歪んだTS転生者の汚話(旧題:純愛に挟まりたいTSふたなり転生者の汚話) 作:アスタロット
私が祖父に脅され無理矢理に進学されられた冬原学園は、中高一貫高校である。
その生徒の多くは、冬原学園附属中学校からの内部進学者。
所謂、エスカレーター組というやつだ。
だから私のように学外から来た者は、内部生と対比して外部生と言われる
周囲の扱いは、転入と殆ど変わりない。
しかも、この冬原学園は内部進学者が受ける試験と比べると、学外からの受験は合格がなかなかに難しい。
学外出身者にとって敷居が高い事に加えて、周囲は既に顔見知りの友人グループが殆ど。
人数としてはゼロではないが、私のような外部生はごく少数派だろう。
故に、外部生は周囲に馴染みづらく、総じて疎外感を感じやすい。
勿論、ベストコミュニケーションによる挽回もあるけど、学生にそんな能力は期待してはいけない。
まぁ普通の少年少女ならば、そんな学生生活に不安を募らせるものだが…
私の年齢は前世を含めて、五十路に迫る。
その上に、前世は営業職だった私にとって、クラスメイトと親交を深める事など、何ら問題ではない。
しっかしなぁ…
「新入生を代表して御挨拶申し上げます。暖かい風に包まれ、春が芽吹くこの良き日にー」
そんな私は、外部生にも関わらず入学式で新入生代表挨拶をやらされていた。
祖父に色々と脅された手前、お受験を頑張り過ぎたらしい。
かなり良いスコアが出たようだ。
いや、そこはコネクションでひっそりと裏口入学だろうに。
お陰でこんな羽目に。
いくら何でも、外部生に代表挨拶をやらせるか…
お陰様で、私が登壇した際に若干ざわめきが起こったではないか。
うんうん、分かるよ、新入生たちのその目。
目は口ほどに物を言う。
”誰だこの女”
私でもそう思う。
それでも構わずスピーチを続けた。
「ー私たちは失敗を恐れず、あらゆる事に挑戦します。最後に、先達に恥じぬ成長を誓い、入学の挨拶と致します。新入生代表、後藤密」
面倒な代表スピーチは、恙無く終わった。
原稿を読みながら話すのも癪なので、内容は即興にした。
確認するのは左腕のレディデイトジャストだけ。
冗長なスピーチは嫌われる。
時間管理は大事。
原稿も無しにスピーチする私を見て、一部の教師は驚愕の目で私を見ている。
まぁいいさ。
内部生や職員に、私の顔と名前を知ってもらう良い機会だ。
多少、目立つのも悪くない。
それに今まで”外”では自分を偽って生きてきたんだ。
これで私も晴れて、高校生になった。
やっと年齢が能力に追いついくる頃だ。
もはや勉学や運動を励んだところで、身の丈にあった結果しか残らんだろう。
でもそれで良いんだ。
さすがに神童やら才子などと、呼ばれる事もあるまいし。
諺より、タイミングが少し早いかもしれないけど。
私より才能溢れる人間は、この学園に沢山いるだろうから。
♢
入学式を終えたら、そのまま教室へ向かった。
ホームルームと自己紹介タイムだ。
しかし、私以外の同級生同士はほとんどが顔見知り。
実質、私のためのようなものだろう。
「後藤密です、どうぞよろしく」
席から立ち上がった私は、口角だけを僅かに上げ、努めて柔和な微笑を顔面に貼り付けている。
所謂、アルカイックスマイルというやつだ。
「皆さん知っての通りですが、後藤さんは外部からの進学生です。分からない事も多いと思うので、親切にしてあげて下さい」
私の場合は趣味など言わず、極めて簡素な紹介で済ませた。
入学式でスピーチもしているし。
私の番が終わった後も、次々とクラスメイトが自己紹介をしていく。
そういえば、童貞はまだ食った事が無いなぁ。
値踏みするには、丁度良いか。
あ、チャラ男はダメだ。
アイツらはすぐ自慢して拡散したがる。
馬鹿なら殊更だ。
男は、出来れば口が硬そうな、陰寄りの人間がいいなぁ。
なお肝心のクラスメイト達は…
趣味や特技を強調するもの。
親の職業を自慢するもの。
夢を語るもの。
好みの異性を言うもの。
おどけて私にアプローチするもの。
どもってまともに名前を言えないもの。
と、種々様々である。
皆、若々しくて羨ましい。
学生生活を思い出して、つい泣きそうになってしまった。
ちなみに席順は順不同だった。
前世の高校では、席の並びは五十音順。
おかげで前世はクラスメイトの名前を覚えやすかったなぁ、と勝手に感慨深くなる。
「では、次」
「はい、五十鈴茉莉花です。趣味はお菓子作りで、部活はテニス部を継続する予定です。よろしくお願いします」
気が付いたら、自己紹介の番が回って来たのか、隣の女子が立っていた。
その彼女はストレートな黒髪を、後ろで結えている。
口調は丁寧で、真面目そうな物腰。
親に厳しく育てられたのだろう。
箱入り娘の潔癖感を隠しきれていない。
また、彼女の特筆すべき点は、容姿に優れている事だ。
この世界では男女問わず、皆平均的に器量が良い。
その中でも特に、彼女の容姿は整っている。
まさに高嶺の花と言ったところか。
正直、私の好みだ。
しかし、違和感が拭えない。
どこかで聞いたことがある名前なのだ。
まだ手を出してはいけない。
そんな気がした。
ひとまず仲を深めて、しばらくは様子見か。
それまでは手頃な相手でも見つけて遊ぶとしよう。