DB Another Love Story 作:Roland
宇宙船の中はまた三人だけになった。鍵を探しはじめてすでに数十分が経過していた。そのあいだ、アニスとピッコロは紛失した鍵を見つけるため狭いながらもあちこち動きまわり、棚からひきだしから目に入るものすべてを調べた。
「本の中には、はさまってねぇみてーだなぁ……」と悟空は船内最前に陣取ったままときどき独り言をつぶやいて、並んだ段ボール箱と向かい合うようにあぐらをかき、ひたすら孤独に、丹念に、本のページをめくっていた。
後ろ側のバスルーム前には、床に備え付けられた収納ボックスの中をあさるアニスと、壁ぎわの天井近くにある棚を探すピッコロの姿があった。
「おい! これだけ探しても見つからんのはおかしいぞっ」一向に出てこない鍵に、遂にピッコロの堪忍袋の緒が切れた。「服のどこかに入ってるんじゃないのか!」
「そんなのとっくに探したぞ。まあもっかい探してみるけどよ」
立ち上がったアニスはコートのポケットから小瓶と封筒を取り出すと、ふたたび手を突っ込んで、「やっぱ入ってないぞ」
「チッ、探しかたが悪いんじゃないのか、どんくさい奴だからなお前は。すべてのポケットをちゃんと確認したのか」
「この私をどんくさい扱いするなよなぁ……ちっ。偉そうだぞおまえっ」
「フンッ。お前に言われる筋合いはない」
「おめーら、またケンカかぁ?」振り返った悟空は少しふてくされた声で、「ホントは仲いいくせによお~」と続けると顔を戻し、手の平で本のページをおおざっぱにめくった。
「……こんな上から目線の偉そうなヤツ、誰が仲良くしてやるかよ!」
「おいコラ。俺のセリフを取るな」そう言いながらアニスの服に目を落としたピッコロは、前を閉じたコートに付いた複数のポケットを見たあと、「お前はどんくさいから俺が探してやる」と腰あたりの布をつかんでバサバサ振った。
「うわっ! ……ヤ、ヤメロ……」とアニスはしりぞいた。
「分からんな……音もせんようだ」そしてピッコロは腕を組みはじめ、彼女の服に視線をめぐらせながら、「上着を脱いでみろ」
「な……中はTシャツだぞ、ポケットなんかないっつーの!」
「いいから脱げっ!」ピッコロはアニスの顔を見ながら言った。
「え……」ぱっと恥ずかしくなってアニスは言葉に詰まった。
「やーいやーい、セクハラオーヤジぃ~」にこやかに振り返った悟空がピッコロをひやかした。
「何言ってやがる俺はオヤジではない、まだ若いぞっ」
「セクハラピーッコロぉ~」と、あぐらに頬杖ついた斜めの顔を振り向けて、暇そうにこちらを眺める悟空に「違うぞ孫」と言ったあと、ピッコロはまたいかにも律儀そうに、「俺が脱げと言ってるのは上着だけだぞ」。
「な、何歳だおまえ……?」アニスはここぞとばかりに聞いたが、「早くせんかっ」と怒鳴られた。
「だから、Tシャツにポケットなんかないぞ普通? で、何歳なのだ? ん?」
「ったく、言うことを聞かん奴め」と言いながら、ピッコロはアニスのコートの前ボタンに手をかけた。「うわっ!」とアニスは後ずさった。
「……わ……わかったわかった! じ、自分で脱ぐから!」
Tシャツとズボン姿になったアニスの向かいでピッコロがコートを調べた。「ズボンのポケットもしっかり探せ、そして飛び跳ねてみろ」とうながされアニスは言うままにするも「やっぱりない」。視線をピッコロの手元に移すと、自分の愛用しているテーラード・コートのあちこちを触っている手とその動作に胸がどきどきした。上にある真剣な顔にも。「ないな」とピッコロが服を返してきた。
「もしかして靴下ん中に入ってっかも知んねーぞ?」と悟空が助言した。アニスはおもわず「鋭いなおまえ」と言ってスニーカーも靴下も脱いで、「ない」と悟空に首を振った。あるわけがない。
ピッコロが言った。
「宇宙船から出る時、調子に乗って飛び降りただろ。その時に服から落ちたんじゃないのか」
「まさか見られてたとはな……。じゃあ鍵はすでに強風で飛んでったかもな。鍵もキーホルダーも小さくて軽いんだ」
ピッコロは早くも外を探しに行った。アニスは開けっぱなしのドアを閉めた。「こらこら。入り口ちゃんと閉めていけ」。そしてぺたぺたと裸足で戻って靴下を履いた。
「もう他んとこは全部探したんかー?」と、すっかり手を休めている悟空が言った。「それか、ヤムチャとクリリンの箱ん中に入ってるかも知んねーよなぁ」
「暇つぶしグッズ以外入ってないと思うんだがな。他の場所はほぼ探したよ。あとは、おまえの前にズラッと並んだ本の段ボール箱だけだ。読書中に隙間に落ちてしまった可能性が高い」
「……まいったなぁ」と悟空は眉を八の字に下げふたたび本の中を探しはじめた。ふとアニスの腕時計に目を移しながら、「その手首に巻いてる時計の内っ側に、はさまってたりしねーよなぁ?」
「なぜこんなとこはさまる?」と言ってアニスはスニーカーをつっかける。「万が一はさまってたら、フェニックスの頭が飛び出すはずだ」
「フェニっつーのは何なんだ?」
「赤い鳥だ。フェニックス知らないまま探してたのかよ。困ったやつだな。絵を描いてやるよ、あの形は口で説明しづらいのだ」
どこからか持ってきた画用紙を床に置きフェニックスの姿を描くアニスの斜め向かいで、悟空も上体を前傾させた。
「なんかよく分かんねーぞお……つぅか、絵ぇ下手っぴだなあ、ハハハ!」
「……。……今度はおまえ描いてみろや」
「いやオラはフェニッカスちゅうの知らねんだぞ?」
「おまえ……フェニッ”カス”言いやがったな? 勝手に名前変えるんじゃない。神聖な鳥だぞ。フェニックス以外でなんか描いてみろ、何でもいいから」
「何でもいいんか? なに描けばいっかなあ」と悟空は床にほおづえをついた。鉛筆を鼻と上唇ではさんだりしながら数分が経過した。じっと黙って待つアニスを見て悟空は言った。
「……しかしおめーよ、ホントいいニオイすんなあ」
「なんだよそれ。香水なんかつけてないぞ」
「風呂からあがった女のニオイだ、チチの風呂あがりみてーな」
「あ、地球着く前に風呂入ったせいかな。女というより単に石けんのニオイだろ。おまえも風呂あがりは同じニオイがするはずだ」
「オラはそんなニオイしねぇよ?」
「自分のニオイは分かりにくいからな。あと船内節水してるから体の石けん落としきれてないのかもな。さらに高級石けんだからニオイが特殊なのかもな。というかンなこといいから早く描け」
悟空は素早い手つきでくるっと大雑把な丸を描いた、それで終わりのようだった。アニスが怪訝な顔になって、「テキトーか? なんだ、それは」
「ドラゴンレーダーだ」
「ドラゴンの速度や位置を測るのか……」
「ドラゴンボール探すやつだぞ? 7つ集めっと願いが叶うんだ」
「7つで願い……なるほど。ナメック星人が作ったのだな? マジュニアは雰囲気的に戦闘タイプだから作ったのはあいつじゃないだろう。地球には龍族も住んでいるのか」
「おめー詳しいなあ」
「ナメック星人のことは何でも聞いてくれ。しかし単なる丸なら、ドラゴンレーダーじゃなくドラゴンボールってことにしとけよ。真ん中に星描くだけで、それっぽくなるだろ?」
「星とかめんどーじゃんかよー」
「おまえ絵下手そうだから、下手っぴって馬鹿にしてやろうと思ったのに、まさか丸しか描かないとはな……それ以前の問題だったぞ。見事に私の裏をつきやがって……」
「結局フェニッカスっつーのはどんな形してんだ? それ分かんねぇとオラ探せねーぞぉ」
「いや、フェニッカスはもういい。見たことないやつに分からせるのは困難だ。とりあえず普通っぽい見た目の鍵を探せ。だいぶ小さいから見落とすなよ」
「普通っちゅうのがよく分かんねぇなあ。オラさぁ鍵はあんま持たねぇんだ」
「じゃあ今まで探してた感じで続けろ。私もなんか面倒なってきたしよ」
上体を起こしたアニスは船内後方へと歩いて行き、砂の詰まった小瓶と父からの手紙が入った封筒を手に取ると、脱いでいたコートをつかんだ。
「おめぇの胸ってペッタンコだなあー」と悟空が無邪気な声で、悪びれる様子もなくアニスのTシャツ姿をまじまじと見て言った。「んなペラッペラの服でそんだけペッタンコって、なんでだ?」
「当然だ、ククク……」
口元をニヤニヤさせてアニスはコートのボタンを閉じる。画用紙の前であぐら座りでアニスの顔を眺める悟空が目を真ん丸にして、
「……もしかして男なんかぁ? ……違ぇよなあ?」
プッ、と吹き出してからアニスは続ける。「女だと信じ込んでる風なのが逆に不思議だがな」
アニスは収納ボックスの中をふたたび探しはじめた。今度は彼女の髪に目を向けた悟空が腕組みしながら、「そんな髪やわっこいの、ぜんぜん男らしくねぇもんなぁ……」
「髪? こんな繊細な髪質の男は、いないとでも言うつもりか?」
「オラは見たことねぇぞ? んな髪の毛した男なんてよぉー」
「なんとなく世間知らずという感じがするな、おまえは。細くて柔らかい髪の男くらい、地球にもいるだろう。髪質なんか男女でそう変わらないと思うぞ?」
「おめぇ顔もぜんぜん男じゃねぇじゃん。おめぇが男だったらびっくりだぞオラぁ」
「もしかして――」とアニスはこぶしをあごに当て自分にだけつぶやいた。「地球には女顔の男マジいねーのか……他種族には結構いんだけど……」
「おめーどっから来たんだ? 名めぇは? 歳はオラより若ぇよな? オッパイねぇのなんでだ?」と悟空が一気に質問を繰りだした。
「しかしよ、おまえだって別にそこまで男らしい顔じゃないだろ? 目が丸いし見方によっては女顔の部類だぞ? まあ、髪はいかにも男のゴワゴワした――あれ」
と、言葉を止めてアニスは悟空の髪を凝視する。すぐさま走り寄っていき、「……独特の髪質だな……まさか……」とつぶやく。
きょとんとこちらを見上げる顔に向けてアニスは言った。「おい、ちょっと立ってみろ」
「ん? 立つんか?」と悟空が立ち上がるやいなや、風のように後ろに回り込んで尻に目を落としたアニスは、いかにも独り言のようにぶつぶつと、「違う。やはり違う……尻尾もない」
「あ、オラは尻尾とれちまったんだぞ?」悟空が振り返って答えた。
「……なに? オラはサイヤ人とでも言うつもりか? 嘘をつくな」
「オラサイヤ人だぞ? 育ったのは地球だけどさ」
……いかにもテキトー野郎って雰囲気しとるなコイツ。アニスは内心そう思いつつも、次は相手の真正面に移動して頭から足まで舐めるように視線を這わせはじめた。……尻尾、野蛮な雰囲気、悪人顔、黄色い肌、漆黒の目と髪、ゴワゴワした独特の髪質、吊り上がった眉、筋肉質の体。などと査定するような目つきでしばし眺めた後、アニスは口を開いた――「違うだろ」
「……サイヤ人の特徴いくつか抜けているぞ、おまえ」
「ん? 抜けてるんか?」
「悪人顔ではないし野蛮な雰囲気も皆無、眉もたいして吊り上がってない。尻尾が取れたというのも信じがたいしな。サイヤ人に憧れるあまり、勝手にサイヤ人を名乗ってる、というところか」
「なんだあそれ。尻尾は引っ張れば簡単に取れっぞ~」
「わざわざ尻尾を取るサイヤ人などいるのか。しかもそんな善良顔でサイヤ人と言われてもな」
「オラ善良顔か? つぅかさ、おめーはナニ人なんだよ、おめえのことも教えてくれよぉ」
「いやそれよりも、まずおまえのことが先だ。おまえに対する疑問点を解決しない限り、前には進めないからな。……えぇと、もしかして、野蛮な雰囲気がないのは地球で育ったせいか? そこまで善良顔になってしまったのも、それが理由か?」
「んな善良顔なんかなぁオラ。おめぇ善良顔にえれーこだわってんなぁ」
「こらこら、私の質問に答えろ」
「オラ小せぇ頃に頭打って、そっからおとなしくなったみてぇだ。そんで顔もおとなしくなったんじゃねぇか? 善良顔ちゅうんかどーかは、わかんねぇけど」
「なるほど。そういう事情なら……少し可哀想だな。しかしおまえが、盛大に嘘をかましてる可能性も残っている。故郷でも、嘘つき野郎に振り回されたことがあるからな。同じ失敗は二度と繰り返さないぞ、私は」
「オラ嘘なんかついてねぇぞぉ~」
「真偽のほどを見さだめてやるから尻を出せ」
「シリ?」
「尻尾の痕跡があるかどうか見せろ。それで一挙解決だからな。ズボンとパンツを脱げ」
「……い!? おめーの前でかぁ!?」
「早くしろよ?」
「い、いやンなこと言われてもよお~!」
「あのなぁ、恥ずかしがってる場合じゃないぞ? あ、私を女と思ってるから恥ずかしいんだな? 心配するな、私は女ではない。男の前だから脱げるだろ」
「あ! おめぇのほうが嘘ついてんじゃねぇかよぉ~、へへーん、オラをダマすつもりだなぁ? そーはいかねぇぞお、オラ亀仙人のじっちゃんに教えられていろいろ知ってんだぞー?」
「ったく。面倒くせーやつだな」
その瞬間、スルリと胴着の帯がほどかれズボンがわずかにずり落ちて、「ありゃ?」と悟空が声を上げる。アニスの手にある自分の帯を見ながら、「おめぇ……すばやいなあ」
「当然だ。私を見くびるんじゃないぞ」
続いてアニスは相手の背後に立ち、腰の布をつかんで下着ごと引き下ろそうとする。悟空が後ろに回した手でズボンを押さえながら叫んだ。
「い……いやさっ、ちょ……ちょい待てっておめ~!」
「おまえ、んな恥ずかしがるタイプには見えなかったがな。意外だぞ」
「……ず、ずるいぞぉオラだけよぉ! オラのパンツ脱がすんならおめーも脱がすぞお!?」
「なに? この私の服を脱がすだと? ほお、やれるもんならやってみろや?」
「へ? ……いいのか? まじに脱がしちゃうぞ? おめーのオッパイどんぐれーペッタンコなんか、気になっからよ!」
「私にオッパイなんかついてねーぞ、男なんだからよ!」
「うわっ……た……勃ってきちまったぞオラぁ……や、やっべえ……」
「おいおい勘弁してくれよ。これは遊びじゃないんだぞ? 絶対にモッコリをこっち向けんなよ? いいな?」
そう言うとアニスは相手の手を押しのけて、背後から一気に下着を引き下げる。尻尾が抜けたような丸い跡を発見し、目をじっと注いだまま、「マジだったのかよ……」とつぶやいた。
「――よし、確認は済んだぞ!」
「な……なんか知んねーけど、終了か……?」
「ああ、終了だ。すまなかったな、純情くん。私みずからキミのズボンとパンツを元通りにしてやろう、これはサービスだ。キミをずいぶん困らせてしまったからな」
「でもさぁ、オラ勃っちまったのどうすりゃいんだよ~困ったなあ」
と悟空は切なそうな声を出して自分の股間を見下ろす。腕を組んで尻尾の穴をまじまじと眺めているアニスが後ろから言葉を返す。
「おまえな、こんな程度でモッコリしてんじゃねぇよ、どこまで純情くんなんだよ」
「んな女のいぃニオイさせながらパンツ脱がされっと、誰だってこうなっちまうんじゃねぇか? しばらくおさまんねぇぞこれ……」
「私はそこまでニオイするのか……?」
「ああ、すげぇーぞ。まあオラは犬みてぇに鼻いいからよけーだけど」
「マジかよ……」と自分の髪を鼻の前まで引っ張ってきて匂いをかぐアニス。「石けんもっかい洗い流してきたほうがいいのかな……」
悟空は眉を上げて顔をサッと後ろに振り向けた。「いまから風呂はいるんか……?」
「いや入らねーよ。おまえらがいる限りな。それよかおまえ、早くパンツとズボンを履け」
「え? サービスでおめーが履かせてくれるんじゃねーの? ずっと待ってんだけどオラ……」
「サービスタイムは終了したぞ。時間切れだ」
「えぇ~! なんだよそれ~! あ~あ! 結局おめーのペッタンコのオッパイも見れなかったしよぉ! オラちょっと期待したのによお!」
「そろそろ本題に入っていいか? ――まあ、おまえは少しやりにくいが……仕方ない。宇宙船が壊れるとマズイから表へ出ろ。すまないが、殺させてもらうぞ」
「――へ?」