DB Another Love Story 作:Roland
アニスの動きを封じたまま、ピッコロはゆっくりと空を降下した。
「ベジータと戦わせろ! おまえ腕力が自慢らしいが私には通用せんぞ!」とアニスは威勢のいい声を上げる。
天津飯は地面へ降り立つと、片眉を上げてピッコロにたずねた。
「――ベジータに殺らせないのはどういう訳だ、何故そいつの命を助ける?」
「さぁな」
「このおせっかい野郎がぁ――っ!」とアニスは叫び、羽交い締めされた状態でじわじわと前方へ歩き出す。「絶対ふりほどいてやるからなっ」
「ち……、う……動くなっ!」とピッコロが負けじと両足を踏ん張る。
天津飯はテレパシーでひっそり餃子に語りかけた。
『――餃子。ピッコロが抑えきれなくなったら、超能力で敵の動きを封じろ』
『ボクの超能力、むかしサイヤ人のハゲに効かなったよ? アイツあのハゲより強いよ?』
『お前はもうあの頃とは違う。修行だと思ってやってみるんだ』
『わ、わかった……』
続いて天津飯は二人から距離を置いた真横あたりに移動し、「敵の頭部だけを狙う」と両手を構えた。ピッコロがカッと天津飯を見やって言った――「やめろっ」
「何故だ」と構えた手に気を溜めながら天津飯は返す。
「当たってしまうだろうが、俺に」
「だから狙うのはそいつの頭だけだ、お前には当たらん!」言い終わらないうちに天津飯は気弾を放つ。アニスが叫ぶ、「そうはさせるかあぁ――っ!」と渾身の力でピッコロを振りほどき、気弾から逃れた。しかし――
「な、なんだ!? か、体が……動かない」アニスは振り返って言った。「マジュニア、念力使えるのか?」
「俺ではない」
「天さ――んっ! ボクの超能力かかったよ! ヤッタ――!」と歓呼の声が遠くで聞こえた。
「お前も界王様の元で修行して以来、随分と腕を上げたのだ」
アニスは餃子を凝視する。「な……なんだ……あの可愛い生き物は。あんなヤツいたっけ」
ふたたび天津飯の気弾が向かってきた。アニスは全身に力を込める。
「こんな念力……解いてやるッ! ハア――ッ!」
「天津飯……! お前は手を出すなっ、いいな……! 絶対に気功波を打つんじゃないぞ!」
ピッコロはそう言いながら、アニスへと放たれた気弾を自分の気弾ではじき飛ばしていた。
「……ったく、一体何だと言うのだ」と天津飯はため息混じりに返し、両腕を組みはじめる。
「気円斬――ッ!」
今度は離れた場所からクリリンが仕掛けてきた。すでに超能力を解いていたアニスは飛び上がって避けながら、「なんだこの形は。ピザのつもりか? ピザ好きなのかおまえ?」
「ちっ、それでオマエを切り裂いてやろうと思ったんだがな、避けやがった……」
「わざわざピザ状の刃にするだけで気を消費するだろ、しかも簡単によけられるのに。効率悪い技だなぁ。……やーい! 気の無駄遣い野郎があ~!」
「ア、アイツ、腹立つわあ……じゃあ自動追尾ならどうだ!」
クリリンは自動追尾型の気円斬を放った。ふたたび飛び上がったアニスは真上から自分の気弾をぶつけて撃ち落とし、気円斬はそのまま地上で砕けた。宙に浮いた体勢で腕を組みつつアニスはため息を吐く。
「自動追尾とかまた無駄遣いかよ。ピザ型に整えて自動追尾にする、ダブルで気の浪費かよ。その分含めて普通に投げたほうが威力も大きいだろ。もう1人のハゲのがだいぶ優秀みたいだな」
クリリンは苦虫を噛み潰したような顔でアニスをしばし見上げた後、隣のヤムチャに小声で言った。「ヤムチャさんも繰気弾だしましょうよ、地中で移動して相手の真下から撃ち上げたじゃないっすか、ほら、天下一武道会の時。あの弾って地面に激突しても消滅しませんでしたよね」
「しかしあの子には通用せんだろう……無駄遣いって言わちゃうぜ、俺も」
空中で仁王立ちの体勢でアニスは続ける。「――まぁさっきのピザは、私相手だから無駄なのであって、一般的にはそれなりに有効な技かも知れないな。とはいえ気を消費するような小細工は、当てる自信がない限りむやみにやらない方がいいぞ。本気で私を殺したいなら、変な小細工するより範囲を大きく取って威力をもっと強くした方が効果的だぞ。まぁそれでも、私を倒すことは出来ないだろうがな、ハッハッハ!」
「ヤムチャさんこういうのは?」クリリンは繰気弾の作戦を考えるのに忙しく、アニスの話を聞いてはいなかった。「デタラメな軌道描くように繰気弾を操作してアイツを惑わせてから不意打ち。いったん地面に落として砕けたと見せかけて、アイツが地上に降りたら土ん中から攻撃とか。操作中のヤムチャさんが攻撃されないように、オレは囮になってアイツの注意を引いときますから、その間にオレも気を溜めて……」
「つぅかさ、あの子と戦いたくないんだよ俺。もう攻撃するなよ、クリリン」
「え、戦いたいって言ってたじゃないですか? それに天界で修行して繰気弾だいぶパワーアップしたんですよね? 見てみたいなオレ。しかもこういう時しか使う機会ないし……一緒に戦いましょうよ」
「なんでンなやる気満々なんだよ。俺ら修行だってもう全然してないだろう」
「いやアノ野郎……オレの技バカにしやがって、ちょっと闘志わいてきたんすよ。それにオレら2人がかりなら、多少のダメージくらいは与えられるかもしれないっすよ」
「心臓病なんだろクリリン? 激しい運動とか、しない方がいいんじゃないのか」
「全然平気っすよ? 薬のききめスゲーし治りかけなんすから」
「とにかく俺は参加しねえぞ。あんな純粋無垢な子をみんなで攻撃するとか、可哀想じゃないか」
「またまたンなこと言って……。純粋無垢どころかだいぶヤな性格してますよ。ってかヤムチャさんあの顔に完ぺきやられちゃったみたいっすね、でもアイツ高確率で男っすよ?」
「『私』って言ってるけどな、自分のこと」
「んな男いっぱいいるじゃないっすかあ! 国王だって『私』つってますよ! とりあえずオレはもっかいやってみますから……ってあれ? どこ行きやがった?」
クリリンたちの遥か上空で、アニスとピッコロの取っ組みあいが繰り広げられていた。
「おいおい! ベジータのとこ行かせろよ? なに止めてんだよ?」
「チッ……! まだ分からんのか貴様はぁ!」
餃子がふたたび超能力をかけてきた、アニスの動きが止まった。
「……く、くそっ、またあの可愛いおチビちゃんかよっ、しかしこんなものっ!」
アニスの背後に回ったピッコロは脇の下から両腕を通して彼女の腕をはさみ込んだ。
「ククク。超能力と羽交い締めのダブル攻撃からは、さすがのお前も逃れられんだろう」
「み、見てろよ! ハアァ――ッ!」
「ハァ―じゃない。いいか、よく聞け。ベジータと戦えばお前は確実に殺られる。スーパーサイヤ人の強さは、俺らとは桁違いなのだからな。というか、スカウターとやらは持ってないのか? 気を探る能力のない奴は、それで相手の強さを測るんだろ」
「スカウターは宇宙船の中だよ。気を探る練習しようと思って付けてないんだ」
「なら今すぐ取ってこい、それでベジータの戦闘力を見るがいい」
「わかったよ。……ったく。そこまで凄ぇ奴なのかよ」
上空に向けて両手をかざす餃子にピッコロが叫んだ。「いったん超能力を解いてやれっ」
そうして二人は地上へ降りた。アニスはハッと気づいてピッコロを見る。
「……おいっ、宇宙船はベジータが壊したんだぞ?」
「……そうだったな」
「あの野郎……とうぶん星に帰れないじゃないかっ、宇宙船作るの時間かかるんだぞ!」
「宇宙船はベジータの嫁が新しいのをくれるはずだ。で、まだ戦う気か? 死ぬぞお前、それでいいのか」
「いいよ。戦わないまま、のこのこと帰れない。この日の為に、人生を賭けて色んなものを犠牲にして、ひたすら強くなる為に戦闘と修行に励んできたのだっ」
「ならば地球で、更に修行を積めばどうだ。その間、戦いは一時中断しろ。今のままでは瞬殺されて終わりだ。どうせ死ぬにしても、限界まで修行してから挑んだ方が悔いも残らんだろう。お前はサイヤ人の強さを、完全に見誤っていたのだからな」
アニスはしばらく沈黙した後、テキパキした口調で返した。
「私の戦闘力数値は、サイヤ人の平均値を大きく上回っている。当然、やつらの大猿化にも対策済みだ。父が残したサイヤ人に関する資料で、色々学んだのだ」
「昔の資料は今のお前にとって参考にならんだろう」
「まあ聞け。ベジータが平均的サイヤ人より強かったのが誤算といえば誤算だが、それでも、ピカピカに変身さえしなければ、私が全く勝てない相手というほどではない。戦った感じでそれくらい分かる。だがあのピカピカに変身されると厄介な気がする。おまえが、死ぬ死ぬうるさいからな。まあ資料にもないし予測不能ではあるが。そして、あれが伝説のスーパーサイヤ人というのは、いまだに信じがたいのだ私は」
「伝説と思うから信じがたいのだ。桁違いの強さではあるが、伝説という言葉は忘れろ」
「とにかく私は修行をする。しかし修行している間に、ベジータがどっか行ってしまったらどうするのだ?」
「あいつは逃げも隠れもせんしどこへも行かん」
「修行するならスカウター必須なんだがな。……そうだ、あれ頑丈に出来てるから、もしかして壊れずに残ってるかも知れないぞ」
アニスは砕け散った宇宙船を見に行った。遠くから様子を伺っていた天津飯がピッコロの元へやって来て言った。
「なんか知らんが、もう大丈夫なのか?」
「ああ。大丈夫だ」
「なら俺は帰るぞ。戦いもしないのに、ここにいる意味はないからな」
「さっきはすまなかったな」
「――おいおまえ! 戻るのは待ってくれ!」
宇宙船から駆け出すアニスの呼び声に、天津飯は足を止めて振り返る。
「――なんだよ。俺に何か用か」
「ちょっとスカウターをテストしたいんでな、そのまま待て」
目の前に立つアニスに、天津飯は近視のように細めた目を注ぐ。スカウターを点検しながらアニスは続けた。「今おまえ、気を抑えてるか?」
しかし天津飯は聞いてはいなかった、アニスの顔を穴のあくほど見つめている。
アニスはふたたび言った。「おい、話聞いてるか? 今、気を抑えてるのか、それとも全開か」
「い……いや……。特に抑えてはいないが……、全開というほどでもない……」
「おまえ、気を抑える技術の習得は難しかったか?」
「そう難しいことではない……。ちなみに……女性は習得しにくいと……界王様は言っていた……。感情を抑えにくいから……だそうだ……」
「ほお。――さて本題に入るが、すまないが気を全開にしてみてくれ。スカウターが故障してないか、確かめたいんでな」
無傷のまま瓦礫に埋もれていたスカウターを服で拭いながら、アニスはつけ加えた。
「それと、小柄なハゲと黒髪ロングヘアーも呼んできてくれ」
――フッフッフ……こいつらがどれくらいの戦闘力か見てやる。
アニスは薄笑いを浮かべてスカウター越しに相手を眺めた。――やはりマジュニアが抜きん出てるな……私より若干数値は低いけどな。その次が大きい方のハゲか……予想通りだぞ。ハゲからだいぶ差が開いて、ロングヘアーと小さい方のハゲ。この2人はほぼ同レベルか。まあ仲良さそうだしな。
アニスに指示されるがまま、気を全開にしている一同。
「――スカウターの調子はどうだ? 壊れてなさそうか?」
と真剣な面持ちで聞くヤムチャの隣で、クリリンがアニスの表情を眺めて言った。
「つーかオマエさ、なんでニヤニヤしてんだ?」
「ちょっと待て、あの白い子を忘れていた……」
颯爽とロングコートをなびかせてアニスは遠くにいる餃子のところまで歩いて行った。まぁ、念力で戦うタイプの数値ってのは、たいてい極小レベルだけどな。
「――な、なんだオマエ、ちかよるなっ」
岩に腰掛けていた餃子はサッとそこから降り、アニスへ両手を向ける。
「……おっと! 念力使うんじゃないぞ? すまないが、気を全開にしてみてくれ。スカウターのテストなのだ、これは」
「テスト……? わ、わかった」
アレ……意外と戦闘力高いぞ。宇宙防衛軍に余裕で入れる数値じゃないか。とはいえ、やはりこの中で一番弱いのは確かだけどな。
「おまえ念力専門だろ? なぜそんなに数値高いのだ? 相当努力したのか?」
「……数値? よくわからないけど、ボクは毎日修行してるぞ?」
「よし、テストは済んだ。……困ったぞ。やはり私の修行相手には、戦闘力的にマジュニアが一番ふさわしいようだ……。ヤバイな……」
「ん……なんだ? もう戦うのやめて、修行することにしたのか?」
「今ベジータと戦っても、即死らしいんだよ私」
本当は、可愛いコイツと一番修行したいんだがな。とりあえずマジュニアとロングヘアーだけは勘弁だ。あんなイケメンたち相手じゃ修行に身が入らんからな。
「……オマエ、地球に住むのか?」
「ああ、ベジータをブッ殺すまではな。どこかオススメの修行場所知らないか? 私と修行する気はないか?」
「イヤだ。ボクは、天さんと修行してるんだ」
「……天さん? ああ、おそらく大きい方のハゲかな。ところで、ベジータの修行相手は誰だ? やはりソンか?」
「知らないけど、悟空は、悟飯と一緒に修行してるんじゃないの?」
「そういえばずっと気になってたんだが、『ゴクー』や『ピッコロ』というのは苗字か? サイヤ人もナメック星人も苗字を持たないはずだし、持つ種族は宇宙でも少ないんだがな。地球人はみな苗字があるのか? ソンやマジュニアは地球で育ったから苗字があるのか? あと、おまえが今言った『ゴハン』って誰だ? 強いのかそいつ?」
「えと、悟空は、苗字じゃなくて名前。マジュニアってゆうのは、天下一武道会のときの名前。えと、悟飯は、悟空の子供。ボクも天さんも、苗字はない。えと、それから、あと質問なんだっけ」
「なに、ゴクーは子供いるのか……ますます殺しにくいな。子供はまだ小さいのか?」
「えと、大きさは、たぶんオマエと同じくらいだ。天さんよりかは、小さい」
「そうか。――ところでおまえ、歳はいくつだ?」
「えと、えと10、20……。そーいうのは、人に聞くまえに、まず自分から言うもんだぞ?」
「私の修行相手になってほしいんだがな。防衛軍ではおまえくらいの数値の者と修行する事もあったから、問題ない。鼻たれガキの相手は勘弁だが、おまえはそう見えて、意外と大人かもしれない。小さい種族もいるからな。で、歳は教えてくれないのか? 名前は?」
「名前は餃子だ。えと年は……30はこえてるんだけど、えと……、30のあとは……えっと……。何歳かは途中で、わからなくなった」
「私は、とにかく修行相手が必要なのだ。しかし天というやつは、おっかなそうだし、小さい方のハゲは、性格悪そうだし、マジュニアとロン毛は除外。だから消去法でいくと、もうおまえしか残らないんだよ。サイヤ人と修行するわけにはいかないからな」
「じゃあ、天さんに聞いとくよ。オマエ、なんてゆー名前だ? 何歳だ?」
「仕方ない、教えてやろう。アニスだ。これ内緒な、天さんにもだぞ? というか、もしかして天さんも修行に含めるつもりか? 3人で修行するのか?」
「でも天さんが断ったら、修行はしないぞ」
「修行中に、また私を殺そうとしてくるんじゃないだろうな……。戦闘力は私以下だが、油断ならん奴だからな」
腰に両手をあててクリリンは、「あの野郎、ぜんぜん戻って来ねーな」とアニスのいる方向を眺めた。アニスは地に片ひざをつけて餃子と向かい合い、数分経過していた。「いったい餃子と何喋ってんだよ……」
「悟空たちも何してんだ? ベジータは羽交い締めされたままだが、もう抵抗してない感じじゃないか?」
ヤムチャと同じく空を見上げるピッコロ。「仕事の話をしているようだ」
天津飯が驚嘆する。「あんな上空の声まで聞こえるのか。まったく凄ぇぜ、ピッコロの聴力は」
「あの体勢で雑談って意味わかんねーやつらだな……一体いつまで続くんだ」とつぶやいてクリリンは空から顔を戻し、「つーかオレたち、めちゃノンビリしてねーか? 何なんだ、この状況は」
「まぁいいじゃねぇか。地球の危機でも何でもなかったんだしよ。のんびり行こーぜ!」
「ア……アハハ。まあ、そっすね!」
そう言った後、退屈げな様子であくびを漏らすクリリンだったが、ふと思い出したように天津飯のほうを見た。
「そういえば、家の鍵かけずに来ちまったんだろ? もう天津飯は戻っていんじゃねぇか?」
「しかし……スカウターのテストが、まだ終わってないかも知れんからな……」
「いやあれさ、多分テストじゃねぇな。単にオレらの戦闘力を見てほくそ笑みたかった、つーだけだと思うわ」
ちょうどその時、アニスが血相を変えて戻ってきた。
「――おい! スカウターが突然壊れたぞっ? ……どういうことだよ?」
クリリンは目をパチクリさせたあと、言い返す。
「ンなことオレらに聞かれてもよ……。――え、なに? オレらのせいにするつもり?」
「この壊れ方……」アニスは手の平の上の、粉々になったスカウターの残骸を見る。「もしかして……測定範囲を超えたとかじゃないだろうな……」
「は?」とクリリン。「――ああ、悟空たちの戦闘力を見ようとしたのか? ならそうかもな。あいつらは測定不能ってことだろ。今スーパーサイヤ人2になってるみたいだしよ」
「なに?」と短い沈黙ののち、クリリンに顔を向けて、「スーパーサイヤ人……2……だと」
一同の視線が集中するなか、アニスはそう言ったきり黙り込んだ。静寂の荒野に肌を刺すような寒風が吹きつけた。