原初の悪魔は、名もなきキミに惹かれてしまった件 作:luluart
pixivでも書いているのでよかったら。
その日、魔界の空は不気味なまでに静かだった。
地を這う瘴気も、断末魔のような咆哮も、すべてが沈黙している。
まるで何かが始まることを、恐れているかのように。
玉座に座るのは、原初の悪魔・ウルティマ。
淡い紫の髪を揺らしながら、飽きたように頬杖をつき、退屈そうに吐息を漏らしていた。
「――ヒマ、だよねぇ。ねぇ、退屈しない?」
玉座の下にひれ伏していた下位の悪魔たちは、息を呑んで答えを待つしかない。
ウルティマの問いに、返答など許されていないことを彼らは知っていた。
「なーんか、ここ(魔界)の生意気な奴らをなぶり殺しにするのも飽きたんだよねー。
……いいことおもいついちゃった♡」
ウルティマは立ち上がると、手にしていたワイングラスを放り投げた。
割れる寸前、空中で消えるそれは、彼女の気まぐれを象徴するようだった。
「だから、やってみようと思うんだ。人間の国、“内側”から――壊すの」
瞳に映るのは、興味本位か、それとも新たな遊戯への期待か。
原初の悪魔は、ただの「破壊」では満たされなくなっていた。
「まずは、可愛い女の子になってー。泣き虫で、か弱くて、誰にでも笑いかける……
そんな“理想の普通”を演じてみよっと。」
ウルティマは微笑む。
それは誰が見ても“無垢”と錯覚するような、完璧な少女の顔だった。
「ねぇ、楽しくなりそうだと思わない? ボク、ちょっとだけ本気出すから――」
こうして、“少女”ウルティマは人間の国へと降り立った。
まだ、その地で出会うことになる“彼”の存在など知らぬままに。
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灰色の空と違い、人間の国はやけに空が青かった。
遠くで鐘が鳴る。子どもたちの笑い声。石畳を転がる果物。
どれもが、ウルティマにとって“非日常”だった。
「ふーん。これが人間の“平和”ってやつ?」
通りの片隅、教会の近くにある小さな噴水の縁に、彼女は腰掛けていた。
肩までの黒髪に見えるよう魔法で染められた髪。
落ち着いた色合いのワンピース、控えめなレース。
誰がどう見ても“田舎町の普通の少女”そのもの。
だが、その瞳に映るのは、この世界のすべてを見透かす悪魔の視線だった。
「ねぇ、“この国”ってさ。誰が一番偉いの?」
問いかけた相手は、通りすがりの花売りの老婆。
屈託のない少女の笑顔に、老婆も笑って答えた。
「一番偉いのは王様だよ。でも、あんたみたいな子が知ってどうすんのさ」
「ううん。ただの興味なの。ありがとう、おばあちゃん♡」
ウルティマはぺこりと頭を下げて、にっこり笑う。
その笑顔に、誰もが油断する。
まさか、この子が国そのものを飲み込もうとしている悪魔だとは、誰も思いもしない。
その後、彼女は村の外れにある空き家に「親戚の紹介で越してきた」という設定で住み着いた。
日中は街の教会や商店の手伝いをして、夜は静かに書き物をして過ごす。
近所の大人たちは言う。「あの子はいい子だねえ」「ひとりでがんばって、えらいねえ」と。
「ちょろい、ちょろい……ほんと、愚かな生き物だよね」
誰もいない部屋、冷えた空気の中で、ウルティマは楽しそうに微笑む。
魔界から派遣された配下たちと連絡を取り、情報を集め、腐敗した貴族に取り入り、
じわじわと“この国”を内側から喰らい始めていた。
けれど――
まだこの時は知らなかった。
ただの人間の“あの男の子”と出会うことで、自分の中に“予想外”が生まれていくことを。
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