リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
※仕事が立て込んで水曜日は投稿出来ない可能性があります。
「あの…」
俺は何とか息を整えて口を開いて宮埼検事の言葉を遮ろうとした。
だが、まだ死の恐怖が体から抜けきってないのか、上手く喋ることが出来なかった。
その間にも宮崎の言葉は止まらない。
「アイツは絵里の背中を押しました!そして、絵里が崖から落ちそうになって、やっと絵里を救おうとしたんです。」
まるで本当に見たことのように言う宮崎。
だが、残念ながら宮崎の論には説得力があった。
宮崎という目撃者が加わることだけで、宮崎が言うこと全てに説得力ができた。
まだ子供なのにとんでもない奴だ。
もっとやばいのは、俺が西之宮さんを救ったという事実は認めたということだ。
そうすることで、被害者である西之宮さんも説得に掛ったのである。
しかも、西之宮さんの背中で押したと言うことで、被害者の西之宮さんにさえ疑念の種を埋め込んだ。
本当に惚れ惚れする手腕だ。
その対象が俺でさえなければよかったものを。
「剛太くん、それは本当か?」
静かに怒りを露わにしながら聞く西之宮さんの父。
一応、宮崎に真意を問いただしていたけど、西之宮さんの父の目は宮崎の言葉を信じ切っていた。
それは母親の方もそう変わらないみたいだ。
娘の危機に対して自分たちを呼びに来た男の子と素性を知らない上に娘に抱えられている男の子。
どちらかというと俺も前者を信頼するだろう。
「ええ、僕がこの目で確かに見ました!」
宮崎はそのことをよく理解しているみたいだった。
どんどん勢いに乗っていく宮崎と目の前に殺気立つ西之宮夫婦。
これでは俺が何を言っても無駄そうだ。
宮崎は一瞬で俺以外を味方につけて、俺を娘の怨敵に仕立て上げた。
そういえば、世界Dのあの事件もそうだったな。
俺は世界Dでの中学時代のことを幻視した。
こんな風に宮崎が皆んなの前で俺を追い詰めて、西之宮さんがそれを肯定した。
仕舞いには宮崎に正義の鉄拳(物理)を下された。
それで俺はクラスで孤立したんだ。
今回もそうなのかな。
俺がそう諦めかけていたその時だった。
「そんなことないよ!」
悲痛な少女の声が山頂に鳴り響いた。
西之宮さんの声だった。
俺は驚いた。
まさかあの西之宮さんが俺を庇うとは。
「背中を押されたのは確かだよ。でも、それはこの人じゃない!」
西之宮さんはそう言った。
背中を押されたのは事実?
俺はその言葉を聞いて奇妙な感覚に陥った。
「絵里…」
西之宮さんの父は西之宮さんを宥めるように彼女の名前を呼んだ。
西之宮さんの両親の目には命の危険に晒された娘が正常な判断が出来てないように見えるだろう。
宮崎マジックは本当に恐ろしい。
「絵里、あなたは今正常な判断が出来てないだけだよ。一旦その子から離れよっか?」
西之宮さんの母は俺が思った通りのことを言った。
完全に俺を危険人物として扱っている。
だが、西之宮さんは母の言葉に従わなかった。
それどころか、俺をもっと強く抱きしめた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私を救ってくれたのにこんな目に遭わせてしまって。」
西之宮さんは涙を流しながら俺に謝った。
「いや、良いよ。君は何も悪くないから。ここからは俺が言うよ。」
俺はそんな西之宮さんを慰めるようなことを言って、西之宮さんを離れさせようとした。
これ以上西之宮さんの両親の心象を悪くしたくはなかった。
それでも西之宮さんは離れようとはしない。
「君、名前は?」
西之宮さんの父は俺の名前を聞いてきた。
「牧田、瑛二です。」
やっとのことで調子が戻ってきた俺は自分の名前を名乗った。
「牧田くんか、君はここで何をしていたんだ?」
西之宮さんの父親は俺に質問してきた。
真っ当な疑問である。
俺は特に言葉を飾らずに事実をありのままに言った。
「罠の撤去です。」
「罠の撤去?」
西之宮さんの父は俺の言葉を繰り返して呟いた。
「そんなの嘘に決まっている!」
急に宮崎から横槍が入った。
しかし、西之宮さんの父はそんな宮崎を片手で静止した。
「剛太くん、今は私が牧田くんと話をしているんだ。ちょっと静かにしてもらえるかな?」
「うっ…」
西之宮さんの父の有無を言わさぬ態度に流石の宮崎も怯んだみたいだ。
やっと宮崎は口を噤んだ。
「それで罠の撤去というのは?」
「言葉通りの意味です。最近ここの山頂には罠が設置されてました。それを撤去するためにここに来ました。」
「何だと?」
俺の言葉を聞いた西之宮さんの父は怒りを露わにした。
この怒りは…義憤のように感じられた。
この人もまた正義感が強いタイプのようだ。
「その罠というのは?」
「この子が落ちそうになったところですが、崖を隠すように木の枝と草が置かれていました。」
俺の言葉を聞いた西之宮さんの父は崖を見た。
罠に使われた木の枝みたいなものは下に落ちていたけど、ところどころにまだ草などの罠の残骸が残っていた。
「確かにそのようだな。崖の近くに草などは生えてないのに草が散乱している。これは誰かが抜いて、ここに持ってきたものだな。ここに罠とやらがあったのは確かみたいだ。」
しばらく、崖の周辺を観察した西之宮さんの父はそう結論を出した。
「なら!」
西之宮さんは表情を明るくした。
俺の冤罪が晴れたことを喜んでいるみたいだ。
俺もやっとこの状態で解放されると喜んだ。
だけど、それは俺の早とちりだった。
「それを君がやってないという証拠はどこにいるんだ?」
「そ、それは…」
俺は言葉に詰まった。
確かに俺が罠の設置をやってないという証拠はない。
俺の反応を見て、西之宮さんの母親は激情を表した。
「これでわかったでしょう?絵里、早くその子から離れなさい。」
「いや!お父さん!」
お父さんを縋るように見つめる西之宮さん。
しかし、西之宮さんの父はその目線に気付かずに俺を睨んでいた。
西之宮さんの母親はいよいよ物理力を行使してきた。
俺に引っ付いた西之宮さんを力づくで剥がそうとする西之宮さんの母親。
それに西之宮さんは激しく抵抗した。
「絵里、お母さんの言うことを聞きなさい。」
「いや!」
駄々を捏ねる西之宮さん。
西之宮さんはこのままいても状況が変わらないということを悟った。
そして、彼女はすべてのことを覆す一言を放った。
「私の恩人を蔑ろにするお父さんなんて大嫌い!」
「グハッ!絵里…!」
西之宮さんの一撃が西之宮さんの父親の心にクリーンヒットした。
血反吐を吐くように息を吐き出す西之宮さんの父親。
先ほどの威厳はどこに行ったのやら、西之宮さんの父は焦った表情をしていた。
「絵里、それだけは…お父さんを嫌いにならないで欲しいな。」
西之宮さんの父親はは空気が一変して娘煩悩のおじさんに様変わりした。
俺はもちろんのこと、周辺の皆んなも戸惑っている。
「貴方、急に何を言っているのよ!早く絵里とあの子を放して置かないと!!」
西之宮さんの母親は困惑した表情で言った。
西之宮さんはそんな母親は物ともせずに、父親に叫んだ。
「だったら、格好いいお父さんに戻って!」
「!!」
娘の叱咤を受けた彼は、表情と雰囲気が少し変わった。
しばらく彼は自身の娘の目をじっと眺めた。
「貴方!」
「舞、お前は黙っていなさい!」
西之宮さんの父親は母親を静止した。
母親の方は西之宮舞というみたいだ。
一瞬、彼女はビクッとなったけど、それでも自身の意見を貫徹した。
「貴方は剛太くんより、あの見知らぬ子を信じるというの!」
「違う。私は絵里を信じているんだ。」
「!!」
今回は西之宮舞さんが驚いた顔をした。
「絵里がそこまで言うなら、彼が犯人ではないという根拠があるということだな?」
西之宮さんの父親は言った。
先ほどとは打って変わった態度に俺は驚いた。
「あるよ。この人は絶対私の背を押したりなんてしてない。」
ハッキリという西之宮さん。
俺さえもその根拠がなくて言い訳ができないのに、彼女はそれができると言っている。
「根拠は音だよ。」
「「音?」」
俺と西之宮さんの父親の声が重なった。
「そう。私が背中を押された時、足音は私の家方向に消えた。」
西之宮さんの家の方向?
つまり、西之宮さんが上がってきた方向ということだろうか?
それのどこが根拠と言うんだ?
「この子が私を助けにきた時は反対側から足音が聞こえてきた。それで私は助けてと叫んだよ。」
その時のことか。
俺は西之宮さんの声を聞いた時のことを思い出した。
「しかし、絵里、それは回り込みをすれば解決する問題ではないか?」
西之宮さんの父親は指摘した。
確かに回り込みをすれば反対側で上がってくることもできる。
彼の指摘は的を得ていた。
「それはないよ。」
西之宮さんは父親の言葉をスッパリ否定した。
「だって、私が崖に落ちてほぼ1分もかからずにこの人がきてくれたから。回り込みをするには時間が足りないし、したとしたら音も聞こえていたと思う。それにそもそもの足音も違ってたし。」
そう言うことか。
まあ、西之宮さんのような女の子がそこまで長い時間崖に捕まっていられるわけはないよな。
しかし、凄まじい観察力である。
あの極限の状態でこれだけの情報を集められるなんて、素晴らしい才能だ。
しかも、自身の主張をしっかり理解出来るように分かり易く述べられるのもポイントが高い。
「そうか。わかった。」
西之宮さんの言葉を聞いた彼女の父親はやっと納得してくれた。
俺を見る目がゴミを見る目から、恩人を見る目に変わった。
「数々の無礼について詫びる。娘を救ってくれてありがとう。本当に、本当に感謝するよ。」
西之宮さんの父親は俺に詫びの言葉を言った。
俺は感心した。
大人というのは中々自身のミスを認められない物なのに、すんなりと認められるんだな。
娘煩悩なだけで悪い人でもなさそうだなと思った。
俺は彼の謝罪を受け入れた。
「いえ、大丈夫です。」
「そう言ってくれると助かるよ。私も娘のことになったら、頭が真っ白になってしまってね。ほら、舞、君も謝りなさい。」
「うっ…、ごめんね。そして、娘を、絵里を助けてくれてありがとう。」
西之宮さんの父親の言葉に西之宮舞さんが誤ってくる。
渋々な感はあるけど、それでもしっかりと謝ってくれた。
相変わらず、怪訝そうな表情ではあるが、ゴミを見る目よりはマシだと思った俺は気にしないことにした。
「そんなことより牧田さん、怪我しているから!」
そう言って、西之宮さんは俺の腕を父に見せた。
「これは大きな怪我ではないけど、感染の心配もある。うちの家に来てもらおう。絵里、一旦離れなさい。はい。」
西之宮さんは残念そうにしながらも、今回は俺を離してくれた。
俺の健康を優先したみたいだ。
「いえ、自分で歩けます。それに汚れてますから。」
「いや、大丈夫だ。君は私の恩人だよ。そんなことを一々気にする必要はない。」
そう言った西之宮さんの父親は俺に背中を差し向けた。
そして、何の躊躇いもなく西之宮さんの父親は俺を背負った。
西之宮さんの父親の服はかなり高級感があったけど、言葉通り彼はそんなことを全くきにしなかた。
俺を後生大事そうに背負ってくれる西之宮さんの父。
これでようやく今回の件が終わったんだなという実感が湧いた。
「ちっ」
小さい舌打ちが聞こえて俺はそこを見た。
そこには空気になっていた宮崎がいた。
宮崎はつまらないという表情をしている。
他の皆んなは俺を気にして見てなかったけど、俺は偶然その光景を見た。
何の仮面も被ってない宮崎の素の顔。
宮崎は俺が見ていたことに気づいてないみたいだった。
「どうしましたか?」
西之宮さんは俺に聞いた。
しかし、こんなことを言っても信じてもらえないだろう。
宮崎の評判と言う名のこの仮面はそれ程分厚いものだ。
「何でもないよ。」
今は見なかったことにしてやろう。
俺は内心でそう呟いた。
宮崎はなんで沈黙を選んだんでしょうか?
3話を読み返しました。
何か英二の家は親に感動されて無くなったことになっていました。
正しくは勘当です。
本当にすみませんでした!