リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
俺は岬の手を握ったまま家の中へと入った。
玄関の扉を開くと、そこもまたザ・豪邸という感じの景色が広がっていた。
「うわあ.....」
俺はその景色を見て、思わず変な声を漏らした。
俺は目の前の事件にばかりかまけて、過去の自身について振り返らなかったことについて,
少しばかり後悔した。
まあ、それをしたとしても上手く行っていたかは不明だったけど。
基本的に俺が違う世界の記憶を確認する時は、何かのキーワードを使って振り返っていることが多い。
例えば、それは逮捕当日とかのようなキーワードである。
そのようにキーワードが衝撃的なものであればあるほど、記憶を浮かび易くなる。
つまり、逆に言うと衝撃的ではない単語では記憶を浮かべることが難しいということだった。
「お母さん、ただいま!」
俺がそんなことを考えていると、岬が急にただいまと大声で美鈴を呼び出した。
「ただいま。」
俺もそれにつられて、無意識的にただいまと挨拶をした。
すると、中からドタドタと足音が聞こえてくる。
たぶん、美鈴の足音なんだろうな。
うう、美鈴か......。
果たして美鈴はどうなっているだろうか?
俺は胸をドキドキさせながら美鈴が姿を表すことを待った。
「はい、二人ともお帰りなさい。」
しばらくしてから、美鈴はお帰りの挨拶とともに姿を表した。
本当に過去と何も変わらぬ様子で俺を出迎えてくれる美鈴の姿。
それを見て、俺は何だか家に帰ってきたという感覚を感じた。
やはり、美鈴の包容力は凄い......って
「へえ......?」
というか、何かが可笑しい。
普段と変わらないだと?
それって何だかおかしくないか?
あれから20年という時間が過ぎている。
なのに何も変わってないということは本当に可笑しい。
そう思った俺は美鈴をじっと見つめる。
しかし、そこには本当に何も代わり映えのない美鈴が立っているだけだった。
「あら、英二、どうしたの?そんなに私のことを見つめて。」
美鈴はそんな俺の目線に頭を傾げながら俺に質問してきた。
ちょっと、見すぎたのかもな。
「いや、久しぶりの美鈴だからついね。美鈴はやはり綺麗だなと思ったよ。」
「そう?ふふっ、ありがとう。」
俺は美鈴に適当な誤魔化しを入れて、美鈴のことを見つめ続けた。
美鈴はそんな俺の目線と言葉にまんざらでもなさそうにしている。
美鈴は本当に過去の俺の記憶から何も変わっていなかった。
それどころか、俺の記憶の中よりも、もっと若々しくさえ見えている気がする。
まるで美鈴だけが時間から切り離されたかのような、そんなとんでもない光景だった。
美鈴は何で若返りしているんだと自身の中で問いただしたその時。
俺の中からある記憶が甦った。
それはなんてことのないある休日のこと。
俺は真剣な顔をした美鈴に相談を持ちかけられた。
「英二、これってどう思うの?」
そう言った美鈴は俺に何かの資料を渡してきた。
俺はその資料を美鈴から受け取って確認する。
その資料の表題には投資説明会とデカデカと書かれていた。
「投資説明会?」
俺は資料を受け取ってから、少し頭を傾げた。
何時もの美鈴は自分でスイスイと投資するから、俺にこんな資料は見せない。
今日のことはかなり珍しいことだった。
だから、俺はその資料を渡してきた美鈴の真意を問いただした。
「これがどうしたの?」
「英二、それの中身を良く確認して欲しいわ。」
「中身?」
俺は美鈴に言われた通り、投資説明会の資料を確認する。
すると、そこには若返り技術に関する内容が込められていた。
何でも細胞をどうにかして、身体年齢を若返らせる技術とか。
そこで投資者を募っているという内容だった。
美鈴は俺が資料に一通り目を通したことを確認して、再び俺に質問してきた。
「英二、これについてどう思うの?」
「ここに書かれた通りなら、凄い技術だなと思った。」
小学生並みの感想だったけど、門外漢の俺としてはそれしか感想が出なかった。
しかし、美鈴はそんな俺の答えが気に召さなかったようだった。
「そうじゃなくて、英二が考えた時、これって将来性があると思うの?」
「ふうむ、どうなんだろう。俺もこういうことには完全に素人だからね。なんとも言えないかな。」
「それでも私は英二の意見が聞きたいわ。」
真剣な眼差しの美鈴。
そこまで言われたら、仕方がない。
俺は再び投資説明資料に目を通した。
資料には色んなことが書かれていたけど、俺が着目したところは、すでに動物実験は終わっていて、人体実験の許可が出たという点だった。
人体実験の許可が出たということは、これ以上動物実験をする意味がないくらい結果を出したという意味である。
ということを鑑みると、成功するかはさておき、可能性だけはかなりあるのではないか?
「うむ、人体実験まで進むレベルならかなり可能性があるんじゃないかな。」
「やはり、英二もそう思うよね?」
美鈴は俺の言葉を聞いて、顔がぱっと明るくなった。
どうやら、美鈴はこの技術に多大なる期待感を持っていたようである。
しかし、若返りか。
俺は美鈴の顔を見つめる。
しっかりと管理が行き届いて、全然まだ若々しく見えるけどね。
だって、俺は美鈴がいくつになっても変わらず、愛しているだろうから。
「美鈴、大丈夫だよ。俺は何歳になっても美鈴のことを愛すると誓うよ。」
俺は今の気持ちを素直に言葉として美鈴に伝えた。
「うっ、英二......」
美鈴はそんな俺の言葉に少しばかり顔を赤く染めた。
そして、うるうるとした目で俺のことをみてくる美鈴。
俺はそんな美鈴を強く抱き締め、頭を優しくナデナデする。
俺はしばらく美鈴のことをそのまま慰め続けた。
それで美鈴はやっと安心したような顔を見せてくれた。
どうやら、これで正解だったようだ。
「英二、もう大丈夫。ありがとう。」
「どういたしまして?」
少し時間が経ってからのこと、美鈴は俺から離れた。
美鈴のその顔は先ほどよりかは、楽に見えていた。
やはり、美鈴は自分が老いて行くことについて、不安を感じていたようである。
これで美鈴も少しは落ち着いたのかなと思ったそのときだった。
「決めたわ。やっぱり、私これに投資をしようと思うの。」
これで投資の話はなしになったのかと思ったけど、そうではなかったらしい。
逆に美鈴の意思はさらに固くなったようだ。
「何で?先も言ったけど、俺は全然大丈夫だよ?」
俺は一応美鈴にその理由を訪ねることにした。
「それはありがとう。でも、私が大丈夫じゃないわ。」
美鈴が大丈夫じゃないって、どういうこと?
俺は美鈴の返事に頭を傾げた。
「英二に何時までも綺麗な私を見せたいからよ。」
美鈴は自身が大丈夫じゃない理由を教えてくれた。
くっ、このお母様は未だにこんなにもかわいいなんて。
俺は美鈴の可愛さに負けて再び美鈴を抱き止めた。
美鈴は俺のそんな行動に抵抗せずに、再びハグを受け入れる。
「そんなことより、英二は私がこれに投資してしまっても良いの?」
美鈴は俺の腕のなかで、俺を見上げながらそう聞いてきた。
「全然問題ないよ。」
俺は即答でそう返した。
「でも、今回は収益をあげられないかも知れないよ?」
俺が即答しすぎてなのか、逆に美鈴が俺のことを止めようとしてきた。
そうか、それがネックになっていたのか。
別にそんなことで遠慮しなくてもいいのに。
「別にいいよ。そんなこと。それって美鈴がしたいことでしょう?」
「それはそうだけど、今回は本当に無駄金になる可能性だってあるの。」
「いいって、金はそこそこあるから。それに美鈴がまた投資で稼ぐから問題ない。」
美鈴は俺の返事を聞いて、少しあきれたような顔になった。
「なにそれ、投資には絶対とかないから......」
そんなことがあってから、ここ数年前のこと。
美鈴の投資は見事に成功した。
若返りの研究は見事に成果をあげて、実用化を果たした。
お陰さまで、美鈴はその投資でとんでもない金額の金を稼いだ。
美鈴がいうには自身の投資歴でも過去最大の金額だったとのこと。
だけど、投資の利益はそれだけではなかった。
金よりももっと価値があったのは......
「ジャーン!サプライズ!」
やはり、若返りそのものだった。
その研究にそこそこの額を投資していた美鈴は、ある日投資者専用のプレミアムの施術をもらって帰ってきたのである。
プレミアムなだけあって、施術の効果は凄まじかった。
身体検査をした時、美鈴の肉体年齢が20代と出てきたのである。
そうやって、美鈴は今のような若々しさを手に入れた。
なんというか、やはり、金の力は偉大だと思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後のこと。
俺は家に上がって、夕飯を食べることになった。
しかし、何時まで経っても、葵と絵里ちゃんは帰ってこなかった。
ということで、3人で先に食事をすることになった。
「葵と絵里ちゃんは待たなくていいの?」
俺は美鈴に二人のことについて聞いた。
基本的に我が家では何かあった際は美鈴に連絡することになっているらしい。
まあ、美鈴は基本在宅しているからね。
「大丈夫。二人から今日は帰れないって連絡があったわ。今、物凄く忙しいって。」
ふむ、二人とも忙しいのか。
それだと仕方ないけど。
もしかして、あれが原因だったりして?
今回、宮崎がしたことは実質的に日本の司法に関する挑戦のようなもの。
ということは、二人が夜勤になることも納得の行くことだった。
警察も検察も今大変なことになっていそうだな......
「英二、箸が止まってるわよ?」
俺がぼんやりとそんなことを考えていると、美鈴から声がかかってきた。
「ごめん。ちょっと、考え事があって。」
「ダメじゃない。ほら、これも食べて。」
美鈴はそう言って、俺に鰻とか豚肉とか、牡蠣とかを勧めてきた。
俺は無言で美鈴が勧めるおかずを口にいれる。
「......」
というか、今日の献立って、ちょっと片寄りすぎじゃないか?
俺は無言で食卓の上を眺める。
そこにはどれもこれも、全部精のつく食べ物ばかりだった。
ああ、そういう......
俺はそこで今夜の自身の運命を悟った。
「ほら、いっぱい食べてね♥️おかわりもあるから♥️」
そう言っている美鈴の目はやはり全然笑っていなかった。
それはまるで獲物を前にした猛獣のような目付きだったのである。
なんというか、今夜は本当に長くなりそうだな......
くっ、これは覚悟を決めるしかない!
俺は今夜に備えて、もくもくと箸を進めるのであった。
「お母さんお代わり!」
そんな空気の中でも岬はお代わりを頼んだ。
全く、お茶目なんだから。
俺はそんな岬をみて、少しだけ緊張が解けた。
若返り技術は実際に結構研究が進んでいるらしいです。
本当に人体実験の段階に移っているようですね。
目だけですけど。