【R-18】男女比1:50の貞操逆転世界で、僕は 作:オッパイダーマン
この世界は変である。
突然だが、僕……
といっても、生前の名前や職業、死因すらも忘れており、覚えているのは近代の日本に生きている男だったという記憶があるだけだ。
つまるところ、生前の個人的な情報は覚えていない。
世間的な常識ぐらいしか記憶に残っていない。
そんな僕の脳に残っている常識だが、この世界では通用しない。
ちら、と僕はテレビのニュース番組に目を向けた。
『近年、女性による夫男暴行が増加しており、深刻な社会問題となっています。本日の特集では、増加する男性への性暴力について、私たちは何ができるのか……共に考えていきましょう』
この世界は、変である。
男性と女性の貞操が逆転し……いや、それどころか、女性の性欲が爆発している世界なのだ。
何故、こんな事になっているのか。
それはこの世界が、前世と異なる歴史を歩んでいるからである。
500年ほど前、この世界では前世とは全く異なる事象が発生してしまった。
世界にサキュバスが降臨したのだ。
……急にファンタジーな話になってきたな。
サキュバスとは美人でエッチな女の悪魔で、当時の男は全て骨抜きにされてしまったらしい。
結果、当時の男性はサキュバスに夢中となり……サキュバスとの子を作った。
人間種とサキュバス種の、混血種の誕生である。
そして、そのサキュバスと人間のハーフが人間と交わる事で……数世代重ねた頃には、世界中の人間にサキュバスの血が混ざってしまった。
その血が混じった結果、人間にどのような変化が起きたか。
サキュバスはエッチな女の悪魔だ。
つまり、異性に対して魅力的に見えるよう進化した悪魔だ。
故に、サキュバスの血を引く人間は容姿に優れている。
普通の主婦が30代……いや40代ぐらいになっても、前世の美人女優ぐらいの容姿を維持している。
誰も彼もが美男美女。
美醜の平均値が大きく引き上げられてしまったのだ。
それだけならば、サキュバスの血が混じっても問題にはならない。
容姿が良くなるだけならば。
サキュバスの血を引く女は、性欲が強い。
すけべ親父並の強い性欲を持ち、男性とのエッチに積極的になる。
これも、大きな問題にはならない。
寧ろ、少子化問題が解決するんじゃないか?ってぐらいだ。
そう、ここまでは問題にはならない。
問題なのは……サキュバスの血を引く女が子供を産む場合、産まれてくる子供は高確率で女になってしまう事だ。
これが非常に問題となった。
この世界でサキュバスの血を引かない人間は居ない。
世界中で深刻な男性不足が発生した。
男性1人に対して、女性1人をパートナーとする形式では、人口の減少から逃れられない程に。
現在、この国の人口は1億人ほど存在する。
男性はその内の200万人ほど。
それ程の差がある。
『男性保護法が制定され、女性から男性に対する性暴力が重罪化し200年の節目を迎える今。それでも減ることのない被害について……専門家の意見をお聞きしたいと思います』
結果、このような事態となってしまっている。
僕はアナウンサーの女性へ目を向ける。
非常に整った顔立ちだ。
サキュバスの血を引いているとはいえ、人間と大きく変化はない。
角は生えてないし、羽根や尻尾もない。
普通の人間に見える。
500年の時の流れが、サキュバスの血を薄くしたのか……それとも、元からサキュバスも人間と同様の姿をしていたのか。
それは定かではない。
僕はテレビを消して、学校の制服に身を包んだ。
そして、鏡を見る。
整った容姿の男子高校生が立っている。
サキュバスの血、様々だ。
僕は手で高校の制服……ブレザーの端を掴んで引っ張る。
新品だから、少し違和感があるけれど。
年齢的には二年生だというのに、新品だ。
何故、新品なのかといえば今日から転校で、新しい学校に向かうからだ。
この世界の男はある程度の年齢になるまで、国営の保護施設で育てられる。
それだけ男は貴重だという事で、衣食住に不自由もしなかった。
ようやく、今日からその保護施設を出て、共学の学校へ転校となったのだが──
「……はぁ、ちょっと不安だなぁ」
この世界の女性は性欲が強い。
基本的な身体能力は前世と同様なため、男子高校生である僕が力関係で負ける事は殆どないだろうが……それでも、自分を害してくる可能性があるだけでちょっと怖い。
不安を感じながら、僕は自宅……マンションの一室を出た。
◇◆◇
このマンションは国営の、高セキュリティマンションだ。
勿論、家賃も高いが……国によって支払われているため、タダだ。
この世界の男は、生きているだけで多額の支給金も貰えるし、働かなくてもいい。
子供を作れば作るほど、さらにお金やら貰えるし……都合の良すぎる世界だ。
多分、一生働かなくてもいい。
女の子とエッチしてるだけで、金持ちになれる。
まぁ、それを是とする程に、男女の人口差が深刻な問題になっているのだろうが。
マンション前に停車していたこれまた国営のタクシーに乗り、学校へ向かう。
タクシーの運転手は女性だが……男性を送迎する運転手は、普通の運転手よりもかなり厳しい精査を受けているようで、身元も保証されているらしい。
だから安全だ。
なんだが、大袈裟で過保護な気もけれど、それは僕が前世の価値観を捨てきれずにいるからだと思う。
◇◆◇
「ありがとうございました」
感謝の言葉を告げて、送迎の車を見送る。
運転手さん(美人のお姉さん)が笑顔で手を振ってくれたのを見て、内心ちょっとドキドキしながらも学校へと振り返る。
一定の年齢を越えた男子は、保護施設内での学力を元に高校へと編入させられる。
僕の学力は……上の下ぐらいだ。
前世からの引き継ぎというアドバンテージがありながら、その程度しか出せないのは地頭が悪いからなのかもしれない。
つらい。
ため息を一つ吐いて、校門を潜る。
今は早朝。
まだ登校時間より一時間ほど早い。
学生の姿は少ない。
全く居ない、という訳ではないが。
部活の朝練だろう、体操服を着て校庭を走っている女の子達が見える。
「…………」
この世界では男子スポーツは殆ど存在せず、女子スポーツが主流となっている。
テレビで放送されているプロ野球は女子だけだ。
男子はプロリーグすら存在しない。
校庭で走っているのも、そんなスポーツ少女という事だろう。
……体操服の上から胸の膨らみが見える。
ちょっと揺れている。
思わず、目を逸らす。
この身は健全な男子高校生らしい性欲を持っている。
目が釣られてしまいそうになるが、何とか理性で耐えて──
視線を感じる。
視線、というか僅かに声も聞こえる。
校庭へと視線を戻す。
校庭で走っていた女の子達がフェンス越しのこそこそと……隠れてるつもりの様子で、僕を見ていた。
「男子……?見た事ない顔だけど……」
「編入生かな?制服的に……えー……二年生じゃん。いいなー、私ももう一年早く産まれたかった」
「今年の二年生、男子2人目でしょ?ずるいんだけど」
ぼそぼそと喋っているが、微かに聞こえる。
僕はそれを聞こえないフリをして、校庭を後にした。
「顔、かっこいいじゃん。ちょっとドキドキしてきた」
「高嶺の花って感じだよね。あんなパートナー欲しいな、私も」
むず痒い気持ちになる。
この世界の女の子は全員、美少女に見える。
サキュバスの血がそうさせているのだろう、平均値が非常に高いのだ。
それでも容姿の僅かな差で美醜があるらしく……テレビとかで容姿を笑われている女芸人なんかもいる。
しかし、僕の価値観からするとそんな女芸人も、前世のアイドルより美少女だったりする。
超美人と、かなり美人の差が僕には分からない。
例えるなら……高級フレンチと、超高級フレンチを食べ比べても、美味しさの差を判別できない……という感じだ。
だから、そう……美少女が僕のことを魅力的だ、なんだと褒めてくれていると……むず痒い。
この容姿は生まれもった物だけど、前世の価値観がある僕からすると棚から牡丹餅みたいな感じがして……自分の魅力だと思えない。
褒められても、こう、なんだろう。
素直に受け止められない。
「……さっさと職員室行かないと」
意図的に声を出して、意識を切り替える。
僕はそのまま、来客向けの入り口へと向かった。
◇◆◇
応接室みたいな場所に通された僕の前に、大人の女性が2人居る。
「ど、どうぞ、粗茶です」
「ありがとうございます?」
その片方。
眼鏡をかけた大人しそうな教師から、お茶を受け取る。
どこか緊張した様子を感じながら、お茶を飲む。
……あんまり美味しくなかった。
「よく来たね、
もう片方の……妙齢の学園長からの言葉で、僕は先程の大人しそうな教師の方へ目を向けた。
「き、
清上先生が緊張した笑みを浮かべながら、目を細めた。
「
僕が挨拶しながら、愛想のいい笑みを浮かべると清上先生は安堵の笑みを浮かべた。
この先生、凄く若く見える。
身長は僕より少し低いし、童顔だし。
長い黒髪を横で括っていて、眼鏡をかけている。
そして、目鼻立ちは優しげで……こう、安心感のある顔をしている。
あと……胸がかなり大きい。
前世の価値観だと、教師……というより、教師の格好をした清純派グラビアアイドルって言われた方が納得いくぐらいだ。
そんな教師が僕の顔を見て不安そうにしているのだから、ドキドキしてしまう。
「うん、よろしくね。相田くん……えっと、その、私、男子の学生を受け持つの初めてだから……至らぬ点もあるだろうけど、えっと──
「清上先生。受け持つ生徒を前に、不安にさせるような事を言わないで下さい」
「で、ですが、学園長ぅ……」
「清上先生」
「う、ごめんなさい……」
しょんぼり、といった様子で清上先生が学園長と僕へ頭を下げた。
自信はなさそうだけど……まぁ、悪い人ではなさそうだ。
そんな清上先生に連れられて、僕は学校の廊下を歩いていた。
僕が在籍するクラスの、ホームルームに連れて行くためだ。
「相田くんのクラスは2ーBだよ。悪い子も居ないし、すぐに馴染めると思うからね」
清上先生はそんな事を僕へと話しかける。
緊張をほぐそうとしているのだろう。
思いやりが身に染みる。
「はい、早く馴染めるように頑張ります」
「……ええと、無理に頑張らなくても大丈夫だからね?もし困ったら、すぐに言ってくれていいから」
「……ありがとうございます?」
しかし、過保護過ぎる気がする。
この辺は前世の価値観が原因で、発生する違和感だ。
……今更、自分の価値観を修正するなんて出来ない。
この違和感には、付き合っていかなければならない。
そうして歩いている内に、教室に到着した。
ドアの上には『2ーB』と書かれた室名札がある。
「それじゃあ……相田くん。その……後で呼ぶから、そこで待っていて貰ってもいいかな?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「ありがとう、すぐに呼ぶからね。自己紹介でも考えて待っててね」
その言葉に僕が頷くと、清上先生が教室の中に入って行った。
今頃、朝のホームルームをしているのだろう。
「……はぁ」
僕は制服の裾を引っ張って、息を深く吐く。
少し……いや、かなり緊張している。
この学校の二年生は4クラス。
A、B、C、Dとあって、男子が居るのはDクラスだけだったらしい。
つまり、Bクラスには男子が居ないという訳で。
Bクラスの内訳は現在女子が29人。
男子は0人。
この後、女子29人を前で僕は挨拶をしなければならない。
そりゃ緊張するって訳で。
緊張している時は、手に『人』って書いて飲むんだっけ?
そんな事しても緊張がほぐれるとは思えないけど。
なんて事を考えていると、教室のドアが開いた。
清上先生が顔を出して、僕を手招いている。
ええい、ままよ。
なるようになれ。
僕は空元気を出して胸を張り、教室の中に足を踏み入れた。
その瞬間、教室内の女の子達、全員の目が僕へと向けられた。
「…………」
う、緊張で吐きそう。
カチコチに緊張している僕を横に、清上先生が教壇に立った。
「今日から2-Bに在籍する事になる、相田 雄介くんです。自己紹介、お願いしてもいいかな?」
清上先生が僕に気を遣ってくれているのが分かる。
深呼吸、一つして……視線をクラスの女の子達へと向けた。
美少女がいっぱいだ。
「はじめまして。今日から皆さんと同じクラスになる、相田 雄介です。仲良くしてくれると嬉しいです」
凄く、凄く緊張したまま、自己紹介を口にした。
だって目の前には……めちゃくちゃ可愛い女の子達が沢山居て、その視線がぼくへと向居ているのだから。
歓迎されなかったらどうしよう。
不安が胸を締め付けるような気がして──
「えー!やったー!」
「ウチらのクラスにも男の子が……」
「しかも、こんなイケメンで優しそうな……!」
「私の日頃の行いが良かったのね!」
クラスに黄色い飛鳴が上がった。
「え、あ……え?」
まるで男子校のクラスに、何らかの間違いで美少女が入学して来た!みたいな……そんな熱狂がクラスを包み込んでいる。
「こら!みなさん静かに!相田くんが困ってるでしょ?」
清上先生の言葉にクラス内の声が少し小さくはなるが……空気に滲み出ている熱は冷めていない。
僕はどうやら、また、この世界の男子の価値と……女子の価値観を見誤っていたらしい。