二人にとって初めての行為が終わり、しばしの間二人は互いを抱きしめ合ったまま荒い呼吸を繰り返していた。
懺悔室には先ほどまでの熱気が嘘のように静寂が戻っていた。
ただ二人の心臓の鼓動だけがお互いに聞こえていた。
「冷たい……ですね」
「はい」
改めて呟いたように石の床の冷たさにアルドリックとセレスティアは今更気づく。
二人の肌はそんな冷たい床など気にならないほど生々しいほどに熱くなっていたのだ。
やがて、絡み合っていた身体がわずかに離れる。
まだ互いの熱を感じられる距離で、セレスティアは先ほどまで自らの内側を満たしていたアルドリックの逞しいモノに吸い寄せられるように顔を寄せていく。
好奇心で強く輝くアメジストの瞳がしげしげとその形、色、脈打ち浮き上がった血管を観察し始める。
聖女として生きてきた彼女にとって、それは初めて間近で見る未知の男性そのモノだった。この部分で女性と交わり次の世代である子供を成すのだ。そう考えれば神秘的で尊く感じてしまう。
「ん……これがアルドリック様の……モノなのですね……」
彼女は小さな声で呟くと、躊躇いがちに白いその指を伸ばしてまだ熱を帯びているその先端にそっと触れた。
「セ、セレスティア様!? な、何を!」
アルドリックは驚きと羞恥に顔を赤らめ、慌てて身を引こうとするが、セレスティアは悪戯っぽく微笑むと、今度はもう少し大胆に、指でその堅さを確かめるようになぞると、軽くその細い指で摘まんでみせた。
「ふふ……とても、熱くて……堅いです。男性にはこのように逞しく力強いものがついているのですね」
言いながら、彼女はまるで無邪気な幼子のように指先でくるくるとアルドリックのものを弄び始めた。
「それとも……アルドリック様のは特別なのでしょうか?」
悪戯っぽい微笑みを浮かべながらアルドリックのモノを弄り回すその無垢な仕草と、対照的な妖艶な眼差しに、アルドリックは再び疼き、反応してしまう。
「お、おやめください! そのような!」
「ふふ……おかしいですね? 先程よりもっと堅くなりましたよ。それにこんなにビクビクと上下に動くのはどうしてですか、アルドリック様?」
その誘うような聖女の眼差しにアルドリックの分身は完全に屹立し反り返った。
そのより堅く大きく反り返ったアルドリックの分身を愛おしそうに指で弄びながらゆっくりとセレスティアの顔が先端に近づいていく。その様子をアルドリックは凝視しながらも止めることができなかった。
やがて聖なる唇が不浄の欲望に穢れた先端に触れ、民への祝福を奏でるための聖女の舌が先端をゆっくりと擦り上げる。
「む……くッ……このようなことを……聖女様は一体どこで……」
「女には秘密があるものですよ? それが聖女であっても同じこと……です……んッ……」
「ううッ!」
先端の膨らみが聖女の口の中に全て飲み込まれた。
溶けてしまいそうなほど熱く潤った口内で聖女の舌がくるくると自在に動き回る。
「い、いけ……ません。出て……しまいま、くッ!!」
アルドリックが呻き声をあげると、セレスティアは先端を口に咥えたままどこか嬉しそうに頭をゆっくりと上下に動かし始めた。
「な、なりませぬ! 御身の口はこのようなことに使うべきで……あッ!!」
聖女の舌先がアルドリックの特に敏感なところをピンポイントで刺激してしまい、堪らず腰がビクンッと跳ねる。
同時に聖女の瞳が「見つけてしまいましたわ」とばかりに嬉しそうに潤む。
すぐに聖女の頭がアルドリックの腰の上でリズミカルに上下に動き始め、熱くぬめる舌が敏感な先端を隅々まで粘膜をこそぎ落とすかのように動き回り、アルドリックの弱点を
「あぁ!! ダメです、セレスティア様!!」
聖騎士として聖女の口の中に出してしまうなどアルドリックには考えられなかった。
そもそもこのような口技があることすら知らなかったのだ。
腰を捻り、悶えながらアルドリックは耐えに耐えた。愛しいセレスティアの行為の邪魔をすることなどとてもできない。できることは耐えることだけで、ひたすら限界が来るのを引き伸ばし続けたが、セレスティアは告解の夢の中のアルドリックのように執拗だった。
執拗に舐め回し、執拗にしゃぶりあげ、吸いつき、アルドリックの弱点を舌先で執拗に
「あぁああッ! 申し訳ありません、セレスティア様!! くぅッッ!!」
「んッ……んッ……んッ…………んッ…………はぁ………」
アルドリックが腰を震わせ、聖女の口の中に己の全てを放ってしまった。
律動する度に先端から溢れるものをセレスティアはうっとりしながら全て飲み込んでいく。
「はぁ……はぁ……」
「………………意外と苦いのですね。もっと美味しいものかと……」
◇◇◇◇◇◇◇
「もうそろそろ……朝日が昇りますね……」
体力を使い果たし、冷たい床の上に身体を投げ出し横たわるアルドリックに寄り添いながらセレスティアが気怠げに呟いた。彼女の手はつい先程の迸りを最期に堅さを失いつつあるアルドリックのモノを物足りなそうな雰囲気を醸し出しながら弄り続けていた。
だが、聖女の蜜液と唾液の洗礼を繰り返し何度も受けては、いかなアルドリックでも勃ちあがるのは最早不可能であった。
「……朝!?」
アルドリックが疲れ果てた半身を跳ね起こした。
先ほどまでとは打って変わり、慈愛を感じさせる表情を浮かべセレスティアに向き直りその頬にそっと手を添える。
そして決意のこもった目で聖女に語りかけた。
「セレスティア様。夜が明ける前に聖都を抜け出してください」
聖女は握りしめたまま手を止め、アルドリックを正面から見返した。
「……あなたは一緒には来てくださらないのですか、アルドリック様」
「……私は教皇猊下にこの度のことを御報告せねばなりません。己の欲望に負け、聖女様を一方的に穢してしまったと」
聖女の握りしめる手に力が入った。
アルドリックはそれにも怯まず言葉を続ける。
「聖女様に非はなく、私に全ての責任があるとしてその後自裁して……地獄に堕ちる所存です」
アルドリックはセレスティアの眼を見つめたまま真剣な表情で伝える。
しばらく見つめ合った二人は、セレスティアが根負けするように目を逸らした。
「……やはりアルドリック様はそうなさるおつもりでしたのね」
視線を落としたセレスティアにアルドリックが優しく語りかける。
「はい。それに聖印を失った聖女クラウディアの顛末を歴史書でご存知でしょう?」
「存じておりますとも。当時の戦乱の中で敵兵に
聖女セレスティアは両手の甲を見つめながら答える。当然のことながら純潔を失ったセレスティアに聖女を示す聖印はもうない。
「私は道を外れた聖騎士の最期の務めとして聖女様を穢してしまった罪を被らねばなりません。貴女と一緒に行けないことが心残りではありますが、時間もありません。すぐにでも旅装を整える準備をしましょう」
心残りを振り切るように立ち上がったアルドリックの手をセレスティアが握りしめた。
「……いいえ、その必要はありません」
セレスティアのその言葉と同時にアルドリックの身体が紫の光の奔流に包まれた。
「──ッ!? これは聖魔法? で、ですがセレスティア様は!?」
セレスティアの両手にはもう聖印はない。聖魔法を使うことはできない。
「安心してください、アルドリック様。昨日のお昼の祝福の儀式の際にかけておいた聖魔法が、
セレスティアは狼狽しているアルドリックの身体を抱きしめた。
「あなたはこれから自室に戻り……眠ります。眠りから覚めたら今夜のことは何も覚えていないでしょう」
「ば、ばかな。そんなことをしたら……御身がッ!?」
だが、驚くアルドリックの顔から表情が抜け落ちていき、やがて聖魔法の光が収束する。そこにはぼんやりとした表情で立ち尽くすアルドリックの姿があった。
「……アルドリック様。後のことは何も心配いりません。自室に戻りお眠りください。目が覚めれば一夜の夢として……もう何も覚えておりませぬ……故」
セレスティアの両手から解放されたアルドリックは、心ここにあらずといった感じで、懺悔室を見回し、ふらふらと身体を揺らしながら衣服を身に着けると、懺悔室からおぼつかない足取りで出ていった。
一人残されたセレスティアは、アルドリックの足音が完全に遠ざかるのを待って、ゆっくりと息を吐いた。
彼によって満たされ心地よい倦怠感の中に、聖なる力が失われた感覚があった。
乱れた夜着を整え、自らの手の甲を見つめる。
そこにあるはずの白銀の聖印は、やはり跡形もなく消え失せていた。
聖女の資格喪失。
手の甲から聖なる証が消え失せた現実。
それは、彼女が想像していた以上に重く冷たい感覚だった。
神殿の歴史書庫で読んだ遠い昔の記録が蘇る。戦乱の際の混乱によって聖印を失い、最後は民衆から石もて追われ、無惨な最期を遂げたという聖女クラウディアの物語。
教会はきっとセレスティアを守らない。
聖女クラウディアと同じ運命が今、自分に降りかかろうとしている。
セレスティアは夜着の上から法衣を着ると懺悔室の扉を開けた。
古びた蝶番の音が誰もいない聖堂の中に響いていく。
元聖女のセレスティアは扉が閉まる前に一度振り返り、アルドリックとの一夜をもう一度心に刻み込んだ。
◇◇◇◇◇◇
「……もうそろそろ夜が明ける」
聖堂の石壁を通してさえ、夜明け前のひときわ冷たい空気が肌に染みるようだ。東の空が、もう間もなく白み始めるだろう。そして朝になれば全てが終わる。
彼女の脳裏に、先ほどまで自分を激しく求めていた騎士長の姿が浮かぶ。
あのままでは聖女を穢したとして彼の処分は免れなかった。
私たちは二人とも死をもって償わねばならない禁忌を犯したのだ。
元聖女は「自分は間違っていない」と小さな声で呟いた。
彼だけは間違いなく助かるのだ。
やがて聖堂を出た元聖女は東の空を見た。
薄く白い靄が地平線に広がって行こうとしていた。
夜明けだ。
聖女の破滅を意味する朝の白光が聖都を白く染め上げていく。
セレスティアは震える息を吐き出し固く目を閉じた。
祈る言葉さえ今は虚しい。
今、彼女にできることは、ただ、運命の瞬間を待つことだけだった。
時間が永遠のように感じられた、その時。
身体の内側から青みがかった光の奔流が溢れ出した。
青白色の光が元聖女の身体を包み込んでいく。
「──ッ!」
昨日の昼の祝福の儀で祝福に混ぜ込み放っておいた聖魔法が
壊れたものを元に戻す聖魔法。
正確には魔法をかけられたものの時間を巻き戻し、元の姿へと戻してしまう時間遡行魔法。
疲れ果てていた元聖女の身体が昨日のお昼の時の肉体へと時間を巻き戻していく。
やがて光の渦が収まり、聖堂の前広場に静寂が戻った。
セレスティアはゆっくりと目を開け、自らの身体を確認するようにそっと触れた。
上手く行った。
失われていた聖女の証たる聖印も、両手の甲で再び淡い白銀の輝きを放っている。
指先に意識を集中させると微かな治癒の光が灯る。聖魔法も問題なく行使できる。
彼女は再び、唯一神アエテルヌスに仕える清らかで純潔無垢な聖女へと完全に戻っていた。
昨日のお昼には肉体的には何も起こらなかったのだから当然とも言える。
「……ふぅ」
深い安堵の息をつくと同時に、彼女の唇には微かなそして複雑な笑みが浮かんだ。
正直言うと成功する保証はなかった。
すべてを見通す全能の神アエテルヌスがこのような小細工に気づかぬはずがないのだ。
肉体が昨日のお昼の状態に回帰しようと、聖印が戻らない可能性は極めて高かった。
だが、聖印が戻ったということは神はこのアルドリックとの深夜の逢瀬を事実上お許しになられたということだ。
聖女セレスティアは地面に跪き、神に祈りを捧げた。
「神よ、感謝いたします」
アルドリックの心は記憶を忘れても、きっとこの逢瀬での出来事は彼の魂に刻み込まれたはずだ。
彼の懊悩はおそらく消えるか……軽減するだろう。
覚えているのは自分だけでいい。
背徳の罪を背負うのも自分だけでいい。
彼女の心には罪悪感と背徳感と共に、先程までのアルドリックとの交わりの熱と、彼の苦悩に寄り添えた充足感がまだ生々しく残っていた。
「彼が覚えていないことを辛く感じない……のは嘘になります」
だけどアエテルヌス神の更なる寛容さを期待するのは冒涜であり、決して許されることではない。
あぁそれでも……。
清らかな聖女の仮面の下で、彼女は自らの身体の
アルドリックの存在がもたらすこの甘美な悦びに、もはや抗う術はなく、その身を焦がしていくしかないことを悟るのだった。
神への祈りを終えた彼女は再び静かに立ち上がった。太陽が昇り始め聖都から静寂が消えていく中、何事もなかったかのように聖堂を後にしていつもの聖なる務めへと戻っていく。
これから聖騎士アルドリックが再び聖女への身を焦がすような想いに囚われてしまうのか、もしくは聖女自身が神への冒涜を働くことになるのか、それはまだ彼女自身にもわからなかった。
<完>