それからの俺は、仕事に全身を投じるようになった。会馬さんとの熱い夜や琴葉との軽妙な会話は、胸の奥にそっとしまわれ、日々の喧騒に飲み込まれていく。オフィスの蛍光灯の下、書類と電話が俺の新たな戦場だった。
ある日、御子さんが産休に入る知らせが届いた。彼女の顧客を引き継ぐのは、俺に決まった。
オフィスの一角、仕切られた会議室で、御子さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません……。」
彼女の声は控えめで、後輩らしい丁寧さが滲む。
「いえ、大丈夫ですよ。」
俺は穏やかに微笑み、書類を手に取った。彼女の整った顔に、ほのかな疲れが浮かんでいるのが気になった。
「それより、体調はどうですか?」
御子さんは少し照れたように笑い、髪を耳にかけながら答えた。
「そうですね……やっぱり、つわりが少しありますね。」
「そうですか。困ったことがあれば、いつでも言ってください。パシリでも何でもやりますから。」
俺は軽く笑って、彼女を安心させようとした。
「ありがとうございます、山口さん。」
御子さんは柔らかく微笑み、目を細めた。
その日から、俺は彼女の負担を減らすため、できることを始めた。週末にはスーパーでの買い物に付き合い、重い荷物を運んだ。彼女のアパートでは、洗濯物を干したり、キッチンを片付けたり。御子さんは「悪いです」と遠慮しながらも、感謝の笑顔を見せてくれた。
つわりが落ち着くと、彼女は少しずつ元気を取り戻した。そして、俺は本格的に彼女の仕事を引き継ぐ準備に入った。
「山口さん、お願いします。」
御子さんがオフィスのデスクで、書類を手に真剣な目で言った。
「他の人に担当されるより、山口さんが担当してくれた方が、安心できます。」
その言葉に、俺は胸が熱くなった。
「わかりました。御子さんがお休みの間、しっかり担当させていただきます。」
俺は力強く頷き、彼女の信頼に応えようと決意した。
だが、御子さんの顧客を引き継いで、俺はすぐに現実を思い知った。彼女の顧客は、中年の男性が中心。御子さんの美貌と柔らかな笑顔に魅了され、まるで娘を可愛がるように彼女を慕っていた。会議室で彼らと顔を合わせると、「御子さんじゃなくて残念だな」と冗談めかしたため息が漏れる。
(御子さんが俺を指名したのは、若い女性の後輩に客を取られないための策かもしれないな。)
俺は心の中で苦笑し、彼女のしたたかさに感心した。
それでも、俺は丁寧に説明した。「御子さんの産休は一時的なものです。彼女が戻るまで、俺が責任を持って対応します。」渋る顧客もいたが、誠意を尽くすうちに、なんとか納得してくれた。
仕事を引き継いで、俺は御子さんの驚くべき能力に目を奪われた。
彼女のデスクに残されたメモには、顧客の好みや過去の会話が細かく記録されていた。ある顧客は現代アートに投資したがり、別の顧客は安定した収益を重視する――そんな情報が、まるで地図のように整理されている。
彼女は顧客の質問に淀みなく答え、トラブルが起きれば即座に適切な対処をしていた。商品や業界の知識も深く、投資になりそうな絵画を的確に提案し、契約を次々にまとめ上げていた。
「この作家の新作、入荷しましたよ。〇〇さんの好みに合うと思います。」
そんな一言で、顧客の心を掴む。彼女の提案は、まるで顧客の夢を形にするようだった。
さらに、彼女のコミュニケーションは抜群だった。顧客との何気ない雑談から信頼を築き、まるで家族のような絆を紡いでいた。
「御子さんって、ほんとすごいな……。」
俺は書類を手に、彼女のデスクを見つめながら呟いた。彼女の能力の高さに、ただただ圧倒された。
その重責を引き継いだ俺は、必死だった。御子さんの顧客を失望させないよう、彼女のメモを頼りに奔走した。顧客の好みを覚え、彼女の提案スタイルを真似、時には夜遅くまで資料を読み込んだ。
「山口さん、最近頑張ってるね。」
同僚がコーヒーを差し入れながら笑う。俺は苦笑しつつ、内心で拳を握った。
努力の甲斐あって、なんとか御子さんの売り上げを維持できた。顧客からの信頼も、少しずつ築き上げていく。
ある日、会議室で顧客の一人が言った。
「山口くん、最初は御子さんがいなくてがっかりしたけど、なかなかやるな。」
その言葉に、俺は心から安堵した。
オフィスの喧騒が一瞬途切れた昼下がり、俺の携帯が静かに震えた。画面には「御子さん」の名前。彼女は産休に入ってからも、時折こうして連絡をくれる。
「もしもし、山口さん? お仕事、大丈夫ですか?」
電話越しの声は、いつものように丁寧で柔らか。後輩らしい控えめな敬語が、彼女の気遣いを伝えてくる。
「ええ、なんとかやってますよ。」
俺は書類の山から目を上げ、軽く笑った。
「御子さんがフォローしてくれたおかげです。」
彼女は産休中も、顧客の好みや絵画の知識を細かく教えてくれていた。メールで送られてくる詳細なメモや、電話での簡潔な助言――彼女のサポートがなければ、俺は顧客の信頼を保てなかっただろう。
「いえ、山口さんの仕事ぶりが素晴らしいからです。」
御子さんが照れたように笑い、謙遜する声が響く。
「いやいや、本当に助かりました。御子さんがいなかったら、どうなってたか……。」
俺は心からの感謝を込め、電話を握りしめた。
「これからも、よろしくお願いしますね。」
彼女の声は穏やかで、信頼の温もりが滲む。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
俺は力強く答え、電話を切った。オフィスの窓から差し込む陽光が、デスクの書類を淡く照らす。彼女のメモを手に、俺は再び仕事に没頭した。
数日後、御子さんの顧客の一人、黒木冴さんと会う機会があった。彼女は落ち着いた物腰の女性で、美術品投資に熱心な実業家だ。喫茶店の窓際の席で、コーヒーの香りが漂う中、彼女が口を開いた。
「御子さんが産休に入ったのね。」
黒木さんがカップを置き、穏やかな微笑みを浮かべた。
「そんな素振り、全然なかったけど……彼女、妊娠したの?」
「はい、今、産休中です。」
俺は丁寧に答え、彼女の反応を窺った。
「そう。それはおめでたいことね。」
黒木さんが目を細め、柔らかく頷いた。ふと、彼女の声に秘密めいた響きが混じる。
「実は、私、御子さんとお話ししたのよ。」
「え?」
俺は目を丸くし、思わず身を乗り出した。
黒木さんが軽く笑い、カップを手に取った。
「元々、私、シングルマザーを希望してたの。それで、御子さんと色々お話をさせてもらったわ。」
「どんな話を?」
俺は好奇心を抑えきれず、静かに尋ねた。
「そうね……育児の相談とか、お金の話とか。」
彼女は窓の外に目をやり、ゆっくり続けた。
「協会から支援を受けられるって、御子さんが教えてくれたの。全部任せて欲しいって、力強く言ってくれてね。」
「そうだったんですか?」
俺は驚きを隠せず、彼女の言葉を反芻した。御子さんはそんな重要な話を、俺には一言も漏らしていなかった。
「ええ。協会がお金を出して、妊娠して子供を産むサポートをしてくれるって。」
黒木さんが微笑み、確信に満ちた目で俺を見た。
「御子さんの提案を考えて、私も子供を作ることにしたのよ。」
「それは……おめでたいですね。」
俺は少し戸惑いながらも、彼女の決意に敬意を込めて答えた。
黒木さんがカップを置き、窓の外の街を眺めた。
「御子さんって、本当に頼りになる子よね。彼女の言葉が、私の背中を押してくれたの」
喫茶店の窓から差し込む午後の光が、テーブルに柔らかな影を落とす。黒木さんがコーヒーカップを手に、穏やかな微笑みを浮かべた。
「そうなんですか。」
俺は彼女のシングルマザーの決意に驚きつつ、静かに頷いた。
「ええ。その相手に、ぜひ山口くんにお願いしたいの。」
黒木さんがカップを置き、落ち着いた声で続けた。
「え? どういうことですか?」
俺は思わず身を乗り出し、混乱を隠せなかった。
「だから、山口くんに子作りをお願いしたいのよ。」
彼女の瞳が俺をまっすぐ捉え、静かな確信を湛える。
「私ですか?」
俺は目を丸くし、声がわずかに上ずった。
「そうよ。山口くん、御子さんの子供の父親なんでしょ?」
黒木さんが軽く首をかしげ、探るような笑みを浮かべた。
「いや、その……。」
俺は言葉に詰まり、コーヒーカップを握る手に力が入った。
「隠さなくていいわ。御子さんに聞いて、知ってるのよ。」
彼女が柔らかく笑い、安心させるように手を振った。
「御子さんから? 私のことを?」
俺は驚きを抑えきれず、彼女の顔を見つめた。
「ええ。とても信頼できるパートナーだって、御子さんが話してくれたわ。私も、こうやって話して、山口くんのことを気に入ったの。」
黒木さんが目を細め、温かな声で言った。
「だから、私と子作りしてみない?」
「いえ、私には恋人がいるので……。」
俺は慌てて首を振って断った。胸の奥で、琴葉の笑顔がちらつく。
「ふふ、でも、御子さんとはしたんでしょ?」
黒木さんが悪戯っぽく微笑み、軽く突くように尋ねた。
「それは……恋人に許可をもらったからです。」
俺は少しムキになって反論し、彼女の瞳をまっすぐ見た。
「なるほど。じゃあ、その恋人に会ってみましょう。」
黒木さんがカップを置き、落ち着いた口調で提案した。
「え? なぜですか?」
俺は戸惑いながら尋ね、眉を寄せた。
「山口くんの恋人に会って、子作りの許可をもらうのよ。」
彼女がさらりと答え、まるで当然のように微笑んだ。
「いや、それは……。」
俺は再び言葉に詰まり、頭を整理しようと目を伏せた。
「どうして? 御子さんとは許可をもらってしたんでしょ? なら、私も同じようにすればいいじゃない。」
黒木さんが軽く肩をすくめ、穏やかに畳みかけた。
「まあ、そうなんですけど……。」
俺は小さく呟き、コーヒーの苦味を舌に感じた。
「じゃあ、どこに問題があるの?」
彼女が静かに尋ね、俺の答えを待つように目を細めた。
「……黒木さんは、なぜ子供が欲しいんですか?」
俺はふと、彼女の決意の根源を知りたくなり、慎重に尋ねた。
喫茶店の空気が一瞬重くなり、コーヒーの香りが静かに漂う。黒木さんが窓の外に目をやり、複雑な表情で口を開いた。
「シングルマザーは大変だろうけど……私は男性不信なの。」
「男性不信?」
俺はカップを置いて、慎重に尋ねた。
「ええ。何度か結婚を申し込まれたけど、みんなお金目当てだった。利用するだけして、最後は私を捨てていったわ。」
黒木さんが苦い笑みを浮かべ、声を低くした。
「だから、もう男性を信用できないのよ。」
「私も信用できないですか?」
俺は少し傷つきながら、静かに尋ねた。
彼女がふっと目を上げ、申し訳なさそうに微笑んだ。
「そうね。子作りをお願いすることはできても、結婚は絶対にできないわ。」
「でも、そんな相手と子作りしたいとは思わないでしょう?」
俺は思わず言葉を重ね、彼女の瞳を見つめた。
「ごめんなさい、山口くん。あなたを悪く言うつもりはないの。ただ、私が男性を信じられないだけ。」
黒木さんが小さく頭を下げ、声にほのかな悲しみを滲ませた。
「……それでも、そんなに子供が欲しいんですか?」
俺は彼女の決意の深さを測るように、そっと尋ねた。
「ええ。他人の子供でさえ愛おしいの。私も、自分の子供が欲しい。」
黒木さんの瞳が揺れ、愛情と諦めが交錯した。彼女の心には、子供への深い願いと、叶わなかった過去の傷が同居しているようだった。
俺はしばらく黙り、彼女の言葉を胸に刻んだ。喫茶店の窓に映る街の灯りが、かすかに揺れる。
「わかりました。恋人と相談してみます。」
俺は深呼吸し、誠実に答えた。琴葉の笑顔が脳裏をよぎる。
「ありがとう。」
黒木さんが柔らかく微笑み、ほっとしたように目を細めた。
「いえ、気にしないでください。」
俺は軽く笑って答え、カップの冷めたコーヒーを一口飲んだ。
俺は答えた。
アパートに帰ると、薄暗いリビングに琴葉の笑顔が迎えた。ソファに沈み、冷えたビールを手に、俺は黒木さんの提案を切り出した。彼女の男性不信、子作りへの強い願い、そして俺への依頼――全てを包み隠さず話した。
「ふーん、わかったわ。」
琴葉が缶ジュースを手に、軽く肩をすくめた。彼女の声はいつものようにドライで、まるで天気の話題でもするような気軽さだ。
「それで、いいの?」
俺は驚いて尋ね、彼女の瞳を探った。琴葉の自由な価値観は知っているが、こうもあっさりとは予想外だった。
「まあ、子作りしたいなら別にいいけどさ。」
琴葉がいたずらっぽく笑い、ジュースを一口飲んだ。
「でも、せめて一回くらい、ご飯でも奢ってもらわないとね。」
その軽妙な口調に、俺は思わず苦笑した。
「了解。じゃあ、連絡入れるよ。」
俺はスマホを取り出し、黒木さんにメッセージを送った。
翌日、都内のフレンチレストランで、俺たちは三人で会う約束を取り付けた。夕暮れの街にネオンの灯りが瞬き、店のガラス扉が柔らかな光を反射する。
「はじめまして、山井琴葉です。よろしくね。」
琴葉が明るく手を差し出し、カジュアルな笑顔を黒木さんに向けた。彼女の声には、場を和ませる不思議な力がある。
「よろしく。黒木冴子です。こちらこそ、よろしくね。」
黒木さんが穏やかに微笑み、落ち着いた仕草で握手を返した。彫りの深い美貌と知性を湛えた瞳が、薄暗い店内でひときわ輝く。
「はい、よろしくお願いします。」
琴葉が軽く頭を下げ、さっそく席に着いた。
「では、行きましょうか?」
黒木さんが柔らかく促し、俺たちを個室へと導いた。
レストランの個室は、暖かな照明に照らされ、テーブルの白いクロスが清潔に輝く。ウエイターがメニューを差し出し、俺たちは料理を注文した。やがて、彩り鮮やかな前菜、香り高いスープ、ジューシーなメインが次々と運ばれてくる。
「それじゃ、乾杯しましょうか。」
黒木さんがワイングラスを手に、軽く掲げた。
俺と琴葉もグラスを手に持ち、澄んだ音を立てて合わせた。赤ワインが光に揺れ、ほのかな果実の香りが鼻をくすぐる。
食事を進めながら、互いに自己紹介を交わした。仕事の話、家族の思い出、趣味の話題がテーブルを彩る。
「へぇ、山口くんと山井さんが大学の同級生なんだ。」
黒木さんがスープのスプーンを置き、興味深そうに目を細めた。
「はい、大学は別ですけど、同じサークルだったんです。」
俺はフォークを手に、懐かしさを込めて答えた。琴葉と過ごしたキャンパスの日々が、ふと脳裏をよぎる。
「そうなの。羨ましいわね。私はそんな青春、送れなかったから。」
黒木さんが小さく笑い、グラスに口をつけた。
「え、黒木さんならモテたんじゃないですか? めっちゃ美人ですし。」
琴葉が身を乗り出し、率直に尋ねた。彼女のストレートな物言いに、俺は内心でハラハラする。
黒木さんがフッと笑い、軽く首を振った。
「うーん、学生時代にはもう会社を設立してたから、恋愛する時間なんてなかったわ。」
「それは……かなり忙しかったんですね。」
俺は驚きを隠せず、彼女の言葉に耳を傾けた。
「ええ。アルバイトに大学、資格の勉強で、毎日が目まぐるしかった。」
黒木さんが遠い目をして、静かに続けた。
「資格? どんな資格を取ったんですか?」
琴葉が好奇心を輝かせ、グラスを置いて尋ねた。
「そうね……たぶん、10個くらいかしら。簿記とか、宅建とか、色々ね。」
黒木さんが軽く肩をすくめ、さりげなく答えた。
「10個!? めっちゃすごいじゃないですか!」
琴葉が目を丸くし、心から感心したように声を上げた。
黒木さんが照れたように笑い、ワインを一口飲んだ。
「まあ、若かったから、がむしゃらだっただけよ。」
テーブルの会話は弾み、笑い声が個室を満たした。黒木さんの知性と努力の過去、琴葉の軽妙なツッコミ、俺の穏やかな相槌――三人の時間が、まるで古い友人のように温かく流れた。
フレンチレストランの個室は、暖かな照明に包まれ、テーブルのグラスがワインの赤を映して揺れる。料理の香りが漂う中、会話は黒木さんの過去へと流れていた。
「まあね、会社を興したときは苦労したわ。なかなか上手くいかなくて。」
黒木さんがフォークを置き、遠い目で笑った。
「でも、今はなんとか軌道に乗ってきたの。」
「それは黒木さんの努力の結果ですよ。」
俺は心から敬意を込め、グラスを軽く傾けた。彼女の知性と粘り強さに、改めて感服する。
「そうかしら? ありがとう、山口くん。」
黒木さんが柔らかく微笑み、頬にほのかな照れを浮かべた。
琴葉がナプキンを手に、好奇心を隠さず切り込んだ。
「で、なんで静人を相手に選んだんですか?」
黒木さんがふっと目を上げ、軽く首をかしげた。
「そうね……直感かしら。」
「直感?」
俺は驚いて尋ね、彼女の言葉を反芻した。
「ええ。社長って、人を見極める目があるものよ。」
黒木さんが俺をまっすぐ見つめ、静かな確信を込めて言った。
「山口くんは優秀で、誠実な人。それが伝わってきたの。」
その高評価に、俺は胸が熱くなった。今までの人生で、こんな風に認められたことはなかった。
「それで、山井ちゃん。」
黒木さんが琴葉に視線を移し、穏やかに続けた。
「あなたの恋人を、ちょっと貸して欲しいの。」
琴葉がワインを一口飲み、悪戯っぽく目を細めた。
「うーん、静人に本気で愛はないんですか? 本当に?」
「もちろん、ないわ。」
黒木さんがきっぱり答え、軽く笑った。
「山口くんには興味がないの。ただ、子供が欲しいだけよ。」
琴葉がグラスを置き、しばらく黒木さんの瞳を見つめた。やがて、彼女の口元に決意の笑みが広がる。
「わかりました。協力します。」
「本当!? いいの?」
黒木さんが目を丸くし、珍しく声を弾ませた。
「ええ。黒木さんの話聞いて、めっちゃ優秀な女性だって思いました。」
琴葉が肩をすくめ、率直に言った。
「あなたみたいな人が母親になるなら、絶対いい子が生まれるよ。」
「ありがとう、山井さん。」
黒木さんが感動したように琴葉の手を握り、目を潤ませた。
「ただ、ひとつだけお願い。」
琴葉が指を立て、いたずらっぽく付け加えた。
「なに?」
黒木さんが首をかしげ、興味深そうに尋ねた。
「静人はあくまでレンタルだから。本気になられると困るよ。」
琴葉が軽くウィンクし、冗談めかして笑った。
「もちろんよ。山口くんには本気にならないわ。」
黒木さんがフッと笑い、安心させるように頷いた。
「ふーん、ならいいけど。」
琴葉が満足げにグラスを手に、軽く揺らした。
「じゃあ、早速、子作りしましょうか?」
黒木さんが唐突に切り出し、グラスを置いた。
「え? もうですか?」
俺は思わず声を上げ、驚きを隠せなかった。
「ええ、善は急げって言うでしょ?」
黒木さんが悪戯っぽく微笑み、さらりと答えた。
「まあ、そうだけど……。」
俺は戸惑いながら、チラッと琴葉を見た。彼女の反応が、急に気になった。
琴葉が俺の視線に気づき、ニヤッと笑った。
「私はいいよ、静人。たっぷり頑張ってね。」
そう言って、彼女は軽くウィンクした。
その軽妙な一言に、テーブルの空気がふっと和んだ。俺は苦笑しつつ、ワインを一口飲んだ。黒木さんの真剣な瞳と琴葉の揶揄うような笑顔が、頭の中で交錯する。
木さんと俺は、約束通り都内のホテルに向かった。エレベーターで部屋の階に上がる間、黒木さんは落ち着いた笑みを浮かべ、俺をチラリと見た。どこかビジネスライクなのに、妙に心をざわつかせる雰囲気がある。部屋に入ると、彼女は慣れた様子でバッグを置き、「先にシャワー浴びてくるわね」と言ってバスルームへ消えた。
俺は部屋のソファに腰を下ろし、静かな空間に少し緊張した。窓の外には都会の夜景が広がり、ホテルの静謐な空気が妙に重く感じられる。しばらくして、黒木さんがバスローブをまとって出てきた。髪はまだ少し湿っていて、彼女の整った顔立ちが柔らかい照明に映える。
「あなたもシャワー浴びたら?」
黒木さんがそう言うので、俺は頷いてバスルームへ。熱いシャワーを浴びながら、琴葉のウィンクと「たっぷり出してね」という言葉が頭をよぎる。緊張と期待が混じる中、バスローブを羽織って部屋に戻った。
黒木さんはすでにベッドに腰掛け、落ち着いた目で俺を見ていた。彼女のバスローブの裾から覗く脚が、ほのかに色気を漂わせている。俺は彼女の隣にそっと座った。心臓が少し速く脈打つのが分かる。
「さあ、子作りしましょ。」
黒木さんが静かに、しかしはっきりとそう言った。
「はい……。」
俺は少し声を詰まらせながら答えた。心臓がドクドクと鳴っているのが自分でも分かる。
黒木さんはベッドの上で軽く微笑み、俺をじっと見つめた。その目はどこか試すような、でも誘うような光を帯びている。彼女のバスローブがわずかにずれて、肩のラインが露わになる。俺はゴクリと唾を飲み込み、彼女に近づいた。
そして、俺たちはキスを交わした。黒木さんの唇は柔らかく、ほのかにワインの香りがした。最初は軽いキスだったが、彼女の舌が俺の唇を割り、深く絡み合う。熱い吐息が混じり合い、部屋の静寂を破る。俺の手が自然と彼女の背中に回り、バスローブの滑らかな感触を感じた。
キスが深まるにつれ、俺は彼女をベッドに押し倒す形になった。黒木さんは抵抗せず、むしろ俺の動きに身を任せるように倒れ、髪がシーツに広がる。彼女の瞳が俺を見上げ、挑戦的な笑みを浮かべた。
「ねえ、山口くん、女性経験ってどのくらいあるの?」
黒木さんが低く、からかうような声で聞いてきた。
「まあ……そこそこ、かな。」
俺は少し照れながら答えた。彼女の視線に気圧され、正直に答えるしかなかった。
「ふふ、生意気ね。」
黒木さんはくすりと笑い、指先で俺の胸をなぞるように触れた。その手がゆっくりと下半身へと滑り、俺のものをそっと握った。
「うっ……。」
思わず声が漏れた。彼女の指の動きは繊細で、まるで俺の反応を楽しむように緩急をつけている。
「可愛い反応。気に入ったわ。」
黒木さんはそう囁き、目を細めて笑った。
そして、彼女は身体をかがめ、俺の陰茎を口に含んだ。温かく湿った感触が一気に押し寄せ、俺は背筋を震わせた。黒木さんの舌は巧みに動き、丁寧に、しかし確実に俺を追い詰めていく。
「んっ……くっ……。」
声を抑えようとしたが、どうしても漏れてしまう。彼女の動きはあまりにも的確で、まるで俺の弱点を見透かしているようだった。
黒木さんはしばらくフェラを続け、俺の反応を確かめるように時折上目遣いで見つめてきた。やがて、射精感が急速に高まってきた。
「イ、イキそう……。」
俺は必死に声を絞り出した。
「ダメよ、まだ早いわ。」
黒木さんは唇を離すと、流れるような動きで立ち上がり、俺に跨がった。バスローブがはだけ、程よい大きさの胸と引き締まった腰が露わになる。黒髪のセミロングが肩の上で滑らかに揺れ、しなやかな肢体が、ほのかな照明の下で艶やかに浮かび上がった。
「随分、綺麗な体ですね」と俺が呟くと、彼女はふっと笑みを浮かべた。
「ジムで鍛えたのよ。これ、味わって。」
彼女は自分の性器を俺の陰茎にそっとあてがい、ゆっくりと目を合わせた。その瞳は鋭く、どこか挑むような光を宿していた。静かだが絶対的な自信に満ちた声で、黒木さんはそう告げると、腰を下ろし、俺を一気に受け入れた。
「うぁ……くっ……。」
俺は思わず声を漏らし、彼女の動きに身を委ねた。
熱く、締め付けるような感触に、俺は思わず声を上げた。黒木さんの中は温かく、まるで全てを飲み込むような強さがあった。すぐにでも果ててしまいそうな快感に、俺は必死で耐えた。
「どう? 私の膣内は?」
黒木さんが囁くように聞いてきた。彼女の声には、どこか勝利を確信したような響きがある。
「す、すごい……すごすぎる……。」
俺は息を切らしながら、素直に答えた。
「ふふ、嬉しいわ。」
黒木さんは微笑み、ゆっくりと腰を動かし始めた。彼女の動きはリズミカルで、まるで俺の反応をコントロールするかのようだ。
「んっ……あっ……。」
黒木さんが甘い声を漏らし、俺もそれに呼応するように声が出てしまう。彼女の大きな胸が上下に揺れ、バスローブが完全に落ちてその全貌が露わになる。
「何? 触りたいの?」
黒木さんがからかうように聞いてきた。
「はい……。」
俺は正直に、ほとんど懇願するような声で答えた。
「いいわよ。優しくね。」
黒木さんは俺の手を取り、自分の胸に導いた。柔らかく弾力のある感触が手に伝わり、俺は思わず息を飲んだ。
「どう? 気持ちいい?」
彼女が囁く。
「はい……。」
俺は夢中で答えた。
「いい子ね。」
黒木さんは俺の頭を抱き寄せ、胸に押し当てるように促した。「舐めてもいいわよ。」
俺は言われるままにピンクの乳首を口に含み、舌で転がすように愛撫した。
「んっ……あっ……いいわ……。」
黒木さんの声に甘さが混じる。彼女が感じているのが分かると、俺もさらに強く吸い付いた。
「ああん!」
黒木さんが一際大きな声を上げ、身体を震わせた。
「ふふ、あなたって本当に可愛いわね。」
彼女はそう言うと、再び腰を激しく動かし始めた。俺は彼女の動きに翻弄され、快感に抗うのがやっとだった。
「どう? 私の膣内は?」
黒木さんが再び聞いてきた。
「めっちゃ……気持ちいいです……。」
俺は喘ぎながら答えた。
その瞬間、黒木さんの締め付けが一層強くなり、彼女の動きがさらに加速した。快感の波が押し寄せ、俺はもう限界だった。
「んっ……出るっ!」
俺は叫び、ついに絶頂を迎えた。大量の精液が黒木さんの膣内に放出され、彼女の身体が一瞬硬直した。
「ああっ!!」
黒木さんも同時に絶頂に達し、彼女の膣内が痙攣するように締め付けてきた。まるで俺の全てを搾り取るかのような動きに、俺は意識が遠のきそうだった。
「はぁ……はぁ……。」
黒木さんは息を切らし、汗に濡れた髪を軽くかき上げた。ゆっくりと腰を上げると、俺の陰茎が抜け、彼女の膣口から白い液体が溢れ出した。
「すごい量ね。こんなに出されたのは初めてよ。」
黒木さんが少し驚いたように言った。
「すみません……。」
俺は反射的に謝った。
「謝らないで。むしろ嬉しいわ。山口くんがこんなに頑張ってくれた証拠だもの。」
黒木さんは柔らかく笑い、俺の頬を軽く撫でた。
「は、はあ……。」
俺はまだ息を整えながら、ぼんやりと答えた。
「でも、これで妊娠するかしら?」
黒木さんは汗に濡れた腹部にそっと手を当て、遠くを見るような目で呟いた。彼女の声には、期待とわずかな不安が混じっているようだった。
「どうですかね……。これ一回じゃ、なんとも……。」
俺はまだ息を整えながら、曖昧に答えた。頭の中では、琴葉の軽いウィンクと黒木さんの熱い身体の感触が交錯している。
「そうね……まあ、いいわ。まだ一回目だもの。」
黒木さんは軽く笑って肩をすくめ、ベッドから立ち上がった。彼女は俺に近づき、柔らかいキスを唇に落とした。短い、でも温かみのあるキスだった。
「今日はありがとう、山口くん。いい時間だったわ。」
黒木さんはそう言うと、バスローブを脱ぎ、服を着始めた。彼女の動きは無駄がなく、まるでビジネスミーティングを終えたような落ち着きがある。俺も慌てて服を着て、二人でホテルを後にした。エレベーターの中で、黒木さんは一言も発せず、ただ静かに微笑んでいた。その笑顔に、俺は少しホッとしたような、複雑な気分になった。