金曜の夕方。それは俺を含む世の学生たちが、漸く一週間の授業から解放され、明日からの休みに備えて英気を養う為の、ゆったりとした時間。
あくせくと何かをしようとするのではなく、贅沢に怠惰へと身を任せ、ゴロンとベッドの上に身を投げだす。
シャワー後の髪の毛はまだ完全に乾いてはいないが――まぁ、汗だくで寝転ぶよりは幾分マシだろう。遠慮気味に枕へ乗せていた後頭部をぐっと沈める。
「あー……幸せは、寝床の上と見つけたり」
……いかん。先ほどまで図書館で古典の課題をやっていた影響が残っている。二学期始まって早々本当に面倒くさい課題を出しやがって、あの教師め。
悪態がふつふつと湧き上がって来そうになり、頭を振って霧散させる。
折角ののどやかな時間なのだ、わざわざ自分からあの赤達磨の事考えて、台無しにすることはないだろう。
考えを今日から明日の事へ、平日の雑事から週末の予定に向けて仕切りなおす。
そうだ、最近は日も傾けば風は涼しく、虫の音もセミからコオロギなどに変わってきている。暦の上だけでなく、実りの秋もいよいよ本番だ。そろそろ和菓子屋にも秋の限定品が――
と。
ガチャン! バタバタバタバタ!!
勢いよく玄関の扉を開け放つ衝撃と、それに続く慌ただしい足音。
のんびりした気分は一瞬で吹き飛んでしまった。
「……うるせえ」
いつの間にかつぶってしまっていた目をカッと見開いてぼやく。もしここが集合住宅だったら、壁ドンどころか天井ドンと床ドンもおまけでついて来るところだ。
姿は見えなくとも、この家でこんなやかましい音を立てる奴は一人しかいない。というか、今現在この家に住んでいるのは俺と、この大騒ぎの原因だけだし。
はぁー、と思わずため息一つ。片手を支えに体を起こしたところで、下が制服を脱いだまま、トランクス一枚なのに気づいた。
「やっべ……!」
慌てて脱ぎ散らかした制服を踏んづけながらも壁掛けハンガーに向かい、居間着代わりの固めなハーフパンツを引っ掴んで脚を通す。
こんな感じでドタバタして帰ってくるときは、間違いなく自分の部屋に来るのがいつものパターンだからだ。
流石に身内とはいえ下着を見られれば恥ずかしい。少なくとも俺は。
つんのめりながらも両足を通し、チャックを上げてボタンを留め終えたところで、喧しい足音が階段を登り始めたのが分かった。
セーフ。改めてベッドに腰掛け、枕元に置いてあるタウン誌を引っ掴んで適当にパラリと開く。
バァーーーン!
某荒木作品みたいに豪快な音を立ててドアが開いたのは、丁度そんな準備が整ったのと同時であった。
「おっっとうっとくーーーん!」
「……うるさい、姉貴」
ため息交じりに視線を入り口に向ければ案の定、立っていたのは我が姉である。ドアを開け放したままの手を突き出した体勢で、暑苦しいほどぺかー、と輝く満面の笑みを浮かべて。
「もー、相変わらず冷たいんだからさー……というかお部屋もクーラー効いてるぅ、外は暑かったし天国だぁ……」
「いや姉貴が暑苦しいだけだからな? この部屋で一番の熱放射源だからな? つーかいっつも言ってるよな、ノックしてからドア開けろって」
「えー、たまにはいいじゃん家族なんだし」
「家族だからノックしろって言ってんだよ」
……本当にあかり姉は。例えば仮に、俺が『致して』いるときとかに入ってしまったらどうするつもりなんだ。
絶対気まずい。いや気まずいなんてもんじゃない。
我が家は現在両親が出張中(正しくは出張中なのは親父だけで、専業主婦の母は親父ラブガチ勢過ぎてついていってしまったのだが)で、あかり姉と二人だけである。
もしプライバシー踏み込み事件など起これば、絶対に以降何とも言えない無言が我が家を支配するだろう事は想像に難くない。家の中がそんなくつろげない空間になるのは御免である。
だからこそ、自分ではあかり姉の部屋を訪ねるときは絶対にノックと返事を忘れないようにしているのだが――いや、あのあかり姉がそんなことしているのは想像できないし、不要な手間かもしれないけど。三大欲求を食欲に全振りしてるとこあるし。
……ああ、だからこうやってノックをしないのか。
まぁいいけど。もう慣れてるし、それに普段はちゃんと呼びかけてから入って来るし。
「はぁ……まぁいいよ。どうせ姉貴は姉貴だし」
「んなっ?! 何その言い方、まるでお姉ちゃんの事が悪口扱いされてる気がするんだけど!?」
「べっつにー。姉貴は姉貴、それは事実だろ? それとも何か、実は姉貴は女装癖のある兄貴だったとかでもいうつもりか? 事実を列挙しただけなんだから変に深読みして、悪い意味に取らないで欲しいんだが」
「いや! でも……」
本当に口喧嘩に弱いなこの姉、力もないし普通の喧嘩も弱そうだけど。
ぐぬぬ……と可愛らしい唸り声を上げながら、あかり姉の白玉ほっぺたが焼いた餅みたいに膨らんでいく。顔が丸いことを本人は結構気にしているらしいので、あえて口に出したりはしないが。
このまま見ているとうっかりつついてしまいそうなので、話を本題に戻す。こんな風にノックもせずにあかり姉が押し入って来るのはいつものアレだ。
「――んで? 今日は何の相談なんだよ」
「おお、流石弟君! 話が早い!」
あかり姉の顔にはさっきまでの不機嫌からころりと一転、再び満面の笑みが浮かぶ。昔から何かあるたびに、あかり姉は自分にこうやって相談事を持ってくるのだ。
一番最初は確か「隣の女の子におもちゃを取られた~……」だかなんだかだった気がする。
というか今にして思うと、一歳違いとは言え幼稚園児に泣きつく小学生ってどうよ。
兎も角それをきっかけに、あかり姉は事あるごとに色々と相談に来るようになり、その度ノックもせずに慌ただしく部屋へと転がり込んでくるのだ。流石にそんな事を十年も繰り返していれば慣れるというもの。
それに俺にとってもあかり姉の相談事は、悪い話じゃあなかった。
「じゃっ、おやつ持ってくるからちょっとだけ待ってて!」
あかり姉が何か相談してくるときは、必ず何かおやつが出てくるのだ。
「あいあい」
返事が終わる前に、バタバタとせわしない音が階段を駆け下りていく。果たして今日は一体何が出てくるのか――と、危うく緩みそうになった頬を仏頂面に整える。
まぁ、折角唯一の姉弟だし、別におやつが無くても相談くらいいつでも乗るのだが……貰えるものは貰っておく主義なのでわざわざ言ったりはしない。
しかしいつもなら最初からおやつを持ってくるというのに……もしかしてついにドジッ子属性まで兼ね備えようというのか。
「お待たせー!」
と、戻ってきたあかり姉が持つお盆の上に乗ったものを見て納得する。二つ並んだ黒い陶器の深皿は、クーラーが効いてても暑いというように汗をかき、縁からは涼し気な霧も立ち上っていた。
「なるほど氷菓か、そりゃ最初から持ってきてたら溶けるわな」
「今日はあっついからねー、少しでも溶けないようにしたかったんだ」
そういって目の前にどすん、と置かれたお皿の中身はシンプルな白いアイスクリーム。
ゴロゴロゴロリ、とコーンの上に乗せたら落ちそうなほどに大きいアイスの塊が、三つも鎮座しているのは圧巻の光景である。
しかし――
(こりゃまたあかり姉にしてはシンプルな……)
普段はちょっと凝ったものが出てくる事が多いのだが、と顔色をちらりと窺うも、あかり姉は自信ありげにアイススプーンを手渡してきただけ。
となると、ただ買ってきたアイスを盛っただけとは考えない方がいいだろう。スプーンを持つ手にも自然と力がこもる。
「ほらほら、溶けないうちに食べて食べて!」
「……じゃ、いただきます」
しっとりとした感触を手で味わい、香りを鼻で味わい、そして最後に舌で味わう。
「自作アイスか――いいんじゃないか?」
「ふふん」
そっけない返事だったが、あかり姉はぐっ、と胸を張る。汗ばんだ夏季制服が、ブラとその間に零れる柔らかな膨らみに押されて、下着と肌色がうっすら滲む。白か。
家の中だし、あまりうるさく言うのもなんだろう、と見なかったことにして、二口目を舌の上で転がす。
「……バニラアイスにしては白いな、と思ったけど卵入ってないのか。それからバニラも」
「せいかーい。今日のアイスはとことんシンプルにがコンセプトだからね! なぜなら――」
自分の分のスプーンを咥えて、自慢げに胸を叩いて語ろうとするあかり姉を手で制す。
「……和三盆の風味を活かすため、か?」
「むむ……、相変わらず弟君はスイーツガチ勢だねぇ……」
当てられて悔しいのか、諦めてるのか、苦笑いを浮かべながらついたため息はどっちの意味なのだろう。
「和三盆は特徴的だし、これくらい大したことないって。それを言うなら、姉貴の方がメシに関してはおかしいレベルで舌いいんだし」
「えー、弟君にはかなわないよ。お姉ちゃんは結構なんでも美味しく食べれるバカ舌だし」
嘘つけ。
確かに、作ったこっちが見てて気持ちよくなるくらい、何でも美味しく食べるのは否定しない。
だが、どこの世界のバカ舌が、人が二十年くらいかけてブレンドしたカレーのスパイスから隠し味から、その全てを一口食べただけでつらつらと特定できるものか。
マキのところの親父さん、驚きを通り越して泣いてたぞ。
いつもクールな感じで通ってる親父さんのあまりの変わりように、普段はちょっと反抗期なマキさんが本気で慰めてたし。
ふと思い出したついでに仇を取ってやるかと、口の中で粗を探す。
「――とはいえ、ちょっと今日のは甘さ控えめすぎる気はするな。風味を活かすにしてもささやかすぎるっていうか」
しかし、それを聞いたあかり姉はその言葉を待ってました! と言わんばかりににやりと笑う。
「ふっふっふー……実は今日のおやつはこんなものじゃないんだな~」
そう言って、床に置いていたお盆から別の小皿を取り出した。どうやら先ほどはアイスの入った皿で隠れていたらしい。
「ほらほら、一回アイスのお皿置いて?」
言う通りにすると、テンションの高いあかり姉はアイスの上でお皿を傾けて。
ぽにょんぽにょんとピンクや緑の塊がアイスの上を跳ねた。
「白玉……か?」
語尾に疑問符が付いたのは、その独特な形。確かに白玉は火が通りやすいように、そして箸で掴みやすいように、若干真ん中を凹ませて作るのは常識だ。
だが、目の前の白玉はちょっと凹ませるどころか、完全にゴムボートだとか赤血球とかそんな感じの形である。少なくとも“玉”を名乗っていい形状ではない。ついでに白くもないし。
「そうだよ、でもこれで終わりじゃなくって――」
これまたいつの間にか用意されていた茶こしをあかり姉が揺すると、白いアイスの平原にきな粉が降り積もる。
「そして最後に、黒蜜を一回ししまして――これで完成っ!」
「おぉ……」
何という事でしょう、そこにはもう以前のような味気ないアイスの姿はありません。複雑な起伏を足す白玉に、きな粉のススキ、その間を流れる黒蜜の小川。
匠は白いアイスをキャンバスに、お皿の中で見事な秋の情景を再現したのです……!
自然と手が伸び、アイスと白玉ボートにきな粉、黒蜜を和えて一口。
「っ――!」
成程、控えめなアイスの甘さは黒蜜と合わせることを想定してか。挽きたてのきな粉の香りが鼻孔をくすぐり、アイスの滑らかさと白玉のぷにぷに感が舌をとろけさせる。
「どう? どうかな?」
余韻に浸っていると、あかり姉はぐいっとちゃぶ台から身を乗り出して顔を覗き込んできた。
「――旨い。参った」
「よっしゃ!」
あかり姉はぐっ、と両手を握りこんでガッツポーズを取る。
「でも、実はもっといい食べ方があるんだよね」
そう言って自分のスプーンをこちらの皿へ差し込み、アイスを一掬い。それを白玉ボートにのっけて改めてスプーンに乗せた。本当にボートだったのか。
「ほら、こうやって食べれるようになってるんだ」
そう言って、あかり姉は俺の方へとアイスを持つ手を差し出した。先ほどまで自分の口に入ってたスプーンに乗せて。
「そっか、変な形だと思ってたけどそういう事か――むぐむぐ」
それを真似してアイスを一掬い、口へと白玉ボートを運ぶ。
うん、食べやすいしこっちの方がしっかりきな粉と黒蜜が絡む。
「……何でそっちで食べるのさ。お姉ちゃんのアイスが食べれないっていうの?」
「いやいや、酔っぱらいかよ。そうじゃなくて姉貴もいい年なんだから、そういう子供じみた真似はそろそろ止めとけって」
あかり姉はむぅ、と少し眉をひそめたが、一応は手を引っ込めてアイスを自分の口に放り込んだ。
「……へふにいいひゃん、あひょふなんはひ」
「食べ終わってから喋ってくれ」
「むぐむぐ……ごくん。べつにいいじゃん、家族なんだし」
「家族だろうと、だ。姉貴は色々ゆるゆるだからな。間違って世の男にそんなでもしてみろ、絶対勘違いして面倒くさいことになるんだから気を付けろよ?」
身内びいきを差し引いても整った顔に、天真爛漫な性格、そして何より男好きしそうな体。そのくせ、今だって俺の言葉も視線の意味も分かってないみたいに小首を傾げていて……本当に危なっかしい。
特に親父とお袋が家を空けてからは、色々うるさく言われないからか、ちょっと物ぐさな所が出てきている。
昨日だって――
「弟くーん、お風呂空いたよー」
「ああ分かったー……って、何て格好してんだよ?! 服着ろ服ぅ!」
「えー、だってまだお風呂上りは暑いんだもん」
「暑いんだもんじゃねーよ、何回言わせる気だ! タオルだけ巻いてうろうろするなって何回言ったと思ってるんだよ。ほら、冷蔵庫の方じゃなくて風呂場に戻る!」
「残念でしたー、最近はもう着替え持って行ってないんだよねー」
「自慢げに言う事じゃ無ぇ!」
「あーもう、家の中なんだからいいじゃん。弟君くらいしかいないんだし」
「――っ、あーもう疲れた。俺、部屋に上がるから」
「え? もう上がっちゃうの? お風呂は?」
「今日はいい、明日シャワー浴びるから」
(――弟相手とはいえ油断しすぎなんだよ……あかり姉は)
「はぁ……」
思わずため息も出るというものだ。
「え? ちょっと! なんでため息ついたの?! もしかして美味しくなかった!?」
「……姉貴が姉貴だから」
「さっきから酷いっ?! そんなこと言う弟君はアイス没収!」
ぎゃあぎゃあとあかり姉は騒いでアイスを奪おうとするが、万年体育1のあかり姉に負ける訳もない。
ひょいひょい躱しながらも溶ける前に口へと運ぶ。
「ほれで? なんは相談ほと、あったんだろ?」
はっ、としたようにあかり姉は手の動きを止めた。
「そうだった! えっとね、それで、相談したいことなんだけど――」
ちょろい。ちょろすぎるぞ!
本当に心配になる程に。
(まったくこんなんだといつか悪い男にでも引っかかりそうだし、やっぱり俺がしっかりあかり姉の事をみておかないと……)
そう改めて決意し、まずは目の前の相談事からしっかり向き合ってやるかと覚悟した瞬間だった。
「――カレシ君を喜ばせてあげる方法が知りたいんだ!」
[newpage]
「ああ、なるほど。カレシ君を喜ばせて……あげ、る……?」
カラン。スプーンが机の上で跳ねる音で、自分がスプーンを落としたことに気づいた。
フリーズ、シャットダウン、リブート。目の前には心配そうに落としたスプーンを差し出すあかり姉。
「大丈夫、弟君?」
「あ、お゛あ、お゛ぉ゛?」
「だ、大丈夫?! なんかラッコみたいな声になってるよ!?」
それを言うならオットセイ。ていうかラッコって鳴くのか?
そんな脳内突っ込みで漸く少し落ち着いて――
「――あ、あー、あー、うん。オーケー、つまりすなわち、あかり姉、経験もないのに友達からの相談でも受けちゃったんだな? 全くこれだからあ……姉貴は――」
「ううん、そうじゃなくてね。“私が“、知りたいんだ、男の子をよろこばせてあげる方法」
「……おぅ。マジか、マジか……」
明かされる衝撃の事実。しばし言葉を失い、頭を押さえる。
「もしかして、頭痛い? 冷たいもの一気に食べちゃダメだよ」
なんていつも通りお気楽なあかり姉の声が遠い。
――いや、落ち着け俺。落ち着いて考えろ。いつかはそんな日が来るのは分かっていたじゃないか。そんな時の為に脳内シミュレーションもしていただろう?
「あー、えっと……それで、何時から?」
「いつからって、何が?」
「いや、ほら、その、付き合い始めた時期と言うか……」
「あっ……えっと、一か月くらい前からかな」
一か月くらい前……そういえば、それくらいから友達と遊びに行くんだ、というのが増えてたような……。
思い返して、何故気づかなかったのかと、自分の甘さにちゃぶ台の下で拳を握りしめる。
ちゃぶ台の上では笑顔を浮かべて。
「そ――っか。うん、オメデトウ」
「……うん、ありがと」
素直に祝ったのにも関わらず、答えるあかり姉は少し微妙そうな表情を浮かべた。
もしかして、顔に本心が出ていたのだろうか? と、表情筋へ更に意識を集中させる。
「で、あの――相談に乗る前にだな、そいつはどういうタイプの奴なんだ? というのも、それが分からないときっと後々で齟齬が生じると思うんだ。だから、そうだな、写真とかあったりしないか?」
「あ、うん。ちょっと待ってね」
そう言ってあかり姉はスマートフォンを取り出し操作を始めた。
……よし、まずは第一段階。
相手がどんな奴かの確認だ。誠実そうなのは最低ラインとして、あかり姉を任せ――は出来ないとしても最低限守れて、将来のことまで考えれば勉強が出来た方がいいし、それに――
「あ、これだよ」
「へー、どれど、れ……?」
あかり姉が見せてきたスマホの画面に映っていたのは、制服を着たあかり姉と、あかり姉を挟み込むようにして立つ“二人の”男。
左側の、自分で染めでもしたのかプリン気味にくすんだ金髪と、真っ黒に焼けた肌。着ている制服も、はっきり言ってあまりここらでは評判が良くない所のもので、それも学ランの前ボタンはすべて開けられており、赤いタンクトップが繁華街のネオンみたいに目を引く男。
右側の鼻にピアスを付けたちょび髭男は、アホみたいに舌を出しており、その上にもピアスだろうか鈍い銀色の光がギラついている。いや顔だけでなく、首周りにも、そして手首にも用途不明のチェーンがジャラジャラと巻きついていて、格好つけたいのか知らないが、逆にダサい。
「あ、左の方だからね。右の方は友達なんだって」
あかり姉が思い出したように付け加えるが……うん。そういう問題じゃない、どちらにしろ、これは……。
あまりにも予想以上、いや以下で、言葉に詰まる。本音を言うなら、今すぐにでも別れさせてあかり姉が汚染されないように永久に近づかないことを誓わせ、宣誓書でも一筆書かせてやりたい。
というか、右のやつお前彼氏でもないのに腰に手を回すな。つーか彼氏でも腰に手を回すな。そもそもお前ごときあかり姉の彼氏に相応しくすらないわ。無論左のお前も論外だ。
それに、あかり姉もあかり姉だ。なぜ態々こんな奴と――と、目の前にいないこの男どもへの怒りを危うくあかり姉へと向けてしまいそうになって、少し深呼吸。
「――で、こいつとはどこで? というか、どういう経緯で付き合うなんてことになったんだ?」
「う、うん。帰りに声かけられて、最初は断ったんだけど、遊びに行くだけだからって、しつこく誘われて、それで一回だけ遊びに行った所で――彼女にされちゃったんだ」
深呼吸で取り戻しかけた落ち着きが、瞬間的に霧散した。
「彼女に……された?」
感情を抑えているつもりだが、声が分かる程度には低くなってしまっている。
「う、うん。えっと、お家に連れてかれて……その、ここで“遊ぼう”って、ベッドの上に引っ張られて、それで、彼女にされて……」
あかり姉も俺の様子の違和感には気づいたのか、途中途中でつっかえながら話す。都合のいい言葉でぼかされた生々しい現実を。
うん、OK。ギルティ。
「……そっか。連れてかれたって事は、家、分かるんだよな?」
半ば自分の意識と切り離された肉体は、感情のないのっぺりとした言葉を垂れ流しながら、立ち上がろうとする。
が、膝立ちになったところで前腕を小さな手に捕まえられた。無論力で止められるわけはないが、躊躇が動きを止めたところで、あかり姉は必死に全身を使って腕へと抱き着いてくる。
「待って……!」
「それで、家は?」
「それは……」
目は逸らさないものの、あかり姉はぎゅっと口をつぐむ。腕を握る力も強くなる。
(何でそんなやつを庇うんだよ? 無理矢理あかり姉をッ――)
向けるべき先のない、突沸寸前の怒りの矛先は、いつの間にか目の前にいるあかり姉に向けられ始めていた。
あかり姉が怪我しないようには気を付けながらも、彼女の体全体を使った制止を無視して立ち上がろうとする。
「まっ――待って! 相談、乗ってくれるんでしょ?!」
そうか、そうだ。
動きを止めると、あかり姉の抱き着く力がほっとしたように少し緩んだ。
確かにあかり姉はそいつについて相談したいとしか言ってない。例えばその内容が、上手く別れたいとか、怖いから距離を取りたいとかなら、きちんと話を聞いてからあかり姉がどうしたいかに合わせた方が、今激情に身を任せて動くよりもよっぽどいい。
「そうだな……分かった、相談の内容は?」
だがそんな最後の理性的な考えは、慌てたように続けられたあかり姉の言葉で粉微塵に打ち砕かれた。
「えっと……『今度友達も連れて来るからって大勢で一緒に“遊ぶ”らしくて、でも、下手だって言われて。それで、男の子を“喜ばせる”やり方を教えて欲しいんだけど』……」
思い出すように、与えられたセリフを読み上げるように、早口でつっかえかけながらも、あかり姉はそう言い切った。
――何か? そう言ってこいって言われたのか? それでわざわざ律儀に本当に言うのか?
ぶちり。
自分の中で何かが切れる。
理性か、守らなければと思っていた一線か、長らく押し殺してきた想いを抑えていた一端か、あるいはそのいずれもかか。
さっきまで熱かった頭の芯が、液体窒素でも浴びせられたかのように急速に冷えていく。
「……わかった――――よッ」
[newpage]
まさか俺が承諾するとは思っていなかったのか、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情になったあかり姉を、間髪入れずに引っ張り立たせ――
「えっ……? きゃっ――」
とすん。
自分が布団にダイブした時とは違う、軽くて儚げな音と共に、あかり姉はベッドの上に転がされた。
「おとうと、くん?」
ベッドから少しだけ体を浮かしたあかり姉の瞳が揺れる。不安に、恐怖に。
普段なら守ってあげなければとか、何があったかとかそんな風に思うんだろう。
だが、今はそんな感情は少しも浮かんでこない。
まるで自分を俯瞰するような、体を外から操作しているような、ふわふわと現実感離れした妙な感覚のまま、ベッドへ近づく。
ぬっ、とあかり姉に自分の黒い影が圧し掛かった。これからの行為を暗喩するように。
「お、とうと……く、ん? ど、どうしたの?」
瞳だけでなく、細い指先も、桜色の唇も、そこから紡ぎだされる声も、全てが震えていた。
「どうしたって――悦ばせ方が知りたいんだろ? 男の」
「えっ、えっ……ちが、それは――ッ?!」
どふっ。
――あかり姉の顔の横に両手を沈めて覆いかぶさる。あかり姉に落ちる影が黒く、輪郭が明瞭になる。あかり姉の瞳から、照らし返す光が消える。
「……教えてやるよ」
乱暴にシャツを掴んで引っ張る。
ぶちぶちぶちっ――!!
ボタンが宙を舞う。白いシャツの下から白い肌と、洗濯では見慣れた白地に黒の控えめなフリルのブラが晒された。
「っ~~!」
あかり姉の頬が赤く染まる。
「何顔赤くしてるんだよ、彼氏と楽しんでんだから、これくらい慣れてるだろ? それに家の中でだって、タオル一枚でうろうろしてさんざん肌晒してたんだしさ」
「だってそれは、弟君だから――」
家族なら、家族だから、そんなことは気にしないって事か?
本心からの言葉が神経を逆撫でする。
「……ああそうだよな、俺は姉貴の家族だからな。でもさ、考えたことないのかよ? タオル一枚だけとか、もし何かあってずり落ちたら――ほら」
ぐっとブラを掴んで押し上げると、ふにゅんと水風船みたいに柔らかく変形しながら、丸い柔肉が跳ね踊り出る。
「あッ――!」
(これが、あかり姉の――)
思わず唾液を嚥下する。
今まで何度か、タオルの端から上の裾野だけ見えていた大山が、今はその全景を惜しむことなく、丸みを帯びた傾斜から山頂まで全てを晒していた。
パウダースノーが積もったように白く、キメ細かな山肌と、その先端のぷにっとした桜色。手を伸ばすのすらためらわれるような絶景。
だが何より――
「――でかいな」
「……っ!!」
口を突いた素直な感想に、あかり姉の頬が一層赤みを増した。
同時に思わず隠そうとして上げたのだろう。手を捕まえて、頭の上で押さえつける。あかり姉の細い両手は、簡単に片手で固定できてしまった。
「や、やだっ! こんなの、恥ずかしいよ――」
「恥ずかしい? ……はっ、あんなこと言って煽っておいてか? それに、もうさっきの奴には見られてるんだし今更だろ?」
言った後で、自分の言葉にどっと苦みが押し寄せる。
ああ、そうだ。既にもうこの膨らみは禁則地でなく、赤の他人の手が入っているのだ。
苛立ちが興奮を塗りつぶす。情愛が憎悪へと裏返る。
手を伸ばすのにもう躊躇はなかった。先端から全球を包むように鷲掴む。
「んあっ――!」
むにゅりとした感覚を手が知覚するのと、あかり姉の驚いた声が鼓膜を打つのはほぼ同時だった。
柔らかく押し返す女の子特有の柔らかな肉が、若干汗ばんだ肌によってむちりと指に吸い付いて心地いい。脊髄反射的に手が何度も閉じたりを繰り返し、その度毎に手のひらを一杯に使って尚、掴み切れなかった肌色がふにゅんふにゅんと変形する。
思わず全てを忘れ、そのまま夢中になってしまいそうになって――
「んっ――」
あかり姉が頭上で吐息を漏らす。甘ったるくて、耳奥から男の脳髄をくすぐるような、いつもの元気なあかり“姉“とは全く違う、紲星あかりという”女“としての声。
そんな声が、童貞の、こんな苛立ち交じりの乱暴な愛撫に紡ぎだされている。
「何だよ、こんな無理矢理、いきなりでもいいのかよ……」
諦観と苛立ちの混じった昏い感情が再び足元から這い上ってくる。
行き場のない衝動をぶつけてやろうとするが、左手は手を固定するため離せない、右手は既に使っている、となれば――
「――はむっ」
「んあっ――?! な、何っ!?」
山の先端を、桜色に色づいた果実を、花托ごと口に頬張る。びくん! とあかり姉の体が跳ねた。
じゅぷっ、れるっ、ちゆぷぷっ――。
まだ柔らかい先端を舌で圧迫し、愛撫し、摩擦する。粘着質な水音が部屋の中に木霊した。
「んひっ?! うにゅっ……んあっ!!」
あかり姉の驚きに続く高い悲鳴は違和感によるものか、それとも快感によるものか……そこまでは経験の足りない俺には分からない。ただ、固定された手は何かに耐えるように、ぎゅっと握りしめられていた。
「だっ、ダメだよ弟くふぅん! そんにゃに吸っても、私お母さんじゃないし、しょれにっ、汗一杯かいたままで、きっと匂うからぁ!」
全くその通りで、あかり姉の胸肉が変形する度、温かくて甘い焼きたてのパンケーキのような香りと、しょっぱいけど少しだけ甘い、まるで塩キャラメルみたいな味がした。
「んちゅ――そうだな、姉貴の匂いと、味がする」
「~~っ!!」
そんな言葉だけでも恥ずかしがってますます顔を赤らめるあかり姉の反応は、まるで初心な生娘みたいで。でもそうではなくて。
それを意識すればするほど、舌の動きが激しくなっていく。
探るようなゆっくりした動きは、いたぶる様な打擲へと変わり、口腔内であかり姉の敏感な先っぽが、為すがままに凌辱される。
だが、乱暴に舌を打ち付ければ打ち付けるほど、柔らかかった先っぽは、グミみたいに固く充血して膨らんでいく。
「――ぷぁっ。なんだよ、こんな荒っぽい愛撫でも気持ちいいんだ、姉貴は。すっかり変態だな」
言葉でもぶつように吐き捨てると、あかり姉は真っ赤な顔をいよいよ耳まで赤くした。
「ち、ちがっ、違うもん――!」
「違わないだろ?」
反復的に揉んでいただけの手を膨らみから離し、先端をぎゅっとつまんで引っ張り上げる。
「んひぃっ――!」
ぎゅっと目をつぶり、歯を食いしばるあかり姉の体は、小さく痙攣していた。
それにつられて、先端だけで持ち上げられている柔肉もフルフルとプリンみたいに揺れる。
「ほら。認めろよ、でっかいけど敏感で、乱暴にされても気持ちいいですって」
「んっ、そんなのっ……先っぽ、ジンジンしてっ、そんなのわかんないよっ――
「それが気持ちいいって事だろ?」
ぎゅぅっ。
「んにゃぁぁあぁっ!!」
引っ張っていたのをひねり上げると、絶叫と共に、あかり姉は弓なりに背を浮かせた。
「ほら、こんなのでもイイんだろ?」
はぁっ、はぁっ、と息を切らせるあかり姉は答えられない。押さえつけていた手も、今はくたりと力なく投げ出されているだけだ。
流石に痛がるだろうと思っていたのに、こんなのまで受け入れてしまうのかよ。
「……はは、聞くまでも無かったな」
あざ笑うつもりで吐いた冷笑は、少しだけ震えていた。
「弟、くん?」
呆然としていたのだろうか。気が付けば、あかり姉は熱い息を吐きながらも、目を開けている。
その目はなんだか心配するようで、憐れむようで。それがまた苛立ちを加速させる。
「――ッ! こんなに感じてるんだから、もう、いいよな?」
目を合わせたくなくて、視線を上半身から下半身へと落とす。手もそれに伴い、あかり姉の胸からお腹へ、そしてスカートへと降りていき――ばさりとプリーツスカートをめくり返した。
「――あっ!?」
女性の秘所を守る最後の砦が露になる。適当なところがあるあかり姉にしては、どうやら今日はきちんと上下お揃いらしい。やはり、なんだかんだと言って期待していたのか。いやそれとも、もうこれくらい普通になってしまったのか。
そんな事を考えていると、あかり姉は少しでも視線にさらされる面積を減らそうとしているのか、足を抱きかかえて密着させようともがいていた。アルマジロみたいに足を縮め切ってしまう前に、がしっ、と細い足首を捕まえる。
「っ……! うぅ、恥ずかしいよ。弟君……」
必死に抵抗する足をこじ開け、間に体を挟んで閉じれないようにすると、あかり姉は弱弱しく手を突き出して、つっかえにしようとしてきた。
「何これくらいで恥ずかしがってるんだよ。本番はこれからなんだからさ」
「! 本番って……」
「本番は本番だろ――っ、と」
「や、やぁっ……!」
まだ力の入らない両手での妨害など障害にもならない。両手指をゴム部分に引っ掛け、汗を吸って少し重くなったコットン布地を、ぐいっと引っ張り下ろす。
次の瞬間、むわぁっ、と蒸気が上がったように、特有の香りが漂った。先ほど嗅いだばかりのあかり姉の体臭と、汗のにおい。そしてもう一つ、男を誘い、狂わせる、濃厚な蜜の香気。
それらが混ざり、蒸されて鼻孔をくすぐり、頭が別の意味でかぁっ、と熱を帯びていく。
ゆっくり言葉でなぶりながらじらすようにするつもりだったのが、早鐘を打つ心臓に任せて、丸まるのも気にせず一気に脱がせてしまう。
目の前に現れたのは求肥のようにつるつるまるっと膨れた柔らかそうな土手と、そこから僅かに覗く、充血してピンクに色づく花弁。
(これが、あかり姉の……)
そういう動画を見たことが無いわけではない。個人撮影なのか、無修正のものも少なくなく、モザイクが無いものもブックマークに入っている。
だが、そのどれよりも。いや、比較にならないほど。
あかり姉の秘華は、綺麗で、可愛らしく、そしていやらしかった。
「うぅ、そんなにまじまじと見ないでよぉっ……」
あかり姉はもう抵抗するのはあきらめたのか、両手は顔を覆うのに使って、必死に恥ずかしさに耐えている。それでも見られているのが分かるのは、それだけ俺の視線が熱を帯びているという事か。
「いやいや、こんなにエロいの見るなって方が無理だって。姉貴だってもう、さんざん見られてるんだろうし、それくらいで恥ずかしがるなよ」
子供のころに戻って、駄々をこねるみたいに、あかり姉はぷるぷると震える。
「そ、そんな所見られて無いもん――っ! そんな恥ずかしいところ見たの、弟君が初めてだもん――っ!」
そんな訳が無い。男とベッドの上で”遊んで”おきながら、そこを見られていないはずが無い。
「なんでそんな――」
――嘘を。そう嘲ろうとして、指の間から見えるあかり姉の瞳が涙で潤んでいるのが見えてしまう。
ずっとあかり姉を見てきたからこそ、その目は嘘をついているようには見えなくて。
頭の中の興奮に混乱が混ぜこぜになる。
あかり姉がカレシの話をした時、確かにそれは嘘とは思えなかった。というか、そもそもあかり姉はあんな流暢に嘘がつけない筈だし、かりに嘘だとしてあんな悪意のある嘘をつくはずが無い。だが、今の言葉も嘘とは思えなくて。
何が嘘で、何が本当なのか。
怒り、劣情、不審……ぐちゃぐちゃで、まとまりのない思考は、安易な方向へと容易に流れる。言葉によらない、原初の生物本能に身を任せた行為に。
押し黙ったまま、指を秘裂に沿って滑らせる。
「……んんっ」
あかり姉がびくりと身じろぎすると、そのせいで薄く割れ目が開き、内側から汗とは明らかに異なる粘性の高い液体が、どろりと粒になって落ちていく。
「なんだ、上触られただけでもう受け入れる準備まで出来てるじゃんか」
「……うぅ」
抵抗なのか、ぎゅっとあかり姉が頭を挟むように足へと力を入れる。
「否定しないんだ。まぁ否定できないよな、証拠もこんなに溢れてきてるんだし」
あかり姉の目の前で、指で掬い上げた熱い体液をぐちぐちと見せつけるように捏ね合わせた。
「~~っ!!」
抗議の三角締めがきつくなる。が、むっちり柔らかな太ももの密着率が高くなっただけで、何の抵抗にもなっていない。そんないじらしい妨害は、逆に男を興奮させるだけだ。
それに何より、渓谷から湧き出る源泉の湯量は、減るどころか増していた。
(……もう、初めてじゃないんだろうし、これだけ濡れてれば、いいよな?)
もう頭が正しく回っていなかったのかもしれない。
脚を軽く押しのけて立ち上がると、自らのズボンと下着をずり下ろす。
「……っ! うわ、ぁ……」
あかり姉の顔を見上げれば、まるで初めての物でも見るみたいに、真っ赤な頬と驚いたような目が、指の間から覗いている。
そんな所をまじまじと見られる事なんてまずない、それもあかり姉相手になど。気まずさが、より逸った行動へと駆り立てる。
「――っ。もう挿れるからな、あかり姉」
「……え? あ、ちょ、ちょっと――んああぁぁあっ!!」
絹を裂くようなあかり姉の叫び声と共に、じゅぷぷぷっ、と蜜壺に満ちた天然のローションをかき分けるくぐもった水音が、張り詰めた分身から全身へと響く。だが、怒張が伝えるのは音だけではない。
「――がっ、はぁっ……くぅっ」
焼けるような熱を帯びた快感。
一瞬でも気を抜けば魂すら持っていかれそうなほど、あかり姉の内側はきゅうきゅうと男の欲望の象徴へと吸い付き、絡みつき、しゃぶってくる。
まるで下半身に雷が落ちたみたいに、腰が、背筋がぴくぴくと痙攣し、視界を火花が埋め尽くす。まだ一振りすらしてないのに、奥歯を噛みしめて耐えることしかできない。
実際こういうことになった時の為に、と調べていたことなど何一つ役に立ちはしなかった。
(くっそ、情けなっ――!)
既に経験のあるあかり姉は、こんな情けない自分をどう思うのだろうか。やはりその彼氏とやらと比べられているのだろうか。
正直怖い――が、どうせいずれは現実と直面することになるのだ。
あまりの快楽に、いつの間にかつぶっていた目をゆっくり開いて――
「――えっ」
あかり姉は泣いていた。
シーツを握りしめて、唇を噛みしめて、目頭にも目じりにも涙をいっぱい浮かべて。
自分とは対照的に、まるで痛みに耐えるように。
「えっ、何でっ――あっ」
予想外の反応に思わず身を引いて。そこで漸く、接合部を濡らす液体に、紅い色が混じっているのに気づく。
「……まさか、あかり姉。初めて、なのか?」
「…………うん。当たり前、じゃんかぁ」
震える唇を動かし、弱弱しくあかり姉は肯定した。
「でも、だって――」
言ってたじゃないか、彼氏がいるって。ベッドの上に連れ込まれたって。彼女にされたって――
――と、はたとそこで背筋が凍る程の冷静さが襲ってくる。
あかり姉は一切、一言だってあの男と共に寝たとは言っていない、と。
確かに一般的に言えば“そう”としかとれない言い方だったが、発言したのはこのあかり姉だ。
元々が明朗快活、真っすぐな性格だからだろうか。比喩表現がずれすぎてて、隠喩が分からな過ぎて、現代文の小説だけ毎回死んでるあかり姉だ。
そのあかり姉があんな回りくどい、言い方を思いつく訳がない。もし万一仮にあかり姉が押し倒されていたとすれば、もっと何か直接的な表現が出てくるはずだ。
いや、だけど。仮にあの発言が言葉通りだったとすれば、それはそれであかり姉の言っていることが分からない。
そこまで考えて動揺に身じろぎした所で、痛みを押し殺すあかり姉の小さな喘ぎが聞こえて――その疑問を考えるよりも先に、やる事があると気づいた。
「ごめん、あかり姉……」
無論、謝って済むことではない。だが、やってしまった事を無かったことになんて不可能で、そうする以外に出来る事はなかった。
あかり姉は何かを言いかけて――あるいは酸素を求めて喘いだだけかもしれないが――僅かに口を開いたたものの、言葉を発する前に、再び痛みで唇を歪めた。
苦しそうなあかり姉を見ていると、改めて関係を修復不可能なまでに変容させてしまったんだ、という恐ろしい現実を今更ながら実感する。
無言の時間に耐えられなくて、つい口を開いてしまった。
「ごめん……。あかり姉に彼氏がいるってのを聞いて、冷静じゃいられなくて――それで、こんな……本当にごめん」
自分は一体何を言っているのか。そんな自分勝手な都合を伝えて、あかり姉にとって何になる? そう思っても口は動き続ける。
「でも、あかり姉があんな適当そうな奴に、ふざけた理由で好き勝手にされてるなんて、我慢ならなかったんだよ。それだったら俺が……俺の彼女にしてしまえばって――」
ああ、そうか。言ってしまって、自分で妙に納得する。
自分の中で渦巻く感情が、嫉妬であると。そう気づいてしまうと、今まで抑えていた思いが堰を切ってあふれ出す。
「――第一なんであんな! あんな、あかり姉を幸せに出来なさそうな奴について行ったりしたんだよ!? いっつも言ってただろ、危なそうだと思ったらすぐ電話しろって。絶対助けに行くからって。それに、あんな奴と付き合うくらいなら――」
躊躇は一瞬だった。
「――俺があかり姉を幸せにするから。俺じゃだめかな、あかり姉」
自分で口にしておいてどうかと思う。無茶苦茶な事を言っているという自覚はある。無理矢理初めてを奪っておいて、痛い思いをさせて、泣かせて、説得力なんて微塵もないとも理解してる。
だが、もしかしたらもう嫌われて話もしてもらえないかもしれない、いや下手せずとも絶縁すらありうる今の状況が、完全に心のブレーキを壊していた。
季節を間違えたセミの声だけが、遠く部屋の中に残響する。
「――弟君……ううん、ひーくん」
「――っ」
その呼び方をされたのはいつぶりだろうか。小学校の、それも低学年以来……いや、もっと前な気すらする。
そう意識がふっと逸れた間に、あかり姉の手がこちらへ伸びてきていて、思わず目をつぶって身構えてしまって――
ぎゅっ。
「!? …………?」
背中に感じる小さな温かさが、あかり姉の手だと気づいたのは一拍を置いてからだった。
「そっか、ごめんね。私の方こそ心配させて」
「……っ、あかり姉が謝る必要なんて無いだろ?! 俺が早とちりしたせいで」
「ううん、ごめん。実はウソなんだ。彼氏の話」
「……は? え?」
目を白黒させていると、あかり姉が机の上を指さす。指さす先にあったあかり姉のスマートホンを手渡すと、手早く操作して画面を開いたまま再び返されて。
写っていたのは、先ほどのあかり姉を挟み込んで立つ二人の男。だが、先ほどと違うのは中心に追加されている円に囲まれた三角マーク。
普段の習慣とは恐ろしいもので、指をついそこへ伸ばしてしまい。
瞬間スピーカーから流れてきたのは、聞き飽きたほどに聞きなれた声だった。
「いっえーーーーい! 見てるぅ? ひっかりくうぅぅん!」
「あ、あー……その、すまん、ひかり。姉さんの事止められなくて、本っっ当にすまん……」
「あー、何自分だけはセーフみたいに振舞ってるのかなー? もうここまでやっちゃったらおとくんも同罪でーす! さっき化粧するとき微妙に口元が笑ってましたー! ほらほら一緒に地獄に落ちようぜ、マイブラザー」
声質はそっくりなのに、何一つ似てない気すらするテンションの高い声と、低い声。
聞き間違いようがない、あの結月姉弟の声。それが先ほどの男たちが口を開くたびに聞こえてくる。
そして二人が髪を掴んで引っ張ると、ばさりとかつらが落ちて紫の髪が現れ、目元を触るとコンタクトが外れて同じ色の瞳が覗き――化粧落としで顔を拭った後には、見慣れた二人の顔が映っていた。
「――んで、ひかりんは、ちゃーんと愛しのお姉ちゃんに愛を伝えることは出来たかなー? もー、いっつも見ないふりしながら目で追ってて煮え切らないから、このゆかりさん、頼れるお姉さんとして一肌脱いじゃいましたー。あ、お礼は今度マキパパの所のショートケーキ一個でいいから気にしないでいーよー……あ、勿論ホールね! ホールで一個だからね!」
……何という恩の押し売りか。しかもきっちり代金まで要求しやがって。隣でタンクトップの下まで塗られていた、日焼け風の小麦色ファンデーションを落としている、弟の優理も渋い顔だ。
「……頼むからやめてくれ姉さん。本当に。――あー、ひかり。まぁ、なんだ、その……止められなくてこんなことやってて何だが、上手く行ってるといいな。あ、いや、これ見せてもらってるって事は上手く行ったのか。……大事にしなよ、あかりさんの事。ウチの姉さんと違ってすっごくいい人なんだからさ」
……余計なお世話だ。画面の向こうでこっちがどんな思いをしたのかすら知らず『何その言い方?!』だとか、『違っ、今のは口が滑っただけで――』なんて愉快な言い争いをしている結月姉妹に、思わずイラッとしてしまって。
「あぁっ?! ひーくん、ミシミシって! スマホがミシミシって言ってるぅ!?」
「あっ! すまん」
ついうっかり手に力が入ってしまったらしい。慌ててスマホを返すと、あかり姉はさすさすとスマホをさする。
だが、何となく大体の事情は掴めた。
「――で、という事は全部あのトラブル姉弟の仕業って事でいいのか」
「全部が全部っていう訳じゃないけど……。それに、元々は私が相談したのが原因で、みんなは手伝ってくれただけだから!」
今の言い方、他にも共犯者がいるな。後日さり気なく聞き出そうと心に留め置きつつ、今は横に置いておく。こうして黙っておけば……
「最近ひーくんがそっけないままで、不安になっちゃって。それで最初は相談っていうか、話を聞いてもらうだけのつもりだったんだけど、ゆかりちゃんが話を大きくして、それで後は任せておけって――」
聞いてもないのにあかり姉はどんどん経緯を暴露していく。やっぱりあのゆかりさんが主犯か。分かってたけど。
「――それで、ゆーり君が『ひかりって、落ち着いてるようで実は嫉妬深くてヤキモチ焼きっぽいと思うんだ』って言いだして」
うん、お前も有罪な、覚えとけよ優理。
「それを聞いてたきりたんちゃんが面白がって、こんな風にカレシが出来たってのはどうでしょうって――」
お前も共犯者かよ、あの東北のクソガキめ……。
「で、今みたいに俺が嫉妬のあまりあかり姉を押し倒すってストーリーか? 小学生が考えていいシナリオじゃないだろ……」
だが、あかり姉はどことなくばつが悪そうに。
「えっと……実はこうなったのって、少し予定と違うんだ。嫉妬心を煽って告白させる、としか計画にはなくてね。だから、その。ひーくんが、予想よりすっごく激しくて、びっくりして。それで、言いだす機会が無かったって言うか――」
「うっ、それは本当に……ごめんなさい」
「あっ、いやっ。そうじゃなくて! やっぱり不安だったからって、ひーくんの気持ちを先に玩ぶような事をしちゃったのは私が先だし。それに、そこまでの思いを抑えてたっていうのに気付けなかったのも、ごめんね」
「いや……俺の方こそ。そこまであかり姉を思い詰めさせて悪かったし――というか、どういう所がそっけなかったか教えて欲しい! 直すからさ」
すると、あかり姉は突然そこでトーンダウンして目を反らす。
「だって、ひーくん。もう十六歳だよね? それなのに、全然何も言ってこないし……」
??? 分からん。俺の年齢?
色々と考えてはみるが、そっけない対応と年齢が一切結びつかない。
疑問符を浮かべていると、あかり姉は露骨に不満そうに頬を膨らませた。
「ひーくんの誕生日の時なんて、ドキドキして寝れなかったのに、ひーくん帰ってきたらすぐ寝ちゃったし、それからも全然何も言ってこないし……。十六歳になったら、もう結婚出来るんだよ?」
いや、あの時はまた結月姉弟(無論主に姉)が勝手に祝ってやるとか言って、あかり姉ごとカラオケに連行された挙句、主賓だからとかいう理由でさんざん歌わされてたし、俺としても不本意な誕生日だったんだが――あかり姉の話を聞きながら、そんな事を考えていた最中に言われた結婚という言葉に、記憶の回路がつながる。
遥か昔――それこそ自分が幼稚園児の時――――
『そんなに泣くなよあかり姉、もう人形は僕が取り返してきたんだからさ』
『うん、でも――またあの子に取られたらどうしよう、って』
『その時はまた僕が取り返すからさ。あかり姉ちゃんは心配し過ぎだって』
『……じゃあ、ずっとお姉ちゃんの事守ってくれる?』
『……当り前だろ、あかり姉は大事な姉ちゃんなんだから』
『本当に? ひーくんにお嫁さんが出来ても?』
『本当だし。……それに、結婚するなら姉ちゃんとするもん』
『本当?! 約束だからね!』
――――言った。うん、確かに言ったよ。
でも、これって一般的にはアレだ。子供のころ特有の、身近な年上の女性に懐くよくあるあれで、その対象があかり姉だったってだけで。
というか、そもそもこの会話って、例のゆかりさんにあかり姉が人形を取られたのがきっかけだよな? どんだけ他人の家庭事情引っかきまわしてるんだあの結月家の姉は。本当に頼むからもう少し優理にはブレーキ役を頑張ってほしい。
兎も角。あかり姉の事は嫌いじゃないし――子供のころの衝動的な言葉だったからって、別にその言葉自体を否定するわけじゃない。ただ――
「――あのだな、あかり姉。落ち着いて聞いて欲しいんだが、男性が結婚出来るのは十八からだ」
「えっ」
「まぁ確かに現行法では、一応女性は十六から可能だが……それももうすぐ変わるらしいしな」
あかり姉はしばらく放心していたが、だんだん顔が真っ赤になって、とうとう手で覆い隠す。
「うぅぅぅ……、知ってたなら誰か教えてよ~。一か月も練習してたのに~……」
そうか、ここの所遊びに行くことが多かったのはそれか。恨みがましく愚痴るあかり姉だが、俺には今のところ聞いたメンツが、ゆかりさんもきりたんも、ニヤニヤといたずらっぽい笑みを浮かべている所しか想像できない。優理は……ゆかりさんにきつく口止めされてそうだし。
「いや、そうは言われてもなぁ……」
「ずっとひーくんが約束忘れてると思ってて……うう、ごめんね」
「いや、間違いは誰にでもあるし、別にそんな謝る事じゃないけど」
うん、実際は忘れてたのだが――別に言う必要はないだろう。
そうしてひとしきり恥ずかしがったあかり姉だったが、少し落ち着いたところで、でもね。と続けた。
「不安だったんだ……いつの頃からか、少しずつひーくんと距離がある感じがしてたから」
「それは――」
それを完全に否定することはできなかった。
「最近は名前を呼んでくれることも少なくて、ゆかりさんとゆーり君みたいに同い年って訳でも無いから、学校や外で一緒に居れる時間も限られてるし」
「……ごめん、実は――」
確かに年齢はどうしようもない。だが、呼び方や外で距離を置いていたのは事実だった。
それは自分の気持ちを制御するため。油断すると際限なくあかり姉との距離を詰めてしまいそうで。そんなことになればきっとあかり姉に迷惑がかかると、適切な距離でいられるよう、平穏な日常を送れるようにと考えての事だったのだが――
「――それであかり姉を不安がらせてたら意味ないよな」
「本当だよ!」
俺が語った内容に、あかり姉は久しぶりに本気で怒っていた。
「むしろ弟君がそんな余計な世話を焼く方が、お姉ちゃんにとっては迷惑なんだからね!」
「そうか……そうだな、ごめん。あかり姉」
だがそれくらいでは許さないと言わんばかりに、腕を組んでふいっ、と目を逸らす。
「……ちゃんと今度から、外でもそうやって前みたいに呼んでくれるなら、許してあげる」
「前みたいにって――あっ」
いつのまにか、あかり姉の事を姉貴、ではなくあかり姉と呼んでしまっていたことに気づく。
気づいてしまうと、とても恥ずかしい。
「……あの、家の中だけでは駄目でしょうか?」
「駄目です。それから、お昼も一緒に食べてもらいます。勿論お弁当です」
「うっ――」
いかん。これは、早々に認めないと段々要求が高くなっていくパターンだ。
「~~っ、呼び方と昼ご飯の件、了解しましたあかり姉」
「ふふ、よろしい」
冗談めかしてびしっと敬礼をすると、あかり姉もびしっと敬礼を返す。
「それじゃあ、色々あったけど……これから、どうする?」
「どうするって――」
「ほら、ひーくんのこれ、まだ大きいままでしょ……? ひーくんは”どう”したい?」
そう言いながら下腹部をなぞるあかり姉の表情は、姉の物から、一人の少女の物へと変わる。
「え、でも。さっきすごく痛そうだったし、大丈夫なのか?」
まだ、接合部には初めての証である液体の紅い痕が残っていた。
「うん、しばらくじっとしてたから慣れてきた……と、思う」
「でも、やっぱり姉弟でするのは不味くない、か? その、するにしてもせめてこう――避妊をだな」
「むー……今日は大丈夫な日だし、それに今更ひーくんがそれ、言う?」
「いや、そりゃあそうなんだが……」
自分が暴走して始めてしまった事だし、弁解のしようもないのだが……とはいえやはり冷静になってしまうと、抵抗感が無いわけではなくて。
だが、そんな躊躇は長く続かない。いや、続ける事が出来なかった。
「――えいっ」
可愛らしい掛け声に一瞬気を取られた隙に、唇に柔らかいものが密着する。
気づいた時にはあかり姉の蒼い瞳が目の前にあった。
(これって、キス……だよな?)
優しくて、柔らかくて。そして、さっき食べたアイスと黒蜜の甘みがした。
「ぷはっ――なんか、我が家らしいキスだよな。お菓子の味がするって」
「ふふっ、ひーくんもそう思った? ――でもこれで、キスしたんだし、私達、姉弟じゃなくて、恋人だから、遠慮しなくていいんだよ」
キスをしたら恋人なんていう、そこだけ変に幼げな考えも、今は笑えるというよりただ愛しい。
あかり姉の手に手をかぶせ、指を絡める。
「じゃあ、大丈夫なら。動くよ、あかり姉」
「うん。ひーくんのしたいようにして、いいよ」
さっきとは違ってゆっくりと、無理に押し込むのではなく、かき分けるようにあかり姉の中へ腰を沈めていく。
「んんっ……はぁ、っ」
まだ苦痛が完全に無くなったわけではないらしい。が、その中にもはっきりと艶がふくまれていて、少しだけ安心する。
じゅぷぷぷっ……こつん。
絡みつく襞肉をかき分け、腰と腰を密着させた所で、ちょうど先端がそれまでと違う、弾力のあるしっかりとした塊へぶつかった。
(これって多分、最奥、だよな?)
「んっ! あっ、はぅっ!」
ぐっ、ぐっ、と確かめるように押し込むと、その度にあかり姉が喘ぐ。
ちゃんとあかり姉の奥まで入れたことが、そしてあかり姉が自分のすべてを受け入れてくれたことが、暖かな充実感としてじんわり腰から全身に広がっていく。
「分かる、あかり姉? 全部入ったの」
「本、当? 本当、だぁ……」
あかり姉はそっと上体を起こして接合部を見ると、嬉しそうに頬を染めた。
「やっぱり、姉弟だからかな? ちょうどぴったり入るように出来てるんだね」
「やっぱり……って、普通は姉弟でこんなことしないからな?」
「普通なんて関係ないよ。私はひかり君の事が、ずっと一人の男の子として好きだったんだから」
そう満面の笑みを咲かせるあかり姉。
「ずーっと困ったら相談に乗ってくれて、上級生にからかわれたって知ったら、それから私を守る為にって、空手を習いに行って黒帯まで取っちゃって――勉強も、昔は得意じゃなかったのに、同じ学校に来るため頑張って……そんなひかりの事が、大好きなんだ」
言われているうちに、顔が熱くなっていくのが嫌でも分かった。
「~~っ! そ、そんな恥ずかしい事、よく平然と言えるな」
「だって、本当の事だもん。それより、ひーくんは言ってくれないの?」
うっ、そう来たか。正直改めて言うなんて照れくさすぎるのだが、この状況で言わないわけにはいかないし――
「おっ、俺もあかり姉、じゃなくて――あ、あか、あかりのことっ、一人の女性として――ってごめん、やっぱ冷静だと無理だって!」
「えー……」
笑顔から一転、不満そうな顔を見せるあかり姉。だが、それでも言えないものは言えない訳で――
暫くどうしようかと考えて、あかり姉の唇を軽くついばむ。
「ぷぁっ――すまんが、今日はこれで勘弁して貰えないか」
「んっ――しょうがないなぁ……。珍しく顔を真っ赤にしたひーくんが見れたし、今日はそれでいいよ」
なんだろう。余裕たっぷりな感じのあかり姉に、完全に手玉に取られている。
それが悔しくて、ぐっとあかり姉の腰へ手を回して。
「じゃあ、そろそろ動くぞ――っと」
「うんっ! ――ひぁぅ、んんっ!」
あかり姉が抱き着くように、こちらの背中に手を回すのを待って腰を引くと、神経が剥き出しの先端を、とろっとろにとろけた肉襞が出ていかないでと惜しむように絡みついてきた。
いや、先端だけではない。あまりに皮が剥かれた部分への刺激が鮮烈すぎるだけで、あかり姉の蜜壺は、目の前で背中に回した手へ力を入れるあかり姉自身と同じくらいに甘えて、熱烈に吸い付いてくる。
「うぁっ――やばいって、あかり姉っ。もう少し手加減してくれないと、すぐっ……」
「だってぇっ、ひーくんのが熱くて、おっきくてぇっ――! 勝手に、お股がきゅんきゅんしちゃうんだもんっ……!」
喘ぎながら、あかり姉が抗議する。えっちにとろけた甘い声で。
「そんっな声出されたら、まだ頑張んないといけないだろうがッ――」
快感に震える歯を噛みしめて、再び奥へと突き返す。
引いた時とは逆に、今度は迎え入れるように、あっさりとあかり姉の膣はその侵入を許した。
甘やかされているような優しい密着感は、まるで湧きたてのローション風呂に、そこだけ入れているみたいな錯覚すら覚えるほどで。
既に最奥の弾力へと到達した後も、腰が一つに溶け合う程深く、深くへと押し込んでしまう。
「んあぁぁっ! それ、駄目っ! 奥、ぐりぐりするのぉっ……体が勝手に、びくびくしちゃって――ぇっ」
その言葉通り、あかり姉の体は奥をつつく度に身悶え、体の随所を快楽に震わせる。それに合わせて狭い隙間が更に狭まり、擦れあい、脳まで痺れるような刺激が分身を駆け上る。
「なんだよ、あかり姉っ……最初っから奥が、いいんだっ――!」
「ちがっ、ちがうぅ、もんっ」
「こんなに反応して、違う訳ないだろっ」
「んにゃふぅぅっ!」
あかり姉は背筋をのけぞらせて、発情期の猫みたいな嬌声を上げる。
別に苛めたい、みたいな趣味がある訳ではない……筈なのだが、何時暴発してもおかしくない刺激から意識を逸らすために出てくる言葉は、妙にSっ気に満ちていた。
そんな素直になれない自分とは逆に、あかり姉は真っすぐな思いをぶつけてきて――
「そうじゃ、なくてぇっ――! ひーくんの、ひかりのだからっ、こんなに気持ちっ、いいんだもんっ!」
――そんな可愛らしく、あまりに素直な言葉に、思わず意識が緩んでしまって。
びゅくっ、びゅるるるるっ!
一度放出が始まってしまうともう歯止めが効かなくて、勢いよく白いマグマがあかり姉の中へ迸った。
「――っ!? あっ?! 出るっ、出るからなっ――あかりッ」
「あっ?! うんっ――んあうぅぅぅっ!?」
自分の絞り出すような呻きと、あかり姉の甲高い悲鳴が交じり合って、鼓膜を震わせる。
「――っ、あ。ごめ、全然っ、我慢、出来なく、て」
どぐん、どぐん。そう切れ切れに謝る間にも、脈打つように、長く尾を引くように、だまになった熱の塊があかり姉のお腹へと送られていく。冗談めかして言われる三擦り半にも満たなかった情けなさに、ベッドに押し付けた手を握り締めた。
だが、あかり姉は。
「ううん。そんなの、謝らなくて、いいよ」
酸素を求める喘ぎの混じった優しい言葉と、興奮で熱を帯びた手のひらに、ギュッと全身を抱きしめられる。
「だって、それって、それだけ私がひかりのこと、気持ちよく出来てた、って事だよね? だったら……ひーくんが、喜んでくれたなら、おねえちゃん、すごく嬉しい」
「でも俺、全然あかり姉の事気持ちよく、出来てないし」
「ううん……ひーくんの熱いのがお腹に出された瞬間、体の内側から気持ちいのが膨らんで、いっぱいになって、弾けて……今も、なんだかふわふわしてるみたいにあったかくって、気持ちいいよ?」
それが自分を励ますための嘘ではないというのは、あかり姉の熱い吐息と汗ばんだ肌、そして蕩けた目元と口元が言外に語っていた。
「あかり姉っ……!」
まだ最後の余韻が出ているにも拘わらず、急速に下半身へと血が集まり、熱杭は再びその役目を果たそうと硬度を増していく。
「うわ……すごい……さっきより硬くて、おっきい……こんなところまで入ってるんだ……」
自分のお腹の奥を確かめるように、さすさすと下腹部を何度も撫でるあかり姉。
可愛くて、愛しくて、そして煽情的なその光景に、一度出してしまったことがまるで嘘のように、興奮が再び燃え上がる。
「あかり姉……もう一回、いいかな?」
驚きにしばしぱちぱちとあかり姉は目をしばたかせたが、優しく目元を緩ませると、汗ばんだ手の平を迎えるように広げた。
「しょうがないなぁ、ひーくんは。いいよ、好きなだけ、好きなことして」
それが理性の残っているうちに理解できた、最後のあかり姉の言葉だった。
[newpage]
――――「ひーくん、隣、いい?」
リビングのソファーにどっかり身を倒し、うつらうつらと睡魔に負けそうになったところで、あかり姉の声が聞こえて目をこする。
「あぁ、勿論」
少し体を手摺の側に寄せると、隣にあかり姉がぽふりと腰かけて、そのまま頭をを右肩へと乗せてきた。
シャンプーとあかり姉の香りが混じった甘酸っぱい匂いが、お風呂上がりの緩く結ばれた三つ編みからふわりと漂う。
いつもの日常。だけど、いつもじゃない距離感。
あかり姉は静かに体重を預けたままで満足そうに、無言もさして気にしていないようだったが、まだ先ほどの行為の記憶が浮かぶ自分には、その無言に耐えられそうにない。つい焦って話題を探り。
「あー、その……あかり姉は今日、タオル一枚じゃないんだな?」
「んー? うん」
あかり姉はしっかりと寝間着のボタンを上まで止めていて、いつもの油断しきった姿がまるで想像できない。良家の子女を思わせる、瀟洒さすら感じるほどに。
「……だって、そんな格好してたら、またお風呂に入らないといけなくなるかな、って」
「うっ……」
無言に耐えられなかった理由が理由なだけに、くるりと振り向いたあかり姉のジト目へ、何一つ反論できない。
「もう一回、もう一回だけって……初めてだったのに、こんな暗くなるまで何度もされて。まだ何か入ってる感じがするんだからね? ――もう今日は絶対しないから」
「……本っ当にごめん。俺もあまりの意志薄弱さに自分で引いてるっていうか――兎に角、本当に悪かった。もう二度とこんなことはしないから」
むーっ、としばらく頬を膨らませていたあかり姉だったが、最後の言葉を聞いた瞬間、慌てたように口を開く。
「い、いやそのね? 別にそこまで嫌だったって訳じゃなくて……その、今日みたいに明日がお休みなら別に、偶にはその……いい、よ?」
「お、おう……じゃ、じゃあまた今度、な」
「う、うん」
落ち着いて見えたあかり姉だったけど、ついそんなことを口走ってしまう程度にはやっぱりまだ混乱していたんだな、とちょっと安心する。
気まずいような、いや、そこまで不快ではない、むず痒いような空気。それを何とかしようと頭を巡らせて――ふと、大事なことに気づく。
「あっ――」
「えっ。ど、どうしたの弟君?」
あかり姉がびっくりして跳ね起きた。
だが、驚かせたことを謝るよりこちらの方が重要だ。あかり姉の肩を掴んで目を合わせる。
「あかり姉」
「は、はいっ」
こうやって改めて言うとなると、すごくこっぱずかしい――が、それ以上に恥ずかしい事をさんざんやっておいて、ここを曖昧にするのはやはり男としてどうかと思う。
「その、順番が滅茶苦茶になったけど、その……改めて俺と、付き合ってくれないか?」
確かに先ほど、思いの丈をぶつけるような形で似たようなことは言ってしまったが、それに関してあかり姉は言葉では答えてないし、自分としてもちゃんと告白はしておきたかった。
「え……? あ、そういえば、言われてなかったっけ? あれ、言われたけどちゃんと答えてないんだっけ?」
「えー……」
はっきりさせておかないと、と思っていたのが自分の空回りだった事に、脱力してしまう。
そんな様子を見たあかり姉はわたわたと両手を振って。
「あー、いやそのね? ほら、その……付き合ってほしいってのは、ずっと一緒にいたいって事だよね?」
「あー……うん。まぁ人によるだろうけど、うん」
「でも、ひーくんは姉弟だし、一緒にいて当たり前みたいなところがあったから……なんだかこれからもずっと一緒な気がして、ね?」
「……つまりは別に言わなくても良かったって?」
「いやっ、そうじゃなくてね? あの、えーと……」
少しむっとしたふりをしてそう言うと、あかり姉は更に慌てたように目を回す。
まぁ、彼氏がいるなんて嘘をついた事に対する意趣返しはこれくらいでいいだろう。首謀者と共謀者は許さんが……目の前で、あーうー、と唸るあかり姉に免じて少し手加減はしないでもない。
まぁそんな事より、今は。
ぎゅっと、あかり姉を抱きしめる。
「今のは少し意地悪だった。……でも、あかり姉の返事は聞かせて欲しい」
首を重ねるように抱きしめているせいで、表情は見えない。だが、ぎゅっと抱きしめ返してくるその仕草に、いつもの陽光のような笑顔が自然と思い浮かぶ。
「うん、これからもずっとよろしくね、ひーくん」