DB Another Love Story 作:Roland
クリリンはハッとした表情で宇宙船のほうへ顔を向けた。
「じゃ……邪悪な気だっ! いま突然邪悪になりましたよアイツの気ッ……!」
「ほんとだ……。なにがあったんだ……」
ヤムチャが手を止めて同じ方向に目をみはると、すぐにドアが開いた。アニスと悟空が出てくるところに、駆け寄っているピッコロの姿が見えた。
「おいクリリンっ、俺らも行こうぜ!」とヤムチャは膝の上のオセロの盤を投げ捨てて、跳びあがるように立った。
「そ、そっすね、あ……ヤムチャさん慎重に」ヤムチャがおもわず蹴ってしまった段ボール箱、そこから散乱した遊道具をまたぎながらクリリンは続けた。「あんま近づき過ぎないほうがいいかも……邪悪に戻ったんですから……」
「そ……それもそうだな……」
アニスは悟空の腕を引っぱって、宇宙船の入り口を通り抜けて外に出た。歩きだすと、すぐにピッコロが立ちふさがった。
「――おいっ、どうしたんだ!」
確かに冷静にアニスは返した。「マジュニアよ、おまえには関係のないことだ」と低い声で、激しさと痛ましさが入り混じったような表情で。
「急にオラを殺すって言い出してよ~」と悟空は眉を寄せて困り果てている。
ピッコロは一瞬の沈黙ののち、ふと思いついたかのように悟空にたずねた。「孫、こいつに何かしたのか……?」
「オラなんもしてねぇよ? ……あ、胸ペッタンコっつったんがマズかったんかなぁ……」悟空は片手を顔の前に立て、「ハハ……悪ぃ悪ぃ」と、横にいるアニスへ謝った。
「――胸ペッタンコだって?」とクリリンが離れた場所から口をはさむ。「そいつ、男じゃないのか?」と言ってクリリンは、もう何度目かもわからない胸元を見た、ふくらみの暗示さえない平べったいアニスの胸を、コートの上から。
アニスは悟空の左腕をつかんだまま淡々と返す。「謝る必要など全くないぞ。ペッタンコで当然なのだからな」
「へ?」と悟空は隣のアニスにくるっと顔をまわして、「当然って、おかしいぞ? おめえ女なのによぉ~」
「おい、孫」と呼びかけたピッコロは険しい顔で、ほのめかすみたいに悟空にたずねる。「お前もしかして……、例のセクハラみたいな行為を……やらかしたんじゃないだろうな……?」
「ん? 例の? オラやらかしてねぇよ? ……あ、いや、やらかしちまったんかなぁオラ……」
最後ほとんど消えかけた声でつぶやいて頭をかく悟空に、アニスは前を向いたまま、明快な断言の口調で言い返す。
「おまえはやらかしてねーだろ。そして私もやらかしてねーぞ、あれはセクハラのつもりじゃねーからよ、別によ」
「え?」とクリリンがピッコロの数メートル背後から、やや身を乗り出して、「オマエなにそれ? どういう事だ?」とアニスに聞いた。
アニスは返事をしなかった。『セクハラはおまえだ』と非難のほこさきが自分に向かわないように予防線を張ったものの、悟空のパンツをむりやり脱がせたことまでは、絶対にピッコロには知られたくないのだ。
男たちはみんな黙り込んでいた。平野を吹きぬける風の音のほかには、なにひとつ聞えてこなかった。ほどなくして、「いや」とヤムチャが口を切った。
「悟空は、やらかしちゃったかもなぁ」ため息混じりにそう言うと彼は続けた――「『胸ペッタンコ』つった時点で立派なセクハラだ。しかし相手が男の場合は、全然セクハラじゃないけどな。 『ペッタンコで当然』って平然と答えるっつー事は、やはり男か。……で、キミ。どっちなの?」と、喋り終えたヤムチャは、ついでのようにアニスの胸に目をやった。
「私は男だぞ」とアニスは短く答えたあと、悟空のほうを一瞬見てから話しはじめた。「とにかくこいつは、私に謝るようなことは一切していない。だが使命で殺すつもりなのだ私は。いくら善良な奴だろうと純情クンだろうと、見逃しはしない。だからおめーら、どっか行けや? 邪魔なんだよ、うじゃうじゃ湧いて来やがって」
アニスがさらっと言った一言を、ピッコロが聞きのがす道理はなかった。
「使命について、詳しく聞かせろ」と言ってピッコロは腕を組み、射抜くような怖ろしげな目でアニスを見つめた。
「おまえには関係ないことだろ」アニスはそうきっぱり返すと、悟空をつかんでいないほうの手を腰に当てた。
「いや、関係ある。孫は仲間なのだからな。さっさと話せ」
「……ちっ。だいぶ長いぞ。面倒くさいんだけどよぉ」
「――おい、天津飯たちがまもなく到着だぞ?」と会話に割って入ったクリリンが、アニスに申し出る。「……オマエさ、長い話なら、オレらの仲間が揃ってから話せばどうだ?」
「じゃー揃ったら教えろや。何人来るんか知らねーけどよ」と言ってまた舌打ちするアニスに、 「今2人待ちな。まもなく空から来るぜ」とクリリンは答えた。
ヤムチャが隣のクリリンに目をやって、「こんな時でも常に気を探ってんだなぁ、クリリン」
「だってコイツの仲間が、時間差で地球に到着する可能性だってあるんすから……」
「仲間など来ないぞ。これは私ひとりの問題だ」アニスはそう言い切ってから、悟空の顔を眺めまわして、「まぁ正直、戦いにくいがな。なにしろ善良だからよ、こいつ。しかし使命のほうが大事なのだ、だからやはり殺す!」と最後に声を高めた。決意を示すように。
「はっきり言うが、お前には無理だぞ」とピッコロが声を大きくして言った。「孫の戦闘力は、お前を遥かに上回っているのだからな」
「誰かに頼まれたんか? オラ殺すように」と、しばらく黙っていた悟空が口を開いた。
「頼まれたといえば頼まれた。だがこれは私自身の問題でもある。おまえと戦う為にこの世に生まれたのかも、とさえ思っているんだぞ?」
「そうなんか? でもよぉ……オラはおめぇと戦う気なんかねぇぞお。こん中でもけっこう楽しかったじゃんかよぉ、今さらおめぇと戦えって言われてもなあ……」
「探さなければいけないものがある」
アニスは唐突にそう言うと悟空の腕を開放し、宇宙船の中へ戻っていった。……おいおい、鍵探しは後でいいだろ、というクリリンのつぶやきは届かなかった。
棚や引き出しに次々と手を伸ばしてアニスはスカウターを探した。私の戦闘力を遥かに上回っているだと? そんなはずないと思うが、一応確認してみるか……。
悟空とピッコロは腕を組んだ同じ姿勢で宇宙船の入り口そばにたたずんで、ともに厳しい顔つきで、ピッコロは入り口の向こう側を、悟空は宙を見つめていた――。
「――あの野郎、いちいち偉そうなんだよなぁ」
などとぶつくさボヤくクリリンの上空から、天津飯と餃子が次第に降下してきた。二人の焦点はまごうことなき宇宙船にあてられている。そばに着地するなり天津飯は言う。
「敵はあの中で何をしている?」
鋭く細めた天津飯の目は、数メートル先の入口の奥に立つ敵をとらえた。
「よお天津飯」と背後からクリリンが応じた。「急に鍵探し始めやがったんだよ」
宇宙船の鍵かときいた天津飯に、ああとうなずいてクリリンは続ける。
「これから事情話すみたいだ。使命つってたな。悟空を殺すんだってよ。まぁとりあえず、戦いはそれ聞いてからだ」
「分かった」
「来るのずいぶん遅かったな。オマエらしくねぇな」
「山小屋の鍵をかけ忘れた事に気づいてな。穏やかな気に変化したから戻ろうかと、餃子と相談していたんだ」
「別に山小屋の鍵くらいいーんじゃねぇか?」
「よくないヨッ、お金も食料も置いてある」と餃子が振り返った。「だから天さんに戻ろうと言ったけど、天さん反対した」
「……そういうことなら戻ってもいいぜ? 敵はアイツ1人だけみたいだからな」
「いや、金や食料はまた手に入れればいい。それよりも事情を聞きたい。気が変化した理由もな」
敵とクリリンの交互に目をやって話す天津飯の隣で、すっかり後ろを向いた餃子がクリリンを見上げてムッとした声で、「遅かったってゆーけど、ボクたちはココから一番遠いとこにいたんだぞ。ものすごい距離だったんだぞ」
「あは……すまんすまん餃子!」クリリンはすぐに表情を戻して続けた。「ってかよ、いちおう天津飯たちも少し離れてたほうがいいかもよ。いま殺意満々みてーだから不意打ちしてくるかも知んねーし」
クリリンの横に並んだ天津飯がいぶかしげに聞く。「しかし、なぜ敵の探し物など待ってやらんといかんのだ。いつになったら奴はあの中から出てくるつもりだ?」
「ボクちょっと座ってよっと……」と餃子は近場の岩に腰かけて、懐から水筒を取り出した。
「まあ待つしかねえな。悟空が引きずり出してくれればいいんだけどよ。なんかさ、あの野郎に振り回されちまってんだよオレら……鍵探すのむりやり手伝わされたりさ」
「引きずり出してきてやるぜ、俺が」
「……いや、やめとけって。ピッコロと同じくらいの戦闘力だぜアイツ」
「いや。ピッコロより上だろう。しかしこのままでは、敵の思う壺ではないか」
ヤムチャがようやく喋った――「つぅか天津飯もさ、んな敵意むき出しにすんなって」
天津飯の気が近づいてきた頃から口を閉ざし、そしていま口を開くまでの間、悲しいようなやるせないような表情を見せていたヤムチャは、「敵じゃないし、悪い子じゃないよ」と、強調して続けた。
「……まだンなこと言ってんですかヤムチャさん。すでに邪悪な気に戻ったんですよ? どっちにしろ悟空を殺す目的で、」クリリンはそこまで言うと、「あっ」と声を上げた。
ほとんど同時にヤムチャが、「あーあ……」と嘆き声を出す。
「ベジータ引き返してきたぜっ、アイツすんげぇスピードでこっち向かってる……プッ!」
と、ベジータの憤怒の形相でも思い浮かべたのか口元が吹き出しそうなクリリンの隣で、
「もぉ! なんで戻ってくんだよベジータっ……!」とヤムチャが眉をひそめて叫んだ。