※この作品はR-18です。

DB Another Love Story   作:Roland

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第10話

 悟空はそこそこ歩いたあたりで立ち止まった。高原の向こう端に小さく宇宙船の残骸が見える。その方角に目をやりながら悟空は言った、

「……ここまで来れば、大丈夫かな……」と腕組みして、ひとりごとのように。

「なにがだ?」アニスは軽い疑問をにじませた。

「……いやさあ、ピッコロの耳すげぇいーからよ」

「歩いた理由はそれかよ。座れそうな岩も、別にないしよ」とアニスはあたりを見回した。

「岩はねぇな」と悟空もきょきょろしたあと、つぶやいた。「ピッコロは油断ならねぇからなあ」

「ナメック星人の聴力は並外れだしな。距離を取っても油断できない気持ちはわかる。しかもあいつ、見るからに戦闘タイプだから超人レベルの感覚能力持ってるはずだ」

 アニスは空間の一点を見つめて腕を組みはじめた。そして続けた――「会話内容を明確に聞き取るなら……騒音がない環境で300から500メートル、これがナメック星人の戦闘タイプの実用的な聴覚範囲と推測する。山の反対側の会話は無理だろうが、ここみたいに平原なら可能だろう。まあこの数値は、彼ら戦闘タイプの平常時の想定だ。戦闘時はさらに感覚が鋭敏化するだろうがな」

「おめえ、ほんとナメック星人に詳しいなあ」

「知り合いがいるんだよ。要するにまあ、いくら耳が良くても当然限度があるってことだな」

 アニスはピッコロがいる彼方を見た。「あんな所から会話が拾えるわけがない。無駄に離れすぎだ。別に天さんといた所でよかったろ。しかも戦闘中はともかく今は気も張ってないだろ。気を抜いてたら聞こえないんだしよ、今あいつ発掘作業中だしよ。ってことで心配いらないぞ、ソン」

「へへ……でもピッコロはそういうとこだけは油断しねぇんだ。おめえナメック星人には詳しいけど、ピッコロには詳しくねぇもんなあ~」悟空は両手を腰に当てて無邪気に微笑んだ。

「なんだそれ?」アニスは眉をしかめてたずねた。「何が言いたいんだ?」

「ま、気にすんな。とにかく、こんくらい距離とれば平気だってことだ!」

「というか、マジュニアに聞かれたくない話なのか? ベジータの話だろ?」

「ああ。しかしピッコロに聞かれると面倒くせえからよお」

「なんで面倒くせんだよ。ベジータとの戦いを止めようとしてるのは、おまえも同じだろ。おまえら意見は一致してるだろ」

「そこは一緒だけどな」

 少しの間を置いてから悟空は言った。「――あのさ、おめえ名前はなんだ?」

「それを聞くのはやめろ」アニスはきっぱり答えた。「言うつもりはないぞ」

「なんで内緒にすんだ?」

「それも聞くな」

「困ったなぁ……」と悟空は眉を八の字にして言った。「じゃあおめぇのこと、なんて呼べばいんだ」

「『おめえ』『お前』で問題ない。それが失礼だと思うなら『ツフル人』とでも呼べばいい」

「『ツフル人』なんてよ~、気分が乗らねぇじゃんかよ~」頭の後ろで手を組みつつ、悟空は困った表情である。

「気分が乗らねぇって何だよ。まあ、信頼できるようになったら教えるかもな」

「信頼してくれよぉ、オラウソつかねえぞぉ」

「あのな。嘘つかないイコール信頼できるってのは、ちょっと脳天気すぎるぞ? ガキの理屈だ」

「理屈とかはわかんねえが、オラちゃんと真面目なんだけどなぁ。どうすれば信頼してもらえんだ?」

「んなこと人に聞いてる時点でまだ無理だろ。まあヒント教えてやろう。行動だ。口じゃなくてな。真面目なら、できるはずだ」

「じゃあオラ明日からもっと頑張っぞお~それでいっか?」

 ああ、とうなずいてからアニスは両手を腰に当てて得意げに言った。「おまえのそういう超素直なとこ、嫌いじゃないぞ」

「あっ、オラんこと……嫌いじゃねぇんか?」と腰に両手を当てたまま、やや前のめりになりながら、真剣な表情で悟空は聞いた。

「ん? 嫌われてると思ったのか? そんなことはないぞ? サイヤ人云々は抜きにして、基本いい奴だしな、おまえ」

「おっし! じゃーさ、オラとちょっと来てくんねぇかな。ベジータもいっけどよ、心配ねぇから」

「ん…ベジータ? マジで心配ないのか? 私はブッ殺されるとかじゃないよな?」

「絶対ンなことさせねえ。そこは安心してくれ。つーかベジータもさ、わかってっから」

「ベジータは私を殺したいんじゃないのか」

「それはねえ。もうベジータにそんな気はねぇよ」

 と言いながら悟空は舞空術で飛び立った。アニスもあとに続きながら言った。

「……また移動するのかよ。私を連れてベジータの所まで瞬間移動すればよくないか?」

「いや、無理だ。ベジータ完全に気消してっからよ。まぁオラもだけど。おめえ気は消せねえんだろ?」

「そのうち習得するよ。気を普段から消してるのか?」

「普段は別に消してねぇな」

「じゃあなんで今は消してるんだよ」

「ピッコロ対策だ」

「……またピッコロかよ。ピッコロ意識しすぎだろ、何なんだおまえらは。気を消してるせいで瞬間移動も出来ないしよー。まだ、だいぶ先かよ? 遠くまで行くつもりか?」

「いや遠くねえ。こっから、ふもとに行くだけだ」

「しかし、さすがのヤードラット星人得意の瞬間移動も『どこでもドア』ほどの万能さには及ばないよなぁ……『どこでもドア』レベルの技使える種族っていないのかな……」

「どこでもドア?」と前を飛ぶ悟空が振り返って目を見張る。「はじめて聞いたぞ、なんだそれ?」

「どこへでも行ける奇跡のドアだ。漫画に出てくる超有名なアイテムだ。うちの故郷では皆『どこでもドアがあればなあ~』って言うよ。けど、しょせん漫画の世界だからよ、何でもありだよな……漫画ってズルいわ。ってか地球は当然文化も違うから話合わねーな……ウニクロも通じねーし。まぁ当然だけどよ。地球には、漫画ってやつは存在するのか?」

「ああ、オラも読むぜ。どこでもドア、つーんは知らねぇが。おめぇさ、使命の話んとき、確かコスモなんとかって言ってたよな? オラ聞いたこともねぇ星だ。そこで育ったんか?」

「コスモじゃなくコズモだ。地球からだいぶ遠い。なんせあの最新型宇宙船でも半年もかかったんだ。――あ、そうだ、おまえとベジータにも頼みたいんだが、宇宙船の瓦礫から荷物探すの手伝ってくれ。今、他の奴らにもやってもらってるところだが」

「わかった。探し物はあんま得意じゃねえけどさオラ。期待しねえでくれよな」

「暗いと探しにくいんだよ。おまえらピカピカが照明に使えるんだよ。探すの苦手なのは知ってるよ。私と同じだ。ピカピカをダウンライト的に出してくれればいい。スポットライトはやめろよな」

「ダウンライトちゅうんは、オラわかんねぇよ」

「これも文化の違いか、それとも単におまえが無知な世間知らず君なせいかは知らないが、とにかく穏やかなピカピカで頼むってことだ」

「穏やかとか無理だぞぉ……照明みてえにピカピカを細かく調整できねぇんだ。ベジータも出来ねぇよ」

「なんだよ、不便だな」

 夕暮れの中、悟空について行きながら空を飛ぶアニスは目をいっぱいに開いて眼下の風景を眺めた。やがて悟空が高原の麓(ふもと)に広がるのどかな街の一角に降り立つと、アニスも舞空術から着地した。その瞬間、尊大にベンチに腰かけているベジータの姿を見つけた。

「――よお、名無し。元気そうじゃねぇか」とベジータが声をかけてきたのでアニスは言った。「名無しと呼ぶのはやめろ……」

「けどおまえ、名無しの権兵衛だろ? じゃあ権兵衛と呼ぶぞ?」と半笑いでベジータはベンチの背もたれに片腕を乗せている。

「まぁ、権兵衛のがマシか……」アニスはつぶやいた。

 悟空が言った。「なぁベジータぁ、権兵衛とか気分が全然乗らねぇじゃんかよぉ、とりあえず『ツフル人』つぅ呼び方でいくしかねぇよ。名前教えてくんねぇからよ~」

「ならばそれで構わん。途中で聞き出してもいいしな」

「…何だそれ? 私と仲直りでもしたいのか?」と両手を腰に当ててアニスは、ベンチに座っているベジータに向かって言った。

「くく……まあな」ベジータは薄笑いを浮かべている。

 悟空が話を切り出した。

「あのさぁ、エッチなことすれば、ベジータも気がおさまるらしくてよお」

「は? どういうことだ?」キョトンとした目でアニスは悟空に顔を向けた。

「おめぇとベジータがエッチなことだ。そんで、できれば一緒にオラもな」

「待て、カカロット」とベジータが口をはさむ。「話が違うぞ、何故お前が参加するんだ」

「オラもさせてくれよお~、ベジータだけズルいぞお~」

「――ちょっと待て! おまえらは、何の話してる?」とアニスは彼らを眺めた。唐突過ぎる話に理解が追いつかない。

「ん? おめぇとベジータとオラがセックスする話だぞ?」悟空が脳天気そうな顔で答えた。

「おいカカロット、貴様も参加するのは話が違うだろ、勝手に決めやがるな」ベジータは腕を組んでベンチから悟空を見上げ叱っている。

 しばし言葉を失ったアニス。「……。こいつら……モラルが欠如してやがる……」

 ベジータの視線はアニスに移った。「ふんっ。モラルなど関係あるか。本能に従うまでだ。おいツフル人、させろ」

「いやさぁ~、オラもさせてくれよお~、ちょっとでいいからよぉ」

「カカロット、『ちょっと』とは、どこまでの話だ」

「最初ちょっとツッコんだあとよ、最後はオラ手で出すからよ」

「ちょっとで済まんだろう。何しろ処女だからな、俺が独り占めだ。貴様はあきらめろ」

「い!? 処女なんか?」

「決まってるだろう」

「けどよ、オラのパンツ脱がせたんだぞ? 処女っぽくねぇよなぁ、ンなのさぁ」

「……何? パンツを脱がせた…だと? ズボンじゃなく下着のパンツをか?」

「ああ、オラの尻尾、確認するためによ」

「そういう事か。とにかく、貴様は別の女をあたれ。処女は俺が頂く」

「けどよぉオラのこと好きって言ってくれたからよ! ベジータよか、オラのがいいだろお~!」ここぞとばかりに悟空は言った。空に拡散しそうな雄たけびだった。

「――いやちょい待てえっ!」とアニスはおもわず突っ込んだ、悟空の頭を叩く勢いだ。「別に好きとは一言も言ってねぇーぞぉ!? 勘違いすんじゃねぇよっ!」

「へ…? 嫌いじゃねぇっつーことは、好きっつーことだろ?」悟空は目を丸くして言った。

「ちょい違ぇんだわそれぇ! つーかてめぇどこが真面目なんだよ! まーったく信頼できねぇじゃねーか!」

「いやぁそれはさ、オラ明日から頑張るって話、なったじゃねぇか?」

「いっやてめぇ既に信用ゼロなんだわ! もう明日とか関係ねんだわっ!」

「ハ…ハハ……悪ぃ悪ぃ! つぅかさ、ベジータと別の日なら、させてくれっか……? ベジータも、それならいいよな?」

「ああ、それなら問題ない」

「…てめーら……ふざけんなあ――っ! 私は男だぞ!? てめーら勝手に誤解すんなや!?」アニスは仁王立ちで、両手をグーに握りしめて叫んだ。

「…おいおいおい何言ってやがるんだ? それで通用するわけないだろ」ベジータは呆れたように言い放った。

 アニスは決め台詞を口にした。「あのな、私は戸籍もちゃんと男だし、名前だって男の名前なんだよ」と説得力のある口調で。過去、これで何人もの男が納得してきたのだ――もっとも、天津飯には効かなかったが。

「だから、名前は何なんだよ?」とベジータが聞いてきた。

「それは言えないが、とにかく男の名前だよ」

「名前を聞かんことには、男女の判断が出来んだろうが」ベジータのその声は一本調子だった。

「コセキってなんだ?」悟空の問いに、アニスは答えた。「地球には無いか。身分証的なやつだ」

「戸籍は地球にもあるぞ。おそらく、戸籍上の性別は変更できるんだろう」ベジータが腕を組んで言った。

「いや、変更できないぞ?」アニスは嘘をついた。

「……マジで実は…男なんかぁ……?」悟空の顔に困惑の色が浮かびはじめた。

「だから男だっつってんだろ。何回言わせんだよ。ったく。ホモか、てめーらって」

「くッ……じゃあホモでいい。させろ」今にも吹き出しそうな顔でベジータは言った。

 アニスは叫んだ。「いやホモセックスとか勘弁だっつーのお――!」

「オラは突っ込むのが肛門でも別にいいけどな、おめぇの肛門なら。しかしなんかよぉ、よく分かんなくなってきたぞぉ……女じゃ、絶対ねーのか? おめぇ?」

「絶対ねーわ! 男だ! そして絶対ホモとか勘弁なんだよ! テメーら大バカ者かあっ! 二度と私の前に現れんなっ!」アニスは怒鳴りつけた。ベジータはともかく、ソンはいいやつだと信じていたのに……やはりテキトー野郎だった!

 そうしてアニスが走り去ったあと、ベジータは言った、

「――おい、カカロット。またしくじったぞ」と悟空を責めるような口調で。

「あーあ~……。いや、しかしよぉ、あんだけ男って言い切ってんだからよぉ、マジで男かもしんねぇよなぁ……」

「おいおい正気でそんなこと言ってるのか? 貴様サイヤ人だろう。地球で育つと脳までふやけるのか…。とにかく俺はリベンジするからな。処女は俺が頂くぞ」

「ならオラもリベンジしてみっか……あんま期待できねぇけど」

 

 ラブホテルが点在する街並みを見下ろしながら、アニスは元いた場所を目指し、ため息まじりに飛行を続けていた。

 

 

 

 

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