勝ちヒロインにとって最高に都合のいい男子 作:愛甲ハマチ
「よっ、温水。八奈見。久し振りだな」
「おっ、綾野くんじゃーんっ!久し振り~」
「あ、ああ、久し振り……って、二ヶ月振りくらいじゃなかったっけ?」
大学の二限目が終わり八奈見と二人で歩いていると、綾野とばったり
「あー、大学のキャンパスって高校とは違って、色々と物珍しいものばかりだから思ったより濃密な時間だったんだな」
「……というか、温水くん。二ヶ月も会わないのは久し振りでいいでしょ。どういう時間感覚してるの?」
大学の広いキャンパスでまさか知り合いと偶然出会うなんて思わなかったけど、昼食のこの時間なら大学の食堂か外食に向かうからこんなこともあるんだろう。
お互い同じ大学に進学はしたけど、別の学部に入ったため出会う機会なんてそうそうなかったから、どこか新鮮に感じる。
「でも、大学が始まって慣れるのに時間が掛かったし、集まれたのは入学する前に皆で集まったのが最後だよねぇ。
うわ~、もう二ヶ月も経ってるのかぁ……ナンパもされたし
思い返せばそれぞれの大学の入学祝いで、ツワブキ高校の友人達で集まって、飲み会のようなものを開いたのが最後だ。
それ以降は新生活に慣れるために、集まる機会を取ることができなかった。
「綾野はサークルには入らないんだっけ?」
「ああ、図書館司書になるためには勉強をしないとだし、念のために色々と資格を取っておきたいんだ。
サークルで遊ぶ時間が勿体ないって思っちゃうんだよなぁ」
実に綾野らしい理由だった。
サークル活動などをして大学で遊ぶって大学生も多いだろうに、綾野にはそういった欲はやっぱり無いようだ。
まあ、自分と八奈見もわざわざ交遊関係を広げることに意味を見出だしてないけど。
「えーと……朝雲さんは?最近はどんな感じ?」
「え?……ああ、いや、温水から千早とのことを聞かれるなんてちょっと予想外だった。
うーん、最近はデートを一回しただけかなぁ……。
やっぱり在学中に資格を一つでも多く取っておきたいから、どんな資格があるかを調べてそのための勉強と、講義での課題をこなしていくと時間が足りないんだ」
「へー、二人はそんな感じなんだ。
私達は同じ講義取って課題を一緒に終わらせて、その後に大学生らしく遊ぶって感じだよ。ねっ、温水くん!」
「うん、まあ基本的にカラオケとかROUND1だけど」
たまに水族館も行くけどそういった場所には、何故か運悪く袴田と姫宮さんがデートをしていて、八奈見が曇ることが起きる。
同じ県の大学だから近場のデートスポットで、奇跡的に出会すことが多いのも仕方ないのだろう。
十二年間の恋心はそう簡単に捨てきれないということだ。
……まあ、それでもたまに三人で遊びに行くらしいから、八奈見は凄いメンタルを持っている。
「(それにしても、綾野にも少し余裕が生まれているような気がする。八奈見も顔が良いって言ってたし相当モテるんだろうな。本人は興味無さそうだけど)」
高校のときのような点数がハッキリ出るのではなく、ABCDの大雑把な評価基準で合否が決まるのが大学だ。
そのため、昔のようなテストの点数で朝雲さんを上回ることの呪縛から、どうやら抜け出せているようだった。
そんな思春期から落ち着きを持つ男になった綾野だが、鈍感な部分と恋人を放置気味にしてしまう悪癖は治ってはいないみたいだ。
「(道理で大学に進学してから週二の頻度で家に来るわけだ)」
ちなみに週一で俺も朝雲さんの独り暮らしのマンションに足を運ぶため、週三で俺と朝雲さんは性交を繰り返している。
もし、朝雲さんから拒絶されてしまえば、おそらく一月も掛からずに八奈見に襲い掛かると思う。
友人関係どころか犯罪者として御用になりかねない。
「ーー光希さんと温水さん、それに八奈見さん。こんにちは、奇遇ですね」
「うわあっ!?あ、朝雲さんッ!?」
「わあっ!?び、びっくりしたぁ……もー、温水くんリアクション、デカ過ぎるって」
「あ、あはは……そうだね。ごめん八奈見さん……」
そんなことを考えていると、朝雲さんが唐突に現れた。
昨日のことを思い出して少し動揺してしまうがすぐに取り繕う。
バレれば修羅場になる。
自分が最低最悪なことをしている自覚はあるけど、朝雲さんを抱いてしまったあとからさらに螺子が外れてしまったのか、性欲が止まらなくなってしまった。
女体の味を知ってしまったからか、一人では満足できなくなってしまい、朝雲さんにお世話にならないと既にどうしようもなくなってしまっている。
色々な意味で死活問題だ。
「(下手をすると八奈見に衝動をぶつけるかもしれない……それだけは防がないと)」
横をチラリと視線を向けると、そこには溌剌としたいつもの元気な笑顔を浮かべる八奈見杏菜が居る。
見た目は美少女の友人に、自分の性欲をぶつけることだけは防ぎたかった。
今までの積み上げてきた関係性を性欲で壊すのはやっぱり怖い。
それで人の彼女に手を出すのは間違っていることも分かっているが、それでもこれが自分にできる自衛の方法だった。
「(綾野のことを考えれば、そういったお店に行けばいいだけなんだけど、潔癖症のせいで赤の他人とはできないんだよなぁ……病気とかも怖いし……)」
となれば、八奈見か朝雲さんしか選択肢はない。
一時期は八奈見と付き合うことも考えたけど……。
「(昔に振られてるし、友達だから隣に居ることができてるってことを考えると、やっぱりまた振られる可能性が高い……第一、朝雲さんと違って十二年間袴田を想い続けた八奈見は、処女である可能性が高いから、俺の一物に怖がってそれで振られるかも……)」
それが無いとは言えない。
既に綾野と結ばれていた朝雲さんも、最初は余りのデカさに言葉を失っていたぐらいだ。
……振られる可能性ばかりが浮かんでくる。
性欲を優先した結果、八奈見とこれっきりかもしれないという恐怖を無視できるほど俺は強くはなかった。
ーーなんせ、八奈見杏菜は初めての友達なのだから。
「うん?どったの温水くん?」
「ううん、何でもないよ八奈見さん」
見られてることに気付いたのか首を傾げながら尋ねてくる、4K美少女こと八奈見杏菜。
どこかの8K美少女には届かなくても、メリハリの利いたダイナマイトボディである事実は揺るがない。
一瞬、そういった目を向けそうになるが、頭を振ってその邪念を振り払う。
「(朝雲さんを抱いた翌日だからってピンクの思考過ぎるだろ……)」
「??……どったの温水くん?」
いきなりの俺の行動に
「じゃ、じゃあ、俺達は昼食を食べに行くけど二人はどうする?」
「悪いけど俺は学生センターに行く用事があってさ。千早も行くんだよな?」
「はい、そうですね。お二人は先に食べていてください。いつ頃終わるかも分からないので」
「そうなんだ。それじゃあ、仕方ないね。バイバイ、二人ともまた会おうねー!」
「うん、それじゃあこれで」
そう言って俺達は別れた。
そこでふと唐突に朝雲さんの後ろ姿を思い出して、無意識の内に身体が動いて振り返った。
すると、振偶然か必然か朝雲さんも俺の方を振り返っていた。
朝雲さんは少し驚いた顔をした後に、すぐに含みのある顔を浮かべて……、
「……ペロッ♥️」
「ッ!!」
流し目をしながら
男を立てる大人しめの美人として振る舞いながら、夜には淫らに乱れるその在り方は『昼は淑女、夜は娼婦』という男の理想そのもの。
どこまでも魅力的になっていく朝雲さんに見惚れながら、思わずピクリッと動くあそこの見境の無さに自分の理性の弱さを自覚する。
「うん?……温水くん?どうかした?」
「……いや、何でもないよ八奈見さん。それじゃあ、どこに行く?牛丼屋とかでいい?」
八奈見が自分に着いてきていない俺に気付いて振り返るが、朝雲さんは既に前を向き綾野の隣を歩いている。
俺も何でもなかったように振る舞い、八奈見の隣を歩いて昼食を食べに行くために歩き出す。
今のやり取りを見てる人はおらず、分かるのは俺と朝雲さんだけ。
……最低だけど朝雲さんとのそんなやり取りが楽しいと感じてしまっていた。
◆原作キャラ達の現在◆
温水&八奈見ーー同じ大学で同じ学部。ずっ友。
綾野&朝雲ーー温水ペアと同じ大学だけど別の学部。
袴田&姫宮ーー温水ペアと違う大学だけど同じ県にある大学進学。出会うことがそれなりにある。
玉木&月之木ーー温水ペアと違う大学で違う県にある大学進学。それなりに気に入ってるため、たまに連絡をしてくる。
焼塩ーー温水ペアと県を一つ跨いだ陸上の強豪校。
小鞠ーー温水ペアと同じ大学で同じ学部。しかし、バイト生活のため二人ほどの余裕はない。飲食店の厨房でビクビクしながら作り続けてる。
白玉ーーツワブキ高校在校生、志望校に向けて勉強中。今のところ出番はない。
佳樹ーー妹