「まだどこに行くか秘密なの?」
「あとちょっとだからさ」
あかり姉は俺の急な提案を多少訝しがりながらも、手を振り払う事なく素直についてきてくれていた。
あまり降りる駅ではないため少し迷いそうになったが、目的地まではあと少しだ。確か――
「――そこの角を曲がったら到着だから」
出来ればその光景は一緒に見たい。あかり姉をエスコートするように一歩先行していた状態から一瞬足を止め、肩を並べて歩幅を合わせる。
隣に並んだあかり姉は二、三歩進んだ後でこっちを見上げて来た。
「なんだか……」
「なんだか、何?」
「……ひーくんもどこに行くか秘密にしているから私も秘密ー」
「じゃあ、どこに行くか分かったらあかり姉も教えてくれよ?」
ニッ、と寒さで赤くなった頬を持ち上げいたずらっぽい笑みを浮かべるあかり姉に、なぜだかいつもより女性らしさを感じて、ドキリと心臓が跳ねる。
これ、握ってる手からあかり姉にバレたりしないよな?
そう考えて余計にドキドキしそうになっていると、もう目的の曲がり角はすぐ目の前で、俺達は一際賑やかな通りへの一歩を合わせて踏み出した。
「「……わぁ」」
そして左側に現れた光景に、思わず調べて知っていた筈の俺ですらため息を漏らしてしまう。
通りの先にあったのは都会のオアシスとして造成された、すこし広めの庭園で、そこに生える木々はオレンジの光でライトアップされ、その中央には一際大きな電飾のツリーが空高くそびえていた。
「付き合ってほしかった所って、ここ?」
「ああ、ここのイルミネーションがきれいだって見たからさ、一緒に見に行きたいなって」
「そっかぁ……」
あかり姉は視線を俺からイルミネーションの方に戻して、軽く頷きながら全体を眺めているようだった。
「折角なんだからもっと近くで見ないか? 真ん中のとか、多分近くで見た方が迫力があると思うけど」
「うーん、イルミネーションは迫力とかよりムードじゃない?」
「う……そうか。もうすぐ消灯しちゃうらしいし、ツリーの前にあるフォトスポットで写真でもと思ってたんだが」
それを聞いた瞬間、ゆったりとイルミネーションを眺めていたあかり姉の目の色が変わる。
「え? それならそれを先に言ってよ! ほら、急いで急いで!」
「え、ちょッ!?」
さっきとは逆、あかり姉に引っ張られるようにして公園の中心部、ツリーの下へ足早に近づいていった。
もう終わり際に近い時間だからか、自分たちと同じようにツリーを見に来たであろう恋人たちは大抵既に帰りがけで、否応なしに彼らの幸せそうな、二人だけで完結しているような緩み切った表情が目に入る。
彼らがこちらなど気にも留めてないことに安堵する一方で、知り合いがいないと分かっても尚、周りを気にしてしまっていることが少し悔しい。
(それだけあかり姉との関係を隠すのが当たり前になってる、って事だよな……)
そんな風に、昨日あかり姉が告白された時の事が頭を過って少しもやもやとしかけたところで、先頭を行くあかり姉が急停止して、ぶつからないよう慌てて急停止する。
どうしたのか――と、見上げればもうツリーは目の前だった。
イルミネーションに照らされながら、こちらを見上げるあかり姉はくりん、と首を傾ける。
「? どうしたの、ひーくん」
そっちこそいきなりどうしたのか、と聞きそうになったところで原因が自分の表情にあることに気づき、慌てて口元に笑みを浮かべる。
「ああいや、ごめん、ちょっと考え事」
「む―……、自分から誘っておいて上の空なのはどうなの?」
「うっ、それを言われると……すまん」
全く言い返せる分もないので素直に謝ると、あかり姉は頬を膨らませて腰に手を当てる。
「悪いと思ってるなら――」
何を言われるのだろうか、と背筋をただしたところで突如ゴホンゴホン、とわざとらしい咳払いが割って入った。
二人して慌ててそちらに顔を向けると、電気関係の人らしき工具類を腰から吊り下げ、ヘルメットを被った壮年の男性が腕組みしてこちらを向いていた。
「あー、お二人さん。仲がいいのは結構なんだが、もし写真を撮りたいって事で来てるならもう電気落としちまうから、早めにした方がいいと思うぞ」
「「ご、ごめんなさいっ!」」
頬を掻きながら視線を逸らし気味にそう言われ、申し訳なさと見られていた気まずさに揃って頭を下げる。
あかり姉の顔は見えないが、多分俺と同じでトナカイの鼻のごとくに真っ赤なんじゃないだろうか。
「ああいや、そこまでかしこまって貰わなくてもいいんだがな、何せこれから一晩で新年用のライトアップに切り替えるっちゅう話で、こっちも焦らせたくはないんだが時間が無くてなぁ」
そういえばここのクリスマスライトアップは今日までだった。
「そうだったんですか。それならささっと撮っちゃお、ひーくん」
「ああいや、そこまで焦らんでいいから。何だったらほれ、カメラ貸してみ」
そう言われても羞恥の為か、なお焦るあかり姉に引っ張られながら何とか彼にスマホを手渡す。
「それじゃあ撮るぞー、準備はいいか?」
「えっ、あっ、どうしよひーくん、何かこうポーズって何がいいのかな⁈」
「いや普通にピースとかでいいんでは」
「じゃあピースで! お願いします」
「はいよ」
あかり姉と隣り合い、二人そろってピースしたところでパシャリと撮影音が鳴った。
「こんなもんでいいかね」
写真に写った俺たちは、イルミネーションの色とりどりの光に照らされて尚分かるほど、頬が染まっていた。
「ありがとうございます、おじさん」
「忙しいのに、わざわざすいません」
あかり姉ともども何度も礼をしながらスマホを受け取ると、彼はいやいやと軽く手を振って年季の入った笑みを浮かべる。
「これくらいいいって事よ、何処を見回してもさっきまで恋人ばっかで食傷気味だったからな、仲良く姉弟で見に来ているお二人さんにはサービスってな」
「ははは……」
うーん、姉弟なのは事実だがそうでありながら恋人でもある訳で、しかしだからといってその事を明らかにするわけにもいかないし、というか随分個人的な感情をぶっちゃけてくる人だなぁ……。
どう返せばいい物やらと困って、適当な笑いで誤魔化そうとした時だった。
唐突にあかり姉がいる側の腕を引っ張られて姿勢が崩れ、耳元に大きな声が響く。
「あ、あのっ! 私たち、恋人ですっ!」
腕を引っ張ったのは顔を真っ赤にしたあかり姉だった。
「ちょ、ちょっ!? あかり――」
あかり姉、と呼びかけた所で、恋人発言の後に姉なんて呼んだら、近親的な意味でやばいか、そうでなければ性癖的にやばいのでは、と思い至って踏みとどまり
「――っ、態々恋人だって宣言する必要なんて無いから!」
誤魔化すために誤魔化せず言い切った瞬間、顔だけ夏の日差しを受けてるみたいに火照る。
うわ、やばい。人前で堂々と自分たち恋人ですって言うのってこんな恥ずかしいのか。
足先から頭のてっぺんまでむず痒くて、居ても立ってもいられないような、そんな感じ。
さっきから腕を掴んでいる指も少し震えているような気がするし、多分あかり姉も勢いで言ってしまったものの、同じような状況なんだろう。
そんな風にあかり姉と俺で何とも言えない空気を作ってしまい、話題を振った男性の方もしばし放心気味に口を開けていたのだが、突如がくんとうずくまり、苦し気に胸を押さえる。
「くっそ、なんだその初々しいやり取りはぁ……お前さん達以上に見てるこっちが苦しいわ!」
「え、あ、その……ご、ごめんな――」
「謝んなくていいからチクショウ! 若いっていいなぁ……」
彼はしみじみと深いため息交じりにそう言って、よいせと立ち上がると踵を返した。
「せいぜいお幸せにお二人さん。それから、年取ったらどうせ俺みたく尻に敷かれるんだから、今のうちに楽しんどけよ、少年!」
そう言い残して電飾の裏の方へと男性が去っていくと、ややもせずにイルミネーションの明かりが落ちた。
思いもよらぬ展開にしばし呆然としていた俺達だったが、それをきっかけに漸くいつもの空気が戻ってくる。
「あー……本当にイルミネーション、消す寸前だったんだな」
「あはは……そうだね、本当にぎりぎりだったんだ」
「……なんというか、すごく慌ただしい感じになっちゃってごめんな?」
「だね、しっかり計画立てるひーくんにしては珍しい感じかな?」
「ま、まぁ本当なら――」
危うく口を滑らせ、しまったと思ったところであかり姉の目がキラーンと悪戯っぽく輝く。
「本当なら? まるでその言い方だとここに来る予定でも立ててたみたいだけど?」
「それは……」
「……もしかして、私と来たくて調べてた――なんてね」
冗談めかした口調とは裏腹に、僅かに細められた瞳にはそうであってほしいという期待が込められているような気がして。
あーもう、この際だ。ここで全部言ってしまおう。
「……そうだよ、あかり姉と一緒に見たくて調べてたんだよ」
「~~っ。へ、へぇ、そうなんだ」
あかり姉の目がせわしなく彷徨った。
「それに、ここだけじゃなくて今日一日デートするつもりで、朝から夜まで予定たててて……まぁ、クリパがあるの忘れてたから無意味になっちゃたけどさ」
「あっ! じゃあ昨日言ってた『明日一緒に過ごそう』って」
「そ。……あかり姉はさっき電車の中で、俺が付き合う前と変わらなくて不安だって言ってたけど、それは俺も同じでさ。確かに付き合ってから変わったこともあるけど、変わらないことの方が多い気がして……。それで悩んでるときに偶然告白されてるあかり姉を見て、いてもたってもいられなくなってさ」
「――そう、だったんだ」
納得したような、気づけなかったのが申し訳ないような、自分と俺が同じだったことが嬉しいような……そんな、色んな感情の混じった複雑な表情を浮かべて、あかり姉はそれだけ呟いた。
口を開いて吐き出された白い息が夜闇に溶けきって、ようやくあかり姉は言葉を紡ぐ。
「……ごめんね、ひーくん。気づいてあげられなくて」
「いや、そんな。俺の方こそあかり姉を不安にさせて――」
だが俺が言い終わる前に、そうじゃないとあかり姉は首を振る。
「実は、私も今までデートに誘ったりしよう、ひーくんと恋人同士になれたんだから、恋人らしいことをしようって、何度も考えて、誘おうとしたんだ。だけどその度ごとに、最初私が騙すような事をして付き合うことになったから、もしかしたら実はひーくんにそんなつもりは無かったのに、無理やりだったのかなって。だから、関係を秘密にしたりして……それなら、これ以上無理に付き合わせちゃ嫌われるかなって――」
「そんなことあるはずないだろ!」
思わず今度は俺が、あかり姉の言葉を遮ってしまう。
「そんな事で、あかり姉を嫌いになるはずない! 俺だって、ずっとあかり姉と恋人らしいことしたかったんだから。確かに関係を秘密にした方がいいとは言ったけど、それだってあかり姉が心無い奴らから姉弟で付き合ってることについて嫌な事を言われてほしくないからで。本当は俺だって、他のカップルみたいにあかり姉と手を繋いで登校したりしたいって、ずっと……」
少し緊張気味だったあかり姉の表情が緩む。だけど、その瞳からまだ不安の色は消えていない。
「――でも、家の中でも前と同じだよね。人の目が無いのに、ひーくんは前と何も変わってない」
「それは……元々、俺とあかり姉は仲が悪かった訳じゃないし、これ以上変えれることなんて――」
その瞬間、ギュッとあかり姉に手を引かれ、バランスをとる為屈んだ耳元に、口元が寄せられる。
「――っ、だって付き合ってるのに、全然……え、ええ、えっちな事してくれなかった!」
小声なのに、声を張り上げているみたいにはっきりと、聞き間違えようがなくあかり姉はそう言った。
「ちょ……っ」
思わず仰け反って、あかり姉の顔が視界に入る。顔全体が今日一番に真っ赤だった。
「いや、それは、その……」
「だって、恋人になったら『そういう事』するのが普通だって! 特に、ひーくんみたいに思春期の男子なら猶更だって……!」
言いながらも恥ずかしいのか、あかり姉の顔は益々赤くなり、遠赤ストーブみたいに熱を放っている気さえする。
いや違う、これは俺の顔も熱いんだ。
「それは、っ……」
俺だってしたくなかったわけじゃなくて、そんな気まずさに思わず目を逸らしたものの、あかり姉はその先に回り込んで見上げてくる。
「毎日、体綺麗にして待ってたのに全然来てくれないし、それなのにひーくんは……一人で、シてたし……」
そこまで言ったところで、あかり姉の表情に影が差した。
ああそうか、昨日の朝の事は俺が自慰をしていたと認識されていたのか。
「あれは、そうじゃなくて――」
「でも、絶対あの匂いはそうだもん!」
――ごもっともで。
なまじっか事実交じりが故に、説得するのは難しそうだ。
それにあかり姉も今まで抑えていた思いが爆発しているのか、最初は声を潜めていた筈が、今や往来の真ん中で直接なワードこそないものの、大声でこんな事言うくらいには混乱しているみたいだし。
仕方ない、言語が駄目なら行動で示すしかないだろう。
言葉を続けようと開いたあかり姉の唇から白い息が漏れる前に、俺は唇を重ねた。
「ん~~~!?」
声にならない悲鳴と共に、熱い吐息が俺の中へと流れ込んで、一瞬であかり姉の匂いが肺いっぱいに広がる。
頭がくらくらしそうになりながらも、戸惑って空回りするあかり姉の舌を落ち着かせるように舌でしばらく撫でてやると、徐々にあかり姉も絡めて来るように動かし始めた。
――っと、危ない。夜遅く人が少ないとはいえ、一応は往来の真っただ中なのに、夢中になるところだった。
多少名残惜しさを覚えつつも口を離して、狙い通り多少落ち着いたあかり姉に説明する。
「昨日の朝のは、その、事故みたいなものとは言え、悪かった。ただ、あれは自分の意志でやったんじゃなくて、むしろ我慢しすぎてああなったというか……」
「我慢しすぎてって……ずっと待ってたのに」
「それもごめん。ただ、ずっと俺も心配だったんだ。最初があんな、無理矢理みたいな感じだったからさ、実はあかり姉はするのが嫌なんじゃないかとか、痛くても無理して受け入れてくれちゃうんじゃないかって」
あかり姉はそれに答えなかった。代わりにぎゅっと、強く抱きしめられる。
「……あかり姉?」
「……そうだったんだ。それなのに……わたしこそごめんね」
顔は横に向いて胸に押し付けられていたから表情は分からなかったが、きっと辛そうな表情をしているだろう声だった。
「いや、あかり姉が謝ることは……」
「でも、そう思っちゃったのって、やっぱり私が勝手に不安がって焚きつけるような事をしちゃったのがそもそもの原因だし……。それなのに、ひーくんが悩んでたのも知らずに勝手にまた不安になって……うぅ」
涙交じりの鼻声でそう言ってから、あかり姉は慌ててぐしぐしと顔を拭った。
「……って、ひーくんが聞きたいのはごめんじゃないよね。ごめん……って、ああ! 今のごめんはそういうごめんじゃなくて――」
わたわたと言い訳を重ねるあかり姉だったが、途中であきらめたのか、よしっ! と無かったことにして、改めてこちらに向き直る。
「私も、ひーくんとしたい。ひーくんを感じたいし、ひーくんに気持ちよくなってほしいし、その……気持ちよく、して、欲しい……かも。だから、大丈夫。心配しなくても、ひーくんがしたいことなら私もしてみたいから」
優し気な、それでいてホットチョコレートのように蕩けたような甘さを秘めた笑みを浮かべて、あかり姉は言った。
瞬間、今までうっすらと靄のようにかかっていた不安が晴れ渡る。
目の前の女性が、あかり姉の事が好きだという気持ちが、愛しいという思いが、触れたいという衝動が、今まで上限だと思っていた以上に沸き上がった。
今すぐ、もう一度抱きしめてキスがしたい……だけど。
「ありがとう、あかり姉。……ただ、一つだけいいかな」
甘い雰囲気に絆され、キスを待つように首を伸ばしかけていたあかり姉は、突如冷静になった俺の様子に鳩が豆鉄砲を喰らったようにぽかんとした顔になった。
「えっ、えっ……ど、どうしたの?」
「あの、気持ちは凄く嬉しいんだけど……ここ、外だからちょっとそう言う話題は声を抑えた方が良かったかなー……って」
「あっ」
やはりそんな気はしていたが、案の定あかり姉は話に熱が入るうち、ここが何処だか忘れてしまっていたらしい。いや、俺もあまり人の事は言えないかもしれないが……。
今更ながらに慌てて周囲を二人で見渡すが、ぱらぱらと見える帰り際のカップルたちは、自分たちの世界に入り込んでいて、こちらに気づいていないようだった。……俺達も人の事は言えないが。
「せ、セーフ、だよね?」
そこは小声にする必要ないのに、あかり姉がひそひそ声で聞いてくる。
「た、多分大丈夫じゃないか?」
はっきりとした根拠があるわけでは無いけど、それを聞いたあかり姉は少し安心したように息をついた。
「それなら良かった……。ごめんね、急にお外でこんな事……」
そう言って誤魔化すように鼻先を掻きながら苦笑するあかり姉に、別にと首を横に振る。
「いや、いいって結果としては聞かれてなかったからセーフだし。それより――」
軽く膝を屈めてあかり姉の耳に口元を寄せる。
「――あかり姉もしたいって思ってくれてて、嬉しかったし、安心した」
びくっ、と吐息交じりの囁きに耳朶をくすぐられたあかり姉の肩が跳ねる。
「そ、そっか。それなら思い切って言った甲斐がある、かな……」
距離を戻すと、あかり姉は頬を染めながら視線を逸らす。
だけど、その瞳にはしっとりとした艶めきが湛えられているのがはっきりと分かって――今なら普段言えない事も言えるような気がした。
「……なぁ、あかり姉」
「な、何かな、ひーくん」
「さっきデートする予定を立ててたって言ったけど、実はこの後、一番最後に寄ろうかなって調べてたところがあるんだ。あかり姉さえよければ、今からでもどうかな」
「え、でも今からの時間で大丈夫なの? ひーくんが調べてるんなら大丈夫だとは思うけど、今のイルミネーションも時間ぎりぎりだったし、本来の予定より遅れてるんじゃない?」
「いや、それは絶対大丈夫。……ただ、一般的には今から利用者が増える場所だから、もしかしたら入れないかもだけど」
「今から増える? ……分かんないけど、それなら行くだけ行ってみようよ。折角ひーくんが調べてくれたんだから、入れなくてもどんな所か気になるし」
かなり露骨に誘ったつもりだったが、あかり姉はそれが分かっていないのか、心底嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべる。
ここら辺、やっぱりゆかりさんときりたんに誑かされてなければ純粋だったのかなぁ、あかり姉に余計な事を吹き込みやがってという気もしないではない。
尤も、すでにこれからを想像して、胎の底にグツグツとした欲望が溜まり始めている俺がそんな事を言っても説得力が無いわけで――
――もういいや、今更グダグダ考えても仕方がない。
「じゃああかり姉、行こっか」
そう言って手を差し伸べると、あかり姉は僅かに目を見開いてから満面の笑みを浮かべた。
「あ……うん!」
[newpage]
「ひーくんが行きたかったのって、ここで合ってるの?」
「多分……。うん、そうそう、ここだ」
スマホと建物に書かれた筆記体を見比べてひーくんが頷く。
手をつないでエスコートされたのは、繁華街の端の方にある四面四角で飾り気のない建物だった。
ここが何なのか、唯一の手掛かりは入口の自動ドア隣に小さく『Glimse’s Manshion』と自己主張する小さな金文字だけで、事前知識のない私にはさっぱり分からない。
「グリムさんたちのマンション……?」
私が金文字の看板相手に首をひねっているとひーくんが隣で姿勢を正してごくりと唾を飲み込んだ。心なしか、握った手の間もさっきより湿度が増した気がする。
「……よし」
「そ、そんなに緊張しなきゃいけないとこなの、ココ?」
めったに緊張などすることのないひーくんが緊張している。そのことでふとこの間ゆかりさんに押し切られて一緒にやった『なんとかマンション』というオバケの出てくるゲームを思い出してしまい、ぶるりと身震いする。自動ドアの向こうもなんだか薄暗いし、もしかしてここって、お化け屋敷とかそういう類の……。
「い、いやそういう訳じゃないけど、如何せん俺も来るのは初めてっていうか……調べたはいいものの、システムとか噂で聞いたくらいしか知らないからさ」
「そ、そうなんだ……」
どうしよう、ひーくんがデートするために調べてくれたっていう事に嬉しさで舞い上がって、軽率にオーケーしちゃった訳だけど、大丈夫なんだろうか。
私が今更ながらな不安にさいなまれている間、ひーくんは緊張した面持ちで左右を伺い、よし、と小さく呟いた。
「じゃ、人が来ないうちに行こっか」
「う、うんっ!」
声をかけられて背筋をピンと張り、ひーくんから一歩遅れて開いた自動ドアの奥に続いた。
自動ドアの先にはまたすぐ自動ドアが、それもうっすらとスモークの入った暗いガラス製のドアが続いており、いよいよ不気味な雰囲気が高まっていく。
思わず助けを求めるように顔を見上げるけれど、ひーくんもガチガチに緊張しているみたいで、どうやら私の方まで気を回せる余裕はないようだ。
(ええい、折角ひーくんが誘ってくれたんだから――)
そう勇気を振り絞るものの、思わず自動ドアが開いたと同時に目を閉じてしまった。
「へぇ、本当にチェックインが無人なんだ。……ってあかり姉、なんで目閉じてるんだよ?」
「い、いや別にこれくらい平気だよ? 平気ではあるんだけど、ちょっと心の準備が居るというかっ――目、開けても大丈夫そう?」
「いや、目を開けてて大丈夫じゃなかったら今頃俺は大変なことになってるんだが」
「うぅ、ひーくんはそういうの平気だからそんなことが言えるんだよぅ……し、信じるからねっ?」
ひーくんの手を強く握りしめたままゆっくりと下向きに薄目を開けると、石造りの床に真っ赤なカーペットが敷かれているのがまず目に入る。
薄暗くはあるののの、想定よりも明るく照らされたたカーペットに恐々顔を上げると、そこはビルのエントランスのようなシンプルな空間だった。
唯一似つかわしくないものがあるとすれば、いくつもの壁に掛けられた単語の書かれたプレートと、その隣に並んだ緑と赤のランプ。
そしてそれらの下に一際大きく書かれた『休憩』、『フリータイム』、『宿泊』とその隣の値段らしき数列……。流石の自分でも、今更ながらココがどこかを理解する。
「こ、ここ、ここって……」
自分のとんでもない勘違いによる羞恥と、これからここで行われるであろう行為への羞恥、それらで顔が真っ赤に染まっていくのを感じながら、ひーくんへと目を合わせる。
「うん、その、ラブホテルってやつ……」」
気まずげに頬を掻きながら目を逸らすひーくんの頬も真っ赤だ。
「へ、へぇ……こんな風、なんだ……」
『そういう事』をするためだけの場所、そう意識して思わず握った手に力が籠ってしまい、それに驚いたひーくんが慌てたように口を開いた。
「あ、あの……やっぱり嫌だった、かな?」
「えっ?」
「いやほら、さっきあかり姉もしたい、って言ってはくれたけど、やっぱりいきなり過ぎたかなっていうか、今日はもしかしてそういうつもりじゃなかったとか、さ」
今更ながら不安になってしまったのか、繋いだ手の指先が所在なさげに手のひらをくすぐる。
さっきまで手を引いて先行していたのに、ふと先走ってしまったのではないかと慌ててカバーしようとするのを見ていると、ひーくんも別に余裕がある訳じゃないんだなと分かってしまう。
普段はかっこよくあろうとしているひーくんのめったに見れない隙、とでもいうのだろうか。思わずドキリとしてしまったついでに、少しだけ心に余裕が出来る。
「ううん、大丈夫。そんなことはないよ、ちょっとびっくりしちゃっただけ」
手をしっかりと握って微笑むと、ひーくんも安心したように息をついた。
「良かった、じゃあ部屋なんだけど……よし、空いてる。ここでいいかな?」
ひーくんが指さしたのは緑のランプがついた『ヘンゼルとグレーテル』と書かれたプレート。
よく見れば、他のプレートも『赤ずきん』や『白雪姫』など、どこかで聞いたことのある童話の名前ばかりだ。
「あー! なるほど、ここの名前って全部グリム童話を元にしてるんだ。だから建物の名前も……」
「そうそう。まあ、名前だけじゃないんだけど、それは部屋に入ってからのお楽しみかな」
意味ありげな事を言いながら、ひーくんはネームプレートの端に置かれた操作パネルを触って、部屋を取った。機械にお金を呑み込ませるとさっきまで緑だったプレート横のランプが赤に変わる。
「これでいい……のかな?」
「多分……?」
二人とも初めてだからこれでいいのか分からない。おっかなびっくり案内に沿って部屋までたどり着き、ドアノブを回す。
瞬間、間接照明の薄暗い廊下とは一転して明るい光が室内から洩れて、思わず目をすがめた後に視界へ入ってきたのは夢のような空間だった。
「わぁ……」
自分の背丈よりも長いクッキーで出来た壁に囲まれた部屋、その中央には巨大な丸いショートケーキが鎮座し、上には四角いワッフルが並んでいる。
それらが本物ではなく、お菓子を模した壁紙やベッド、クッションであることは勿論すぐに分かった。だがそれでも、子供のころ夢見たようなお菓子の家みたいな内装に、テンションは否応なしにあがってしまう。
「凄い! 匂いまでバニラの甘い香りだ……」
「調べてる途中で見つけて、あかり姉が喜びそうと思って選んでみたんだけど」
「流石ひーくん! ありがとう!」
後ろ手に扉を閉めたひかりに向かって高揚した気分のまま抱き着く。
「そこまで喜んでもらえたなら、探した価値はあるかな」
「唯一、食べられないのだけが残念かな?」
「いや、流石にそれはな。それに……いや、やっぱやめとこう」
途中まで言いかけて誤魔化すようにそっぽを向いたひーくんの顔を見上げ覗く。
「む、気になるから最後まで言ってよ」
「いや、ほんとしょーもない事っていうか、馬鹿な考えが浮かんだだけと言うか、兎に角そんな感じのことだからさ」
「そんなことなら逆に言ってもいいと思うけど」
暫く目をじーっと見つめていると、ひーくんはうっと言葉に詰まってどうしようかと悩んでいたが、やがて観念したのか小さく呟くように言った。
「……あ、あかり姉は食べる側っていうより、むしろこれから食べられる側だろ――って、改めて口に出すとめちゃくちゃ恥ずかしいし、アホな事言ってる感が半端ないんだがっ!」
「~~っ」
ひーくんは顔を真っ赤にして誤魔化すように早口で続けたが、ここがどこかを考えればそれは間違っているわけでもない訳で、私の顔も火照って熱い。
いや、顔だけじゃない。部屋の甘い香りに交じって抱きしめた時にふわっと香るひーくんの匂いに、細く見えて意外としっかりした体つきに、お腹の奥からじわぁっと熱が全身に広がっていくようだった。
「すまんあかり姉、今のは忘れて――」
「――いいよ」
「えっ」
誤魔化すような笑みを浮かべていたひーくんが、一瞬真顔になって動きを止める。
「だから、私の事……好きなように食べちゃって、いいよ」
言ってて死ぬほど恥ずかしいセリフだとは自分でも思うし、実際恥ずかしすぎて声は少し掠れてしまった。
でもひーくんが本音を先に言ってくれて、ここを調べてくれて、誘ってくれて……せめて最後の一歩だけでも、姉である自分がリードしてあげたいという思いに押されるがまま、唇が動いた。
ひかりの喉仏がごくりと大げさなまでに上下する。
「あかり、姉……」
ひかりの顔が近づいてきて、吐息が鼻に当たり、そして唇同士が重なる。どちらからともなく舌が絡まり、たちまち粘着質な水音が頭の中に響いた。
「んちゅ、ちゅ……ぴちゅ……れるっ、ちゅく……」
ひかりの舌をざらりと舐め上げると、今度はひかりが歯肉を舐り返す。互いの唾液を求めるようにるろるろと舌を蠢かせ、どちらのものか分からなくなるまでかき混ぜられた唾液を飲みこむ。
「んぷはっ――ごめん、我慢できなくて。久しぶりのキスなのにこんな激しく――」
口の周りをぬらぬらと怪しく光らせながらひーくんがそう謝るけど、その目は穴が開くくらい熱っぽく私の胸へと向けられていた。前回みたいにがっつかないようにと必死に我慢しているのが分かって、愛しさが増す。
「謝らなくていいよ、ひーくんもそれだけ我慢してたって事が分かって嬉しいし、好きにしてって言ったでしょ?」
そう言いながら肩に置かれたひーくんの手を取って自分の胸へと誘う。
数瞬呆気にとられたように固まっていたひーくんだったけど、先ずは確かめるように控えめに、その後感触を味わうようにやわやわとブラからあふれた上胸を揉み始めた。
「……やっぱ改めて、あかり姉のおっぱいって、でかいよな」
胸を凝視しながら、口を半分開け放したままで、独り言ちるようにひーくんは呟く。
「正直重いし、身長に比べて大きすぎてバランスが悪いかなってちょっと思ったり――」
「全然っ、そんなことはないっ! あかり姉のはおっきくて、柔らかくて触ってて気持ちいいし……その、俺自身もおっきい方が好きだから」
「そ、そっか」
恥ずかしさのつもりで何の気なしに言ったのに、想定以上に強く否定されて少し圧されてしまう。
「だから、そろそろ直接触りたいんだけど、いいかな?」
ひーくんはそう言いながらも既に胸を揉む手を止めて私のシャツのボタンに手を伸ばしていた。
「うん、いい――ってちょっと待った!」
私もひーくんの体温を直接感じたいし、と羽織っていたコートを肩からずり下ろそうとしたところで気が付く。
(どうしよう! こんなことになるなんて全然予想してなかったから、普段下着なんだけどっ?!)
前回ひーくんに抱かれた時には、ゆかりさんやきりたんちゃんからのアドバイスもあっておろしたての下着をつけていたが、今日はこんなことになると思ってなかったせいで、いつもの着慣れた下着である。着慣れてるという事は着心地がいいという事でもあるが、同時にその分くたびれてもいるという事だ。
「きょ、今日はほら結構歩いたし、いつもよりはしゃいじゃってちょーっと汗かいてるかもだから、ね?」
だけどひかりは手の動きを止めてくれず、あたふたしているうちにコートをずり下ろされた。
「でも、さっきあかり姉言ったじゃんか『好きなように食べていい』って。もしかして、嘘だったの?」
「う、嘘じゃないけどっ。ひ、ひーくんだって汗臭いのは嫌でしょ――っ?!」
ところがひーくんは逆に私の首元へと鼻を突っ込んで来て、しかもスンスンと匂いまで嗅ぎ始めてしまう。
「……いいや、全然。あかり姉のいい匂いがすごくいっぱいする。だからこのままでいいよ」
言い訳のつもりだったのに、逆にそんなことまで言われて、鼻息が当たったうなじから、放たれた野火のように熱が顔まで登ってきた。
恥ずかしさと、でもその中にちょっと混じった嬉しさとで、頭が沸騰しそうなほどぐるぐるしていて、思わずこのままでもいいかななんて馬鹿な考えが一瞬よぎる。だが、もしもそれで下着を見られてひーくんにがっかりされたらという悪い予想を振り切るには至らない。
「か、嗅がなくていいからっ! と、とにかくお姉ちゃんが恥ずかしいからシャワー浴びたいんだけど、……駄目かな?」
恥ずかしくてひーくんの顔を正面から見れずに上目遣い気味になってしまったが、それでもなんとかどうしても、という熱意は伝わったのか、ひーくんはうっと小さく呻いて距離を離してくれた。
「ま、まぁそこまで言うなら――」
顔を逸らしてそう言いかけたひかりの目が、ふと一点で止まる。
……な、なんだか嫌な予感がするっ。
油の切れた機械のようにひーくんの視線が向く先へとギギギと首を回転させて、壁に掛けられている、この部屋には似つかわしくないそれを見つけた。
「――なああかり姉、シャワー浴びてきていいから代わりに“アレ”着てくれない?」
「えっ、あっ、うぇっ、え゛ぇっ!? あっ、“アレ”をっ?! 無理無理無理っ! あんなの恥ずかしいし私に似合うワケないって!」
「いやいや絶対似合うって、それに折角今日だけのサービスって事みたいだし、使わないと勿体ないじゃん?」
第一印象が強すぎて見ていなかったが、確かによく見ればハンガーの首元に「サービスです」と書かれている。
サービス。サービス……ということは今日だけ……使わないと損……。
「……き」
「き?」
「着るだけ、だからね?」
「よっしゃっ!」
[newpage]
シャワーの水音が止まって数分。
風呂場へ続くドアの向こうからは、うーうーとあかり姉の葛藤する唸り声が聞こえ続けていた。
あかり姉が心の準備を整える為という事で先にシャワーを浴びた俺は、タオルを腰に巻いただけの格好で、ホールケーキを模したベッドに腰掛けたまま期待にソワソワと手を握ったり開いたりしていたのだが、ようやく扉が遠慮気味に押し開かれてあかり姉が顔だけひょこりと覗かせてくる。
「……ねえ、ひーくん。本当に、やっぱりこれ着なきゃ……ダメ?」
顔を真っ赤にして、ちらちらと自信なさげに自分の体へあかり姉は視線を落とす。
羞恥で唇をムニムニさせるあかり姉の表情を見ていると、そんな趣味は無いはずなのに、意地悪をしたくなってしまう。
「えー……さっき着てくれるって言ったのに?」
「うっ……でも……」
わざとらしい困った表情にも関わらず、あかり姉は申し訳なさそうに眉をしかめる。
そのまましばらく様々な葛藤があったのだろう、うー……とかえー……とか小さく呟いていたが、とうとう「えーい!」という掛け声とともに、目をつぶって扉を開け放した。
「おぉ……」
露になったその全身に、思わずため息が口から零れる。
あかり姉が着ていたのは俗にいうミニスカサンタと言うやつで、眩いほどの赤いスカートは普段校則通りに制服を着ている姿からは絶対に想像できないほど短い。
その短さや、太ももが付け根ギリギリまで大胆に露出させられ、大股で歩いただけであっという間にその下に隠された布が見えてしまいそうなほどの防御力の低さで、あかり姉が手でスカートを押しとどめている程だ。
「うぅぅ……恥ずかしすぎる……」
だがそれ以上に彼女が気にしていた場所は、その少し上、お腹であった。
ミニスカサンタの上は、これまた防御力が低そうな白いチューブトップのブラに、白いもこもこのついた赤いケープだけという頼りないもので、腹部は丸出しなのだ。
必死にお腹を押さえるように左手で肌を隠そうとするあかり姉だったが、彼女の細腕の後ろからは、つまみがいのありそうななふにっとした横腹や、シックスパックからは程遠いつるんとしたおへそ周りが覗いている。
勿論、フリーサイズのチューブトップブラでも包み切れないほど大きな胸も、両腕に押されてその存在感を主張していたが、人間、隠されているものの方がより魅力的に見えてしまうもので。
「うーん、それじゃあちゃんと着てるか分からないよ。ほら、手は体の後ろだよあかり姉」
「~~っ。ひーくんの意地悪っ……」
恨めしそうなあかり姉の視線を無視して逆にじーっと見つめ返すと、とうとう観念したようにゆるゆると身体に巻き付いていた両手が解かれ、雪原のように真っ白なお腹が晒される。スタイルがいいとは言えないが太っているわけでもない、むっちりと脂肪の乗って柔らかそうなお腹。
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そういえば、こんな風にあかり姉のお腹を見るのも久しぶりだったと今更ながら思い出す。
付き合う前は風呂上りにラフな格好でうろついていたあかり姉だったが、あれ以来逆にちゃんと服を着るようになってしまって……いやそれはいい事なんだけど、兎も角こんな大胆に肌を見たのは数か月ぶりだ。
(この間の夢でもあかり姉のお腹に出してたし……もしかして、実は俺ってお腹フェチだったのか……?)
そんな馬鹿な事を考えていると、とうとう視線に耐えかねたあかり姉は再び両手を巻き付けるようにお腹を隠してしまった。
「そ、そんなにまじまじ見ないで。別にお腹なんて見たって楽しくないでしょ? ね?」
「いや、そんな事無い。あかり姉のお腹、白くて柔らかそうで……触っていい?」
「えっ。ええええええぇえぇ!?」
まさかのお腹を所望されて、目を白黒させるあかり姉には構わずベッドから立ち上がり、抱きしめるように両手を回す。
そしてそのまま無防備な後ろ側からわき腹をぷにりと捕まえてみる。
「ひゃぁうっ!?」
潤いのあるきめ細かな肌が指に吸い付き、柔らかく押し返して来た。
胸よりは固いけど、筋肉よりは柔らかい……つきたてのお餅を摘まんでいるようでなかなかよい揉み心地である。
そのまましばらくわき腹の感触を堪能していると、びっくりしたような悲鳴を上げた後フリーズしていたあかり姉が漸く我に返る。
「ちょちょちょ、ちょっと! ダメだって、お腹はダメ!」
わたわたと両手を振り回してこちらを押しのけようとするあかり姉。だが体格差的にも力的にも振りほどけるはずはなく、むしろそんなことをしてはボディーがガラ空きだ。
すかさずわき腹を掴んでいた片方の手を前に滑り込ませる。
「ほにゃぁっ?!」
ぷにっとした下腹へ指を押し付けるように撫で上げると、良く分からない悲鳴を上げてあかり姉は飛び上がり、それから慌てたような早口でまくし立てる。
「違うのっ、これは油断してたとかじゃなくて……その……そう! 冬だから! 冬だから自然の摂理的なアレで脂肪が蓄えられてるように見えるだけで、夏の時から太った訳じゃないからっ!」
あまり前回はそこまでお腹を意識していなかったので気づかなかったが、どうやら太ったらしい。
「ああ、なるほど。それで最近はお風呂上りでもちゃんと着替えてから出てきてたのか」
「ぐふぅっ……」
あ、しまった。つい納得して口に出してしまったせいで、あかり姉の目が死んだ魚みたいに生気が消えかけている。
「いや、あー……。まあ世の中確かに痩せてれば痩せてるほどいい、みたいな意見もあるけど、俺はこれくらいの方が好きだけどな」
「……いいんだよ、ひーくん。そんな無理にフォローしてくれなくたって……」
「いや、結構本気なんだけどな。いつまでも触っていたいって感じだし、何だったら……その……」
少し言いよどんでしまったものの、あかり姉は好きにしてもいいなんてことを言ってたなと思い出し、触っている途中から思っていた事を続ける。
「……ここに擦り付けたら気持ちよさそうだなって」
流石に気恥ずかしくて目的語をぼかしたが、あかり姉もすぐに察したらしい。
首をひねったのは一瞬で、それから瞬く間に顔が赤く染まる。
「えぇ!? えっ、う、うぅ……えっと、誤魔化すためとかじゃなくて……本当に?」
「う、うん」
肯定するや否や、あかり姉はふるふると小さく震えだした。
「ひ、ひーくんが変態さんに……」
「いやそこまでじゃ――ないんじゃない……かな?」
……うん、多分。一般的……ではないにしろ、そこまで異端と言うわけでは無いと思いたい。
なんて自分の中で正当化しているうちに、震えていたあかり姉はぎゅっと唇を引き結ぶと、思い詰めたような真面目な顔をして口を開いた。
「……大丈夫だよ、ひーくん。例えひーくんがどんなに変態さんになってしまっても、お姉ちゃん、頑張って受け入れるから!」
「いやそんな決死の覚悟を決めたような顔で言う事?!」
あかり姉は顔を真っ赤にしたままこくこくと真剣に頷く。
……もしかしてお腹でって、思っているより倒錯的なんだろうか。
悩みそうになって、だがそこで、それでもあかり姉が受け入れると宣言したことに今更気づいた。
「えっ……いいの?」
「う、うん……」
恥ずかしそうに口元を手で隠しながらもあかり姉はしっかりと首肯してくれる。
「えっと、でも、お腹でって……どうしたらいいのかな」
「ああ、それならさっきいいのを見つけてさ、ベッドの上に横になって待ってて」
シャワーの待ち時間に見つけていたアルミ小袋のパウチが入ったカゴを壁際の棚から取り、ベッドの上で横になっているあかり姉に見せる。
「それって……駄菓子?」
「いや流石にラブホにお菓子は……ここの部屋なら置いてないとも言えないけどさ」
こんな時でも食べ物を察して目を輝かせるあかり姉に少し苦笑しながら、カゴの中から一包取り出して彼女に手渡す。
「ローションだよ、ローション」
「化粧品の?」
「まあ多分大本は一緒なんだろうけど、そうじゃなくてエッチな方の。知らない?」
まじまじとポップなデザインのパウチを見ていたあかり姉は、感心と熱の籠ったため息をつく。
「そんなのがあるんだ……」
「うん、なんというかヌルヌルを楽しむみたいな感じなんだけど……これをあかり姉のお腹に垂らしてやってみたいなって」
「お腹に……ヌルヌル……」
顔を彩っていた紅潮は今や鎖骨あたりまで広がり、ローションのパウチを握る指先もどことなく所在なさげだ。
「じゃあ、そろそろいいかな?」
「っ……うん」
ガチガチに固まってしまったあかり姉からローションを受け取り、封を切ってお腹の上へと傾ける。
「……ひぅっ?!」
とろりとした粘液の塊が糸を引きながらお腹に落ちた瞬間、あかり姉はビクンと身を震わせた。
「っと、大丈夫? もしかして冷たかった?」
「ううん、そんなことは無いけど……何というか、普段お腹へ最初に水が当たるなんてことないからびっくりしちゃって」
確かに言われてみれば、お風呂に入るときは足先からだし、シャワーを浴びるときは頭から、お腹だけ濡れているという状況はぱっと思いつかない。
「でも、これからもっとヌルヌルになるんだから今のうちから慣れておかないとな」
「そう、だよね。うぅ……」
きゅっと目をつぶりながらも、邪魔にならないよう握った両手を体側で揃えているのが何ともいじらしい。
あかり姉をなるべく驚かせないようローションを落とす位置を下げ、緊張気味な呼吸と共に上下するお腹をまんべんなくデコレーションしていく。
「……これくらいでいいかな」
結局まるまる一袋を使い切った所で手を止めると、あかり姉も恐々と目を開けた。
「終わった? ……わ、なんかお腹がテカテカしてる」
あかり姉の言う通り、彼女のお腹の上ではローションが全体に広がり、ヌラヌラとした怪しい輝きを放っていて、その光景に思わず喉が鳴る。
逸る気持ちに震える指で幕屋を張ったタオルの端をほどいて投げ捨てると、既に期待に漲った陰茎がそのはずみで左右にブルンと首を振る。
「っ……! ひ、ひーくんのって、そんなおっきかったっけ?」
「いや、そんなサイズが変わるようなものじゃないと思うけど……でももしかしたら、久しぶりで溜まってるからかな」
お褒めの言葉に再び戦慄く半身を手で下方向へ押さえつけながら、ベッドの上で横になったあかり姉をまたいでお腹のあたりまでにじり寄る。
「わ、わ……」
あかり姉は少しずつ近づいて来る陰茎を、恥ずかしそうに眉根を歪めながらも興味はあるのかまじまじと見つめていた。
「それじゃあ、いくよ」
「う、うんっ……」
丸い目をますます丸く見開いているあかり姉に凝視されながら、先ずは亀頭をピタリとお腹にくっつける。
「っっ……!」
敏感な粘膜があかり姉の体温に温められたローションに、そしてその下のきめ細かな肌に擦れ、ピリピリとした刺激が先端から腰に向けて駆け上がる。
(やば……久しぶりだから……余計っ……)
これは、最初から挿入しなくて正解だったかもしれない。期待ではちきれんばかりになっている今の逸物では、膣内に入れた瞬間暴発してしまっていてもおかしくなかっただろう。
「……大丈夫?」
快感を我慢するのでいっぱいになっていた所に声をかけられ、ふと顔を上げると、あかり姉が気遣うような目でこちらを見上げて来ていた。
「ああ……。あかり姉として以来でずっと溜まってたから、思ったより敏感になってる、だけっ……」
話す時の呼吸に合わせて肉槍が少し動いて滑るだけでも、呻きそうになってしまいそうになって思わず声が苦しくなってしまう。
そのせいか、あかり姉の不安そうな顔は晴れない。
「もしかして、二学期始まったあの時から本当にずっと……一人でもしてなかったの?」
改めて言われるとこじらせてる感があって気まずく、つい視線を逸らせてしまう。
「ま、まぁ何というか……もしかしたら今日こそはあかり姉が来るんじゃないかって期待しちゃうと、そういう気にはなれなくて……」
それを聞いた瞬間、あかり姉の表情が気まずげなものに変わる。
「……ごめん」
「え、何であかり姉が謝るのさ」
今度はあかり姉の方が視線を逸らせながら、ぽつぽつと口にする。
「ひーくんが我慢してたって知らなくて……お姉ちゃん、時々だけど、一人で……その、しちゃってて……」
「――ッ」
瞬間、あかり姉がいつもの寝間着のまま自らの秘裂を指で擦っている光景を夢想して、ずくんと腰の芯が震える。
あかり姉が、自分でオナニーしてたなんて――。
想定外の現実に歓喜で身震いする一物がグッとあかり姉のお腹を抉り、あかり姉は小さく鋭いため息をついた。
「やっぱり怒ってる……よね。ごめんね……ひーくんが我慢してるのに一人で勝手に気持ちよくなっちゃって……」
恥ずかしいだろうにそんなことまで態々自白して、しかも謝ってしまうあかり姉が愛しくて、思わずぎゅうっと抱きしめてしまう。
「っ……? ひーくん?」
「いや、別に怒ってるわけじゃないから。あかり姉がオナニーしてるとは思わなくて、ちょっと興奮しちゃってさ」
覆いかぶさるように抱きしめたまま耳元で囁くと、あかり姉は耳朶まで赤くしてプイと腕の中で顔を逸らす。
「う、うぅ……改めて言わないでよぅ……」
「えー、じゃあ何で自分から言ったのさ」
「だって……ひーくんは我慢してたのに、悪かったなって……」
可愛らしい答えにますますぎゅぅっと強くあかり姉を抱きしめる。と――
「あっ……」
肉槍がぐぐっとあかり姉のお腹に圧し刺さり、どちらともなく快感に染まった声が上がる。
暫くくっつけていて刺激に少し慣れたためだろうか、あかり姉のお腹に埋もれた肉槍からの刺激は今もずくずくと腰の奥を疼かせるが、射精しそうという程ではない。
「そろそろ、動いてもいいかな」
「……いいよ」
突き立てられたせいで否応なしに剛直の存在を再認識させられたあかり姉は、きゅうっとベッドのシーツを握りしめながらゆっくりと頷いた。
腰を引きお腹の表面を滑らせてから、土を耕すようににあかり姉のお腹めがけて腰を打ち落とす。
きめが細かく、ローションが塗布されているとはいえ粘膜よりは固い皮膚の表面に、亀頭が容赦なく擦られ、その摩擦熱が快感を生み出す。
熱が冷めないうちに、もっと、もっと。
「ふっ……ふっ……」
久しぶりの快感を貪る行為にたまらず腰が不随意運動を始めてしまい、頭の中がただ快楽一色に染め上げられていく。
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ちゅくっ、ちゅくっ、というローションが滑る水音は段々とぢゅぐっぢゅぐっという生々しい音へと変わり、部屋を満たしていた甘い香りに、あの日以来忘れたことのない精液特有のむっとした匂いが混じり始めた頃。
あかりは、自分のお腹に突き立てられる赤黒い肉杭を食い入るように見つめながら、ごくりと喉を鳴らした。
(うぅぅ……勢いでいいって言っちゃったけど。これ、普通にエッチするよりよっぽどエッチだよぅ……)
グロテスクなまでに血管が浮いて、見るからに固く、熱い肉の槍が自分の少し緩んだお腹へ向けて、何度も、何度も突き立てられ、お腹の脂肪を掻き分けてツヤっとした先端がこちらへ突き付けられる。
その動きの力強さに弟が男であることを、勿論そんなことは当たり前であるのだが、それをむき出しにした荒々しいまでの雄々しさを自分に向けていることに、太ももの付け根がきゅぅっと疼く。
そしてそれ以上に鈴口、というんだっただろうか。ここから精液が放出されるという事実を、そしてそれが間もなく自分に向けて放たれるのだという未来を教え込まれているみたいで、頭が風邪を引いた時みたいにふわふわと熱に浮かされてしまう。
(それに……)
ちらりと視線を上に上げると、快楽に耐えるように表情を歪めながら、陶然と口を開けて熱く短い呼吸を繰り返すひかりの顔が目に入る。
普段は身内びいきを差し引いてもかっこよく引き締まったひーくんの顔が今は快感に朱く染まって、そんなだらしなく隙だらけになった表情で、必死になって自分を求めてくれている。
そしてそんなひーくんを知っているのは自分だけ……。
意識した瞬間、じわぁっと身体の芯から熱が粘性をもって染みだしてきた。
「んっ……」
同時に、自分の口から鼻にかかった甘い声が漏れてしまい、すぐそれに気づいたひかりが、嬉しそうに口端を引き上げながら口を開いた。
「……もしかして、あかり姉も感じてる?」
ひかりが敏感な粘膜を刺激されているのに対し、自分はただお腹を擦られているだけ。それなのに気持ちよくなってきているなんて、なんだか自分の方が変態ちっくな気がして、誤魔化す言葉の方が先に口をついた。
「別に、そうじゃなくて……ちょっと鼻がむずむずしただけ」
ひーくんはそれを聞くと少し動きを緩やかなものにして、じーっと私の目を凝視してきた。
まるで自白を迫る刑事のような瞳の圧に思わず目線が泳いでしまい、慌てて取り繕うもひーくんは既に得心したという感じで腰を止めて、ニヤッとカーブさせた唇を薄く開いた。
「そっか、残念だな……折角あかり姉と一緒に気持ちよくなれてるかもって期待したんだけどな……」
それが演技であることは分かっているはずなのに、その寂しそうに背けられた横顔を見ていると、身体が勝手にひーくんの期待に応えようとしているのか、きゅぅぅっとお腹の奥に力が入って勝手に最奥を刺激してしまう。
(な、なんでっ――我慢しなくちゃ、我慢……ひゅぅっ?!)
突如膣口に襲ってきた刺激に、自分の中へと向いていた意識を引きずり出される。
「あれ? 何かさっきより濡れてない?」
端の白んだ視界の中、そう言いながらひーくんが目の前で指と指をくっつけたり離したりしていた。
その間には、つーっと液体が銀の橋を作っては千切れ、作っては千切れが繰り返されて、それによって揮発した香りが自分の鼻孔にも流れ込んでくる。
最近では少し嗅ぎなれてしまった――自分の匂い。
「や、ぁ……」
顔を背けても指の間から生まれる粘着質な音と、少し酸味のある匂いからは逃げられない。
「気持ちよくなってないなら、何でこんなに濡れてるんだろうな」
「っ……ひーくんのいじわる」
目をすがめてひかりを睨みつけるけれど、エッチで意地悪になってしまったひーくんはそんな事では怯んでくれなかった。
「そもそもはあかり姉が素直じゃないからだろ? そんなあかり姉も…………けど」
後半少し声が小さく顔も逸らされたせいで聞き取れなかったが、その内容を推測しようとする前に、ひかりが腰の動きを再開させる。
「ま、それならそれで――例えばこうしたら、どう……かなっ」
だが、その動きは先ほどまでとは少し違う。先ほどまでがお腹の柔らかい表面部分を耕すような腰遣いだとすれば、今度は――
(っ! ……これ、大事な所、ぎゅぅって押されてる……)
狙いを定めた狩人のように執拗に、何度も何度も同じところを……本来なら直接それを受け入れているはずの最奥を狙って、そこを押しつぶすようにひーくんは何度も腰を打ち付けてくる。
本来の性行為と比べればとても弱い、だが無視はできない刺激が繰り返し叩き込まれる感覚。
うっすら汗がにじんだ両手でシーツを握りしめる。
(こんなの……こんなの、切ないよぅ……っ)
ひーくんを想って一人慰めていた時は、いつも外を触るだけで終わっていた。指を入れる事が怖かったのもあるし、一人でしてしまう事への申し訳なさもあったからだ。
その間にも最奥は期待を募らせ、ずっと熱を秘めていたというのに、こんなもどかしい刺激ではその炎は消えるどころかますます燃え盛って躰を焼くだけ。
全身を小さく震えさせながら、ついにあかりは白旗を上げた。
「……感じて、たからっ――気持ちよく、お腹なのに……ひーくんのでっ。だから……もう、早くぅっ……」
疼いて、切なくて、足りなくて、自分が何を言っているのかすらはっきりと分からないまま、口だけが欲望に動かされるまま動く。
じぃっと見つめるひかりの顔が、悪戯の成功した子供のようなものになった気がした。
「へぇ、あかり姉はお腹で擦られる、なんて変態的な行為で感じちゃうんだ」
「うん……うんっ! だから、お願い……早く……ひー君のおっきいの、挿れて……」
恥ずかしい事を言う事に対する抵抗感よりも、欲しいという気持ちの方が大きくなって、ちょっぴり嗜虐的なひーくんの言葉にも素直に答えてしまう。
と、お腹に刺さった肉槍がビクビクッと震えた気がして、それと同時にひーくんが顔を歪める。
「っ……そんな事言われたらっ――ごめっ、一回このままっ……」
最後の一突きと共に鈴口がこちらに突き付けられ、小さく引くついた瞬間真っ白な飛沫が吹き上がった。
ぶびゅっ、びゅくっ、びゅるぅっ!
「わっ……」
呆然とする間にひーくんのが間欠泉のように何度も噴火し、お腹から、胸から、そして顔まで、むぁっと熱を帯びた粘液が降り注ぐ。
(久しぶりの、ひーくんの匂い……)
頬まで飛んできた精液から濃厚な匂いが鼻孔へ流れ込み、鼻の奥から頭の芯がぽぅっと熱される。
まるで自分がひーくんだけのものだと改めて言われているような感覚に、もっとかけて欲しいと、もっと奥で受け止めたいという思いが狂おしいまでに高まっていく。
「ひー、くん……」
熱に浮かされるまま目の前で打ち震えているひーくんに声をかけると、苦し気に表情を歪めながらもこちらへと視線を向けられた。
「はぁっ……ごめん、あかり姉……我慢、出来なかった」
申し訳なさそうに眉をハの字垂らしているひーくん。もしかして、私が挿れてっていったのに射精してしまった事に対してだろうか。
さっきまでの意地悪さから一転、小学生の時に私のカップを割って謝ってきた時みたいな素直さに、思わず微笑する。
「いいんだよ、ひーくん。だって、ずっと我慢してたんでしょ?」
「それはそうだけど……こんな早々」
「それだけ私で気持ちよくなってくれたって事だから、そんなに苦しそうな顔しないの」
昔を思い出して、思わず手を伸ばしひーくんの頭をなでなですると、申し訳なさそうな顔だったひーくんは一転、顔を真っ赤にして上体を反らす。
「ちょっ、何で撫でるんだよ!」
「……ひーくんの頭が撫でやすそうなところにあったから?」
「いや、そういう事じゃなくて――」
「ダメかな?」
「……今はちょっと」
目元を朱くしてぷい、とそっぽを向かれてしまうと流石にひーくの頭までは手が届かない。
手持ちぶさたになった手を空中で彷徨わせながらも下げようとして、ふとひかりの下半身が出したばっかりなのにまだおっきいのに気づく。
「うぁっ……! ちょ、あかり姉っ……いきなり、そんな――!」
思わずそこへと手を伸ばして撫で上げた瞬間、ひーくんが切なそうな悲鳴を上げた。
「だって、ひーくんが逃げるから」
火傷してるみたいに熱くて、腫れてるみたいにパンパンな幹を労わるように撫で上げると、悦んでいるのか脈動するようにビクンビクンと跳ねる。
ひーくんが素直じゃない時でもここは素直なのかなと思うと、見た目は怖いけど、ちょっと可愛らしいかもしれない。
(今なら、ひーくんになら、この間知った時には無理そうと思ってたこともしてあげられるかも……)
先日、きりたんちゃんからいきなり『これで合ってますか』なんて漫画が送られてきたときには、イラストとだったとはいえびっくりして『分からないし、そんな事絶対出来ない』なんて返してしまったけれど……。
ひーくんが逃げようと腰を浮かした隙間からするりと体を引き抜いて、体を上下逆、いきり立つ下腹部へと顔を近付ける。
精液の発生源に近づいたせいか、さっきよりも濃密でくらくらとする匂いに陶然としそうだ。
いや、もしかしたらこれからしようとしていることの恥ずかしさに、少しだけ残っている理性が警告を発しているのかもしれない。
だけど愛しさと興味の前では、それも短い逡巡に過ぎなかった。
「あかり姉、今度は何して――っ?!」
あむっ。
小さく口を開いてその先っぽを唇で甘噛みした瞬間、ひーくんはびくびくっ、とそこだけでなく全身を電気でも流されたように痙攣させた。
(なんだか、固いグミみたいな……でも、つるつるしてるしどっちかっていうとナタデココ?)
初めて口にする触感にふにふにと唇で感触を確かめていると、いつの間にか頭上から苦し気な呻きが聞こえて来ていたのに気付いて、夢中になってしまったと慌てて尋ねる。
「ひーふん、らいひょふ? もひはひへ、いひゃい……?」
「ぅっ……喋んない、でっ……あかり、ぃっ……」
苦しそうに絞り出される声に上目遣いで様子を伺うと、ひーくんは目をぎゅうっと瞑ったまま、歯を食いしばって荒い息を整えようとしていた。
(大丈夫そう……かな?)
ひーくんの様子に気を払いながら、漫画の続きを思い出して甘噛みしていた先端から一度口を離し、大きく口を開けて今度は先端をまるっと口内に咥え込む。
「うぁっ……熱っ……」
そう呻いた瞬間に肉槍も跳ねて口蓋や舌にぶつかり、その刺激で更にひーくんはくしゃっと眉間に皺を寄せた。
さっきもお腹へ必死に擦りつけてたし、やっぱり密着している方が気持ちいいんだろうか。
恐る恐る、口内で輻射熱を放つ肉竿へと舌を持ち上げて、ぴとりとくっつける。
「あっ……」
たまらずに天を仰いで喘ぐひーくんの様子に、何だか舌先一つで手玉に取っているような気がして、さっきまで一方的にやられっぱなしだったこともあわさりだんだんと楽しくなってくる。
じいっとひーくんの顔を眺めつつ、肉棒にくっつけた舌をアイスキャンディーでも舐めるみたいに、ざらりと擦り上げてみる。
「~~っ、もう、駄目だって……あかり姉っ、そこ……汚いからっ」
それと同時にひーくんはぐっと力強く私の肩を捕まえてきて、距離を離そうとするように腕を突っ張ってきた。
だけどその力は本来出せるであろう力と比べればとても弱く、私でも容易に押し返せてしまう程で。
(これって、止めて欲しくないって、気持ちいいって事だよね……)
初めてのおぼつかない知識でもひーくんの事を気持ちよく出来ていることが嬉しくて、もっと感じて欲しいという気持ちで頭がいっぱいになる。
(でも、どうしたらいいんだろう)
きりたんに見せられた漫画では細かい事まで描いてなかったし、そもそも肝心の部分にはモザイクがかけられていて形すら分からなかった。
そこでふと、そういえばそもそも今、口の中にあるコレが、どういう形をしているのかはっきり知らないのではと思い至る。
前回はひーくんに押し倒されて、早々に挿入されたからそもそもあんまり見れてないし、さっきだってなんだか胸がバクバクうるさくて全然集中できなかった。
(形も知らないのに、気持ちよくなんてできないよね)
ひかりが必死に我慢している裏でそんな結論を下し、今度は形を調べる為にあかりは舌先をチロチロと細かく動かしながら陰茎へと纏わりつかせる。
裏筋、亀頭冠、エラの裏、鈴口……知的探求心によってのみ動かされる舌が、余すところなくひかりの敏感な所をつついて、擦り、弄りまわしていく。
(意外と裏は、複雑な形してるんだ……ここの出っ張ってる所の裏はちょっとザラザラしてて……)
『気持ちよくするための下準備』そう思って真剣に舌先を動かし、口内の感覚に集中するあかりは、目の前で腰を震わせ、唇を噛みしめたひかりの様子に気付かなかった。
「っ!――ごめんっ……あかり姉っ」
「? んむぅ?!」
何で謝って――そう思った瞬間、肉槍が舌を掻き分けてぐうっと力強く口腔奥へと侵入してくる。
さっきまで距離を取る為肩に置かれていたひかりの手は、今や逆に逃がすまいとばかりにしっかりと掴んでいて、じりじりと腰が近づいて来ていた。
少しずつ空気の通り道が狭まり、鼻息が荒くなってしまって涙が浮かぶ目でひかりを見上げると、ひーくんも何だが苦しそうな、それでいて辛そうに目を細めながらもこちらを見ていた。
「ごめんっ……でも、出したばっかで……敏感になってるのに、こんなこと……されたら……良すぎて、我慢……がっ……!」
そう言いながらも肩を掴む手の力は強まる。だがその一方で、ひーくんの言葉と苦しそうな表情から、本当はもっと激しく深く動きたいのを我慢しているのは何となく分かった。
逆に言えば、そうすればひーくんは気持ちよくなれる訳で。
気付いたところで、鼻先にひかりの腹筋を感じるところまで深く突きこまれた剛直が、今度は少し名残惜しそうに、ぢゅぷぷぷっと唾液を絡ませながら引き抜かれていく。
「っく、ぐふっ、ぷはぁっ……」
いつの間にかせき止められていた空気が再び肺へと落ちていき、思わずせき込みそうになった瞬間、慌てたように勢いよくひかりの半身が口腔から引き出された。
「っ――大丈夫、あかり姉っ?」
いきなりどうしたのかと疑問に思う間もなく、一瞬目を閉じて開けた時には既に心配そうなひーくんの顔が目の前にあって、その眉間にはくしゃっと申し訳なさそうな深いしわが刻まれている。
「えふ、えふっ……うん、大丈夫。それよりひーくんこそ、そんなに眉間に皺寄せてたら癖になっちゃうよ?」
目を瞑ったせいで少し零れてしまった涙を拭って、そのままひーくんの眉間を伸ばすように優しく擦るが、ひーくんは余計申し訳なさそうにしょんぼりと眉を垂らす。
「ごめん、あかり姉。無理矢理しちゃ駄目だって分かってはいたんだけど、あかり姉があんなことしてくれるなんて思わなくて、思わず……いや、そんなの言い訳にならないよな。ごめん、苦しい思いさせて」
「……ううん、大丈夫」
言葉だけでなく全身でそう伝えようと、ぎゅうっとひーくんを抱きしめて続ける。
「確かにちょっとびっくりして咽ちゃったけど……でも、ひーくんが気持ちよくなってくれてるのは凄くうれしかったから、謝らなくてもいいんだよ」
「……だけど」
尚も気まずそうなひーくんの後ろ頭をよしよしとさする。さっき最初に肌を重ねた時の事を無理やりだったのではないかと悩んでいたと言っていたし、ひーくんはなかなか容易に割り切れないのかもしれない。
だったら、少し恥ずかしいけど私ももう少し正直に白状しないといけないだろう。
「――それに、ひーくんが感じてくれてるのを見てると……その、私もなんだかぽわぽわして……気持ちよくなっちゃう、から……」
ごくり。ひーくんがすぐ隣で唾液を嚥下した音が聞こえて顔がかあっと熱くなり、喉を押し広げる先ほどの熱塊を思い出して、ふるりと全身を身震いが走る。
(大丈夫、だよね? えっちすぎて――引かれたり、してないよね?)
今更ながら羞恥交じりの不安が湧いてきて、思わずひーくんを抱きしめる手を緩めてしまった所で逆に、今度はひーくんの腕がぐっと背中を掻き抱いてきた。
「……ひーくん?」
「……あかり姉、舐めて気持ちよくなるなんて……エロい」
「――っ!」
身体が恐怖に一瞬こわばる。だけど、ひーくんの声は冷たいというよりもむしろ熱を帯びているような気がして、それが錯覚ではありませんようにと祈りながら、続くひかりの言葉を待ってみる。
「……その、無理はしなくていいんだけど……もし本当にそうなら、もう少し……舐めて、くれないかな……」
ぽつぽつと遠慮がちに、だがはっきりと行為の続きをねだる言葉に、安堵と愛しさがきゅうぅっと下腹を締め付ける。
「もちろん、ひーくんがして欲しいなら、いいよ」
ビクン、とその言葉を聞いて大きく跳ねたひーくんの下半身をお腹に感じ、待ちきれないんだなと腕をほどいて再び逞しく反り返る剛直へと顔を寄せる。
「……さっきよりもっともっと元気になってない?」
「えぇ? 一回出した後だし、普通は少し元気がないと思うんだけどな……」
ひーくんは頬を掻きながらそう言うけど、浮き出た静脈は深い影を作るほどに膨れ上がり、先端はつるつるというよりギラギラと攻撃的に光を照り返していた。
その威容に少し怯んでしまったものの、それでもやっぱりひーくんのだと考えると不思議と可愛いと思えてしまう。
「じゃ、いくね――んぁ」
「っ……うぅっ」
口を大きく開いてひーくんの半身を迎え入れるや否や、ひかりは顔を快感に歪めて全身をこわばらせた。
いきなりでびっくりさせてはいけないからと少しひーくんが落ち着くまで待ってから、徐々にと竿全体を呑み込んでいく。
「んぐ……んんんっ……」
あと少しで全部受け入れられる――そんな所でさっきえずいてしまった辺りまで剛直が迫ってきて、呼吸を整えようと動きを止めると、ひーくんの心配そうな声が、途切れ途切れに聞こえてくる。
「くあっ……あかり、ねえっ……そんな……無理して、奥までっ……しなくていいっ……!」
そうは言うけれど、さっきの行動から考えればひーくんにとっては全部呑み込んで欲しいはず。
そう考えればどうするかなんて決まっていた。
ぢゅぬぬぬっ――
「あぁぁっ?! ちょっ……何でっ……!」
ひーくんは抜かれてしまうだろうと予想していたのだろう、その逆、勢いよく最後の最後まで咥えられ、切羽詰まった悲鳴を上げる。
(何でって。言ったよね、ひーくんが気持ちよくなってくれてると嬉しいって。だから……もっと気持ちよくなって)
流石に気道がふさがれている今、喋ることは出来ないけれどそう伝えるつもりでひーくんの目を見上げながら、反り返りを全部を受け入れたままさっきみたいに舌を幹に絡めようとする。
が、喉が圧迫されているためか、それとも口に対してひーくんのがおっきすぎるせいか、上手く舌が動かない。
「うっ……根元がざらざらして、やばっ……」
一応ひーくんも気持ちよさそうではあるものの、先端を舐めてた時と比べて余裕があるように感じてしまう。
ひーくんにもっと気持ちよくなってほしい――チロチロと小さく舌を動かしながらも考えて、ふと同時に出来ないならと発想を変える。
(それなら……二つを交互にしたら、どうかな)
一度最初のように先端だけを浅く口に含むところまで顔を引き、さっきの動きを思い出しながら傘裏をなぞって先端へと舌を絡める。
「? ……っ! また……そこは、弱いからっ……あんま、りっ……」
ひーくんの声に余裕がなくなっていくのを耳に感じ、やっぱりここが舐めるには一番いいんだと確信して、今度は一転奥まで一気に深く咥え込んだ。
「ああぁぁっ!」
ひーくんが背中を反らし、天井を仰ぐ。
勢いよく異物が喉近くまで入ってきたせいで唾液が溢れんばかりに出てきてしまうが、その分効果は抜群だったみたいだ。
(そっか、こっちは入っていく瞬間が気持ちいいんだ)
両者のポイントを押さえれば、後はそこに気を付けながら両者を繰り返せばいいだけ。
(引く時は舌を絡めて、入れるときは入るよう舌を平べったくして……)
動きを意識しながら頭を前後に動かし、舌をくねらせる。
ぢゅるるぷぷっ、ずじゅじゅじゅぢゅっ、ぢゅちゅるるっ、ずちゅぢゅるじゅっ――
「……っ! あっ、あぁっ……いきなりっ……うぅぅっ!!」
ひーくんは半ば息交じりの声になりながらぶるぶると身体を震わせる。
(よかった、気持ちいいんだ)
今日一番の反応を自分の工夫で引き出せたことが嬉しくて、つい動きが早まってしまう。
「ひっ――うぅっ……はぁ、っ……」
ますます切なげに歪むひーくんの表情だけ見ていれば、動きは早い方がいいらしい。
(でも、これ……涎が……あっ)
問題は、喉奥を刺激される頻度が上がるせいで、唾液が大量に出てしまう事だろうか。
出来る限り涎が垂れないよう頑張って口の中に貯めてはいるものの、どうしても唇と肉竿の隙間から零れてしまうのは避けられず、だんだん水音が大きくなってしまっている気がして、顔が熱くなる。
それにペースを上げたことに加えてそれによって増えた唾液も合わさり、呼吸するタイミングも難しくなっているのも事実だ。
(なんだか……頭、ふわってしてきた……かも)
そのせいか少しずつ頭が回らなくなってきて、自制心が、理性が緩んで、えっちな考えに脳が浸されていく。
(ひーくんすっごく気持ちよさそう……私も、少しくらい……いい、よね?)
ひーくんが快楽の渦で悶えて気づかないのをこれ幸いに、すすすっと片手をミニスカートの中へと潜らせて、軽く触れてみる。
(っ……すごい、濡れてる……)
えっちなサンタさんの格好についてた股布の狭い紐パンツは、もうクロッチの意味がないくらいにぐしょ濡れで、軽く握っただけでぼたぼたと水分が出てきそうなほどに重くなっていた。
自分で触っていた時とは比べ物にならない濡れように、更に頭は茹っていく。
(ひーくんにまだ直接触ってもらってないのに、もう、こんなに……んっ)
くらくらしそうな興奮に流されるまま、渓谷にそって指を軽くなぞらせる――それだけで、ビリビリと感電したかのような快感が背筋を駆け上がった。
いつもより、敏感で、ゾクゾクして、気持ちよくて……止まらない指の動きに理性をゆっくり浸食されていき、いつしか頭の中では一つのいやらしい願望だけが残響していた。
(……早く、ひーくんの……欲しい……っ)
[newpage]
「~~っ」
あかり姉が下半身に対する容赦のない責めを始めてからもうどれだけ経ったのか。
相変わらず頭がバカになってしまいそうな程の快感を容赦なく送り込まれる中、それでも少しは慣れて来たのか漸く少しばかりの余裕が生まれて、きつく閉じていた目を開ける。
「うっ……あっ……」
視界に入ったのは必死に頭を揺らして揺らして自分の股間にしゃぶりつくあかり姉の姿。
頭の動きに合わせて振り乱されるしっとりと艶やかな銀髪の間から見える顔は、着ているサンタコスに負けじと酸欠と興奮で耳まで赤くなっていて、可愛らしい顔に不釣りあいなまでにグロテスクな肉槍を咥える端からだらしなく唾液が垂れ溢れている。
大好きで、可愛くて、守らなきゃいけない筈のあかり姉の顔が自分のせいでぐちゃぐちゃになっている……そのことに背徳感と征服感の入り混じったグツグツとした快感がせりあがって、とうに臨界を超えている半身が更に固く、破裂しそうなほどに血液が集まった。
「んうっ?! ぐふっ、くふっ……」
そして同時にあかり姉の口内で跳ねたのだろう、一瞬あかり姉が動きを止めて苦しそうにむせる。
酸素を求めて開いた口から、こんなに溜まっていたのかというくらい大量の唾液がごぽりと溢れ、陰嚢の裏まであかり姉の体温が伝わってぼたぼたと落ちていく。
だがあかり姉は、苦しそうに細められた目をすぐに蕩けさせると、こちらの顔を確認することもなく再び献身的に深いストロークを再開させた。
不安が浮かびかけた胸の中を、暖かい喜びと、仄暗い興奮とで塗りたくられて、ゾクゾクと精神的な快感が全身を震わせる。
(あかり姉……したかったって言ってたけど、あれ本当だったんだ)
まだ一回しかしてないのに、いつの間にかこんなにエッチでいやらしくなっているなんて――もしかして練習したりしてたんだろうか、一人でしてたって言ってたしその時に知ったんだろうか、そんな勝手な予想が頭をよぎるたびにその光景が想像され、坂を転げ落ちるみたいにますます興奮が止まらなくなる。
そして、そんな興奮と欲望にまみれた目であかり姉を凝視していたからだろう。サンタコスの赤いケープの下、辛うじてあかり姉のおっきい胸を頼りなく守っていたチューブトップのブラが、透けきってその機能を放棄していることに気付く。
元々、純白で薄いスウェット生地のブラはあかり姉の胸を隠すには小さすぎて、容赦なく谷間が露出していたし、シャワーで湿った肌がぴっちり張り付いて、どこが双峰の頂点なのかまで分かってしまう程度には儚い代物だったのだが――
おそらくは先ほど唾液が零れてしまった時なのだろう、今やびちょびちょに濡れたスウェット地からは肌色が惜しげもなく透かされ、山頂の桜色が固くしこって、頭を前後させるたびにふるふると切なげに戦慄くのまで見えてしまっている。
これではもう服として何の機能もしていない。いやむしろ、着ているのに見えているという矛盾分、逆にエロさを際立たせているといってもいいくらいだ。
あまりの絶景に、気づいた時には手が伸びていた。
「んぅっ……んんっ……」
指先が期待に尖った先端と触れ合った瞬間、あかり姉はぴくんと身じろぎ一つ、動きを止める。
口がふさがれているため不明瞭ではあるが、切なさを帯びた喘ぎと共に見上げられた目はぼんやりと夢見心地で、甘えてくるように見えた。
いいんだよな、と試しに指先ですりすりと先っぽのカルデラをくすぐるようになでてみる。
「んん……んく、っ……ふっ、ふっ……」
きゅっと軽く目を瞑ったあかり姉は、指の動きへと答えるように背中を反らして胸を押し付けてきた。
あかり姉が望んでいるなら――タガが外れた瞬間、ぐっと手のひら全体であかり姉の胸を鷲掴む。
「んあっ……んむ、んぢゅっ……」
先ほどより大きく背中をしならせて、あかり姉は天を仰ぎかける。だが、途中で自分が肉棒を咥えているのを思い出したのか、小さく震えながらも再び頭を押し込んで奥まで咥え直し、ゆっくりではあるもののストロークまで再開させた。
(あかり姉……っ。あかり姉もっ……)
献身的に奉仕してくれるあかり姉の姿に、腰の奥が切ない快感で疼き、自分もあかり姉の事を気持ち良くしてあげたいという思いが湧き上がってくる。
ベッドについて体重を支えていたもう片手もあかり姉のおっぱいにあてがい、邪魔にならないようゆっくりと、だがしっかりその芯まで刺激するようにしてその双球を揉みしだく。
「んっ、んっ、んっ……」
少しずつ、あかり姉の蕩け切った喘ぎへ更に甘さが加わっていき、時折乳房がふるふると我慢しきれなかった快感に震える。
濡れたスウェットはあかり姉のきめ細かい肌ほどではないけれどぴたりと指に張り付いて、もう二度と離せないんじゃないかと思ってしまう。
そうじゃなくても男を――否、人間を駄目にしてしまいそうに柔らかなあかり姉のおっぱいを改めてこうして味わってしまうと、離したくないと思わずにはいられない。
「……あかり姉のおっぱい、柔らかくて、あったかくて……気持ちいい」
「んむ……ぅん……」
咥えたまんまなせいで喋れないなりに答えようとしたのか、あかり姉は小さく呻いた。
暫しそのまま淫靡な水音だけが響くベッドの上で胸の感触を楽しんでいたが、ふとこのままだと自分だけが股間も手も気持ちよくなってるだけで、あかり姉はそうでもないのではと思い至る。
「先っぽ、触るな?」
「ん……」
多分肯定してくれたのだろう――と勝手に解釈して、名残惜しく張り付くスウェットから一度手を離し、指先であかり姉の両乳首を摘む。
ビクビクビクッ!
「んんんあぁあぁああっ……!」
「っ――大丈夫か、あかり姉っ?!」
優しく触ったはずなのに、思いっきり背筋を戦慄かせながらのけぞるあかり姉。
背骨が折れないかと心配になるほど大きくのけぞったせいで、口からぢゅぽんっ――と水音と唾を飛び散らせながら肉槍を吐き出してしまい、少しだけ歯が擦れて反応が遅れてしまった。
「ごめん、ね……ひーく……ん。びっくり、しちゃ……て……」
目をぎゅうぅっと強く閉じたまま、あかり姉は大きな息継ぎの合間に何とか言葉を発する。
「いや、俺の事はどうだって――あかり姉こそ大丈……夫……」
言葉が途切れてしまったのは、あかり姉が目を開けたからだ。淫靡に蕩けて、世界がはっきり見えているのかすら怪しい――だけどはっきりと俺の事だけは認識しているような、本能に従って精を求める雌の瞳。
大丈夫か、なんて無粋な事を聞く気は一瞬で失せてしまう。
「……今度は触れるだけじゃなく、もっとしっかり触るからな」
自然と低くなる声で目を見つめながらそう宣言すると、あかり姉のだらしなく開いたままの口が嬉しそうに弧を描いた。
「……うん。私も、頑張って気持ちよくするね、ひーくんの……おちんちん……」
(――っ! あかり姉、今……おちんちんって……)
あかり姉の唇からそんな卑猥な、だけど少し子供っぽいチョイスの単語が聞こえてきたことに、名前を呼ばれた半身がビキビキと硬度を上げる。
「すー、はー……あむぅっ……」
大きく息を整えてから大好きな白米を頬張るみたいに躊躇なく、あかり姉は俺の陰茎を今度は中ほどまで一気に食べてしまった。
再び湿った高めの体温と柔らかな舌肉に肉棒が包まれ、少し収まっていた射精欲求がまた尿道を登って来そうになる。
だが、あかり姉を気持ちよくするまでは――そんな思いで歯を食いしばって連山へと手を伸ばす。
(さっきより……最初はもっと優しく……)
暴発しないよう我慢しているせいで震える指に全神経を集中して、先ずは先端でなくその周辺へと人差し指から軟着陸させた。
「んんぅっ……」
あかり姉は鼻にかかった嬌声を上げたものの、頭の動きは止めていない。
これくらいから始めればいいだろうか。そのまま中指と親指もピンクの先端と肌色の境界に下ろして、小さくくるくると円を描くようにマッサージする。
「っ……ん……ちゅぶぷっ……」
今度は少しばかりあかり姉の動きが鈍くなったような気がした。
(焦っちゃ駄目だ、少しずつ慣らして……)
反応してくれるのが嬉しくて逸る気持ちを抑えながら、暫く優しいマッサージを続ける内、あかり姉のペースが戻ってきた所で、いよいよ本丸を落としにかかる。
小さな円運動はそのまま、三本の指の隙間を狭めていき――
「んんっ、んぅっ……んんんんっ!」
指の腹があかり姉の先端をくすぐるように擦っていく。それも一回擦られたら終わりではなく、親指が通り過ぎたら中指が、中指がくすぐり終わったら人差し指が、人差し指が掠ったら親指が……
そんな一撃一撃は弱いけど、終わりのない連続攻撃にあかり姉はビクビクと体中を震わせ、動きを止めてこちらを上目遣いに見上げてくる。
「…………!」
いや、見上げているというより睨んでいる……のかもしれない、これでは自分が出来ないと。
尤もこうしている間も止まらない俺の指のせいで、その目はトロンと力が抜けて、ともすればおねだりしているようにしか見えないのだが。
……うん、優しくするつもりがなんだか逆にえげつない責めになってしまったんじゃないだろうか。
なんて少し手心を加えようかと迷っていると、突然肉槍の穂先をきゅっと優しく締め付けられて現実に引き戻される。
「……っく、いきなり……そんなっ……」
見ればあかり姉はこちらを蕩けた瞳で見上げたまま、巧みに舌を先端へと絡ませてきているのだろう。舌に押されてせわしなく形を変える頬が、動きの激しさを物語っている。
敏感な部分を容赦なく全方向から刺激するような激しい舌遣いに、元々無いのを無理やり総動員していた余裕すら無くなりそうだが、こっちだって素直に射精すわけにはいかない。
(せめて、俺がイく前に……あかり姉もイかせたい……っ)
そんな雄としての意地だけを支えに、止まってしまった指の動きを再開させる。
勿論あかり姉が全力な以上こちらも手加減などせず、今度はしっかりとあかり姉の乳首を摘んで、びしょ濡れのスウェット越しに、しゅりしゅりと擦り上げる。
「……! ……!」
あかり姉は潤んだ眼を細めて身体を震わせたものの、今度は喘いだりなどせず、しっかりと剛直は咥え込んだまま舌を動かし続けてきた。
だけど小さく全身は震えていて、もうあかり姉にも余裕はなさそうだ。
(あと少し、あと少し……っ)
ぢゅぷぅ、ぢゅるっ、ぢゅじゅっ――
肉棒を通して響く卑猥な水音に満たされていく頭の中で、そう繰り返しながらただ手を動かそうと意識する。
だが既に我慢に次ぐ我慢で限界を超えていたのだろう、指はもう思ったように動かず、思わず力が入ってしまい、ギュッとあかり姉の充血した乳首を思い切り引っ張ってしまい、
「ん――っ?!」
しまったと思った時にはあかり姉はぎゅうっと目を閉じて、大きく背中をビクンビクンと断続的に跳ねさせていた。
(イったのか――ッ?!)
ずちゅるぷぷっ――!
もしそうなら漸く自分も楽になれる、そう油断した瞬間、あかり姉が痙攣したはずみで倒れそうになり、そのせいで一気に半身全体があかり姉の口腔に飲み込まれ――
こつん。
恐らく喉奥にぶつかったのだろう、辛うじて閉じているだけだった鈴口に衝撃が加わり、それがトドメとなった。
「あっ――射精るっ! くうぅっ……!」
ぴゅるっ、びゅぐっ! びゅるっ、びゅるるっ、びゅ――っ!
「っ? ――んーっ、んぐっ……んんんんっ!」
思わず乳首から離れてしまった手を反射的にあかり姉の頭に回し、思わずガッシリと固定したまま、解放感にただただ腰を戦慄かせる。
意識すら溢れ出ていくかのような真っ白な快感へと、どれだけ無抵抗に身を任せていたのだろうか。
「――っ。はぁっ、はぁ……っ?! ごめんっ、あかり姉っ!」
あかり姉の頭を押さえ込んでいたと気づいたのは、我慢していた分も合わせた余韻をたっぷりと味わってから、忘れていた呼吸を再開しかけたところであった。
慌ててあかり姉の口から肉槍を引くと、テラテラといやらしく輝く竿と共に泡立った粘着質な液体がごぽっと溢れ、唾液と精液の混じった独特の匂いがむわっと立ち上る。
「――っ、ごほごほっ。はぁ、はぁ、はぁ……っ」
先端が唇から飛び出した瞬間、あかり姉は口に手を当てながら思いっきりむせた。
しまった……無茶しないようにって思ってたのに、そう後悔しながらもあかり姉の背中を抱きかかえるようにして背中をさする。
「大丈夫か、あかり姉?」
「……うん、へーき……だよ」
疲れ果てたような声にますます罪悪感を募らせながらも様子を伺おうと、上げられたあかり姉の顔を見た瞬間、思わず動きを止めてしまった。
確かに眉こそは苦し気にハの字を描いていたものの、その顔はやり切ったような達成感に満ちた笑みが浮かんでいて
「私は、大丈夫……ひーくんこそ……気持ち、良かった? ……いっぱい、出てたもんね」
更には、先ほどまで口を抑えていた手には白濁した小さな水たまりが出来ていて、それを愛し気にあかり姉は眺めてすらいた。
だが、先ほど出した実感から考えればその量ははるかに少なく、かと言って口の端からこぼしてしまった様子もない。
「……もしかしてあかり姉、飲んで……くれたの?」
「ん……男の子は、飲んでくれた方が、嬉しいって……書いてたから。ひーくんは、やだった?」
「っ――! 全然っ、むしろ凄く、嬉しい」
「良かった。……でも喉で出されたから折角の味は分かんなかったんだよね……」
と、ふとあかり姉は自分の手に残っているのが精液だと改めて気づいたように目をしばたたかせて――
「――んくっ」
「ちょっ、あかり姉?! 流石にそこまでしなくていいからっ!」
精液が溜まった手皿を何の躊躇もなく口元に運ぶと、ちゅるるっ、と軽快な音をたててあかり姉は一飲みにしてしまう。
慌てて周囲に吐き出すためのティッシュが無いかと視線を彷徨わせるが、その間にもあかり姉はくちゅくちゅくちゅ……と呑み込んだ白濁を咀嚼して
――こくんっ
止める間もなく喉を鳴らして呑み込んでしまった。
「……飲ん、だの?」
分かり切っているとはいえ『美味しかった?』なんて聞くわけにもいかずそう訊ねると、あかり姉は首を捻ってしばらく考えてから口を開いた。
「うーん……味としては、美味しくはないかも……」
「ま、そりゃそうだよな……」
ちょっとだけ美味しかったなんて回答を期待していた自分に気が付いて苦笑する。だけどあかり姉は、でもね、と細めた目に妖艶な色を浮かべて続けた。
「これがひーくんの味なんだって思ったら、何だか体の芯から熱くなっていくみたいで……全身がポカポカして、ふわふわして……ココが、きゅぅって疼くんだ」
そう言ってあかり姉はさっきまで精液が溜まっていた手で、先ほど肉棒で擦りまくったために赤みを帯びたお腹をさする。
優しく、だが淫靡にほほ笑むあかり姉に、少し発散されたと思われた欲望が急速に再び熱量を帯びていく。
「……? あっ、またひーくんの、おっきく……」
丁度抱き着く格好で合った為か、欲望を最も素直に反映するそこがみるみる硬化していくのは、すぐにあかり姉にも伝わってしまったらしい。
「出したばっかりで悪いんだけど……もう、あかり姉に挿入れたい……! あかり姉に挿入りたい、あかり姉と一つになりたい……!」
一度欲望が口をつくと、押さえ込んでいた欲望が次々と溢れていく。
あかり姉はその勢いに最初少しびっくりしていたようだったが、すぐに暖かな笑みを浮かべて俺の手を取りながら言った。
「ううん、そんなの全然悪くないよ。お姉ちゃんもひーくんのが早く欲しいなって、さっき舐めてる時からずっと思ってたから……ほら」
あかり姉の下腹部へと導かれた手が火傷しそうなほどの熱を感じる。
そこはもう、漏らしたかのようにあかり姉の蜜でぐしょぐしょに濡れていて、パンツはおろか、スカートの部分まで染みが広がっているらしかった。
言葉だけでなく身体でもこんなに待ちわびてくれている、そう意識しただけでさっき吐き出したばかりの精が再び溢れんばかりに沸き立つ。
「あかり姉……っ」
獣欲に駆られて荒々しくなりそうな動きを必死に押さえつけながら、あかり姉の肩へと手を回してベッドにゆっくりと横たえると、ほとんど中身の見えそうな短さだったスカートを捲りあげる。
「あっ、脱がなくていい? やりにくくない?」
「大丈夫……そんな邪魔になるようなものもないし」
「そっか」
多分あかり姉は気を利かせてくれたのだろうが、折角普段あかり姉が着てくれないような服を着てくれているのに、それを脱がせるだなんて勿体ない。
恐らくこのコスプレを置くという提案をした人も似たような考えだったのだろう、赤いスカートの内側から現れた真っ白だったであろう濡れ透けパンツも、完全に脱がせなくても出来る紐で結ぶタイプのやつだった。
片紐だけを解いて股布を避けると、布によって何とか堰き止められていた蜜だまりが、渓谷からぬとりと滴り落ちそうになって、反射的に勿体ないと気づけば口を付けていた。
ずじゅぅっ――
「ひゃ――うっ?!」
突然割れ目へと吸い付かれて驚いたあかり姉の嬌声が耳に届くが、それ以上に口の中にひろがるあかり姉の味にしばし陶然としてしまう。
甘い――砂糖や蜂蜜のような分かりやすい甘さは無いけれど、口に含んだ瞬間鼻の奥まで立ち上る香気は甘いと表現するより他にない。
女の子の、否、あかり姉の……あかりの味。
気が付けば、一舐めの筈がもう一舐め、もう一舐めと大福みたいにふっくらした大陰唇を、飢えた仔犬のように舐めしゃぶってしまっていた。
「あっ……っふ……駄目っ……」
頭の上からあかり姉が手で押し返してくるが、その力は言葉と裏腹にとても弱い。
それどころか滑らかな太ももが顔の両側から迫ってきて、股間に顔を押し付けるようにぐっと締め付けられてしまった。
恥ずかしいけど、して欲しい……勘違いかもしれないけどあかり姉がそう思ってくれていると思ってしまうと、もう少しだけ舐めていたくなってしまう。
「ごめん……あかり姉、ぴちゅっ……少し味わったら……ちゅむっ……すぐ挿れるから」
「味わう、とか……しなくて……いいよぉ……」
「でも、あかり姉の愛液……ぢゅるっ……こんなに溢れて……勿体、ないし」
「愛液、とか……うぅぅうぅぅ……ひーくんのえっち、へんたい……んひっ」
「じゅるるっ……まあ、あかり姉相手にってことなら否定はしないかな」
真っ白な太ももの間で吸い付く水音が響く中、漸く唾液の味しかしなくなってきた大陰唇を唇で割り開き、ディープキスするみたいに秘華の内側をなぞっていく。
「あぁああぁっ……!」
舌が入った瞬間にあかり姉は快感に背筋を反り返らせ、結果としてより弱点を突き出す形になってしまい、奥からどくっ、と新たに熱い粘液が湧きだした。
「わぷっ……これじゃ舐めてもキリがないかな……」
一通り舐めつくしたら改めて再開しよう、なんて思ってたけどこれじゃそのタイミングは何時まで経っても訪れない気がする。
舌を蠢かして源泉を舐め掬いながら考えていると、ずっと頭の上に置かれっぱなしだったあかり姉の手に力が入れられ、強制的に舌が割れ目から引き抜かれてしまった。
もしかして、やりすぎてしまっただろうか――?
つい夢中になってい待ったことを反省しながらあかり姉の顔を見上げて、涙の筋が頬を伝っているのにギョッとする。
「……もう、これ以上は……駄目……」
「ごめんっ……! そんなに嫌だとは――」
「ちが……! う、の……」
力が抜けているのか緩慢に上体を起こしながら、だがはっきりと首を横に振ってあかり姉は潤んだ瞳で見つめてくる。
「嫌とかじゃなくて……これ以上されたら……おかしくなっちゃいそうで、怖くて……」
「大丈夫だから……おかしくなっていいから、安心して、な?」
「でも……何にも分かんなくなっちゃう前に、しっかり感じたいの……ひーくんのがちゃんとココに挿入ったってこと……」
その言葉通り限界寸前なのだろう、ゆらゆらと揺れる焦点を彷徨わせながら、あかり姉は自分の秘所を、ローションと愛液と唾液とでぬちゅぬちゅになったそこを割り開いた。ぬちっ……と音が響く。
「っ……分かった、もう、これ以上焦らしたりしないから」
正直なところ、俺だって射精後のクールタイムがもう終わりを迎えたのか、また半身が射精させろと激しく訴えている。
だがそんな内心を知らないあかり姉は、それを聞いて安堵したように頬を緩ませた。
「ありがと……ひーくん」
そんな事でお礼を言われるなんて、なんだか気まずいような気恥ずかしいような何とも言えない感覚を誤魔化しながら、ローションのカゴに一緒に入っていたポップな袋に入ったゴムを取り出す。
「……? それ、は?」
「ゴムだよ、コンドーム。……前回は勢いでそのままやっちゃったけど、出来たら……不味いからさ」
「……ひーくんは、出来たら嫌? 私との、赤ちゃん……」
「っ!? ――っ、は、はぁっ?!」
思わず表裏を確認していたゴムを落としそうになって、手をばたつかせて何とか捕まえたところであかり姉の顔を見る。
あかり姉はぼんやりとした――だけど、揶揄うような気など微塵もない真顔で首を傾げていた。
「いや、嫌とかじゃなくて……」
「私は、いいよ。……ううん、ひーくんとの子供なら、欲しい」
「――っ」
平然ととんでもないことを言うあかり姉。危うく本能がその誘いに乗ってゴムをそこら辺に放り投げさせようとしてきて、悪魔の誘いに負けじと急いでゴムを付けてしまう。
「あっ……」
あかり姉は残念そうな声をあげつつ、ゴムを付ける様子を興味深げに観察していた。
改めてまじまじ見られるのも恥ずかしいし、それに自分の決断に迷いが生じないためにも、ここははっきりと宣言しておかねばならないだろう。
ぐっとあかり姉のふわふわ揺れる両肩を掴まえて目を見据える。
「あかり姉、その……欲しいって気持ちは、すごく嬉しい。だけど……まだ俺たち大学どころか高校だって卒業してないし……父さんと母さんもいるし……それに、血が近いとリスクも高いっていうし……な?」
「……うん?」
何となく察して欲しかったのだが、あかり姉はしばし黙った後、首を捻ったような頷いたような曖昧な返事で返してくる。多分、頭が回ってないのかもしれないと、少し考えて言い直した。
「……要は、今は駄目って事」
「……そっか」
悲しそうなあかり姉の声が胸に刺さるが、あかり姉の為にもここは譲る訳にはいかないと、声を大にして続ける。
「ただ! ……その……色んな事含めて、俺がちゃんと責任を取れるようになったら……その時は、俺の子を――」
だが、最後まで言い切る直前にふっと理性が舞い戻ってきてしまって、思わず『俺は何を言ってるんだ』と冷静になってしまって言葉尻を濁す。
けれどあかり姉にはそれで十分伝わってしまったらしい。
「分かった……待ってるね」
「……おう」
何だかあかり姉とするたびにどんどん自分の人生が勝手に方向づけられてる気がするが――
(――まあいいや、どうせあかり姉と離れるつもりなんて最初から無かったし)
それより、子供を作るなんて本能を激しく掻き乱すような話をしたせいか、俺の半身は既にゴムの先端に先走りが溜まるほどに滾っていて、あかり姉の割れ目からも舐めとったばかりだというのに、愛液が粒となって渓谷を滴り落ちていた。
お互いもう待ちきれないという思いを一つに、俺はあかり姉が拡げてくれた両脚の間に腰を近づける。
それだけで、ゴム越しにでも熱を感じるほどあかり姉の秘所は期待で熱くなっていた。
ごくり――生唾を呑み込んで腰を押し進める。
「あっ……っん……んぅぅぅぅ……っ」
「っく――」
くちゅりと先端が膣口に触れた瞬間、ちりちりとした快感が肌を粟立たせながら下半身から昇って来た。
ゴムをしてるなら多少はもつだろう――そんな考えが甘かったことを思い知らされながら、まずは慣らす為ゆっくり挿入しようとする。
だが久しぶりという事もあるのだろう、あかり姉の入り口は柔らかい癖に挿入れる前からきゅうきゅうときつく締まっていて、ゆっくり押し開こうとしてもあっという間に外へと追い返されてしまう。
「んんっ……ひーくん……もぅ……あっ……焦らさない、でっ……」
くちゅくちゅと膣口付近で立ち往生しているうちに、我慢できなくなったあかり姉からのおねだりが飛んできた。
それに、俺自身だって気持ちいいとはいえこんな生殺しみたいな状態でいつまでも耐えれるわけじゃない。射精感を押さえるため二、三度呼吸を整えてからあかり姉の腰を改めてしっかりと抱え直す。
「……ごめん、ゆっくり挿入れようと思ったらなかなか挿入らなくて……だから、一気にいくから」
「うん……」
恐々と今から繋がる部分を見下ろすあかり姉が、唇を結んでシーツを握りしめたのを見て、腰と腰とをぶつけるつもりで一気に肉槍を突き出した。
ずにゅるるるっ――こつん
「っ……んひゃぁっ……あぁぁぁあっ!」
「あっ……くぅ……」
抵抗の強かった入り口を押し通った瞬間、一転して奥へ奥へと誘うように蠢く膣襞に勢いづけられて、最奥を容赦なく叩いてしまった衝撃が陰茎を通して腰椎までを震わせる。
危うく暴発してしまったんじゃないかという錯覚が少し収まってきたところで、漸く天を仰いでいた視線を落とすと、あかり姉はまだピクピクと全身のあちこちを小さく震わせていた。
「……挿入れただけで、イっちゃたんだ」
秘所からだけではなく、口からも垂れている涎を指で拭ってあげながらそう言うと、あかり姉がその手を掴んで、頬ずりしてきながら夢見心地に呟く。
「……ぅん。だって……ずっと、ひーくんの……待ってて……挿入れて欲しくて……」
予想外にすんなりと絶頂してしまった事を認めるあかり姉に多少面食らう。
「自分で、するのも……気持ちい……けど。ひーくんのは……気持ちくて、温かくて……幸せ、なんだ……」
「――っ」
興奮と羞恥の入り混じったむず痒いような感覚に全身がカッと熱くなる。
分からなくなる前に挿入れて欲しい、そんな事をさっき言っていたが、つまりこれは理性が緩んで本音が駄々洩れになっているという事なのだろうか。
だとすれば、そこまで想ってくれていることに答えなければいけないだろう。胸の奥に温かいものを感じつつも、ゆっくりと腰を動かし始める。
だが、あかり姉の膣襞はもう二度とそこから出ていってほしくない、と言わんばかりにちゅうちゅうと竿全体に吸い付いてきて、すんなりとは放してくれない。
そして、油断するとすぐに最奥までまたあっという間に呑み込まれてしまう。
「うぁっ――あかり姉の、めちゃくちゃ絡み付いてきて……凄っ……締めすぎ……」
「んんっ……ごめっ……でも、加減出来な……っ」
四分の一ほど抜いて挿入れなおすだけの中途半端な抽送を少し繰り返しただけなのに、もう俺もあかり姉も汗が薄っすらと球を形作り始めていた。
「ちょっと……体勢変えるから……」
こんなの腰だけでは太刀打ちできないだろうと、あかり姉の腰から手を離してあかり姉に覆いかぶさると、肘から先全体をベッドに置き四つん這いになる。
あかり姉の顔はもう吐息を感じるほどにすぐ近くで、視界にはあかり姉しか映らない。いつもなら恥かしくて逸らしてしまうほどのこの距離が、今はとても心地よい。
「じゃ、また動くからな……」
「ん……」
あかり姉は額どうしがぶつからないよう小さく頷くと、腕を俺の胴体へと回してしっかりホールドしてきた。
これなら間違っても抜けてしまうことなどないだろうと、腰から背中から筋肉を全て使って大きく腰を引く。
「く……ぁっ!」
名残惜し気に絡みつく膣襞を振り切ってやっと亀頭以外が外気に晒されるが、そのせいで逆に亀頭を甘く締め付ける熱が意識されてしまう。
一刻も早くまたそれを全体で感じたい――そんな抗えない衝動が引いた時よりも更に力強く、腰を叩きつけさせた。
パァン!
「ひゃっ……ぅうぅんんんん!?」
破裂音のような鋭い音に続いて、あかり姉の絶叫が鼓膜を震わせる。
俺の背中に回された腕にぷるぷると痙攣するほど力が入って、背中にあかり姉の重みを感じた。
「あかり姉っ……」
大丈夫かと声をかけようと思うものの、密着したことであかり姉の大きな肉毬が胸板に押し付けられ、陰茎だけでなく全身であかり姉を感じてしまうと、もう歯止めがかからない。
勝手に抜いては押し込んで、刺し抜いては抉り返して――力強い掘削運動を続ける腰のなすがまま、顔をくしゃくしゃにして感じまくるあかり姉をただ間近に眺める。
「あっ……んんっ……や、そんな……じっと見ないでっ……お姉ちゃ……酷い顔、きっと……してっ……んひゅぅっ!?」
「はっ……はっ……酷くなんか、ないっ……あかり姉が感じてる顔……えっちで、可愛くて……きれいだっ……」
「~~~っ!!」
大きなおっぱいの存在感越しにも、あかり姉の心臓がトクンと一段高く跳ねたような気がして、それと同時にあかり姉の膣壁が一層激しく、そこ自体が意志をもって抱き着いてくるように締め上げられた。
「あっ……くぅ……っ」
噴火しそうになる射精感に堪らず腰を最奥に埋めたまま、浮いたあかり姉の背中に手を回して、強く抱きしめながらこらえる。
暫くそのまま全身を戦慄かせながら耐えていると、不意に背中を撫でられた。
「んぅ……もしかして、ひーくん射精ちゃった?」
「うっ……いや、多分まだ……」
あかり姉に撫でられていると気づいたところで、顔を上げてあかり姉と目を合わせる。
「そっか……まだおっきいもんね」
あかり姉はそれを聞いて嬉しそうに微笑んで、その愛らしい表情にビキビキとよりいっそう肉槍が腫れあがったような気がした。
今すぐにでもピストンを再開したいところだが、今の射精を耐えるので全身の力をかなり使ってしまったせいか、体は重く思うように動かない。
それでも下半身は貪欲に快楽を求めて。結果、最奥に挿入れたままぐりぐりと子宮口を鈴口でこねくり回すように小さく腰を蠢かせることになる。
「んぅ……奥……ぴりぴり、してっ……これも……いいっ……」
さっきよりも、幾分余裕はあるもののしっとりと蕩けた表情で、あかり姉が鼻にかかった声を上げる。
確かに、さっきの暴力的なまでに押し寄せる快楽とは違い、何時までも浸っていたいと思ってしまうぬるま湯のような気持ちよさは、これはこれで心地いい。
だけどやっぱりもっと強くあかり姉を感じたいと思ってしまうのも事実で、もっと繋がれないかと考えているうちに、湿った桜色の唇が目に留まった。
「……ねぇ、あかり姉……キスして、いい?」
「……そんなの、聞かなくていいのに……んちゅっ」
一瞬びっくりして、それから苦笑したあかり姉は弧を描いた唇を軽く開いて突き出すと、こちらから顔を近付ける前に俺の口内へと舌を滑り込ませてきた。
素直になっている分、積極的になっているのかもしれない。不意打ち気味に舐め上げられた舌を伸ばして、じゃれあうように絡ませて答える。
「ちゅっ、ぢゅぢゅっ……ちゅはっ……んぷっ……」
お互いを舐りあうにちゅにちゅという音が口蓋に響くのを聞いていると、本当に溶け合ってあかり姉と一つになっていくような気になってきた。
そして、それはあかり姉も同じなのだろう、ベッドに膝をついた俺の脚へとあかり姉が脚を絡めて来る。
身もだえする度に小さく蠢いてふくらはぎを擦る、シルクみたいに滑らかな脚が、あかり姉のじれったい快感を伝えて来るみたいで、俺自身の興奮も高まって腰を一際強くぐりっとねじらせた。
「っ――ひゅはっ……ひーく、ん……それっ、いいっ……!」
堪らず口を離してしまったあかり姉が、長い睫毛を歓喜の涙に潤ませながら求めてくる。
「そっか……そういえばあかり姉、奥好きだったもんな……」
前回、初めて奥まで入れた時の事を思い出す。
そういえばあの時は初めてだったとはいえ、そのあとすぐイってしまった。だが少し余裕のある今なら――腰を突き出し、最奥の更に奥までを犯しつくすつもりで、肉槍を擂り粉木のようにして何度も子宮口をぐりぐりと押しつぶす。
「あぅっ……ひ、んっ……やああぁっ、ぁっ……」
あかり姉の口から腰の指揮棒に合わせて、淫らなコーラスが紡がれる。
「あかり姉……えっちで可愛いよ……」
面白いくらいに反応良く腰の動きに答えてくれるあかり姉がたまらなくて、天を仰いでるせいで無防備に晒された首筋から頤に、軽いキスの雨を降らす。
「やぁっ……キス……んんうっ、口がいいっ……あぁあぁっ!」
喘ぎ喘ぎ、だが困り眉で健気に唇を突き出そうとしながらそんな事を言われて、全身が歓喜に震える。
力強く剛直がしなって、あかり姉が酸素を求めて口を開けた瞬間、嬌声を吐き出す前にその口を塞いでしまう。
「んんっ……んっ、んんぅ……んぐっ……」
気付けばもう俺自身も余裕がないのだろう、押さえ込みすぎた快感のせいで小さく開いた口が開いてしまい、舌はお互い上手く絡まず擦れて何度も歯肉を舐め、前歯同士が軽く当たってカチカチと喧しいキスになってしまう。
だけど、それが気持ちいい。
肉槍の付け根まで上がってきていた精液がいよいよペニスの中へと溢れてきそうになったその時だった。
きゅぅっ、と鈴口が絞られる。
あかり姉の子宮口が鈴口を甘噛みしたのだと気づいた瞬間、頭が興奮と歓喜と愛しさとでいっぱいになって、気づけばもう精液を止められなくなっていた。
「んっ?! んんっ、んっ……んんんんんぅっ!!」
射精の前触れに気付いたあかり姉が目をぎゅっと瞑ったのを確かめたのを最後に、俺自身も目を瞑ってしまい、ただ腰を中心とした脈動だけが頭の中を支配する。
どぐんっ! どぐっ! びゅぐ、びゅぐっびゅぐぅっ……! どぷっ……――――
最後は激しく腰を動かしたわけでもないのに、恐ろしいまでの脱力感が襲ってきて、暫く射精の余韻にたっぷりと浸った後で、漸く重い瞼を開けられた。
ちょうど同じくらいのタイミングで目を開けたあかり姉と目が合って、どちらからともなく頬を緩ませる。
「はぁ……あー、その……ごめん、凄く気持ちよかった」
「んっ……えー、何でそこで謝ってるの」
「いや、何というか……あんまり最後激しくできなかった、から? もしかしてあかり姉、物足りなかったかなーって」
「全然そんな事無かったよ、沢山ひーくんの深く感じられて、すごく……良かった。って、自分でも疑問形になってるじゃんか」
少し夢見心地に目を細めたあかり姉だったが、すぐにはっとしたようにそう喰ってかかって来た。
「や、なんか……久しぶりだったし、機会で言ったらまだ二回目だし……いまいち自信が無くて」
「あ、そっか……そういえば、まだ今日で二回目だったね……」
実際射精した回数だけで考えればもうそろそろ両手で数えられなくなりそうではあるけれど、それにしても今日は何だかお腹でとか、お口でとか、挿入れた後も奥でとか……なんか早々に変態的な香りがするプレイ内容になっている気が……。
三回目の射精で少しばかり理性を取り戻したからか、これからどうなってしまうのかという不安に少しばかり駆られながらも、兎も角一度抜かなければと腰を引こうとして。
「――あ! 駄目っ!!」
あかり姉が脚を腰へと回してその動きを邪魔してくる。
「え、ちょっ――あかり姉、いきなりどうしたんだよ。そんなこと言われてもゴムは一回使ったら替えなきゃいけないし、あかり姉も息上がってるんだからちょっと水飲むとか休憩した方が……」
「それは、そうかもしれないけど……でも、もうちょっとこうしてちゃ駄目かな? ……ひーくんの、まだビクビクしてて……あったかくて……何だかひーくんが私のお腹の中にいるみたいで安心するって言ったら変だけど……もう少しこうしてたいんだ……」
そう言われて自分の半身へと意識を向けると、そこはまだ三回も精を放ったというのにしぶとく固さを保っていて、射精する時程ではないとはいえ確かに響くような脈動と共に血と欲望を溜め込んでいた。
「うわ……何というか、節操ないな……俺」
一応男として、一回きりというのは寂しいし何回かは……なんて思う事はあるとはいえ、射精直後ですら萎えることなくこの状態というのは流石に欲望丸出し過ぎて気恥ずかしい。
だけどあかり姉は首を横に振って艶やかな笑みを浮かべた。
「そんなことないよ、それだけひーくんがお姉ちゃんに夢中になってくれてるって事だと思うと、嬉しいよ」
ああ、駄目だ――ずくんっと腰奥で消えかかっていた情欲の炎が再び妖しく燻り始める。
それは、根元から先端までをぴったりと受け入れてくれてるあかり姉にもすぐに分かったようだった。
「あっ……また、したくなっちゃった?」
「……うん、でもちょっと休憩してからでいいかな? 今度は、もっと激しくあかり姉を味わいたいから……」
自分も相当頭が回っていないのか、そんな駄々洩れの欲望を思わず零してしまうが、あかり姉は嫌そうな顔をするどころか、こくりと喉を鳴らして目を潤ませながら頷いた。
「――うんっ。でもなんかここケーキのベッドの上だし、味わうって言い方されると、お姉ちゃん食べられてるみたいだね」
「んー、まあ実際あかり姉甘い気がするし、それで間違ってないかも」
言いながら、冗談のつもりで頬を流れる汗の粒を一つペロリと舐め上げると、雰囲気やあかり姉のフェロモンのせいなのだろうか、しょっぱい筈の汗も何だか甘く感じてしまって思わず続けて舐めまわしてしまう。
「や、ちょっ……んんっ、くすぐった……! ~~もう! こっちからもするからね!」
言うが早いかあかり姉の舌が耳をくすぐり、首筋へとすーっと下りていく。
くすぐったさ交じりのぞわぞわとした快感に身を捩ると、その余波で腰まで動いてずちゅ……と再び下半身の快感が意識され――
「――やっぱ、休憩しなくてもいいかな」
「……ん、えへへ」
そこからはもう、ただ気持ちいいという事しか意識に残らなかった。
[newpage]
「んー…………ん? ――あ、そっか」
目蓋を開けると目に入る見慣れぬ天井にまず疑問符が浮かび、それから時間を置いてそういえば昨日はひーくんとホテルに泊まったんだったと記憶が蘇って来て――
――ぼふん! 頬が一気に熱くなる。
「――っ!!」
泊まったホテルがただのホテルでは無かった事、そしてその後のとてもではないが恥かしすぎる行為の数々を思い出してしまい、ベッドの上で脚をバタバタとさせずにはいられなかった。
(う……わ、久しぶりで嬉しかったからって、あんな事……っ)
お外でいきなりキスして、お腹で気持ちよくなって、ひーくんのを咥えて、滅茶苦茶に感じまくって……。
一晩たって冷静になった今思い返すと、一つ一つが致命傷的に恥ずかし過ぎて死にそうだ。
だが何より――
(――赤ちゃん、出来てもいいとか……うぅぅううぅ!)
勿論その気持ちが一時の気の迷いだったというつもりはない。けどそれにしても、流石に階段を一気に飛ばし過ぎだし、なによりあまりに衝動的過ぎる。
(一応、出来辛い日だったとはいえ……ひーくんには悪いことしちゃったな……)
きりたんちゃんやゆかりさん曰く、男とは機会があれば後先考えずに、その……本能を優先してしまうものらしい。
なのにひーくんは逆に私を諫めて、ちゃんと避妊を……。
(……でも、あの時のひーくんの目……それに、いつかは――って言ってたし、やっぱりひーくんも本当は……っていやいやいや!)
とくん、と胸が妖しく跳ねた衝撃で正気に戻って水を払う犬みたいにブルブルと頭を振る。
「……何してんの、あかり姉?」
「うわぁ!?」
不意に背後から聞こえた声に文字通りベッドの上で跳ね上がってしまう。
慌てて振り返ると、怪訝な顔をしたひーくんが立っていた。昨日と同じ、腰に短いタオルを巻いただけの上半身裸で。
「わっ、ごめんっ……っていうのも変だよね」
反射的に謝って視線を逸らしてから、別にその必要は無いじゃないかと苦笑しながらひーくんの方へと向き直る。昨日散々ひーくんの裸は見たばかりだし、第一隠しているところだけを考えれば水着を着ているのと変わらないのに。
ひーくんも少し反応に困ったように頬を掻きながら視線を逸らして応える。
「あー、うん。まあ気持ちは分からないでもないし……それよりあかり姉こそ、その……そのままでいいのかなー……なんて」
「? ……! ~~!?」
視線を落として、初めて自分が何も纏っていない裸の状態だと気づいて、慌ててシーツを胸元まで抱き寄せた。
それを盗み見るように確認したひーくんはほぅ、と安心したようにこっちへと向き直ると、シーツがずり落ちないよう少し距離を離して隣に座る。
「や、でも……少し前までお風呂上がりにタオル一枚で歩いてたあかり姉が恥かしがってるのって、なんか新鮮だな」
「むー、タオル一枚と何もないのは大分違うよ!」
「まぁ確かに」
半ば冗談交じりだったのだろう、ひーくんは朗らかに笑って、そしてふと真剣な表情を浮かべた。
「それで、さ。話は変わるんだけど……昨日は色々と無茶言ってごめん!」
「えっと、無茶っていうのは……?」
「っ……その、サンタのコスプレして欲しい、とか……お腹でさせて――」
「あー、あー! 分かった、大丈夫、何となく察したから言わなくていいよっ」
不意に言われたせいで、あまり深く考えずに話を促したのが悪かった。
走馬灯のように昨日の記憶が再び頭の中を駆け巡り、全身がむずむずして掻き毟りたいような錯覚を堪えながら、落ち着くために咳ばらいを一つ。
「こほん……えーと、うん……私もいいって言っちゃったし……別に、謝らなくていいよ。……私も、良かったし……」
とてもじゃなくて目を見て言う事なんてできずに視線を逸らして、ちょうどその先にいろんな液体でべちょべちょになった真っ赤な衣装が目に入り、きゅっと唇を噛む。
「ごめん、ちょっと最後だけ聞こえなかったんだけどもう一回――」
「や! そこは聞こえてなくても問題ないところだから! ね、それより……」
昨日は何度も口にしたはずの言葉が恥ずかしすぎて言えなくて、話題を変えようと言ってみたはいいものの、肝心の内容が思いつかない。
いや、正確には頭の中が昨日の強烈な記憶でいっぱいで、そういうことに関連することしか出てこないというか……。
結局ようやく何とかひねり出せた話題は、昨日の自分の行動を振り返っての不安だった。
「私の方こそ、昨日は……ちょっと、えっちすぎたりしなかった……かな?」
体感的には『ちょっと』どころか『かなり』えっちで、ひーくんのことを変態だなんて呼ぶ資格がないくらいに乱れてたのではないか、そのせいで嫌いになられでもしたら……。聞いてしまった瞬間からみるみる膨れ上がる不安を押し殺しながら答えを待つ。
「まあ、その……いきなりフェラしてきた時はびっくりしたけど……」
「ふぇら、って……?」
「? ああ、名前知らなかったんだ。あかり姉が、俺のを……舐めてくれたヤツ」
「そ、そんな名前があるんだ……」
思わぬ形で余計にえっちな知識がついてしまった。どうしよう、今のでもっとえっちになってしまったんじゃないだろうか。
「まぁ、びっくりはしたけど……その、してくれて嬉しかったし……別にあかり姉がエッチでもむしろ大歓迎っていうか……」
「~~っ。……そっか」
恥ずかしそうに視線を逸らしながらではあったが、はっきりと嫌われてないと――いやむしろ、喜んでもらえているということに不安がふっと掻き消えた。代わりに死ぬほど恥ずかしくて頬が熱いけれど。
そのまま耳鳴りがしそうなほどの空白がしばらく続いて、先にごくりと喉を鳴らしたひーくんがそれを切っ掛けに漸く続ける。
「で、うん。一つ相談があるんだけど……今回話してみて、二人とも勝手に遠慮して我慢してたって事が分かったじゃんか。こういう事に関して」
「う、うん……ひーくんも我慢してたって言ってたもんね……」
そして自分も。
「まあ、な……。それで今回、お互いちょっとやりすぎたなって思ってる訳じゃんか」
ちょっと不安そうに訊いてくるひーくんに頷いて見せると、ひーくんは少しだけ安心したように、だけどいよいよ緊張したように少し息を詰まらせてから改めて口を開いた。
「だから……何というか、その、『我慢しすぎないようにする工夫』っていうのがこれから必要じゃないかと思うんだけど……どう、かな」
「我慢しすぎない、って……」
「……うん。定期的に、発散していけば今回みたいにやりすぎちゃうことも、ないかなって……」
発散という言葉でオブラートに包んではいたが、要はそれって……
「……家でも定期的にしよう、って事だよね」
ひーくんのシャワー上がりで濡れた頬が赤く上気して、こちらまで顔が熱くなってくる。
「まぁ、その……家とは限らないけどそういう事……」
昨日たっぷりしたばっかりだというのに、次の機会を想像して下半身がずくんと怪しく疼く。今度はひーくんはどんなことをお願いしてくるんだろうか、家じゃないとしたら次回はどこでするんだろう、それまでの間に私のえっちな知識もまた増えちゃうかもしれない……。
確かに、この悶々とした状態でずーっと我慢なんかしてたら、今度はもっとえっちになってしまいそうだ。
「……うん、いい考えだと思ぅ」
俯きがちな小声になってしまいながらも肯定すると、隣でひーくんがゴクリと喉を鳴らしたのが聞こえて振り返る。
「っ……」
視線の合ったひーくんの目は獲物を狙う猛禽類のような鋭さで自分を見つめていて、胸がきゅぅっと甘く締め付けられしまう。
まるで今日中に再び、否、今すぐにでも求められそうな期待が膨らんでお互いの顔が自然と近づき――
――トゥルルルルル!
突然鳴り響いた音に、二人そろって心臓が飛び出らんばかりに跳ね上がってしまった。
混乱冷めやらぬままキョロキョロと周囲を見渡せば、カラオケ店にあるような壁掛けの電話が鳴り響いていて、比較的立っても問題ない格好のひーくんが慌てて受話器を受けに走る。
「あ、はい――えっ?! あ、もうそんな時間でしたか――」
ちらりと壁掛け時計を確認したひーくんにつられて私もそちらを見れば、時刻はもうすぐ十時近くになる頃だ。
あれ、そういえばチェックアウトって何時までだっけ、そんな疑問が浮かんだ所で電話を切ったひーくんが慌てたような手振りと共に捲し立てる。
「あかり姉、時間ヤバいかも! 十時チェックアウトらしいからもうそろそろ出なきゃいけないって。早くシャワー浴びなきゃ!」
言われて自分の体に視線を落とす。
うん、精液やら自分の体液やらローションやらの諸々が粘ついたり固まったりしていて酷い有様だ。
もう一度十時まであと二十分もない時計を見る。
「えぇぇえぇっ! 時間ないよっ!?」
叫びながらシーツを脱ぎ捨て、シャワー室へと駆け込んだ。
全部きれいに落としきれるか分からないが……それでもこのまま外に行く事など出来るわけがない。
しかも、シャンプーもボディーソープもマシマシで全身泡まみれになりながら体を洗っていると、急に理性が働き始めたのか色々と今日の予定まで思い出し始めて焦りは募る一方だ。
「あ! そういえば今日夕方パパとママが帰って来るって言ってたよね? どうしよう、何も準備してないよ?!」
薄いドア越しにひーくんへと叫ぶと「あっ!?」と今まで忘れていたと思しき悲鳴が返ってきた。
「あかり姉、冷蔵庫は?!」
「――駄目! 大したものは入ってないから買い出し行かなきゃ! 帰りにどこか寄るしかないかも!」
「いや、あかり姉も俺も多分一回家で湯舟に浸かって身体洗いなおさないとまずい気がする! 今、多分凄く鼻がバカになってると思う!」
「~~っ! じゃあどうしようっ?! 帰ってお風呂入ってそれから買い出しだと時間ないよ! パパたちの寝室の掃除とかもちょっとはしておかなきゃいけないし!」
「――仕方がない、簡単に作れて見栄えがいいので誤魔化そう! ちらし寿司とか目立つのを真ん中に置いて、周りを大皿料理で各自取り分けれるようにすればいい!」
「うん、それで行こうっ! じゃ料理何にするかは電車の中で相談ね!」
「分かった、こっちは俺がちょっと片づけておくから、あかり姉は身体洗うのに集中して!」
さっきまでの妖しげな雰囲気はどこへやら、電話を切っ掛けに完全にいつもの空気感に戻っているのに気づいて、余裕がないというのに思わずクスリと苦笑してしまう。
でも、そんな些細な切っ掛けだけで非日常から日常に、秘密の恋人から平凡な姉弟に戻れるのなら――逆もまたそうなのかもしれない。
何とか石鹸の香りがする程度には髪も体も綺麗に洗い終えて、髪の水気をバスタオルに吸い込ませながらそんなことを考える。
ひーくんだってエッチでもいいって言ってくれたし、お互い溜めちゃうと暴走しちゃうからという大義名分はあるけれど、やっぱり自分から誘うなんてことは想像だけでも難しい。
だけど、空気を変える些細な切っ掛けくらいなら私にも作れるかもしれない。尤も今はその為に何をすればいいかなんて考える余裕はないけれど。
髪は結ぶ時間がないのでポニーテールに、服を整えて浴室を出ると、ひーくんは既に準備を整えて待っていた。
「お待たせ。ひーくんも用意できてるみたいだし、早く行こっか?」
そう言ってドアに向かおうとしたところで、不意に手を引かれて振り返らせられる。
「時間ないのは分かってるけど、ちょっとだけ、いいかな?」
どうしたのかと訊こうとして、不意にひーくんの真面目な顔が間近に近づいてドキリとしてしまう。
そして、呼吸を整える間もなくひーくんの顔は更に近づいて、思わず目を閉じた所で――
――チュッ
おでこに柔らかい温かさを感じて目を開けると、ひーくんが頬を赤くしながら少しばかり早口に言う。
「その……今度からもし、俺が……したくなったら……こうやって伝えるから……」
そっか、ひーくんも同じような事を考えてたんだ。
やっぱり似ているという嬉しさに自然と笑みが浮かんでしまい、それを見たひーくんは慌てたようにさらに早口で付け加える。
「あ、いや……今のは予行演習と言うか、今すぐしようとかもう我慢できないとかそういうんじゃなくて……多分、今の空気で言っとかないと家に帰ったらまた、言えないかもしれないしさ……」
別にそんな言い訳しなくていいのに、とも思うものの、確かに余韻が残った今しか伝えられそうにないというのは私だって同じだ。
ちらりと時計を確認して、時間が無いことを――今の今しか言う機会がないんだと自分を追い立てて、ひーくんに今度は私の方から近づき背伸び気味に首の横へキスをした。
「ちゅ……じゃあ、私はこうやって伝えるから……」
ひーくんの頬がますます赤く染まるが、きっと私だって大差ないぐらいの赤さだろう。
気まずいような、気恥ずかしいような空気が流れそうになるが、無言になった瞬間に響く時計のカチカチという追い立てるような針の音に、意識を現実に引き戻される。
「っと――じゃあ今度こそ行かなきゃ! もう本当に時間ギリギリだし!」
「だな。じゃあ行こうか」
ひーくんの後を追って足早に部屋を出る。
昨日は勢いで手を繋いじゃったけど、今日はまだお昼だしホテルの外に出たら、前と同じような距離で隣を歩かなくちゃいけない。そう考えて、ふと昨日までだったら不安だったその距離感が平気になっているのに気づいた。
多分これは、いつでも恋人らしくなれる秘密のサインをお互い手に入れられたからなんだろう。
おでこにキス、首にキス――二人だけの特別な秘密のサイン。
「……ふふっ」
「いきなり笑いだすなんてどうしたんだよ」
「ちょっとね。秘密にしなきゃいけないっていうのも、案外悪くないかもしれないなって思って」
それを聞いたひーくんも似たようなことを考えていたのかもしれない、間を置かずにニッと笑って頷いた。
「そうかもな、悪くない」
多分これからも、秘密にしなきゃいけないことで悩んだり、もやもやしたり、勘違いしたり、すれ違ったりすることがあるのかもしれない。
けど、昨日みたいにちゃんとお互い伝えれば解決できる――秘密のサインはそんな自信も与えてくれる気がした。
今のところはこれにて完結