リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
遅い昼間の時間。
俺は昼ご飯を食べる前にトイレで鏡を見ていた。
「うわ......なんだこりゃあ......」
俺は鏡の中の自身の姿を確認して、間抜けな声を出すしかなかった。
それほど、俺の状態は酷かった。
髪は散髪になっていて、顔はキスマークだらけになっている。
首筋や上半身は歯形にまみれていた。
中でも一番目立つところは首の歯形の青アザだった。
そう、昨日絵里ちゃんが思いっきり噛んだところである。
「うげ、痣が出来るとはな......」
強いとは思ったけど、まさかこれほどだったとは。
昨日は気付かなかったけど、これは中々痛々しい光景だった。
絵里ちゃんは俺が思っていたよりもずっと怒っていたのかもしれない。
「それだけ、子供が欲しかったということかな?」
それで美鈴に先を越されて怒ったという感じ?
この痣は絵里ちゃんなりの俺に対する抗議だったのかも。
そう考えるとこの痣も、なんだか悪くないように思えて来た。
「それにしても、これは酷い格好だな...」
外面だけ見ると、俺は完全に何かの事故に遭ったかのような格好をしていた。
事情を知らぬ人が今の俺の格好をみたら即通報案件だったのんだろう。
逆に事情を知っていてもDVとかで通報されるかも知れない。
「まあ、この惨状を作り出した本人は法を司る検事さんだけど......」
本当にとんでもない検事様である。
国の治安を守るべき人が俺にこんな仕打ちをするとはな......
お陰さまで昨日の夜は本当にとんでもない夜になった。
色んな意味で。
まあ、実は俺も昨日は充分楽しかったし、別にそこをとやかく言うつもりはない。
「でも、最後のあれだけは流石の俺でも堪えた。」
最後のあれというのは、あれだ。
ハメ撮りのことだった。
大人になっても、絵里ちゃんは未だに撮影趣味を持っていた。
それで絵里ちゃんは俺のことを滅茶苦茶にした挙げ句、カメラをもって、俺のあられもない姿を余すことなく記録に残したのである。
ノリノリで俺のことをレイプしながら、ハメ撮りをする絵里ちゃんの姿は、どこか手慣れさを感じさせていた。
「多分、これもいつものことなのだろう。」
俺と葵のAVごっこのようなものだろう。
ということは、あれのような動画が絵里ちゃんの手元にはかなりあると言うことになる。
絵里ちゃんのハメ撮りコレクションか......
む、ちょっと興味が湧いてきた。
まあ、それはさておき。
「これでやっと俺の恋人全員と合えたな。」
俺はそこでやっと胸を撫で下ろすことが出来た。
実を言うと俺はこの未来について、ある不安を持っていたのである。
その不安というのは恋人たちとの関係に関するものだった。
いくら、過去で強固な関係を持ったとしてもそれはあくまでも過去の話。
未来にはどんなことになっているか分からない。
俺は世界Eに到達してからそのことをずっと不安に思っていた。
「俺には過去改編による20年という空白期間が存在しているからね。」
20年という時間は全くバカにならないものである。
それこそ、俺が恋人たちと実際に付き合いをしていた時間の20倍は越える時間。
その間に何があっても可笑しくはなかったと思う。
「最悪の場合は全員と離れ離れになっていても可笑しくはなかったよな。」
想像するだけでもゾッとしてくる話である。
すでに俺の中でも恋人たちは無くてはならない存在だからな。
それこそ、俺は過去で岬を洗脳しなかったら、美鈴の欠乏を満たしていなかったら、葵と親友にならなかったら、絵里ちゃんの孤立を解いてなかったら。
それは本当に起こり得た現実だっただろう。
恋人関係も永遠なものではないから。
「その点、俺はうまくやったと思う。」
恋人たちと一歩踏み込んだ関係になれていたから、今の未来到達できた。
過去のことは全て意味があったと、俺はそう思っている。
「はあ、本当に良かったよ。」
俺は再び安堵の息を漏らした。
一応、事前に岬から聞いて全員とは未だに仲が良いことは分かっていた。
しかし、それでも不安なのは仕方がない。
その不安が昨日絵里ちゃんと会うことでやっと解消された。
留置所から解放されて5日目、大分遅くなったけど、これでやっと俺にも考えを整理する余裕が出来た訳だ。
「留置所から出てのこと、特に向こうの動きはなかった......」
ここで言う向こうというものは黒幕のことである。
俺としてはてっきりこの数日の間に何かの動きを見せると予想したが、その予想は見事に外れた。
あれだけ執拗に俺のことを留置所に入れてくるものだから、その後も動きがあると思ったんだけどな......
「ここ5日は平穏な日常だったな。」
ありがたいことではある。
お陰さまで恋人たちとの顔合わせが出来たのだから。
だけど、どうにも腑に落ちない。
「世界を越えてまで俺を留置所に入れようとしてきたのにな。何で今になって動きが止まったんだろうか。」
まさか、宮崎が逮捕されたから?
一瞬そんなことが頭に浮かんできたけど、俺は直ぐにその可能性を否定した。
確かに宮崎は今までいろんな形で俺の釈放を邪魔して来た人物ではあるけど、宮崎が黒幕というのはあり得なかった。
だって、因果関係が成立しないからである。
実は世界A、B、Cでも宮崎は俺の担当検事だった。
「だけど、俺は全く意識してなかったよな。」
俺と宮崎の縁が出来たのは、世界Dでのことだったからである。
俺と宮崎の奴の悪縁が出来たのは世界Dの中学校の頃のことだ。
そんな宮崎が俺に悪意をもって、俺を留置所にいれようなんて、可笑しな話である。
その前までは俺は彼にとって、有象無象の存在だったからだ。
それは世界Dでも変わらなかった。
俺が悪意を持つことはあるとしても、宮崎が俺に悪意を持つことはなかったのだ。
宮崎にとって、俺はハエのような存在だったから。
宮崎が俺に明確な悪意を持ったのは、この世界Eに到達してからである。
だから、宮崎は黒幕にはなり得なかった。
「それでも、宮崎にも可笑しな点はある。」
それは世界Dでの出来事だった。
宮崎が俺を取り調べしたあの日のこと。
宮崎には妙なところがあった。
宮崎は俺のことを貧困だと言ったことである。
最初、俺はそれが調査不足によるものだったと思っていた。
「だけど、それが違っていたとしたら?」
その時の宮崎はまるで俺が貧困であることを知っているように行動していた。
世界Dでの俺は普通に職についていたにも関わらずである。
よく考えて見ると、それも可笑しいことだった。
真っ当な職に就いている人間が、悪癖でもない限り貧困であることは中々ないことだ。
少なくとも宮崎は俺が職に就いていたということを知っていたはずだ。
職業については、俺が警察に言っていたからな。
「なのに、何でだ?」
何でやつは俺のことを貧困だと決めつけたのだろうか?
俺は警察に自分が貧困だとは一言も発した覚えはない。
つまり、警察が俺のことを貧困だと宮崎に報告することはなかったはずだ。
となると......
「もしかして、宮崎には警察以外の情報源でもあったのか?」
その可能性に気付いて俺はハッとなった。
そんなものがあるとしたら、それこそ黒幕なのだろう。
それを調べさえするならば、黒幕の正体もつかめるのかもしれない。
「残念ながら、もうそれは他の世界の話になってしまったけどな。」
困ったことに、すでに世界Dから脱している俺としてはそれを調べる術がない。
ふむ、果たしてどうしたものか。
俺は少し頭を悩ませた。
そして、しばらくしない内に結論を出した。
「今回も宮崎は俺の釈放を阻止してきたよな?」
今回は検事ではなく、半グレとしてだけど。
それでも前回と行動は一致しているからな。
もしかしたら、今回も黒幕とやらは宮崎に仕事を任せている可能性がなくはないか?
「藁にでもすがる気持ちで調べてみるか。」
今のところ、俺にはこれ以外は何も打てる手がないからな。
俺から調査することは無理そうだし。
そこは関係者である絵里ちゃんとか、葵とかを突っついて見るか。
絵里ちゃんはまた先に起きているみたいだから、この後聞くとして。
葵も帰ってきたら、何となくという体で聞いてみるか。
まあ、葵に関しては今すぐに、話を聞くことはは無理なようだけど。
「葵の件は気長に待つとするか。」
今は黒幕からの動きもないから、別にこちらが急ぐ理由もない。
出来ることも特にない。
俺は一旦そこで考えることをやめた。
流石にこれ以上朝の支度が長引くと怪しまれそうだったらである。
俺はそこで一旦シャワーを浴びることにした。
「......」
暖かい水に頭を打たれながら、ぼんやりと頭をごしごししていく。
暖かい水に当たって、何だか脳が活性化される気分だ。
そこで来てやっと俺は、ふとある疑問が思い付いた。
「そういえば、タイムマシンって何だったんだ?」
それは自分で言うのもあれだけど、遅すぎる上に、
とんでもなく今さら過ぎる疑問だった。
恥ずかしいながら、実は俺は一回もこれについて、考えたことがなかったんだよな。
その時は本当にこれを使って、どうやって窮地を脱するかだけを考えていたからな。
「自分でも呆れるよな。」
それで、タイムマシンの出所は深く考えたことがなかった。
バカと言っても仕方がないとは思う。
実際に俺が思うに当時の俺はバカだった。
俺はシャンプを水で流しながら、何となく手首のところを凝視する。
「......」
謎めいた銀のブレスレット。
どうしてあんなとんでもない代物が俺にいたのか。
どうしてそれが急に消えてしまったのか。
分からない。
当たり前なんだけど、どんなに考えてもそれらしい結論は出なかった。
「はあ、今考えても仕方ないか。」
それについても追々調査するとしようか。
手掛かりが見つけられるかは分からないけど。
しかし。
「あれについては何を調べたら良いかさえ。見当もつかないな。」
急に現れて、急に消えてしまった謎めいたものをどうやって探せと。
ネットでタイムマシンと調べても創作物の話しか出てこないんだろうな。
「まずは手の届く範囲から片付けていくか。」
というわけで、タイムマシンは一旦放置だ。
今はそれより、宮崎の動向を調べるのが先だな。
そう思った俺は着々と朝の支度を済ませた。そして、絵里ちゃんに話を聞くために、リビングへと向かった。