リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
人として自分の人生を誇れるような人間がどれくらい有るのだろうか?
それは結構あるのだろうが、少なくとも俺は違った。
俺は自信が誇らしいと考えたことが全くない。
いや、実をいうと何も考えていない、考えたことさえもなかった.
常に現実逃避をしてきた人生だった。
俺は何も考えずに高校を卒業してからふらふらと生きた。
そんな俺を見抜いてからなのか、親は俺を大学には行かせなかった。
俺からしても英断だと思うくらい、俺はどうしようもないくずだった。
何においても意欲がなく、人生を舐め切ったクソガキだった。
そんなガキだから俺は大人になっても、ろくな大人にはなれなかった。
確か子供の頃は、格好良いパイロットになると夢見ていたけど、
今ではヨレヨレでボロボロなアパートに住んでいる無職に近いフリータ。
悔しいが、とても格好良い大人にはなれてない。
いや、当たり前かとしか言いようがない。
現実は来月の家賃さえも心配な貧乏男だ。
実は俺が貧乏なのには理由がある。
俺もしっかり自覚している理由ではある。
まあ、どうしようもなく、しょうもない理由だ。
俺の趣味が風俗通いだからである。
俺と言うクズは我慢が出来ない。
何かと金ができれば、すぐに風俗に行くくらい風俗が好きだ。
先月なんて食費を極限まで減らして風俗に行って、今月分の家賃も危うかった。
偶然買った宝くじが当たらなかったら、俺は路頭を迷うゾンビになっていただろう。
悪運だけは良くて助かったとも言える。
そんな悪運でこれまで何回も自分の人生を乗り越えてきた俺でも、今回だけはダメだなと思ってしまう。
これまでも危ないなと思ったことは何回もある。
しかし、今回だけは本当に本当の前代未聞のピンチであった。
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人生は何があるか分からないと良く言えたもので有る。
それは人生が上手く行っているやつももちろんのこと、俺みたいに人生のドン底で生きているやつにも同じく適用される法則だ。
人生、下があれば、悲しくも更に下もあり得る。
俺はここよりドン底はないと思っていたのに、そんなことはなかった。
更なるドン底はあったので有る。
クソ、知りたくなかった事実だった。
昨日、給料日だった俺は、ご機嫌に風俗に寄ってから、飲み屋で酒を飲み明かした。
それまでは最高だった。
まるで俺の人生が薔薇色のような偽りの全能感に酔いしれて、意識がなくなるまで酒を仰いでいた。
金、酒、女と人生のすべてを手に入れた気になった哀れな俺は、後のことなんて何も考えずに、酒を飲み干した。
そして、道端で横になって寝た。
別にいつものことだから何もないと思っていたが、何かがあった。
朝起きてみたら、俺は警察署にいた。
親切なおまわりさんが俺を警察署に連れてきたというわけではない。
俺はある事件の容疑者になっていた。
それも殺人事件の容疑者として逮捕されたとのこと。
俺は恐れ慄いて慌てた。
そこから、流れは早かった。
勾留されて、警察調査を受けることになった。
現場でも明白な証拠が残っているとのことで、
それからは、警察調査が開始した。
大体の流れでいうとこうだった。
金欠で酔っ払った俺は、ある事務所へ強盗に入ったらしい。
しかし、偶然にもそこがヤクザの事務所で、ヤクザの反撃に遭い殺されそうになった俺は、ちょうど、入口近くに放置されていた拳銃を用いて、2人もヤクザを射殺したらしい。
その時の銃声で通報があり、警察が現場に立ち入ると、現場で血に塗れて寝ていた。
それを現行犯で逮捕したとのことで、他にも物的証拠はじゅうぶんだということだ。
銃からはベッタリと俺の指紋がついていたし、俺が着ていたコートからも硝煙が検出された。
俺が銃を撃ったことは確かだとのこと。
意識のなかった俺さえも、俺がやったのではないかと思えるくらいの、物的証拠のオンパレード。
俺はありえないことだと思ったが、頭のどこかでは俺がやったのではと思えるくらいにはなっていた。
それからも警察と検察の調査は続いた。
お前がやったんだろうという空気に、俺は萎縮するしかなかったが、記憶にないことを何か言えるわけでもない。
それからは記憶にございませんの一点張りしかできなかった。
辛い辛い日々を過ごした。
俺みたいな能天気で何も考えてない男が良くない決断を頭で思い浮かべるくらいには。
いつまでこの地獄は続くのか。
はやく終わってほしい。
いや、俺の手で終わらせるかと悩みに悩んだ。
もう終わりかと思ったその時、転機がおとずれた。
3日目国選弁護士が訪れた。
その国選弁護士さんは俺と同じくらいの若い女性だった。
それも黒髪ロングが似合う美人さんだった。
整った顔立ちと凛とした表情が印象的な女性。
目元の涙黒子が彼女の魅力を際立てている。
年老いたおっさんを想像していた俺としては面食らった形になった。
しかし、上原先生はその反応に慣れている様で、何も言わずに仕事の話を進める。
「国選弁護士の上原と申します。以後、お見知り置きを。」
そう言い上原弁護士は自身の名刺を差し出してきた。
名刺を受け取った俺は改めて名前を確認した。上原岬、どこかでみたことある名前だ。
「俺は牧田瑛二です。よろしくお願いします。」
軽く挨拶を終わらせて、すぐに本題に入る。
俺は事件のことについて、色々と話をした。
俺としては特に何も言えることはなかったっが、今までの取り調べで知りえた情報を上原弁護士に伝えた。
そして、自分に意識がなかったことと、俺はろくでもない人間だが、盗みや人間を殺そうと考えたことは一度たりともないことを熱弁した。
「ふうん」
しかし、上原弁護士は鼻を鳴らすだけだった。
改めて上原弁護士を見ると、上原弁護士はそこまで俺のことに興味はなさそうに見えた。
そんな彼女の反応に俺はショックをうけた。
国選弁護士はつかえない、意欲がないという話を聞いたことはあったが、まさかここまでとは…
俺は涙が出そうになった。
そこから、俺は話を打ち切り、自分の部屋に戻った。
その日の夜。
俺は朝のことを考えていた。
最後のチャンスだと思っていたのに、それは単なる幻だった。
思い浮かべるは上原弁護士のこと。
彼女はまるで俺に興味がなかった。
ただ単にここには義務でいるだけと言わんばかりの態度だった。
俺は怒りが湧いた。
だけど、すぐに意味がないことを悟り、怒ることをやめた。
「上原弁護士、美人だったな。俺の好みの女だった。」
何も意味もないことをぼやく俺。
こうでもしていなければ頭が狂いそうだった。
心はすでに崩れ掛かっている。
「逮捕されてなかったら、今頃、風俗で女の子とウハウハしているのにな」
意味もない仮定。
自分でもわかってはいる。
だけど、どうしようもないんだ。
涙が流れてくる。
なんとかしたいけど、何も出来ない。
人生はそう甘くない、むしろ、俺の人生は辛口だ。
人生が終わった俺だからこそ、もっと良く知っている。
「過去に戻ってやり直したいよ。」
流れる涙が頬をつたって落ちた。
涙の温度は、これがどうしようもない現実であると俺に訴える。
ああ、本当に最悪だ。
そして、俺は目を閉じた。
明日も長い1日になることは明白だったからだ。