勝ちヒロインにとって最高に都合のいい男子 作:愛甲ハマチ
これで噂の姉弟プレイの全容が分かりました。うん、やっぱりあの人どうかしてるって……。
人の入りが増えてきて店内が賑やかになっていく喧騒を聞きながら、注文した手羽先やねぎまを食べながら女子三人の会話は弾んでいく。
千早は綾野との破局を口にしたにも拘わらず、微塵も落ち込んでいるようには見えないまま和やかに話し出した。
「それで月之木先輩は玉木先輩と最近はどうですか?」
今度は千早が尋ねる。それを聞いた月之木先輩はどこか照れたように頭を掻く。
「それがねぇ……実を言うと慎太郎と結婚の話をしているのよ」
「えっ!?そうなんですか!?」
「学生結婚ですか!素敵ですね!」
その言葉に色めき立つ私と千早ちゃん。
女性にとって結婚はそれだけ大きな事なのだ。
それも学生結婚となれば女性の理想の一つと言っても良いだろう。
「慎太郎とは三年間交際してるし成人してるしで、私からそろそろしない?って切り出して慎太郎もその気になってくれたのよ。これからの人生を考えると早めに手綱を握った方が良いと思うしね。それこそ、職場が違えば今までみたいに慎太郎の評価を落とすことも、他の女に牽制することもできなくなっちゃうことを考えると、これが一番効果的かなってね」
「すごく冴えた考えだと思いますよ!月之木先輩」
「やっぱり?千早ちゃんなら分かってくれると思ってた~」
「あ、あはは……」
二人の会話に華恋は引きつった顔で愛想笑いをするしかない。
流石に何度も三人で集まれば、二人のこのようなヤバい側面を目にする機会は多くある。
自らの親友である八奈見杏菜も女子力的な意味で残念なときはあるのだが、二人のような人間としてヤバい側面はない。
……ちょっと、ほんのちょっと食い意地の張った食いしん坊というだけだから。
二人とは離れた方が良いかなと、私は思ったときもあるのだが、他でもない温水君が……
『月之木先輩は功罪がそれぞれ大きくてヤバくはあるんだけど、被害に遭うのは主に玉木先輩だから、こっちに火花が飛んでくることはないから安心していいよ。罪の部分が無ければ気の良い先輩だから害はないって感じだね。
あと、朝雲さんはそうだね……えーと、うん……ふ、普通に接していれば何かあるってわけじゃ…………………まあ、うん……。ーー朝雲さんと付き合うのに大事なのは、色々と気にし過ぎないことかな』
「(二人とは縁を切っといた方が良かったかなぁ……)」
二人は笑顔で盛り上がっている。
知らず知らず溝が生まれた瞬間の一つだった。
「ふふふっ、順調そうで良かったです。姫宮さんも袴田さんとはどうですか?」
千早の何気ないその質問に華恋の心が死んだ。
【♀️&♀️&♀️】
私がそう切り出すと、華恋さんは堰を切ったかのように饒舌に話し出す……ということはありませんでした。おや?これには驚きましたね。
てっきり高校と同じ様にイチャイチャ振りを発揮していて、惚気続けると思っていたのですが。
ツワブキ高校ベストカップルなんて言われていて、私も高校時代は思うところがなかったわけではありません。
もちろん私も光希さんも人前で華恋さん達のように、ベタベタするような付き合い方はしていなかったので、本気で狙ってはいませんでしたが、そんな風に祝福されていた二人を羨ましいと思っていたのは、紛れもない本音です。
そんな華恋さんは神妙な、というよりかは表情からまるで色が抜け落ちたような顔をして呟きました。
「……………………浮気された」
「「えっ」」
それはニコニコと先ほどまで話していた姫宮華恋が、声のテンションを急激に下落させて言った言葉でした。
ただならぬドロドロとした感情を乗せていることが分かる声音で、
「……大学に入って草介と二人で一緒にテニスサークルに入ったんだけど、そこの人達がボディタッチとか飲み会とかが多くて、私はちょっと怖かったからすぐに退会したんだ。でも、草介は『ずっとテニスをやってみたくてさ。もうちょっとやってみてもいいか?』って言うから、私だけ抜けたんだけど……」
スマホを操作してテーブルの上にどこか投げ捨てるような勢いで置くと、その画面はLINEのトーク画面を映していました。
そこにある内容を二人で見て、さしもの私達も顔をしかめることになります。
【♂️⚡♀️】
なら、先に何人で使うのか教えて欲えてくれないか?
二人が相手だと精力剤を買わないと満足してくれないだろ?
前は二人に搾り取られて死ぬかと思ったから、そうならそうで予め俺に教えて欲しいんだ
今後一切華恋に不安を抱かせるようなことが無いように努力する。だから、直に会って話をしよう
だから頼む。華恋の声が聞きたいんだ。少しだけでいいから話しをさせてくれると嬉しい
【♂️⚡♀️】
「ないわー……」
月之木先輩は口を歪めて吐き捨てます。
私も同意するように頷くしかありません。
「なるほど、これは
「彼女が居るのにゴミ過ぎなんだけど……この男、去勢させてもいいんじゃない?そりゃあ、着信拒否もするわよ」
私達の席の近くを通った他の利用客の方が、私達の話を聞いて口を引き吊りこちらを見ながら通り過ぎます。
……全く、プライベートの会話を盗み聞きして勝手に幻滅するなどありえません。
私も盗み聞きするときはフラットに聞くようにしているのに。
あの人達は分かっていません。
あれはマナーとして間違っています!
「浮気をするのは一兆歩譲って許容してやるとしても、誤魔化して女々しくすがり付いて来るとか男として恥ずかしくないの?こいつ?顔が良かったから今までチヤホヤ言われてただろうけど、一皮剥けばウジウジした情けない性根が出てきたってことでしょ?これ。
しかも、ヤリサーで他の女を抱いて下半身の誘惑に耐えられなくなったとか、救えないわねこの屑男」
流石は月之木です。
忖度なんて1ミリもありませんでした。
彼女を前にしてその彼氏のことを躊躇なく扱き下ろすことなんて、流石の私にもできないというのに……。
とはいえ……
「ええ、私も袴田さんがとても信じられません…………絶対にありえませんよ。こんなの余りにも迂闊過ぎます。証拠なんて一つも残さないようにするべきなのに、メールの送信先を間違えるなんて初歩的なことをしてしまうなんて……きっと袴田さんはテストでケアレスミスを多くしてしまうタイプだったんでしょうね」
私の口の中だけで呟かれた言葉が、周囲の人間に伝わることはありません。それにこの居酒屋の喧騒なので伝わる可能性もゼロです。
仮に今唐突に光希さんが真横に現れても、今の言葉を聞き取ることはできないでしょう。
これがマナーです。
「……杏菜にこのことを相談したんたけど、これで杏菜と草介が険悪なことになっちゃったんだ……あの二人って幼馴染みだから杏菜の失望もすごかったみたいで……今じゃ私以上に怒っちゃってて収集が着かなくなっちゃった。
それで私も冷静になれたんだけど、どっちかというと虚無感で一杯になっちゃって………………う、ぅぐ……ひぐっ、……う゛う゛ぅうぅうう……ッ」
堪えきれないとばかりに涙を流し始めた華恋さんを、私は抱き締めます……私にはそれぐらいしかできませんでした。
憔悴しきってしまった華恋さんの様子を見るに、きっとこの数日の間は泣き続けていたのかもしれません。
おそらくメイクで隠しているのでしょうが、よく見れば目の隈や顔色が良くないです。
私達のために隠してくれていたのでしょう。
それを見てどうすればいいのか困惑している月之木先輩を見ながら、私は華恋さんをできる限り慰めながら考えます。
ーー温水さんを完全に堕とすために、華恋さんは最適な人材かもしれませんね。