リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
「まさか…」
俺は鳥肌が立つ感覚を抑えられなかった。
押入れの中で悍しい何かを発見したような、そんな奇異な感覚がする。
だが、これだけであの宮崎が罠を作った犯人になる訳ではない。
「宮崎って苗字の人はいくらでもいるからな。」
そう、ここがあの宮崎の家という保証は今の所何もなかった。
それにここが宮崎の家だとしても、彼があの罠を制作した犯人という証拠にはならなかった。
「敷地内でもない裏庭の草なんて誰でも採集ができるしな。」
俺はスマホの時間を確認した。
時刻は7時になっていた。
最悪、美鈴から西宮家に連絡が入るかもしれない。
「そうなったら、説教地獄が待っている。」
あの罠事件があってから、美鈴は俺の動向を更に気にするようになった。
良識ある大人として、恋人として俺を危険に晒したことが許せなかったんだろう。
それに関しては俺が完全に悪いから、しばらくは美鈴の言葉に従ってやろうと思う。
俺は名残惜しさを感じながらも暫定宮崎家(?)から離れて駅に向かうことにした。
「一応美鈴に今家に向かっていると連絡を入れておこう。」
俺は一言美鈴にメールを送ってから。
帰り道に俺は考えをまとめていた。
まずは、あの採集痕のことについて。
俺だったら家の近くで罠の、犯罪の材料を集めようなんて思わないだろう。
それは余りにもリスクが高すぎる行動だ。
大人の意識を持つ俺としては憚れる行為。
「しかし、子供なら?」
子供ならそんな判断ができない可能性がある。
あの狡賢くて、扇動することに天性の才能を持つ宮崎もまだ子供だった。
俺の冤罪の件を見ても、まだ彼が完成されてないことは明白だ。
中学時代の宮崎はもっとこう巧妙だった。
「俺の誤解を解いた後も宮崎が非難されることはなかったからな。」
そのように宮崎はいつだって自身を安全圏に置いていた。
足逃れが出来ない状態で危ない行動をすることはない。
しかし、あの時の宮崎は自身の信頼を傷つけてまで俺を犯人に仕立てようとした。
「宮崎もまだ子供ということか」
子供は純粋だ。
余りにも純粋過ぎて善悪の判断が付かないこともある。
自信がやろうとしたことが犯罪だという意識さえもなかった可能性だってある。
俺はしたことがないけど、いたずらっ子は子供の頃は落とし穴を作ったり、黒板消しで罠を作ったりするこもある。
宮崎がそういうタイプの子供かは分からない。
「あの罠は人の命さえも脅かすものだった。しかし…」
本人の中ではあの罠が悪戯の範疇に収まっていて、悪いことには思わなかった可能性もなくはない。
あれは単なる罠で、悪戯の延長に過ぎないから。
「単なる悪戯とかになると、家の近くで材料を集めることもありえる。」
俺は足を止めた。
ちょうど駅に着いたからだ。
時刻は7時15分。
俺は駅のプラットホームに降りた。
「今はまだ証拠が足りない。」
今の所は全部状況証拠に過ぎない。
罠の材料を採集した痕。
その近くにある宮崎表札の家。
「今まで罠を作った人間に対しては手掛かりというものが全くなかった。」
先程は状況証拠しかないとは言ったけど。
逆に言うと、ゼロからこれだけの証拠が揃えることも出来たとも言える。
「俺が罠を作った人間を追うことに意味があるかは分からないけど、まあ、何もしないよりはマシか。」
そう言って俺は電車に乗り込むのであった。
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その翌日の土曜日、俺は再び西之宮家に向かっていた。
絵里ちゃんには来週行くと言ったけど、昨日のことがあってもう一度調査の必要があると思った。
完全に痕跡が消える前に確認したいものが幾つかあったのだ。
「だから、またこんなことをしているわけで…」
俺は今山登りをしていた。
今回は山を通して西之宮家に向かっていた。
美鈴に固く禁じられた山登りだけど、どうしても確認したいものがあった。
罠のことである。
いつも通りなら罠がまた復元されているはずだ。
「この道も一週間ぶりか。」
意味のないことをぼやく俺。
しばらくして、俺は山頂に着いた。
今ではすっかり見慣れた山頂。
山頂は俺が最後に覚えていた姿と変わらなかった。
「!!」
そう、変わらなかった。
絵里ちゃんが罠にかかってから、当たり前だけど下に降りる前に罠を完全に撤去した。
今、俺の目の前には崖下がよく見えている。
ここ二週間、執拗に設置されていた罠がなくなっていた。
「これは…一体…」
俺は言葉に詰まった。
あんなにも執拗だった罠が消えているということは嬉しいことだ。
しかし、どうして罠が消えたのかが、どうしても気になった。
「まさか、罠を設置した目標を達成した?」
悍しい想像が頭を過ぎる。
誰かが転落している可能性について。
俺は崖の下を覗いた。
だけど、幸いにも下には何もなかった。
「ふう、良かった。」
俺は安堵のため息を吐いた。
「誰かを罠にかけることに成功した訳でもない。だからと言って、動物目当ての罠でもなさそう。」
動物が目当てだったら、普通に今も罠が設置されていただろう。
それに人が見てわかるような標識を置いておくはず。
だから、これは人間目当ての罠だということだ。
「そんな罠を設置した人間が急に罠を作らなくなった理由とはなんだ?」
俺は思案した。
罠を作る必要がなくなった?
罠を作れなくなった?
俺は幾つかの可能性を思い浮かべる。
「いや、その全ての可能性もある。」
上に述べた三つの可能性を全てだとしたら?
「人間を目的にした罠で対象が引っかかった?あの罠に掛った人間は俺が知っている限り、二人。岬と絵里ちゃんだ。」
岬が罠に掛かっても罠が作られることは止まらなかった。
しかし、絵里ちゃんが罠に掛かってからは、罠の設置が止まった。
ということは…
「最初から絵里ちゃんが目標だったのか…」
俺は自分が出した結論を口にした。
本当に悍しい、悍ましい過ぎる。
自分で到達した結論ながらも、途轍もなく気持ち悪い結論だった。
「罠の設置をする必要がなくなったのは、絵里ちゃんが山に来ないからか。」
当たり前のことだけど、あの事件以来、絵里ちゃんも蓮さんに言われて山に登ることを禁止されている。
絵里ちゃんが目標なら、絵里ちゃんが来なくなった山に罠を設置する意味はないだろう。
本当に絵里ちゃんが目標ならばだけど。
「結局はどれもこれも今の所は全部俺の妄想に過ぎない。」
何か確実な証拠を掴まない限りは全てはただの妄想だ。
実はそもそも動物が狙いかもしれない。
ちょっと標識を置くことを忘れたのかもしれない。
後になって標識のことを知って、罠を設置しなくなった可能性もあるかもしれない。
それか絵里ちゃんではない別の人間狙いだったかもしれない。
「考えたら切りがないからな。それでも宮崎が犯人ということは排除して動いてもいいかもな。」
意外にも俺はそんなことを考えている。
宮崎の絵里ちゃんに対する目線にはしっかりと好意が込められていたのだ。
あたかも大切にしている物を見るような目線だった気もしたけど、その根本には絵里ちゃんの好意というものが見えていた。
俺は頭の中で岬の顔を思い浮かべる。
「俺が岬を好きになって分かったことがある。」
最初こそ良くない意図で近づいたりはしたけど、今は岬に対して全くそんな感情は沸かなかった。
それで俺は気づいた。
人間というのは好きな人を傷つけるように出来てない。
「宮崎は性格は悪いけど、それでも自分が好きな絵里ちゃんを傷つけたりはしないだろう。」
そう結論を出して、俺は早々と山を降りる準備をした。
これ以上ここにいる意味はない。
「まあ、念のために写真でも撮っておくか。」
俺は山頂の写真を撮った。
パシャパシャと何枚も何枚も写真を撮る。
「スマホというのは本当に便利だな。お父さんには感謝だよ。」
写真を撮るだけで、これがいつの写真かもわかる。
本当に科学の進歩は凄まじいのである。
一通り写真を撮り終えた俺は西之宮家に向かった。
もちろん、事前の連絡は済んでいる。
登ってきた方向と反対側に俺は山を降りた。
前回のことで道は覚えている。
俺は西之宮家についた。
そこには蓮さんが家の前で洗車をしていた。
「こんにちは。」
俺は蓮さんに挨拶をした。
「ああ、牧田くんよく来てくれたよ。急なお願いを聞いてくれて昨日はありがとう。」
蓮さんは昨日のことで俺に感謝の挨拶をしてきた。
絵里ちゃんを元気付けるために俺を呼んだあのことだろう。
「いえいえ、元々俺もここに来るつもりでした。ところで、蓮さん絵里ちゃんいますか?」
「絵里?家の中だ。牧田くんが来ると知って今朝からずっとウキウキとしていたね。まあ、羨ましい限りだ。昔の絵里は私に引っ付いて離れてなかったのに…いや、今も好意と尊敬は感じられる。しかし、昔のようなあの純粋な愛情が懐かしい。あの頃の絵里はお父さんと結婚するとか、お父さんのお嫁さんになるとか、お父さんと結婚するとか言っていたよ。今は牧田くんで、この前は剛太くんのことばかりになって、くう、本当に羨ましい。もちろん、二人には本当に感謝はしている。剛太くんは娘の最初の友達で、牧田くんは娘の命の恩人だ。その気持ちに嘘はない。だけど、私としてはもうちょっと娘の愛情を独占したかった。まさか、こんなにも早い時期から父親離れをされるとは、本当に嘆かわしくて嘆かわしくて、もうちょっと思春期がきたら、この瞬間が訪れてくるものかと思ったけど、なんで今なんだ?いや、牧田くんは悪くないよ。悪くないけど…ううん、ぐぬぬ、今はまだ知らないだろうけど、君も娘が出来たらこの気持ちがわかると思うよ。私も自分がこんな風になるとは思わなかったけど。絵里が私の指を捕まえたあの瞬間、俺の人生観がかわった。しかし、今は牧田くんのことばかり、本当に子供の成長は憎らしい…私に時間を止める能力があったなら…」
「あははは。」
長々と愚痴をこぼすと言うか垂れ流す蓮さん。
俺はただ笑うしかなかった。
過去を振り返る遠い目になったかと思うと、いつの間にか少し嫉妬の混ざった目線で俺を見てくる蓮さん。
悪戯交じりの感じだったけど、どこか本当に嫉妬が感じられる。
蓮さんは本当に深刻な娘煩悩のおじさんだ。
昨日お泊まりにしなくて本当に良かったと心から思った。
「それじゃ、俺は絵里ちゃんのところに行きますね。」
蓮さんはしばらく正気に戻りそうにないので、俺は蓮さんを放置して西之宮家に上がった。
玄関先に俺がついた瞬間。
ドアが急に開いた。
腹部に痛みが走った。
「うっ!」
「牧田さん!今日も会えて嬉しいです。」
痛みの正体は絵里ちゃんのダッシュアタックだった。
俺はなんとか痛みを堪えた。
そして、精一杯格好つけてこういった。
「こんにちは、絵里ちゃんちょっとデート行かない?」
「喜んで!」
笑いながら返答する絵里ちゃん。
そして、その後ろで蓮さんが鬼の形相をしていた。
人生経験の乏しい人の瑛二は良く自信を基準でものを考える癖があります。
世界Dをのぞいて、友人と呼べる人間が皆無で、
世界Dでも宮崎の事件があり、交友関係は岬くらいしかありませんでした。