勝ちヒロインにとって最高に都合のいい男子 作:愛甲ハマチ
千早は手に入れた情報を温水に伝える。
「華恋さんのことですが私が調べた結果では、やはり例のテニスサークルが関わっているようです」
「ああ、例の……」
袴田が入ったテニスサークル。
そこで浮気相手達と出会ったらしいが。
「はい、前にも言った通りテニスサークルとは名ばかりの、性行為を目的としたヤリサーでした。ですが、その実態は未成年に無理やり飲酒をさせたり、ハニトラを行いその光景を写真で撮るなどして、断ることのできない弱みを握るなどをする卑劣な行為を行っていたようです」
「……悪質過ぎる」
その余りにも悪質な方法に温水が顔をしかめる。
それを、どうやって朝雲が調べたのか謎が深まる温水だったが、それを考えても意味がない気がした。
何故なら相手はあの朝雲なのだから。
「それで今回は姫宮さんがターゲットになっていたということですね。華恋さんの弱みを握り脅そうとしたところ、それを袴田さんが気付き遠ざけていたようです。しかし、袴田さん自身は手遅れで既に脅されていたようです。袴田さんは何とかハニトラをしてきた人達を懐柔して、これ以上姫宮さんに危険が向かわないように手を尽くしていたようですよ」
彼氏としての責任感か使命感か。
しかし、それも最悪な方向に向かってしまった。
「華恋さんが袴田さんと別れたという事実を知って寄ってくる人達も、『男性不信になった』や『今はそういう気分ではない』などと言って遠ざけておけば、姫宮さんに向かう悪い虫を減らせるでしょう。それに、念のためにスタンガンを持たせてあります」
「スタンガン……ちなみに、それって普通のやつ?」
「はい、別に闇マーケットなどで買ってはいません。ちょっと出力は弄りましたけど」
「…………」
温水は遠い目をする。
こういう時に、深く踏み込んだら痛い目を見ることは知っているからだ。
スルーする事こそが最善なのである。
しかし、その過剰な対応も仕方ない。
送り迎えも姫宮の両親は海外に居るため、大通りを歩くかタクシーや電車を使うなどして、できるだけ一人にならない時間を姫宮自身で作るしかないのだから。
「第一、そもそも誘拐や監禁はリスクが高過ぎます。あちらもそれを理解しているからこそ、失恋した直後に誑かすなんて迂遠な方法を取ってきています。直接的な行動に出ることはまずありえないと言ってもいいでしょう」
現行犯として捕まるリスクを最大限削っているのだろう。
「華恋さんは袴田さんと同棲をしていました。その事から、袴田さんを脅す方々はそれを今まで知らなかったのだと思います」
「なるほど。知っていれば幾らでも弱みは握れただろうからね」
「ええ、もし彼らがその事実を知っていれば、華恋さんのプライベートな姿や二人の性行為を隠しカメラで撮影し、それを弱みにすることができましたからね。彼氏として袴田さんがこの三ヶ月の間ずっと隠し続けたのでしょう」
どれだけ脅されても彼女である姫宮さんだけは守ろうとした。
それは袴田の男としての意地だった。
「ですが、このような形になってしまった以上は別々の家に住むべきです。彼らにこの先も気付かれない確証はどこにも無い」
姫宮の心情的にも身の危険を鑑みても、今の袴田と同居してはならないのは明らかだ。
「どうやら袴田さん名義であそこは借りていたようですから、別の家に住むことで、華恋さんを避難させること自体は特に難しくはないでしょう」
「ってことは、引っ越し?」
「はい。それをどこにするかも目星は付けてあります。防音のセキュリティが高い場所に引っ越して貰うつもりです」
胸騒ぎがしたためつい尋ねてしまう。
「……ねえ、それってまさか俺の賃貸とかじゃないよね?」
この人はそういう突飛な事を言い出すため、まさかと思いながらその予測を口に出す。
だが、その懸念は肩透かしを食らうことになった。
「いいえ、華恋さんには温水さんとは別のセキュリティが高いマンションに住んで貰うことになります」
「あっ、そうなんだ。てっきり話の流れで『次は俺と同居する』なんて話になるかと思ったよ」
「実は私も最初はそうしようと思ったのですが、ここには八奈見さんが来ますからね。姫宮さんと鉢合わせてしまうと面倒ですから」
その言葉を聞いて深く納得する。
この事を知れば、何かと八奈見が騒ぎ出しそうだと。
「少し高めの賃貸ではありますが、高校生に一人暮らしをさせるほどの両親ならば、それくらいの仕送りは大丈夫でしょうし、今の姫宮さんはバイトをしていますから特に問題は無いかと思います……まあ、しばらくは身の安全のためにバイトは控えて貰うことになるでしょうけどね」
「まあ、そうだろうね」
バイト先から付けられて引っ越した家がバレるのは最悪だ。
それに、学校帰りにバイトをしてしまうと帰る時間が遅くなってしまう。
可能性は低いとはいえ、わざわざ危険な状態に姫宮を陥らせる必要はない。
「でも……親御さんは袴田と一緒だから大学でも一人暮らしを許してくれてたんだよね?今回のことを全部そのまま言うの?」
そうなると、ご両親は自分達のところに姫宮さんが居て欲しいと思う筈だ。
それこそ、犯罪に巻き込まれているのだから彼女の両親がそう考えるのは自然な事でしかない。
「その辺りは適当に理由をでっち上げれば充分でしょう。それこそ『セキュリティが不安だから温水さんが住んでいるマンションに引っ越す』だとか、『近隣住民の騒音が凄くてこれ以上は住めない』など、海外に居る華恋さんの両親を騙す言い訳だけなら幾らでも思い付きますよ」
つまりは、袴田の問題を全て口にする必要は無いということ。
危険な状況ではあるが強硬手段を取られる理由は低く、住む家を変えてしまえば特定するのは難しくなる。
「いや、でもこの問題はご両親に嘘を付くべきじゃ……」
「華恋さんはもう温水さんを忘れられませんから、それをすることは彼女にとってデメリットでしかありませんし、華恋さんも大学生なんですから自分の身の振り方はご自身で選べますよ。過保護にするだけが優しさではありませんよ?」
選択の自由は姫宮にあると朝雲は言った。
「まあ、そもそも『大学生になると世界が広がり魅力的に写る異性が増えていき、高校から付き合っていたカップルが別れてしまう』、というのはよくあることです。二人は婚約をしていた訳でもありませんし、もし別れたということにしてもそこまで大事にはなりません。それこそ、日本には大親友である八奈見さんが居ますから、彼女が両親を説得するための理由としては充分でしょう」
だから、何も問題はない。
少なくてもこれ以上のことをすることは無いと朝雲は告げる。
「でも……」
「温水さんはおそらく『姫宮さんが海外に行けば危険は無いのでは?』と、考えているかもしれませんが、姫宮さんの凹凸の主張が激しい身体とその美貌は、海外でも狙われることになると思いますよ?」
「……それは」
あの八奈見を超える8K美少女は伊達ではない。
その美貌は国を越えても世の男を魅了する。
それを考えれば、姫宮が男に狙われない場所など世界のどこにも無いのかもしれない。
「日本の治安も段々と危険にはなっていますが、それでも海外の方がまだまだ酷いですから、友人もほとんど居ないだろう孤立無援状態で、海外に飛ばされる方が危険だとは思いませんか?」
「確かにそうかもしれないね……」
「姫宮さんを私同様に自分の女にすると決めたんですから、温水さんがちゃんと捕まえておいてくださいね?」
「……うん、ごめん。ちょっとビビってた。俺じゃ姫宮さんを守れないかもしれないって」
まだ身近で守れる場所に居て貰う方が助けられると温水は考え直す。
「(でも、これで姫宮さんの安全をある程度確保できた……ってことかな)」
そして、ふと考えてしまう。
「それはそうと、袴田は大丈夫かな。弱みを握られて脅されていたなんて……」
脅しにくるほどの悪質なサークルを抜け出す方が難しい筈だ。
でも、袴田は俺の数少ない友達である。
何か、どうにかできないか……。
「ふふっ、温水さん。弱みを握ってくる相手に対してどうすればいいか知っていますか?」
「えっ!?まさか、何か良い手があるの!?」
すると、朝雲が得意気な顔をして言った。
「ーーやられる前にやれ、ですよ」
そう言うと、朝雲は手元にあるスマートフォンの液晶を見る。
「部長の田島宏樹は過去に集団で女子校生を強姦をした噂がありますし、未成年時代にお酒とタバコの常習犯。副部長の有田祐吾は女性を孕ませて学校を中退させたにも
「うわ……」
その余りにも下劣な所業に温水の顔が強張る。
まさか、それほど救い
「よくそこまで調べられたね」
「私もたった数十日でこれほど集まるとは思いませんでしたよ。まあ、色々と工夫はしましたが、本人達がかなりヤンチャな事をしていたので割りと簡単でしたね」
「……………………証拠は残してないよね?」
「はい、勿論です!」
自白した。
清々しい顔で彼女は手柄を得るまでに犯罪を行ったことを自白をした。
「(大学に忍び込んだりして個人情報を掻き集めたのかなぁ。あるいは、サイバー的な犯罪だろうか)」
どれでもありえそうなのが怖い。
まあ、いつも通り何かしらの罪を犯したのだろう。
「(でも、それで苦しむ人達を救えるのなら仕方がないか……ん?本当にいいのか?……なんか、いつの間にか毒されてない?)」
スッと受け入れてしまいそうになった自分に愕然とする。
慣れって怖い。
「部長の田島宏樹に関してはつい先日、未成年時代に撮影をしていた飲酒と喫煙をしながら、友人達と騒いでいるとある動画を見付けました。これで部長の田島は大学を退学することになることは勿論、サークル活動内でしていた犯罪を含めた、全ての事案を刑事事件の実行犯として取り扱うことになるでしょう。それこそ、サークルでの犯罪行為も当然明るみになり、加害者は全員芋づる式に捕まるかと思いますよ」
「……それを朝雲さんがして大丈夫なの?逆恨みとかされるんじゃ……」
朝雲さんが次のターゲットになってしまうと大変だ。
それは避けたい。
「勿論、私からリークなんてしませんよ?ネットの誰かがそう発信するんですーーまあ、何故かそれが一瞬で拡散され、警察が動かなくてはいけなくなるってだけです♪」
「えぇ……」
「でも、今はその三名だけの弱みしかありませんので、あと半年くらいは欲しいですね。そうすれば、全員を纏めて潰せるだけの弱みを手に入れることもできると思うのですが……」
果たして、それを一体どうやって集めるのかを全く分からない温水だったが、他でもない彼女がそう動くなら問題は全て解決するのだろうと温水は思う。
できる範囲で手伝おう……なるべく安請け合いはしない方向で。
「『弱みを握られており、それがインターネットという誰でも利用できるツールに拡散されてしまう可能性がある』……私から言わせて貰えばその時点で詰みです。全くの無傷で切り抜けることは不可能です」
『
「その実行犯達が逮捕され、被害者の枠に袴田さんを押し込むことさえできれば、被害を最小限に留める事も不可能ではありません」
警察がそのデータを押収と消去をしてくれるかは五分五分で、逮捕前に自棄になった誰かによって流出してしまうかもしれないし、罪状が増えることを恐れて誰もしないかもしれない。
姫宮さんに対して直接的な行動をしないあたり、そんな『自分が脅した犯人です!』なんて事を主張をするような度胸は、おそらく誰も持ち合わせてはいない筈だと朝雲さんは言う。
「私ができるのはこれ以上の被害を無くすことだけです。袴田さんがどうなるかは彼の運に任せましょう」
これが限界。
もし、これ以上踏み込むなら朝雲さんにも被害が出かねなかった。
「(ごめん、袴田。俺は朝雲さんが傷付いたりするところを見たくない)」
朝雲さんにはここまで労働を割く理由は特にない。
全ては俺の我が儘を叶えてくれようと、朝雲さんが手を尽くしてくれているからだ。
だから、これ以上深くは踏み込まない事を朝雲さんと約束した。
【♀️】
温水と別れて住んでいるアパートに帰りながら呟く。
「随分と危険な橋を渡ってしまいましたね……」
朝雲は馬鹿ではない。
それこそ、温水と約束をしなくても踏み込むのはここまでにするつもりだった。
この様な事に首を突っ込み続ければ、そのしっぺ返しが来ることぐらいは簡単に分かっている。
何の権力も持たない人間が正義感だけで悪党に立ち向かうなんて、裸一貫で戦場に立つようなもの。
警察官が何故、公的な権力を有して格闘技を習い拳銃の所持を認められているのかなんて、少し考えれば誰でも分かる。
「まあ、私は袴田さんの事は割りとどうでもいいんですけどね」
だが、今回は温水にとって都合の良い女となる姫宮が巻き込まれた事件だからこそ、こうして危険な橋を渡っているというだけ。
善意ではなく損得勘定。
要するに、実益を優先しただけ。
「最大限のリスクヘッジはしていますが、今後はこの様なことはしたくはありません。どうか他の方々はこの様な面倒事が無いことを祈ります」
しかし、今回の事がなければ姫宮を堕とすことなどできなかっただろう。
そのように考えれば、このリスクを受け入れることも試練なのかもしれない。
蝶を絡め取る蜘蛛は朝雲だけの特権なのだから。
他の邪魔な害虫は手早く駆除するのがマナーである。
「しかし、これでようやく計画の一歩目を進められました。
袴田には危機管理能力が足りておらず姫宮を危険に晒した。
だからこそ、一番守りたいと思うものを横から
「反省をしてくださいね?あなたのその失敗により、華恋さんはあなたの下を離れて私達の"所有物"になりました。全てはあなたの責任ですよ?袴田草介さん♪」
ーー新年を迎えてすぐに、とある大学のテニスサークルがネット上で犯罪の温床であったことが発覚し、逮捕者が数多く出るニュースがお茶の間を騒がすことになる。
次からは月之木古都編です。
このエピローグを抜いて、1ヒロイン攻略するのに15話は掛かりすぎかもですね。
もう少し短縮できるといいんですけど、中々難しいです。
小説を執筆する方になって分かる、催眠・洗脳のお手軽さ。
展開を深く考えなくてもいいってズルい。
P.s
麗人生徒会長の放虎原ひばりも攻略対象に加えます。