そこで年明け、私は首都圏のとある片田舎へ赴くことにした。
(祖父母から帰省を止められているのもある)
その片田舎に何か特別なアポイントがあって行く、という訳ではない。
ただ、郷愁の念に駆られた。
そこは今生の故郷ではない。
かつて私が”私”だったときの地元、ふるさとだった。
この世界にも、それがあった。
今生の家族や地元を蔑ろにする気はないが
それを知った時、私は無性に嬉しくなった。
“私”の実家の存在は分かっていた。
探偵に頼むまでもなく、電話会社の番号案内、いわゆる104番で知ることができたからだ。
(前世では、電話帳と同じく廃止が決まっていたが)
それでも、小中学校の間にそこへ行くことはなかった。
私は今生の家族で”実験”をしていたから。
姉や母を孕ませ、私自身も父の子を孕めば、それどころではなかった。
それから間も無く祖父母の手により、家族から切り離されたが。
家族とは会えない代わりに、学園生活での自由が担保された。
学園の門をくぐってから、暫くの月日が経った。
生活基盤も整い余裕ができた私は、本当の”帰省”をする事にしたのだ。
“私”だった頃の…
情景は
行きつけの店は
家は
家族は
変わらず、そこにあるのだろうか。
それだけを知りたくて。
ああ、そういえば…
この季節なら、あそこは冬原よりも寒いだろう。
今年は降雪が早いと聞いた。
多少は積もっているかもしれない。
コートを着込んで行くか。
出先で職質をくらうと嫌だな。
少し大人びた服装で行くか。
そんな思考を巡らせながら、いそいそと準備を済ませ、駅に向かった。
ただ、その駅構内で…
「あれ…もしかして、後藤さん?」
「っ!?…五十鈴さん。や、やぁご機嫌よう」
「駅で会うなんて、偶然だね!」
「あ、ああ…そうだね」
黒髪を後頭部で纏めている、清楚で優等生なクラスメイト。
五十鈴茉莉花に出会した。
「どうしたの後藤さん、そんな格好で」
「うん、ちょっとした旅行を、ね」
「そのスタイルだと旅行というか、出張というか…まぁいいや。で、どこに行くの!?」
彼女が変に思うのも、仕方のない事。
今の装いはビジネスカジュアルだ。
私の身長が高いから良いものの…万が一、高校生らしい服装で未成年に見られたら困る。
これから酎ハイ片手に、電車旅と洒落込むのだから。
「ーー県さ。ちょっと雪景色を眺めに、ね」
「へぇ、いいなぁ…………あ!」
何だか嫌な予感がする。
「な、なんだい?五十鈴さん」
「私も行っていい?今から」
「い、今ぁ!?一泊する予定なんだけど」
「大丈夫大丈夫!お父さんとお母さんには、後藤さんと一緒にいるって電話するから」
何度か五十鈴さんの家へ遊びに行っているので、ご両親にも挨拶済みではあるが。
そんな、電話一本って…
「雪以外にめぼしい観光スポットなんて無い所なんだが」
「私も雪みたい!」
「で、電車だからお尻が痛くなるかも」
「あ、ローカル線ってやつ?私、乗ってみたい!」
「じゅ、準備とか…ほら、着替えとか」
「大丈夫!ぜんぶ現地で調達するから!テニス用品買いに来てたから、お財布に結構お金入ってるんだ!」
「そのお金は使っちゃダメなんじゃ」
「大丈夫大丈夫!すぐ必要なものでもないし!それとも、私がいると…邪魔、かなぁ…」
一人旅を楽しみたかったが…正直な所、好ましい女性が傍にいるのも悪くない。
と思ってしまった。
「うっ…そんな、五十鈴さんが邪魔なんてことないよ」
「よかったぁ!なら良いよね!」
五十鈴さん、こんなに押しが強かったか?
やんわりとした断りをモノともせず、押し切られてしまった。
まぁ、これもアリか。
「”旅は道連れ”とも言うしね。さっそく指定席券売機で切符を購入しよう。途中、在来特急に乗り換えるしね」
「やった!なんだかワクワクしてきちゃった!」
旅にはハプニングが付きものだが、まさか始まる前から発生するとは。
彼女がいようと、いるまいと、酒は飲むがね。
強引についてくるんだ、それくらいは容赦してもらうよ。
車窓を肴とした一杯は、旅における贅沢の一つなのだから。