夢魔と夢の塔 作:原宮夜空
原宮夜空(はらみやよぞら)、高校二年、17歳、男。
その日はいつも通りの高校生活を送り、いつも通りの日常を過ごしていた。
けれど、その日見た夢を境に、日常は崩壊し、淫欲に塗れた生活を送ることになる。
これはそこに至る過程を綴った物語である。
ああ、気をつけたまえよ
その夢に囚われないようにな
まさしく天にも昇るような夢だが、それは悪夢である
もし君が囚われた時、これを思い出すといい
けれど、けれどね
悪夢は巡り、そして終わらないものだろう?
さあ、始めようか
私の悪夢を、そして君に起こりうる悪夢を
***
「ん…んぅ…?」
目が覚めると、辺り一面真っ白な世界にいた。
寝巻きを着ていたはずが学校指定の制服に変わっている。
「あら、目が覚めたのね」
後ろから澄んだソプラノの声をかけられ、声の主を確かめるために振り向いた。
「私の世界にようこそ♡」
そこにいたのは腰ほどまである綺麗な金髪をした美女だった。
「私は夢魔のリリス、よろしくね」
シミ一つない雪のように白い肌、黒いラバー製のチューブトップからこぼれそうな大きさの胸、へそから下腹部まで露出し、大事なとこだけ隠した布が鼠径部を通る紐で留められた黒のショーツ。
「それにしても、可愛らしい子が来たわね♡」
肘から先を覆う黒い手袋、膝上まであるブーツ、背中には羽が生え、先がスペードのような形をした尻尾も付いている。
「夢にしては鮮明だな」
「ここは夢であると同時に現実でもあるからね」
リリスに両手で顔を挟まれる。
確かに両頬に触れられている感触がある。
「うふふ、見蕩れちゃってるの?」
こちらを見透かすように紅い瞳にジッと見つめられて、その端正な顔から視線を外す。
「照れちゃってるのね、可愛い♡」
男性の理想のような美人に至近距離で見つめられ、それに加えて健全な男子高校生には刺激が強すぎる格好をしているのだ。
照れない方がおかしい。
けれど、頭の中に愛している恋人の顔が浮かび上がってくる。
「俺には彼女がいるんで早く帰してください」
浮気をするつもりは無い。
だからこの夢から、早く覚めなければならない。
「そうね…帰してあげてもいいけど、私も楽しみたいから」
リリスの背後にある塔を指さして言った。
「あの塔で私を倒せばこの夢世界から出してあげる、
見た感じまあまあの高さがある塔だった。
「分かった、あの塔でお前を倒せばいいんだな?」
感覚としてはRPGだろうか?
荒事は嫌いだが、相手は人外であり、倒すべき敵だと認識する。
「じゃあ塔の中で待ってるから、早く来てね♡」
そうしてリリスはくすくすと笑いながら消えていった。
「…夢であり、現実か」
つまりここ、夢の世界に現実の体があるという状態かと理解する。
「早くここから出なきゃな…」
そうして塔へ向かって歩き始めた。
***
塔の入口は観音開きの扉であった。
両手で押して開けていく。
中は真っ暗で先が見えないが、一番手前の燭台にだけ火が付いていて、まるでゲームに出てくるダンジョンのようだと思った。
中に入るとバタンと扉が勝手に閉まる音がする。
「すぅ…ふぅ…」
深呼吸をしてから奥へ進むべく足を前に出した瞬間、1つ先にある燭台に火が灯る。
そして一本道の通路を手前から奥へと順番に燭台に火が付いていき、リリスが一番奥にいるのが夜空の目に映し出された。
「っ!」
リリスを視認した瞬間、彼女へ向かって駆ける。
全速力でリリスの元へ向かいながら、右手を固く握りしめる。
そうして勢いを乗せたまま右手を振り抜いた。
「くす♡」
リリスが笑みを浮かべたと思ったら自分の体が後ろに吹き飛ばされていた。
何が起こったか分からないままリリスを見上げると、残念そうに、けれど同時に喜んでいるかのような顔をしていた。
「あーあ、
「どういうことだ…?」
困惑していると、リリスが後ろを示す。
振り向いて確認すると、入ってきた扉の上に何かが書いてあった。
『・この先、全ての暴力行為を禁ず
・夢魔を倒す方法は性行為のみである
・ルールを違反した場合は罰を与える
・トラップにかかった場合も罰を与える
・罰の内容は塔の主がその都度決める』
「ね?それじゃあさっそくどんな罰にしようかな♡」
「こんなの反則だろ!?」
塔の中ではまた別にルールが存在するとは聞いてないのだ。
「確認しなかった君が悪いんだよ?大人しく罰を受けなさい♡」
「ぐっ…!?」
急に金縛りにあったかのように体が動かなくなり、口も聞けないまま宙に浮いていく。
「さっきのみたいに殴りかかるのはダメよ?というわけで力が出ないようにしてあげる♡」
そうしてリリスが夜空の肩に手を置いて撫でると、脱力感に襲われる。
「ふふ♡」
そのまま二の腕を撫でられ、肘、手先まで撫でつけられる。
「ここもこうして、ね♡」
脇、胸、お腹、背中、尻、太もも、膝、ふくらはぎ、そして足首。
身体の全ての箇所が撫でられると途端に力が入りづらくなっていた。
「はい、これで完成♡」
地面にゆっくりと下ろされると、自分が喋れるようになったことに気づいた。
「いったい何をした!?」
体に力が入らないではなく、入りづらい。
まるで
「うふふっ♡そんなに男らしい体付きをしてたらこの先を無理やり突破しちゃうんじゃないかなって思ってね、
「……は?」
現実では到底有り得ないことを言われ、思考が止まってしまう。
「君は男の子でありながら体の強さは女の子になっちゃったの♡女の子がどんなに弱くて、守られるような存在にできているのか知って頂戴ね♡」
リリスはそう言って消え去った。
「…まじかよ」
細くなった手足を見てため息をつく。
ズボンもずり落ちそうになっており、慌ててベルトを締め直す。
ちゃんと下にあるべきものがあるかの確認もしておく。
「腰も細くなってるし…」
変わった体に慣れようと準備運動をし、女性の身体の柔軟性に驚きながらもできることの範囲を探る。
「こんなもんかな」
満足するまで体を動かした後、リリスが消えた先を見据えた。
「まあ、ルールを確認できたし、次からは見落としが無いようにして進むか」
そうして通路を進んで行き、奥にあった階段を登っていったのだった。