「おっぱいデッケー!」
教会の裏、幾人もの少年が一人の少女を取り囲み弄んでいた。快活な風が頬を撫で草花の匂いを仄かに運ぶ、よく晴れた日の昼下がりである。
「何食ったらこうなんの?リーリアだけ旨いもん喰ってんだろー」
リーリアは首をフリフリと振った。
肩ほど伸びた銀色の髪、歳に似合わず大人びた淡麗な顔立ちと頭身、アメジストに輝く瞳、そして不釣り合いなほど張ったデッケーおっぱいは、同年代の少女が纏う修道服を虐めるように押し上げ、太股を露出させるほどだった。
そんな冒涜的な乳を持つ少女は、左右からそれや太股を弄られ、呼吸を荒くしている。後ろで順番を待つ子どもたちが「それにくらべてハーニャは男みたいに真っ平らだよな~」と談笑していた。
「ねーリーリア、ちゅーしていい?」
片乳を揉む少年が問いかける。リーリアは顔を遠ざけるが、反対側にも別の男がいるからどうしたらいいか分からず、首をフリフリとするだけだった。
一人の少年が興味本位で股に手を入れようとしたときである。
「コラァ!何してんだいクソガキどもぉ!!」
とよく通る野太い声で怒声が響く。「やべっマザーが来た逃げろ!」と蜘蛛の子を散らすように退散する少年達。
「ったく。晩飯抜きだね、後でこっぴどく叱ってやらないと」
修道院のマザーは、去っていく少年達に悪態をつきながらリーリアに近づき、優しく語りかけた。
「大丈夫?またアナタは好き勝手されて…イヤなことはハッキリと撥ね除けなければなりませんよ、浄化の姉妹なんですから」
リーリアは俯いたままである。
マザーは分からなかった。この子には才能がある。人並み外れた浄化の力を持ち、適した戦闘スタイルを確立していない今でも、あり合わせの短剣一つで小さな魔物なら退治してしまう。敵に対処するセンスもあるし、厳しい修行に根気強く耐える性根も持ち合わせていた。
なのに人前ではこの調子である。自己主張をしない。確かに浄化の力は、邪法に手を染めた人間以外には効き目が薄いのだが、逃げようとする隙を作ることぐらいできる。流石に馬鹿な少年達も、力を使ってまで逃げようとするこの子を追わないだろう。リーリアがいいようにされている理由がますます分からない。この子はこれで、結構頑固なところがあるのだ。
――――――
ある日のことである。リーリアに買い出しをお願いしたところ、慈雨が降ってきた。作物にとってはありがたいけれど、淫雨だったようで止む気配がない。傘も持たずに出て行ってしまったから、きっと雨に打たれてしまうことだろう。少し雨宿りしてから、諦めて帰ってくるだろうと思っていた。
リーリアがびしょ濡れで帰ってきたのは、次の日だった。心配で何があったか問いかけても、答えない。誰かに酷いことされたの、と聞いたら、首を振るばかり。服の下から根菜を取り出して渡すと、部屋に戻ってしまった。任務は達成したと言わんばかりの凱旋である。
それから雨の日はいつも帰りが遅くなった。
これはマザーの知ることではないが、そのときリーリアは自称親切なおじさんに家に連れ込まれ、カラダを弄られていた。その齢にしてはよく発達した肉体は、幼女性愛の気がない男でも情欲をそそられるもので、それもこの世の悪意を知らない教会の旗本で育ったような娘である。拐かすには労しなかった。
男は雨宿りの礼として、リーリアのカラダを好きにさせるよう迫った。相変わらずリーリアは強く抵抗しないで顔を手で隠している。服を脱がせ、その不釣り合いな胸をまじまじと見つめ、しゃぶりつく。非常に柔らかいそれは、男が貪りつく圧に合わせ歪み、揺れる。両手で押さえないとうまく吸えないほどだった。リーリアは小さく呻く。
堪らず男はリーリアを押し倒したかと思うと、自らのモノを取り出し、初潮がきたばかりの少女の女陰にあてがう。ここではじめてリーリアは、強く抵抗を示した。あまりに強い抵抗だったため、男は驚いた。というか、なんかビリビリする。もし無理やり挿入しようものなら、陰茎が使い物にならなくなるかもしれない予感がした。
暫く佇んでいると、気にしたのかリーリアが指の隙間から目を覗かせる。アメジストの宝石である。男は可愛らしい仕草に滾った。どこまで許されるか探るように、太股を舐めた。痺れない。ゆったりと舌を這わせ、陰唇に到達する。痺れない。
おそらく愛撫までが彼女の許容する行為である。男は若い娘の蜜を啜った。啜りながら、自らの手で扱いた。モノを握らせたりしゃぶらせたりさせようとも試みたが、リーリアは首を振った。それはダメなようだ。彼女は一晩中吸われ続け、ときどき浴びせられた精液に惚けていた。その泥濘は、修道院までの帰路で淫雨が洗い流してくれたようだった。
――――――
退魔の仕事には適性がある。この世ならざる者と言いたくなるような醜悪な生き物に立ち向かうのだ、生半可な覚悟では体より先に心が折れる。
民を戦い守る仕事は騎士の役目である。しかし彼らの武器は、魔物に効き目が悪い。複数人で取り囲み袋叩きにしてようやく、機能を停止させられる。それでも魔物の息の根を完全に止めることは難しい。
それらは増殖する意思を持つ。亡骸を燃やしても意味がない。かつて植物に取りついた魔物を森ごと燃やした村があった。その場では魔物は姿を消した。しかし次の日、雨が降った。隣の森や村の植物が魔物だらけになって滅んだ。地獄だった。一部の学者が言うには、煙に乗って種が撒かれたのではないかということだった。
この世の地獄にも救いがある。教会である。彼女らは魔物を祓う力を有していた。神の恩寵というものだろうか、程度はあれ、女性にだけその力は宿った。退魔を専門とする女性だけの組織、彼女らを人は〈浄化の姉妹(じょうかのシスター)〉と呼ぶ。
魔物はとりわけ女性を好んで襲う習性がある。なぜか殺さず、女性器を集中的に弄ぶ種がある。普通、人と魔物の間に子は成せない。しかし子宮を単に、一定の温度を保つインキュベーターとするならば、受精不可能な事情などどうでもいいだろう。植え付けられた卵は、宿主の身など知らず孵化する。
浄化の姉妹達は、有事の際に魔物の苗床にならないよう、魔力によって卵の孵化を抑える技術を身につける。もちろん才には程度があり、魔力操作に秀でていない者は苗床にされれば終わりである。だからせめて、妊娠だけはせぬよう、司祭等有力者の秘儀によって「不妊の加護」が姉妹全員に施されている。
先に述べたように、人と魔の間に子は成せない。しかし一部の魔物は、人の子宮を穢すことによって、魔の揺り籠に変えてしまう存在が確認されている。それで生まれてきた子は人の形をしていない。そうした異形を教会は「忌み子」と呼んでいる。不妊の加護はこの対策である。
なぜ魔物が人の娘を使って増殖しようとするかは分かっていない。そこには人の及ばぬ醜悪な意思があるのだろう。
ある者は言った。「浄化の姉妹の力こそが、魔物の下に女性を誘き寄せる餌なのだ」と。馬鹿げている、戦場に女性を駆り立てるために力を授けただと?我々に救いをもたらす神を疑うつもりか。その愚か者は異端審問にかけられ、追放された。最後に残した捨て台詞は、誰も記録していない。
破滅に向かう絶望とは、より大きな存在の意思に触れ、何もできずただ目を閉じ、恐怖する者達のことである。
――――――
「アナタには剣と弓は合いませんね」
マザーはリーリアと手合わせして、そう結論付けた。かつてリーリアと同じくらい胸が大きいシスターがいたそうだが、その子は騎士が振るうような大きなの剣と弓を具現化し、華麗に操ったそうだ。浄化の法は子宮に限らず、武器にも纏わせられる。流石に手放した武器に込められ続けるほど力はないが、矢を相手に突き刺す程度の時間ならば神聖を保てるのだ。
しかし彼女は体幹にも恵まれていたからの戦闘スタイルだったのだろう。リーリアは武器を振るうには華奢過ぎた。遠心力や重さに体をもっていかれ、バランスを崩してしまう。その点のリーリアのセンスは壊滅的だった。
そこで重い武器ではなく、短剣で戦うスタイルを模索させた。こちらは敵に近づかねばならない反面、取り回しが良い。武器そのもの威力は低いものの、余りある彼女の膨大な魔力であれば致命傷になり得る。課題は、遠距離の敵への対処だった。
戦術はあるにはある。魔力で弓を作るというものである。しかしそれは魔力消費が激しく、もし枯渇してしまえばそのまま死に直結する。だからまずは基本的な立ち回りを鍛え上げる方針だ。それに、ここでは弓ノ魔法を教えられる者がいない。
あまり褒められた話ではないが、弓ノ魔法をより深く研究しているのは、信徒の中でも外法に手を染める者達だった。なるべくリーリアには、それらの近くには寄らせたくない。確信はないが、リーリアには危うさがある。
小エネヌトの退治を指導したことがある。リーリアならば容易に祓えるだろうと判断した。しかし彼女は魔物の様子を観察し、捕らわれた。鈍くさい。この手の者は体で痛みを知らねば学習しないのだと、暫く放置した。
エネヌトは魔力を吸収する。彼女の魔力ならば、すぐに死に至るほどではない。吸血されれば他の姉妹同様、身をもって危険性を知るだろうと思っていた。実際それが、我々の使命の過酷さの由縁である。技は現場でしか磨けない。死の淵によって、人は生きる意志を自覚する。
リーリアは死ぬ間際になっても抵抗しなかった。流石にまずい頃合いになる前に助け出す。瀕死の状態だった。最初はこんなものだろうとマザーは考えた。
次もリーリアはエネヌトの餌食になった。最初の一回で学ばないとは愚かである。また同じ程度になるまで吸われ、助けられる。
次もダメだった。その次も吸われ尽くした。その頃にはマザーは呆れを通り越していた。彼女には無理だったのだろうと思った。たとえ浄化の魔力があろうと、戦う意思がなければ宝の持ち腐れである。ハーニャと共に後方支援の道を歩ませよう。回復術士の才はないだろうが、前線よりマシである。
次の日、休暇を出したはずのリーリアは、服をボロボロにして帰ってきた。何をしたのか聞くと、魔物を狩ったらしい。あり得ない、エネヌト程度の魔物一匹に籠絡されるような娘に、他の魔物が狩れるはずはないのだ。手を引かれて現場に向かうと、確かにエネヌトの増殖壺が潰されていた。修行用に残しておいたヤツである、何してくれてるのだと聞くと、悪びれもなく言った。
「根元から絶たないと」
やかましいわ。マザーはリーリアにゲンコツをくれてやった。リーリアはびっくりしていたようだが、涙一つ漏らさずケロッとしていた。それなりに強くイカズチを落としたつもりだったのだが。
もしかして彼女は、防御力が高い防衛タイプのシスターなのかもしれない。あるいは、敵を観察し、最小の労力で敵を倒す暗殺者タイプかも。そうやってアドバイスすると、リーリアは敵に真正面から向かっていった。
マザーは思った。リーリアは頑固な天邪鬼なのかもしれない。そういえばリーリアは、座学の宿題をやれと言ってやった試しがない。剣と弓が合わないと言った後も、弓を練習し、魔法で剣を再現しようとしていた。きっと、この子に生きる意志を説いても無駄なのだろう。却って死にたがるかもしれない。マザーはリーリアの将来を案じ、頭が痛くなった。
――――――
そして冒頭に戻る。マザーは浄化の姉妹というワードを用いて、リーリアを煽ってみた。しかし数日後、また少年達に弄ばれていた。
言い方を変えてみる。「あの子たちはアナタを馬鹿にしているのですよ、見返してやりたいと思わないのですか?」と説いてみた。ダメであった、数日後また揉みくちゃにされていた。
「はぁ~アナタではあの子達には敵いませんか。もう期待しないです。」
次の日リーリアは、少年達のリーダー格を伸していた。目撃者はこう語る。
「リーダーがいつもみたいに胸触ろうとおっぱい出したらさ、何かの棒を取り出して脇に当てたんだよね。そしたらリーダー呻き声あげてさ。空かさずリーリアが鳩尾にその棒突き刺すから、苦しそうに倒れちゃって。それから馬乗りになって、顎下に棒を叩きつけられたリーダーは白目向いて気絶したんだ。あまりに唐突で見てるしかなかったよ。乳丸出しのままだったんだせ?いったい何が琴線に触れたのか分からないよ、怖ーよあの女…」
自業自得である。普段温厚な人を怒らせると怖いのですよ、と教えてやる。まあ怒らせたのはマザーであるが。
リーリアはこの修道院で最も強かった。エネヌトの一件から、マザーはリーリアの指導をやめた。すると、メキメキ結果を出した。マザーの面目丸潰れである。だがプライドなんか気にしてられる時勢ではない。結果としてこれが最も効果的だったのだ。
とりあえず使命だけには不服ながら従うようである。しかし、細かい指示は一切聞かない。だからチームでの任務には向かない。単身向かわせ、必要あらばサポートをつけるぐらいが丁度いい。リーリアはハーニャと仲が良いようだ。ハーニャは面倒見がいい、リーリアとも上手くやっていけるだろう。
――――――
その日リーリアは一人、慰霊碑を訪れていた。空は闇に沈みかけて、星を覗かせていた。
この場所は誰がいつ建てたのか分からない神殿である。大きな石造りの支柱が四方に鎮座している。屋根は崩れてしまったのか、それとも元々ないのか分からないが、おかげでその柱は天に届きそうなほど高く聳えていた。これほどの長さの柱をまっすぐに建てる技術は、今の人には存在しなかった。そこに人々は神聖を感じ、後から慰霊碑を作ったのである。
リーリアには強い信仰があるわけではない。しかし何となく、神は居るだろうと思っていた。自分の力が神から与えられたものだと、教会に教えられたからだ。リーリアにはよく分からなかったが、魔物を倒す力があるのは、無いよりはいいのだろうと思った。戦う力がなければ、家族を失い、悲しみに暮れることになる。リーリアは修道院の家族を失いたくはなかった。
信仰というものはさほどないが、彼女もシスターらしく、死者に祈りを捧げることはある。実利上、アンデッドとして復活する魂を浄化する意味合いがあるらしい。しかし単に災厄の予防でしかないのなら、死者のために墓など立てないだろう。名を刻み後世に残すのは、失った人達の生きた証を、生者が忘れないようにとっておきたいからだ。それは私たちも明日死者になるかもしれないから、自分達のことも忘れないでねと、皆で歴史を繋いでいこうとする意思だ。
リーリアは別に空いた時間のすべてを、修行するか他者に辱められているというわけではない。彼女は確かにシスターであった。自分で自分の体を浄化することはできない根っからのアタッカーではあったが、物静かと称される程の貞淑な行いはする。ただものを言わないから、周囲の人間が勝手に解釈して、いいように見てしまうだけなのだ。
リーリアはふと柱を見上げた。何かが揺らめいているようだった。
足を掴まれた。
驚く。振り返っても何もいない。持ち上げられ、逆様に吊り下げられた。夢かと思った。あまりに唐突の出来事で、頭が追いつかなかった。地面が一瞬で遠ざかる。昔林檎を投げて遊んでたら、地面に落として潰してしまったことがある。その高さだった。リーリアは落ちたら死ぬ高さで宙吊りになった。
服が引き裂かれる。意味が分からなかった。何かがいる。何かが触れている感触がある。しかし何もない。見えないし、聞こえないし、匂いもしない。口に何かが突っ込まれる。味はない。何かが口を拡げているという感触だけある。
リーリアは何かを膣に挿入された。
呻き声をあげた。痛みで気が飛びそうだった。内側を圧迫される苦しさで吐きそうだった。それはあろうことか、激しく抜き差しを繰り返した。何かの空間を避けて膣から血が噴き出した。それがリーリアの破れた衣服と顔を濡らした。口に入り込む何かと一緒に、鉄の味がする。リーリアは宙吊りのまま、何者かに犯されていた。頭に血が上り、子宮を金槌のように叩かれ続け、世界がチカチカと弾けた。
一瞬、ハーニャと遊ぶ光景が浮かぶ。子宮の痛みで目覚める。食卓を囲む楽しい風景が見える。子宮の痛みで目覚める。繰り返し、気絶しても叩き起こされた。
微かな意識を振り絞り、魔力を練った。それが魔の物であると理解したからではない。防衛本能である。全身でそれを撥ね除けようとした。無理だった。リーリアは何もできなかった。リーリアははじめて、己の力ではどうしようもない存在がいることを経験した。
それは勢いよく流し込まれた。暴力的な圧に思わず喚く。胎に温かいぬめりを感じる。それが精液であり、普通の男ならば行為の終わりを意味することをリーリアは少しも考えなかった。なぜなら膣に挿入された何かは、すぐに再び子宮を叩いたからである。子宮に満たされた精液が圧を増し、内蔵がペシャンコになりそうだった。溢れた精液が飛び散り、服と顔を汚した。黄色く生臭く饐えた臭い。また出される。子宮が内側から拡張される感覚に叫んだ。それでもリーリアは振るい落とされないように何かへしがみついた。縋れる相手が当の絶望しかなかった。絶望に縋り、ただ呻きを捧げた。
それは人で言うところの体位を変え、リーリアを使った。反応が悪くなってきたのを見て、上下を入れ替えたらしい。リーリアは気絶することがなくなった。気絶してくれれば、一瞬でも夢が見れたかもしれないのに、延々に続く痛みが世界のすべてであった。
終わりを祈った。ついにリーリアは死を覚悟するのではなく、死にたいと思った。意識を手放して、二度と苦しみに目覚めること無きよう神に願った。しかし神は与えた。それは絶望である。肉棒である。見えない何かは嘲っているかのように振動した。もちろんリーリアには痛みしか分からない。自分では敵わない魔物以上の何かが自身を壊そうとしていることだけを知った。知ったとしてもどうにもならなかった。どうにもならない手遅れだけが知だった。
何度も胎に注ぎ込まれた。リーリアは痛みを感じなくなってきた。感覚が遠ざかっていった。カラダが浮いている。自分から離れている。白いキャンバスの前に、自分がいた。さっきと比べて、とても心地良かった。死んじゃったのかな。リーリアは目を閉じた。閉じれなかった。
キャンバス越しに、世界が見える。宙だった。何かがいる。手を伸ばした。伸ばしたけれど、届かなかった。だから射ることにした。弓を引いた。弓があった。青白い矢で狙い、それを射貫いた。
リーリアは落下した。
足から着地し、骨が砕けた。踵が粉砕し、片方の脚があらぬ方に曲がり、もう片方の脚から骨が突き出した。リーリアは悲鳴をあげた。誰にも届かなかった。血が流れすぎている。
リーリアは目を閉じ、眠った。
ハーニャは流れ星を見た。季節外れの星、まるで青い彗星である。それは天高く昇って行った。ハーニャはその根元が、リーリアのよく行く慰霊碑であると知っていた。気づけば駈けだしていた。
そこに血だらけのリーリアが倒れていた。ハーニャは泣きながら彼女を介抱した。あと数時間発見が遅れていたら死んでいただろう。
ハーニャが言うには、リーリアは目を閉じて笑っていたらしい。
「どれほどいい夢を見たんだい?」
マザーの問いかけにリーリアは答えなかった。彼女は滅多に笑わない。友達と遊ぶとき年相応の笑顔を見せるらしいが、マザーの前で笑ったことはなかった。それは過酷な使命に適うだけの試練を与えてきたからだ。マザーはリーリアの笑顔を思い出せなかった。
程なくして、リーリアの胎は大きくなった。事件現場に行ったから分かるが、夥しい量の血と精液で酷いものであった。リーリアがそんじょそこらの魔物に遅れを取るとは思えない。数日もせず膨らんだ胎がその証明だった。
マザーはハーニャに指示し、精神世界の門を開かせた。この一件で知った、ハーニャには状態治癒の才能があるらしい。マザーは忌み子の先触れを処理した。そして再び、リーリアの不妊の加護をかけ直した。
骨折が治るまでリーリアを部屋で安置させていたが、その間暇だったのか、杖を宙に向け振るっていた。普通の者なら立ち直れないほどの惨劇に遭ったはずなのだ。しかし彼女はすでに、次の戦いを夢見ていた。この子はたぶん、手枷をされても魔物に立ち向かうのだろう。天性の使徒である。いや、むしろ信徒というより、狩人に近いか。
おそらく彼女は、夢でも魔物を狩っている。宙の夢に捕らわれている。外法に触れたのだ。ときどき部屋の窓から、青い矢が放たれているのを見た者がいる。リーリアに問い詰めたが、何のことか分からないと言った。
数年後、彼女が魔法ノ弓を使う姿を見たと風の噂で聞いた。マザーの下を離れてからのことである。
彼女は修道院に暮らしている間の外出、雨の日以外も帰りが遅くなっていた。その時には決まって、精液と雌の臭いがする。彼女には何を言っても無駄だろうと思いつつ、「シスターなのだから皆のお手本として貞淑に振る舞わねばなりませんよ」と真正面から言うと、意外にもあっさり頷いた。
次の週のこと。一ヶ月ごとに修道院へ大量の野菜が届くようになった。何の取引があったかは教えてくれない。けれど、野菜に喜ぶ修道院の子たちを見て、リーリアは笑っていた。そのリーリアが、マザーの記憶に残っている唯一の笑顔である。