リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
俺は岬に今日あったことを全て話した。
すっかり遅い時間にも関わらず、岬は俺の話をちゃんと聞いてくれた。
偶然、西之宮絵里にあったこと。
俺の担当検事があの宮崎剛太だということ。
彼に自分は小金持ちということを明かしたこと。
そして、結果的に俺が愉快犯としてみられた事など。
それを聞いた岬は意外なことを言った。
「作戦通りね。」
「作戦?」
「覚えてないの?」
岬は驚いた顔で俺をみてきた。
作戦…そうだ。
世界Dで俺は逮捕された初日のことを思い返す。
敢えて資産について申告をしてなかったことは岬が立てた作戦通りだった。
「そうだった、作戦だったよね。」
苦し紛れで何とか誤魔化そうとする俺。
しかし、自分が考えても可笑し過ぎる態度になった。
どうするべきかと内心で悩んでいるところ。
「瑛二、作戦を忘れるほどに辛かったんだね。」
岬が目をうるうるさせて涙ぐんでいる。
勝手に良いように解釈してくれる岬。
今だに岬の洗脳は残っているらしい。
俺は胸を撫で下ろした。
「いや、大丈夫。少し混乱していただけだよ。」
「そんな…記憶を失うほど辛かったの?」
俺の言葉にさらにショックを受ける岬。
俺は言葉を尽くして、岬を何とか安心させた。
閑話休題、世界Dでは俺が逮捕されてから、直ぐに岬が飛んできてくれた。
そこから岬が出した指示は1回目の取り調べについては、全て黙秘して最大限情報を集めることだった。
それで1回目の取り調べで何も言わずに聞いていると、俺が金を狙ったと言うことになっていた。
しかし、これは可笑しな主張だ。
世界Dでの俺は普通に働いているし、口座の金も一般のサラリーマンよりははるかに多い。
なのに、警察と検察は俺が金を狙って犯行をしたと言っていた。
つまり、警察と検察は俺という人間については、しっかりと調査をしてないことになる。
岬はこのことについて着目した。
今のところ、岬が見ても証拠などは完全に俺を示しているから、そこからの足逃れはできない。
だから、他のところで向こうのボロを出させるしかないというのが岬の結論だった。
それから俺は捜査には協力したものの、資産については口を謹んだ。
協力といっても、記憶にございませんの一点張りだったけど、実際に記憶がないことは仕方ない。
そして、俺の勾留が決定したことで作戦が完成した。
「検事が何といっても構わないわ。実際に貴方の処遇を決めるのは裁判所だから。」
「だけど、あれは怖かったよ。」
俺は少し弱音を吐いた。
「この透明な壁が無ければ貴方を慰められたんだけど、残念だわ。」
岬は本当に残演そうな表情をして、艶っぽい声で言った。
本当に目の前の壁がなかったら、このままおっ始める勢いだった。
「岬…」
「瑛二…」
俺たちはお互いの目を見つめ合って、熱い視線を送り合う。
二人の世界に入り込みそうなところを岬が何とか止めた。
「今はやめておきましょう。貴方の劣情を煽るだけ煽っても解消する方法がないと、貴方が辛いだけでしょう?」
「お、おう。」
俺は渋々と引き下がった。
「兎に角、私たちの作戦は上手くいっているの!」
「そうだな。」
岬はドヤ顔でそう言った。
結局は裁判所次第。
警察と検察がいくら俺の罪を主張したとしても、それを決めるのは裁判所次第だ。
だから、岬は俺に勾留延長が決定する中調べまで、資産に対する情報を隠すように指示した。
状況証拠は全部揃っている状態だから、それに対する否定は今の所難しいけど。
資産情報を今のこのタイミングで公開することで、検察は俺の動機が変わったことを裁判所に報告するしかなくなった。
そうすることで、裁判所に警察と検察の捜査が足りなかったという印象を与えることができる。
「やはり、岬はすごいや。」
俺は岬を褒め称えた。
岬は俺の心からの称賛に満更でもなさそうだった。
「あら、もっと褒めて良いのよ?」
岬はまだまだ愛情を求めてくる。
俺はそんな岬をしばらく褒め称える。
大体10分くらい褒めてやっと岬は満足した。
それから、俺たちの話は世間話にまで話題が広がった。
どうやら、岬は俺の息抜きをしてやりたいみたいだ。
依頼人のメンタルケアまでやってくれるとは、岬は本当に最高の弁護士だ。
「ところで話は変わってくるけど、西之宮さんとはまだ付き合いがあるの?」
その流れで、俺は気になったことを確認する。
西之宮絵里、俺としては印象は最悪だったけど、岬とはそれからも仲がずっと良かった。
岬が言うにはあの事件はあくまでも彼氏である宮崎に盲目になっていたから、宮崎に同調しただけとのこと。
根は良い子であると言っていたことが記憶に残っている。
「そうだね。まだ仲良しよ。昨日も一緒にランチを食べたの。」
岬はそういって俺に写真を見せてきた。
岬と笑顔でピースをしている金髪の西之宮さんの姿。
美人が二人揃っているだけで絵になるものだな。
「どう?絵里ちゃん可愛いでしょう?」
まるで自身のことのように自慢する岬。
岬は西之宮さんが本当に好きみたいだった。
「そうだね。そういえば、西之宮さんってこんな金髪だったけ?」
俺は気になった点を質問した。
前にも述べたように俺の記憶の中の西之宮さんは黒髪だった。
しかし、この写真でも西之宮さんは金髪だ。
「それがね。絵里ちゃん中学時代には黒髪に染めていたんだって。」
「へえ、そうなんだ。綺麗な金髪なのにもったいないことをするね。」
「そうだよね!私も本当にそう思うわ。」
俺の言葉に激しく相槌を打つ岬。
本心からそう思っているみたいだ。
「でもね、どうやらあの男の影響だって。」
あの男…脈略からして宮崎検事のことだろう。
世界Dの岬は宮崎が俺を貶めたあの事件以来、宮崎を名前を呼ばなくなった。
「宮崎検事のことか、その男がどうかしたの?」
「聞いて!ひどいの!小学校の時にあの男が金髪は気持ち悪いとか言ったみたい!」
岬は怒りモードに入った。
それだけ、岬は西之宮さんを大事に考えているのだろう。
「それは酷いな。」
俺は岬に同意した。
金髪は西之宮さんのアイデンティティなのにそれを否定するとは。
しかし、それを否定されて、黒髪にまで染めていた西之宮さんも異常だと思える。
「そうなんだから!絵里ちゃん本当にショックを受けて、学生時代はずっと黒髪だったの。」
「しかし、俺からしてみれば、それは西之宮さんも可笑しいと思うけど。自身のアイデンティティを否定されても、なお、宮崎の言葉に従っているからな。」
岬は俺に洗脳されているから、まだ、そんなことがあるのかもしれない。
だが、西之宮さんはそうではない。
何で西之宮さんがそこまで宮崎がいう通りにしたのか気になった。
「それがね、恋は盲目ということ。絵里ちゃん、小学校の時にあの男に一目惚れしたんだって。」
「一目惚れ?」
「そう、何でもあの男が絵里ちゃんの命を救ったみたい。それで絵里ちゃんがあの男を好きになったんだって。」
俺は驚いた。
まさかあの嫌味ったらしい煽動者に人を救うという概念があるとは。
少なくとも昨日見た限りはそんな気配はなかった。
なのに、そんな熱烈な面があるとは驚きである。
「宮崎検事がそんなことを…」
「信じられないでしょう?私もそうだったの。」
岬目線からもあの男はそんなことをするタマではないみたいだった。
「へえ、どんな感じだったの?」
俺は興味本位で聞いてみた。
「それが家の近くに山があったこと覚えている?」
「そういえばそうだね。俺たちもそこで遊んだことがあるから覚えている。それがどうしたの?」
急に実家近くの山の話をする岬。
俺は唐突すぎる話題転換に戸惑ったけど、普通に相槌を打った。
「実は絵里ちゃん、その近くに住んでいたんだけど、そこで崖に落ちそうになったところをあの男が救ってくれたんだって。」
「へえ、それは一目惚れしても仕方ないな。」
そもそも何で崖から落ちそうになっているかはわからないけど、衝撃的な事件だ。
一目惚れするのも納得はいく。
西之宮さんは惚れた男に尽くすタイプの女の子だったわけか。
「だよね。私でも瑛二と会ってなくて、そんな状況だったら惚れるかもね。」
岬はそんなことを言った。
命を救われても、俺に会ってなくてという前提が入っている。
岬の可愛らしい主張に胸のあたりがホクホクとしてきた。
俺を元気づけするという岬の意図は完全に成功した。
「おかげ様で疲労が解けた気がするよ。ありがとう、岬。」
俺は岬にお礼を言った。
「どういたしまして!」
岬は元気に答える。
「ところでそれっていつの事?」
自分でも何でこんなことを聞いたかわからないけど、俺は何となく聞いてみた。
どうせ答えは返ってこないだろうと思っていた。
20年前のことだから、覚えてないだろうなと思っての質問だった。
しかし、俺の予想は良い方向に間違っていた。
「2015年6月27日だって。昼過ぎのことだったみたい。」
あろうことか岬は日付はおろか、時間まで言ってきた。
「え、何で知ってんの?」
「恋する乙女を舐めないでくれる?絵里ちゃんが毎回惚気話で聞かせてきたからだけど。」
まさかの自己申告だった。
あの西之宮さんが惚気話をね…
俺の記憶中では西之宮さんはいつも冷たい表情で俺を睨んでいたからね。
「俺としては想像ができない光景だね。西之宮さんは俺には何時も冷たい感じだったから。」
「全部あの男の影響なの。そんなに責めないであげて。」
岬は西之宮さんを改めて庇った。
本当に大事な親友なのだろう。
「それに最近の絵里ちゃんは大変みたいだよ。相談事が多くなったの。」
「相談事?」
「うん、あの男のことだけど、絵里ちゃん、やっと魔法から目が覚めたみたいよ。」
やっと目が覚めた、か。
気になる物言いだなと思った。
「何か最近改めてあの男を見ていると、あの男は自分が考えてた人間ではないことに気づいたんだって。」
「そうなんだ。」
俺はどう反応するか困っていた。
「そうそう。ここからが本題だけど、ここから出たら絵里ちゃんと会ってくれない?」
「どうして?」
岬は急にそんなことを俺に提案してきた。
「絵里ちゃんが昔のこと謝りたいんだって。」
「あの西之宮さんが…」
俺は驚いた。
直接会ったことはないけど、記憶の中の彼女はなかなか話が通じない人物だったのだ。
そんな彼女が俺に謝罪をするとは時間は本当に何もかもを変えてくれるものだなと感心した。
そして、俺は岬の次の言葉でさらに驚愕せざるを得なかった。
「そのついでに絵里ちゃんのこと誘惑してきてよ!」
「え?」
俺は固まってしまった。
しばらく、俺は石になっていた。
「どうして?」
俺はやっとのことで声を上げることに成功した。
「最愛の男と最愛の親友が一緒にまぐわっているところを想像すると最高に興奮するの!」
岬の返答に俺は開いた口が閉じられなかった。
国選の上原弁護士から、怒り狂った上原弁護士、主婦の上原岬を経て。
上原岬弁護士は寝取られマゾ女になっていた。
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俺はそれから留置所の自身の部屋に戻っていた。
岬の衝撃的な変貌で何もかもが頭から抜け落ちそうになった。
しかし、今日一日で大きな進展があった。
「最初は焦ったけど、警察と検察に反撃することに成功したのは大きい。やはり、岬は最高だよ。」
もしかしたら、このままでも良いのではないかと思えるくらいに上出来た。
だけど、俺はまたタイムマシンを使うことにした。
「確かに反撃はできたけど、証拠は今だに健在だ。」
俺を犯人だと示している状況証拠の壁はそれだけ分厚かった。
俺の指紋が付いた拳銃と硝煙が付着した上着。
それらを全部装備したまま、現場で寝ていたのは俺しかないという状況。
状況証拠と言っているのは、俺が撃ったと証明できてないからであって、ほぼ物証と言っても問題ないレベルの証拠が揃っている。
「ということは検察側の情報も必要だな。」
そう俺は結論を出した。
「西之宮さんの過去を改変する。」
これは前まではできなかったことだ。
俺と西之宮さんの接点がなかったからだ。
しかし、世界Dにきたことで、俺と西之宮さんの接点ができた。
タイムマシンの5番目の法則。
5.他人の過去に関しては、自分と関わった人物にのみ限定して変えられる。
世界Dに到達して、やっと西之宮さんの過去改変が可能になったのだ。
俺は戦慄した.
岬ちゃんと同じ中学に入るためにした努力のお陰で、新たな道が開いた。
「次の目標は一つ、西之宮さんを手中に入れる。」
先ほどの岬の調子をみた感じ。
過去の岬もそれを許してくれるだろう。
美鈴は…まあ、さらに性拷問をして、認めさせればいいか。
俺はタイムマシンを起動した。
新たに未来を開拓したことで、新しい道が開くっていうのは中々良い展開だと思います。