DB Another Love Story 作:Roland
第3話
時は少々さかのぼり、地球屈指の戦士たちが、数万キロ離れた敵の位置を捕らえつつ飛行のただ中である。そのうちの二人は限界までスピードを上げている。
「俺らが二番乗りじゃないか? つぅかみんなのんびりしすぎだろ」とヤムチャは言った。
「ピッコロもいったい何してんすかね」と先ほどヤムチャと合流したクリリンが答える。「一番近くにいたくせに、まだぜんぜん戦ってないっすよ」
「邪悪さ消えたから、とりあえず様子見してんのかなあ……」
彼ら戦士たちの気の探索技術をもってすれば、相手の位置のみならず戦闘状況や戦闘力、善悪などの性質まで推測可能だ。ちなみに、このような気の探索を行えるのは全宇宙でも限られた戦士のみである。
「しかしなんで邪悪さ、なくなったんだろ……。ちょっと不思議っすね」
「だよなあ」とヤムチャは相槌のあと、クリリンの服装を眺めて、「お、ちゃんと戦闘服着てるじゃないか。スーツで来ちゃったぜ俺……ナハハ」
「防御力すげぇんすよこれ。ナメック星で着てたやつをブルマさんが再現して。――ってヤムチャさん、いいスーツ着てますね。あ、デート中? 今日はどの子と……?」
「この前カメハウス連れてった子だ」
「アイちゃんか。武天老師様のお気に入りみたいですね。パフパフしそこねたって悔しがってましたけど」
「いい体してるもんなあ。脱ぐとさ、すげぇ巨乳なんだぜ?」
「それはまた羨ましい限りで。――あ、悟空がやっと敵んとこ移動したみたいっすよ! よっしゃ、悟空がいれば楽勝だぜ!」
「しかしベジータもずいぶんのんびりしとるなあ。あいつ的に楽勝すぎてやる気でねぇとか?」
「アイツ一番早く動き出してたんすけどね。トランクスあたりに止められたのかな」
「天津飯たちは意味わからんな。速度が一定しとらんぞ。マジで俺らが二番乗りなっちゃうぜ」
「悟空の次だから三番乗りっすよ。つーかもうオレたち不要かも。悟空ひとりで余裕だし」
舞空術を解き、「敵の姿だけでも見ておこうぜ」と地に降り立ったヤムチャの前方にあるのは、扉の閉じられた小さな宇宙船。「お、アレに乗ってきやがったんだな。しかしワケわからんな。なんで宇宙船ん中に集まってんだ……?」
「中じゃなくてあの裏側にいるんですかね? ……いや、違うな。たしかにあの中だ」
「邪悪さ消えて、しかも3人でおとなしく宇宙船入ってるっつうことは……。敵は改心したのかもしれんな。ピッコロあたりが説得して」
「あれだけ邪悪な気を放ってたヤツが、そう簡単に改心しますかね?」
「とりあえずあの窓からのぞいてみようぜ!」
二人は宇宙船に近づいた。前方のフロントガラスから船内の様子をうかがって、
「あいつだ……」とヤムチャが一番奥にいる敵の姿を見た。やいなや、「――っておいおい!? どえらい美形だぜ!?」と大声で、素直な驚きの言葉を吐いた。
「想像してたのとだいぶ違う感じだな……」と落ち着きはらった表情でクリリンはつぶやいた。
しばらく二人はそのままだった。「美形」を連呼するヤムチャは敵の姿かたちをさも讃美礼讃していたが、やがて次の段階に移った。
「つぅか、まだ若いじゃないか……10代後半、もしくは20代前半くらいか?」
「けど年齢不詳っぽい感じもしません?」
「若いって。あいつ地球人とまったく同じじゃねえか? どっか違うとこあるか?」
「同じみたいに見えますね。まだ分かんないですけど」
「女みたいな顔だから、強そうには全然見えんよなぁ」
「強そうに見えないのが逆に要注意っすね……。17号みたいな感じで」
「よっしゃ、じゃあ中入ってみっか!」
「あ、ヤムチャさん慎重に……」
悟空は操縦席あたりに陣取りアニスは船内後方で、ともに床にあぐらをかいて箱の中身をかきまわしている。ピッコロはアニスの真上にある棚を探索中だ。彼が腕を動かすたびに白いマントが顔に触れてアニスはおもわず言った。
「――おい……、マジュニア近いぞ……」
「なにがだ。俺は今この棚を探しているのだ」
「マントが当たるのだマントが」
「知るか」
「というか、なぜ私の近くばかりを探すのだっ。ワザとやってるだろテメェっ」
「なんの話だ。わざわざ探してやってるんだぞ俺は。文句を言うな文句を」
振り返った悟空がやや寂しそうな声で、「おめーらよぉ、さっきからケンカしてんのか仲いいのか、よく分かんねぇヤツラだなあ」
「フンッ……なに言ってやがる孫。こいつと仲良しな訳なかろう」
「そうだぞ。会って30分もたってないのに仲良しもクソもな――」
と、言葉を止めてアニスは入り口に顔を向けた。バタンと大きな音とともに自動消灯が発動したからだ。ドアを開けて立つダークグレーのスーツに身を包んだ男をアニスは唖然と眺めた。イケメンだぞ……完全なるイケメンだ……こいつは……。
「よおヤムチャ~」と悟空は一瞬見てから作業に戻った。
「久しぶりだな、悟空」とヤムチャはアニスから目を離さずに答えた。
アニスはあぐら座りのまま振り返って、相手の髪をも見ていた。長い黒髪が後ろで束ねられ、その髪先が肩にかかっているのを。イケメンな上にロングヘアーだと? 私がどれだけロングヘアーに弱いと思っているのだ……。
鍵探しを続ける悟空とピッコロをよそに、まるで時が止まったかのごとく二人は視線を交わした。やがて、さっと前を向きなおしたアニスが無愛想に言った。
「……ちっ。扉くらい丁寧に開けられないのかっ……」
「……おっと……、すまんすまん……」とヤムチャは遠慮がちに謝った。
「……力ありあまってるなら制御しろ……。扉壊してないだろうな……」
「……大丈夫だ……壊れてない壊れてない……!」
「……どうせマジュニアの友達だろおまえ……その乱暴な態度ですぐ分かるぞ……」まったく。イケメン同士の友達かよ、けしからんな。
「ん? マジュニア?」ヤムチャはやや目を開きつつ、「なんでマジュニ……あぁ、なるほど」と納得したようにつぶやいた。
「どういう状況だ今これ……!?」と、いつの間にかヤムチャの隣に立っているクリリンが言った。
悟空が困り果てた顔で答える。「いやさぁ、宇宙船の鍵探してんだけど、見つかんなくってよお、まいったなぁ。おめーらも手伝ってくれよ~」
「何なんだよ、いったい」とクリリンは彼らを見回して、「イヤな感じの気だから慌てて駆けつけたのによ、どうなってんだ……?」
「なに言ってんだクリリン?」と悟空は言い返した。「こいつの気、全然ヤな感じじゃねぇぞ」
クリリンは敵の背中を見ながら、「いや、今はそうだけど、さっきは完ぺき邪悪だったろ。悟空は感じなかったのか? んなワケねえと思うけど」
「オラ感じなかったぜ? さっきっていつだ?」
ピッコロが探す手を止めて説明しはじめた。「地球に到着して宇宙船を降りたあたりまでは、確かに邪悪な気だった。だが岩の上に立って景色を眺めて以降、徐々に邪悪さが弱まってきたのだ。そして砂を集めはじめてから、邪悪さは完全に消えた」
アニスは箱の中をごそごそやりながら内心驚く。おいおい、全部見てたのかよ……。
「砂? なんでンなの集めんだ?」とクリリンはピッコロに向かって聞いた。
「俺は知らん」とピッコロは短く返すと、足元のアニスを見下ろした。
ヤムチャが言った。「地球に遊びにきた記念じゃないか? ほら、海行って砂浜の貝殻集めるみたいなさ」
「なるほど。でもヤムチャさん、地球に遊びにってのは違うかもっすよ? 少なくとも最初は邪悪な気だったんだし……」
「まあ、何でもいんじゃねえの」とヤムチャはのん気な声で言うと、アニスの背中に目を向けて、「もう邪悪さ全然ないんだからさ」
「その邪悪ってよ、オラ寝てたから知んねぇけど、どんくらい邪悪だったんだ?」と床にあぐら座りの悟空は目を丸くして腕を組み、誰にともなく聞いた。
「まぁそこそこな」とピッコロが答えた。
「いやそこそこっつーか……相当だぜ?」とクリリンは急に小声になって、アニスのほうをちらと見つつ、入り口から身を乗り出して言った。
くっくっ、と忍び笑いがした。え? という声がクリリンの口を突いて出た。アニスが振り返ってほくそ笑んでいる。彼女はクリリンの戦闘服に視線を落として、「失礼。何でもない……フッ」
「な、なんだよ……いきなり」とぼやくクリリンに、「気にするな」とピッコロは箱をあさる作業に戻ったアニスを見ながら、「妙な奴なのだ、こいつは」
クリリンはピッコロにたずねた。「……ってかそいつの目的は何だ? なんで地球来たんだ?」
「分からん。聞いても何も答えんからな」
「地球に遊びに来たんじゃねえか?」と悟空がのん気に答えた。ヤムチャと同意見のようでクリリンはぶつくさ言った。
アニスが背を向けたまま話に割り込んだ。「おめーら多数決で地球観光でいいだろ。鍵探し中なんだよ今。ドア閉めろや」と冷ややかな声で。ドアが開いているせいで照明が消え手元が暗いのだ。さらには、この作業もいよいよ退屈になってきたところだ。
「ほらほらぁ、おめーらも一緒に探してくれよ~。オラこーゆうの苦手だかっさぁ」
段ボール箱の本を散らかしている悟空にヤムチャは呆れた顔で、「後片付け大変そうだなぁ」とつぶやいてから、「というか俺とクリリンが入ると、定員オーバーじゃないか?」
「定員3人だからこれ以上は無理だ」とアニスは背中で答えた。「しかもマジュニア1人で、2.5人分のスペース占領してやがる」
「2.5人は言い過ぎだぞ」とピッコロが棚の奥を探しながら言った。その顔には倦怠のきざしが見てとれる。
アニスは棚から小さな箱を出すと、それを持って入り口まで歩いていった。
「フェニックスのキーホルダーが付いた鍵だ」と言われてクリリンはきょとんとする。
「なにボヤッとしてる? 早くこの箱の中を探すのだ。ドアは閉めるから、外でやれ」
「……。あ、ああ……」
箱を小脇に抱えて地面に腰を下ろしたクリリンはひとり愚痴った。「――ちっ、偉そうな異星人だぜ……人に頼みごとする態度かよ、あれ」
つぎはヤムチャに段ボール箱を差し出したアニスは、相手の顔でなく箱を見ながら言った。
「……おまえは……こっちを頼む」
「……俺のはだいぶデカイ箱だなあ……」
「……おまえは体が大きいだろ……キーホルダーも鍵も小さいから見落とすんじゃないぞ……」
「……しかしずいぶん荷物多いんだな、地球に引っ越しにでも来たのか……?」
「……長旅だから……暇つぶしグッズたくさん必要なのだ……」
「あ、これ暇つぶしグッズが入ってんの?」とヤムチャは弾んだ声になった。
「グッズで遊ぶんじゃないぞ?」とアニスは箱から目を上げ叱るように言った。
宇宙船から数メートル離れた場所に並んであぐらを組み、彼らはそれぞれ箱に手を突っ込んだ。浮かない顔したけだるそうなクリリンの隣で、どこか満足げな笑みを浮かべているヤムチャが言った。
「――おや。オセロが入ってるぞ。1人でオセロしてたのかよ、カワイイやっちゃなあ」
「こっちは知恵の輪入ってますよ、ちょっとやってみようかなオレ……」
「こらこら、グッズで遊ぶなって言われたぞ? まじめに探してやれよ~」
「しかしずいぶん勝手な野郎っすね、オレたちにまで探させるなんて。しかも上から目線で命令しやがって」
「まあそう言うなって。よっぽど切羽つまっとるんだろ。鍵かけれないとなると、宇宙船から離れられんしな。見つかるといいが」
「フェニックスのキーホルダーつってたな……フェニックスって何すかね?」
「赤くてブワッとした鳥だ。こないだ彼女と行った美術館にあったぜ」
「ブワッっすね。了解。ところでアノ野郎、見た目を武器にやりたい放題なんじゃないですかね、自信満々で。なんか態度に現れてますよ」
「つぅかさ、まさか女じゃねえよな? ちょっと女の子系の顔しとるが……」
「どっちか微妙な顔だけど男でしょうね、雰囲気的に」
「クリリン、胸見たか?」
「ええ、顔見た時にすぐ胸もチェック済みっす、やっぱペッタンコで。男ですね」
「けど、貧乳の女だとあんな感じなっちゃうぞ? しかもコート着てるし」
「コートもアレ男物ですよ完ぺき。女顔の男なんてたくさんいるじゃないですか~」
「まあ西の都にいっぱいいるよな。やっぱ男か……。それよかさ、あの雰囲気からして高貴な人じゃないか?」
「高貴な人があんな邪悪な気だしますかね? 見た目で判断しちゃダメですよヤムチャさーん」
「いや、別に悪い子じゃないと思うぜ? 邪悪なのは、状況が悪かったんだって」
「それはまたどういうことで?」
「例えば宇宙船ん中にすんげぇしつこい虫がいてさ、飛びまわる虫を必死で殺そうとしてたから、邪悪な気が出ちゃってたとか。宇宙船降りてからも、しばらくそれ引きずってたんじゃねえか?」
「えぇ~、んなパターンありっすかぁー?」
「まぁありっちゃありじゃねえの? 可能性としては。つぅかクリリン、知恵の輪で遊ぶなよっ」
「あ、あはは……つい! って、ええー? ヤムチャさんもオセロしてんじゃないっすかあ!」
そのとき、ベジータが姿を現した。彼らのすぐ傍らに空からすたっと着地して、こう言った。
「――お前ら、敵も倒さずに何してやがるんだ?」
「ベジータ来ちゃったのかよ~」とオセロから顔を上げたヤムチャが残念そうに言った。「別にもう良かったのによぉ」
「ふんっ。途中で引き返しかけたんだがな。しかし一向に戦闘が始まらんから様子を見に来たんだ」クリリンと同じ戦闘服を着込んだベジータは、宇宙船のほうに目をやって、「あの程度の敵ならお前らでも倒せるだろ。さっさとやりやがれ」
クリリンは知恵の輪をいじりながらつぶやく。「なに冗談かましてんだよ。おまえらサイヤ人と一緒にすんなよなぁ……ったく」
「ちょっと俺、戦ってみたいぜ!」
「本気すかヤムチャさん? ベジータあんなこと言ってるけど手強い相手っすよ?」
「んな事わかってるって。ピッコロと同じくらいか。いや、あの子のが少し上かもしれんな」
「今のピッコロって相当ですよ? オレたちじゃ無理っす。ここはサイヤ人にまかせて……」
「まあ修行だよ修行! 良い子っぽいから俺を殺すまではせんだろう。それに綺麗な子だから戦ってみたいんだよなあ……ナハハ!」
「ヤムチャさんヤバイっすよソレ……男じゃないすかアイツ」
「女の可能性も残ってるだろ? 表情と口調からすると期待薄ではあるが。……しかしランチさんも男口調で凛々しかったしなぁ」
「ランチさんは女の服着てましたよね? けどアイツは服も男っすよ? それにあんな偉そうな態度で良い子ってのもないと思いますよぉー」
「偉そうなのは高貴なお人だからだ。相手を殺すような顔しとらんだろう」
「あの顔にダマされて殺られた奴いっぱいいるかもっす。それに金髪ランチさんと同じタイプなんでしょ? ならバンバン殺しますよ」
「お前ら、何をぐだぐだ言ってやがる」と彼らに目を向けたベジータが口をはさむ。「誰も倒さんなら俺が倒してきてやる。まあ、一瞬で終わるだろうがな……くくく」
「まだいたのかよベジータ」とヤムチャが応じた。「あの子とは俺が戦うからさ、帰っていいぜ」
「悟空もいるし十分っすよね。でもまあ暇なんだろうな、ベジータは」
ベジータはずっと腕を組んだまま突っ立って、ドアが閉じられた小さな機体を傍観しながら、
「あの中で我慢くらべ大会でもしてやがるのか。このままじゃラチが明かんぞ」と言ったが、その声は他人事みたいに悠長である。
「鍵探してんだよ」とヤムチャが答えた。「つぅか、おまえが戦うほどの相手じゃないだろ? 俺に戦わせてくれ。もう帰っていいよ、ベジータは」
「なら確実に倒せよ。俺は忙しいから戻る。トランクスの勉強を見てやってるところだったんだ」
「トランクスも悟天も来ないんだな。あいつら面白がって真っ先に飛んできそうなのに」
「今トランクスは勉強中だから止めたんだ。国語の成績がドベだからな。悟天も一緒にいるがヤツも来たがったのを俺が止めた。トランクスの手前、悟天だけという訳にはいかんのだ」
そうしてベジータは、ほんの一分ほどで戻っていった。
「すぐ帰るんなら来なくていいのにな、わざわざ遠いとこからよ」
「一応状況だけ確認しに来たんでしょうね。邪悪さ消えたからどうでもいいっつー感じですよ、ベジータ的には」