リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
聞いたことがあるだと?
俺は太一の言葉に困惑した。
本来それはあってはならないことだ。
今回、俺が持ってきた捜査情報というのは、あくまでも検察の機密情報。
しかも、神殺隊の裏に黒幕があるという捜査情報は、まだマスコミにも流出されてない状態だった。
そんな情報を探偵ではあるけど、一般人に過ぎない太一が聞いたことがあるというのは可笑しい話だ。
それこそ、検察内の機密情報を抜き取らないと知りえないこと......って。
「お前、まさか検察の機密情報を......それ犯罪だぞ?」
「アホか。そんなわけねぇだろうが。」
太一は俺の発言に軽く突っ込みをいれて来た。
「探偵というのは、逆に法に厳しいんだよ。いくら証拠や情報を集めたとしても、そこに違法性があると、それまでの仕事が全部パアになるし、それに探偵というものは、そもそもの話で開業申請を警察にしているから、違法行為なんて出来やしねぇっての。」
「分かったって。ごめんってば。」
俺としては、冗談のつもりが少し滑ってしまったようだ。
太一の真面目な抗弁に、俺は素直に太一へ一言誤りの言葉を伝えた。
でも、この反応からすると、少なくとも太一の情報には違法性が全くないようだ。
ということは、太一は違法性なしに検察の機密情報を調べたということになる。
では、太一はどうやってこの情報を聞き入れたのだろうか?
「でも、先ほどの話は全部検察の機密情報だったんだ。普通なら聞けるようなものではない。なのに、太一、お前はどこでこの情報を聞き入れたんだ?」
俺は太一に普通に質問した。
別に違法行為がなかったら、聞けるようなものだと思ったからである。
「まあ、別に隠すことでもない。」
太一も普通に話してくれる気のようだ。
本当に違法性は全くない話みたいだ。
「ちょっと、その前にはっきりしておくけど、俺は別にお前が言った話を全部聞いたことがあるとは言ってないぞ?その事件に黒幕があったなんて、俺としては初耳だったよ。それについては俺も凄く驚いているくらいだということを理解して欲しい。それを前提にして、俺が聞いたことがあると言ったのは、あくまでもその黒幕さんが使った手口の件だけだ。」
「手口の方を、だと?」
どういうことだ?
俺としてはそっちの方がもっとおかしいと思うけどな。
先ほどまで黒幕の存在さえ分からなかった人物が、どうやって黒幕の手口について聞き齧ることが出来るんだ?
俺は太一の発言で頭がこんがらがることを感じた。
気持ちとしては色々突っ込みたい気持ちだったけど、俺は一旦太一の話を聞くことにした。
「実は俺にはある趣味があってな。仕事が暇な時は都市伝説のことを調べてんだ。」
そんな急に趣味の話をされてもな、いきなり過ぎて反応に困る。
しかし、都市伝説か。
パツ菌のことを思い出す趣味である。
あれももはや都市伝説レベルになっていたからな。
「ふむ、それは中々独特な趣味だね。」
「まあ、きっかけは小学生の頃にお前とパツ菌を調査したことだけどな。それはさておき。それで色々と調査して、都市伝説とか言う正体不明の噂の真相を暴くことが楽しくてさ。実は結構最近までもこれを続けていて、色々と暴いている。」
案の定、それはパツ菌事件に由来した趣味らしい。
それはさておき、普通に面白そうに聞こえる趣味である。
だけど、これが黒幕の手口とどう関連しているんだ?
俺としては見当もつかなかった。
「ふむ。それで?それが今の話とどう繋がるんだ?」
俺は我慢できずに太一に話の続きを促した。
どうも先ほどから話が本筋からずれているような気がしたからである。
「まあ、落ち着けよ。あれとこれはちゃんと繋がっている話だから。」
太一はそんな俺のことを宥めてきた。
それにしても、それと黒幕の手口の件がどう関連しているか分からないが。
俺は太一の言う通り、一旦は黙って話を聞くことにした。
太一は俺が傾聴する姿勢になったことを確認して話を再開した。
「都市伝説というものは、真相を明かしてしまえば、そこまで大したことではないものばかりだ。そのほとんどは何かの見間違いとか、誤解が原因だったりする。」
誤解か。
確か絵里ちゃんのパツ菌もそんなものだった。
宮崎の悪意が籠った工作があったものの、パツ菌があれだけ広まったのは幼児特有の無知さと誤解が原因だったからね。
「例えば、この間とかは近くの山のトンネルで幽霊騒ぎがあったのだけど......」
「ほお、幽霊ね。」
非常に興味がそそられる出だしに俺は期待を胸の中に膨らませた。
そいつは普通に面白そうな話である。
俺は太一の話を肴に手元のコーヒーを一口飲んだ。
「いざ、その正体を明かしてみると、ある男がいたずらをしていただけだった。トンネルの中に白い布を置いて、幽霊のことを演出してたな......それを見間違えた人々が話を付け足して、立派な幽霊の出来上がりよ。」
しかし、発せられた太一の言葉は俺の期待とは違った、気の抜ける結末だった。
「なんだそれ。つまんないや。」
まあ、でも、大体はそんなものかとも思う。
世の中で真の摩訶不思議というものはそうそういないということだろう。
「まあ、こんな感じに都市伝説とは真相を知ってしまえば、気の抜けるものばかりしかいなかったりする。でも、そんな中でもたまに本物が混ざってたりもするんだ。」
「本物?」
ほお、本物と来たか。
少なくとも先ほどの幽霊のような話ではないだろう。
俺の話と関連した話ということだからな。
「そう、それが最近調査した都市伝説のことだ。ここからはお前の話と関連してくる話だ。これは本当に不思議なことで、実は調査し初めて、結構長いんだけど、未だに種が分かっていない都市伝説の一つだ。というか、これが唯一本物の都市伝説と言って良い。」
そこまで言って、太一は自信の前のコーヒーを一口飲んだ。
一旦、喉を整えるつもりらしい。
砂糖を入れすぎてもはやヘドロのようなコーヒーだから、それが出来るかは分からないけど。
コーヒーを一口飲んだ太一は話を再開した。
「お前が知っているかは分からないが、最近この辺りでは変なバイトが流行っていたんだよ。そして、そのバイトというのは簡単なもので、言われた通り荷物や手紙を運ぶだけのバイトだ。本当にそれ以外はなくてな。運搬距離もそこまで離れたところでもない。大体長くても5分から10分がかかるってな。それで一回につき、条件無しの先払いで1万円くらいをもらえるらしい。これはやらない方が損なくらいだな。」
「運搬バイトだと!?」
俺は驚いて声を上げた。
まさかそんなことが横行しているとは......
そして、これで俺はようやく太一の聞いたことがあるという言葉の意味を悟った。
「ああ、俺がお前の話を聞いたことがあると言ったのは、この都市伝説のことだったんだ。」
半グレ組織へ訪ねてくるランダムな運搬人と怪しげな運搬バイト。
これは関連がないと言った方が可笑しいだろう。
それでも念には念をいれておく必要がある。
そう思った俺は太一に質問した。
「ちなみに何でその話が神殺隊と関連があると思ったの?」
「依頼者が謎めいているというところかな。」
たったそれだけ?
俺は太一の返事にずっこけそうになった。
しかし、意味不明で、中々要領を得ない返答だったけど、そう言っている太一の目は真剣だった。
あくまでも、太一は本気のようだ。
「俺の経験上、都市伝説というものは、調査すれば普通に何か情報が出てくることが多い。真相だって、以外とあっさり見つかることが多かった。だけど、この謎バイトに関してだけはそれがなかったんだ。まるで煙でも掴もうとしているように、奇妙なレベルまで依頼者に関する手がかりが一つもなかったんだ。」
太一の言葉に俺はごくりと唾を飲み込む。
こいつが本当になかったというと、それはないのだろう。
太一は小学生の時にほぼ一人の力でパツ菌のうわさを広めたやつだからな......
「あの検察と警察、裁判所までもが力を集めても見つからない黒幕。俺がいくら探しても見つからない謎の依頼者。どっちも謎めいているからな。だから、俺は両方に繋がりがあると思ったんだ。」
「ふむ。」
本当にそれだけか?
それだと、ちょっと強引な論理の飛躍だと思うけど。
俺はそんな感情を込めて、怪訝そうな目線を太一に向けた。
すると、その視線に気付いた太一は、今までの論理展開が無意味になるとんでもないことをゲロった。
「まあ、それとその謎バイトが逮捕された神殺隊の本部がいるエリアで起きてたってのもあるな。」
「それを先に言えよ!」
俺は太一に盛大な突っ込みをいれた。
太一め、逆にそれだけでよかったじゃん。
今までの時間は何だったんだよ?
「ごめんごめん、でも、俺としては事件の連関性よりも、この事態の奇妙さというのを強調したかったんだ。」
太一は軽く自分の頭を掻きながら笑った。
まあ、確かに言う通りに奇妙な事件ではある。
謎めいた依頼者にやることが特なバイトか。
全く変な話もあるものだ。
俺は折角だから、太一に色々と質問をすることにした。
「で、そのバイトって違法性はないの?」
まずはこれかな。
これはどう見ても怪しいバイト。
違法の空気がぷんぷんするからな。
「うむ、ないな。最終的には神殺隊への配達になるけど、それも含めて完全に白だ。」
「お前な!」
またかよ!
俺は再び太一の言葉にずっこけそうになった。
何とか言葉を遮ってヘッドロックを掛けたくなる気持ちを押さえて続きを促した。
何と言うか、これは関係がないという方がおかしいレベルだったんだな。
それにしても、違法性がないか。
クソ怪しいバイトなのに。
「それが完全に白なんだよな。まあ、色んな人に頼んでいるだけあって、当然、荷物の中身を確認したやつが結構あるんだよ。」
「へえ、どんなものが入ってたの?」
「それが普通の白紙とか紙束だった。」
白紙に紙束?
何故そんなものを?
「それは確かに面妖な話だな。証拠とかはあるのか?」
「証拠か?あるな。」
そう言った太一は懐から携帯を取り出した。
そして、何か操作したかと思えば、俺に画面を見せてきた。
見せられて来た画面は青鳥のSNSの投稿だった。
中身を見るとそこには最近流行りの謎バイトやったったと書かれていて、写真が投稿されていた。
その写真には紙幣状の紙束が大量に入っているキャリーバックの姿が写っていた。
どうやら、これがその荷物の中身らしい。
「これがその?」
「ああ、荷物の中身さ。その他にも色々と鞄や封筒を開けた人がいる。ほら。」
そう言って、太一は他にも俺に色々とSNSの投稿を見せてきた。
それらにも同じく白紙や紙束の写真が乗っていた。
何と言うか、かなりの人が中身を確認しているようだった。
これだと何でそんなことを運搬させているかはさておき、違法性は確かになさそうだ。
「これって普通の紙なの?」
「おう、普通の紙だ。俺も気になって、鞄を開けたやつらから紙をもらって、色々と調べてみたけど、何の変哲のない紙だった。」
本当に訳が分からない。
何故そんなものを運ばせているんだ?
それにもっと可笑しい点は、神殺隊はこの手段を使って、黒幕から仕事の依頼や報酬をもらっていたという点だ。
こんな白紙を移させているだけだったのに、どうやって?
もしかして、ランダムに本物と偽物をいれているとでも言うのか?
いや、それだとリスクがでかすぎる。
こんなに荷物の中身を確認されていることを見ると、その方法だと何時バレてもおかしくはない。
そして、通報されて終わりだっただろう。
だが、謎の依頼者は今まで通報なんてされてない。
これじゃ、まるで荷物の中身を開ける人のことを予測でもしているような......
否、そんな芸当が出来るなら、そもそも中身を見ない人を選ぶ方が合理的だよな。
「ちな、一時期は警察もこれについて調査をしたことがあったな。受け取り先が半グレ組織ということで、捜査をやってたらしい。でも、いくら職務質問で荷物の中身をチェックしても、全部白紙が出ていたって聞いたぜ。それで捜査を打ち切ったとか。」
マジか。
付け加えられた太一の一言に更に頭が混乱をし始める。
それだと状況は更に複雑になってくるからな。
万が一、中身を確認しない人間を分かって選んだとしても、職務質問に掛けられる可能性もあったわけで。
まさか、謎の依頼者はそれさえも全部分かっていたとか?
これだけははっきり言うが、そんなこと現実にはあり得ないと思う。
俺はそれからも色々と悩んでみたけど、それらしい結論は全く出なかった。
これは本当に分からん。
そう思った俺は当初の目的である太一への仕事の依頼の話を持ち出した。
頭の痛い問題は丸投げである。
だけど、太一はちょっと依頼を受けることを渋っていた。
「これだけ調査しても出なかったんだぜ?成果を出せるとは思えない。」
「それは趣味で調べた時の話だろう?フルタイムだとまた違うかもな。」
俺の言葉にも太一の顔は晴れなかった。
太一にしてもこの謎バイトの調査は本当にお手上げそうだ。
「別に成果が欲しいというわけでもないよ。警察と検察と裁判所も分からなかったことだ。そうそう簡単に分かるとは思ってない。一定期間調査して見て、結果として、結局は分からなかったというなら、それでも大丈夫だから。」
本当に俺としては調査そのものに意味があると思っている。
それに太一の能力についても信頼を置いているからな。
口ではそう言っていても、きっと何かの手がかりをつかんでくるかもしれない。
これまでは趣味の調査だったけど、これからは仕事だからな。
「そこまで言うなら......まあ、分かった。やるだけやってみる。」
「うむ。よろしく。」