リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
「えへへ、どこ行きますか?私デートは初めてだからすごくドキドキします!」
長い金髪を尻尾のようにゆらゆらさせながら、俺の腕に引っ付いてくる絵里ちゃん。
俺に向ける好意も相まって、何だか狐っぽくて可愛い。
絵里ちゃんはえらく上機嫌だった。
「そうなんだ。俺は宮崎とやったことあるかなと思った。」
俺は絵里ちゃんと宮崎の関係を調べるためにそんなことを言った。
「剛太ですか?剛太とは友達だったから一緒に遊んだりはしたんですが、デートはしたことないです。」
きょとんとした顔で答える絵里ちゃん。
絵里ちゃんの中で宮崎はただの友達という括りらしい。
俺としては絵里ちゃんと宮崎の逸話を聞かされた時、もうちょっと依存的な関係性というイメージがあったけど。
そんなことはなかったみたいだ。
「そうなんだ。それは嬉しい。俺もデートは初めてだから。」
まあ、嘘ではない。
そうか、そういや俺も岬と美鈴とはデートをしたことがないな。
野外プレイもしたことはあるけど、純粋な意味でのデートは本当にしたことないからね。
今回帰ったら誘ってみるか。
「本当ですか!牧田さんの初めて…私嬉しいです!」
それでもそんな事情を分かるわけがない絵里ちゃんはものすごく喜んでくれた。
「うん?ああ、そういうことね。」
何やら艶っぽくて色気が混じった声でいう絵里ちゃん。
俺は一瞬困惑したけど、すぐに取り繕った。
何かエロい言葉に聞こえた気がした。
まさか、絵里ちゃんがそんなことをする訳ないしね。
「まあ、デートとは言ったけど、そこまで特別なことをする訳ではないよ。」
「そうなんですか?」
少し残念という感じの絵里ちゃん。
「うん、俺、もっと絵里ちゃんのことについて知りたいから、絵里ちゃんが普段どうな風に過ごしているか教えてよ。まあ、どちらかと言うと散歩になるのかな?」
俺はそう言った。
しかし、絵里ちゃんは頑なになった。
そして自分の主張を始めた。
「いえ、これはデートです!私のことを知ってくれるって、それはもうデートですよ!はい!デートって言ってください。」
今日の絵里ちゃんは押しが強いな。
何だか俺が岬にしたようなことをそのまま返されている感じだ。
「う…うん。これはデートだ。」
俺は絵里ちゃんの迫力に負けた。
「さあ、行きますよ!」
そうやって絵里ちゃんは俺の腕を引っ張って歩き出した。
最初に絵里ちゃんに案内された場所は近くの公園だった。
特に何の変哲もない公園だ。
「私はよくここの公園で日向ぼっこをしてます。」
穏やかな感じの時間の過ごし方だ。
俺たちは近くのベンチに座った。
「最近はもっぱら室内で過ごしてきたけど、こういうのもいいね。」
「えへへ、そうでしょう?」
絵里ちゃんは俺が自分の趣味に共感してくれたことが嬉しいのか笑顔になった。
太陽の光に照らされた彼女の金髪がキラキラと光る。
俺はその姿を見て洋画とかに出てくる美しい妖精みたいだと思った。
俺たちは特に何も言わずにベンチに座って日向ぼっこをした。
ただただゆったりと流れる心地良い時間。
俺としては中々こんな感じでゆっくりすることがなかったから、新鮮な気持ちだった。
「あの…」
しばらく黙って日向ぼっこを楽しんでいた俺たちだけど、急に絵里ちゃんが口を開いた。
「どうしたの?」
何だかモジモジしている絵里ちゃん。
「別に無理しなくてもいいですよ?」
絵里ちゃんは変なことを言ってきた。
俺としては完全にリラックスしていたつもりだけど、無理?
無理とはなんだ?
「無理?」
俺は頭を傾げながら絵里ちゃんに聞いた。
「こんなこと、面白くも何ともないですよね?別に私の趣味に合わせてくれる必要はありません。せっかくのデートですから、牧田くんが楽しいことをしましょう。」
俺を配慮して他のことをしようと提案する絵里ちゃん。
中々健気で可愛らしい提案だ。
「俺、無理してないよ?」
俺はそのまま事実を伝えた。
「そうなんですか?」
意外そうな顔の絵里ちゃん。
何でそんなに意外そうなのかな?
俺ってそんなに活発な悪戯坊主みたいに見えるのか?
「うん、こうやってゆっくりと時間を過ごすことがなかったから、すごく新鮮な気持ち。」
「それは…良かったんすけど…」
何だか不安そうな表情をしている絵里ちゃんの姿に俺は疑問を抱いた。
「どうして、俺が楽しくないと思ったの?」
「それは…」
絵里ちゃんは一瞬言葉に詰まった。
そして俺にその理由をいってくれた。
「剛太は何時も日向ぼっこがつまらないと言ってました。それで男の子はみんな日向ぼっこが嫌いなのかなと思ったんです。」
宮崎が原因だったのか、どうやら絵里ちゃんは宮崎を基準に物を考える癖がついたみたいだ。
宮崎は大人しそうな彼だけど何もせずに日向ぼっこをするのは性に合わないみたいだ。
「そうなんだ。言ってくれてありがとう。でも、俺は日向ぼっこ嫌いじゃないよ。」
俺は宮崎とは違うことをアピールした。
それでやっと絵里ちゃんは笑顔になり、自分も日向ぼっこをたのしみはじめた。
絵里ちゃんは自分が好きなものを同年代に初めて肯定されて、嬉しそうにしている。
暖かい日差しの中でやったりと流れる時間。
まだ7月の序盤ということもあり、日差しもちょうどいい感じだ。
いつまでもこの時間が続きそうなそんな中で俺の意識がどんどんうとうとしてきた時だった。
「?」
急に俺の手に何かの感触が感じられた。
絵里ちゃんの手だった。
小さくて柔らかい指が俺の手をつんつんと触ってくる。
どうやら手を握りたいみたいだ。
「…」
「…」
俺はしばらく無言のままにしていたけど、絵里ちゃんはそれからも俺をチラチラと見てきた。
自分で手を触ってくるくらい積極的でありながらも、どこか控えめな感じだ。
期待感が込められたその瞳に負けて俺は絵里ちゃんの手を握った。
絵里ちゃんの手を握った手から電流が流れる感覚がする。
胸の奥にもくすぐったい感じがした。
これが…青春!
「あ…!」
絵里ちゃんは短い歓声を上げた。
自分の気持ちを受け入れてくれたことが嬉しいみたいだった。
隠せないくらいニヤけた顔でデレデレと笑う絵里ちゃん。
そして、俺の手を強く握り返してきた。
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それからも俺たちは色んなところに訪問した。
絵里ちゃんは最初は場所の選定に苦心していた。
絵里ちゃんは変わらず、俺も楽しめるというところに集中して場所決めをしようとしていた。
俺はそんな絵里ちゃんを見て悩む必要がないことを力説した。
「俺は絵里ちゃんのことが知りたいからデートを提案したの。別に俺の機嫌を一々伺う必要はないよ。」
「!!」
それからは絵里ちゃんも遠慮せずに俺を自分が好きな場所に案内してくれた。
絵里ちゃんが好きな花畑とか、良く行く図書館とか。
街の中で絵里ちゃんの思い出があるところに立ち寄った。
絵里ちゃんはもちろん、俺も純粋にこのデートを楽しんだ。
「今日は人生で一番楽しいのかもしれません。」
「大袈裟だよ。でも、俺も楽しかった。」
俺は嘘偽りのない感想を伝えた。
俺の言葉が本気とわかってくれたのか絵里ちゃんは微笑んだ。
俺はかなり絵里ちゃんと心の距離が近くなったことを感じた。
「ところで、絵里ちゃん。」
「はい?」
「何で俺に敬語を使っているの?」
だから、俺は今まで気になった点を聞いてみる。
絵里ちゃんは父親にもここまで固い敬語を使うことはない。
しかし、俺に対してだけは頑なに敬語で接してきた。
「それは牧田さんが生命の恩人だからです。」
「本をよく読むだけあって、難しい言葉を使うね。その生命の恩人だとしても、ここまで敬語を使ったり、気を使ったりする必要はないと思うよ?」
ずっと俺は可笑しいと思っていた。
絵里ちゃんの俺に対する態度は過度な物が多い。
過度に敬語を使ったり、目上の人のように敬ったりする。
それに好感を表してくる割には、俺にボディタッチをする時に一瞬躊躇いを見せる。
まるで嫌なものに触れる前に、手を一回止めるようなそんな態度だと俺は思った。
「そうなんですか?」
逆に俺に聞いてくる絵里ちゃん。
「そうだと思うけど…絵里ちゃんは何でそこまで俺に畏まった態度で接しているの?」
「それは牧田くんが恩人だから…恩を受けたからには恩を返さないと。」
まるで戦国時代の武士みたいな答えが返ってきた。
俺は少し絵里ちゃんの価値観に引いた。
恩を受けたら返すという躾はそこまで可笑しくはないけど、それを勘案しても絵里ちゃんの態度は異常だった。
命を救っただけで、最愛の父より俺を上に置いて考えるというのはどうも納得がしづらい。
それにあの娘煩悩のおじさんがそんなことを躾ける訳がない。
「どちらかというと、あのおじさんは命を救われても自分を優先してほしいとか言ってそう。」
「はい?」
絵里ちゃんは俺の独り言に反応した。
「いや、こちらの話だった。」
とにかく、絵里ちゃんのこの価値観は家庭教育の結果ではないということだ。
だとしたら、その価値観はどこからきた物なんだ?
「絵里ちゃん、その話は誰から聞いた話なの?」
「お父さん…」
記憶を振り返りながらいう絵里ちゃん。
しかし、あの蓮さんがそんなことを躾ける訳がない。
これだけは確かだ。
「本当に?そんなはずはないと思うよ。蓮さんは何よりも絵里ちゃんを優先するはずだから。あの人は自分が恩を背負うことはあっても、絵里ちゃんに返せないくらいの恩を直接返してとは言わないと思うよ。」
俺ははっきりと絵里ちゃんの言葉を否定した。
「お母さんもそう言ってました。」
舞さんか。
舞さんに関しては俺もまだ詳しくはない。
しかし、あの日山頂であったことを思うと舞さんが蓮さんの方針に逆らうことはないと思った。
「本当に?よく考えてみて。舞さんも蓮さんもそんなこと言わないし、望まないと思うよ。」
「うう…」
俺の言葉で絵里ちゃんは少し唸り声を上げる。
そして目を閉じて何かを思い浮かべようとしている。
「…」
俺はそんな絵里ちゃんの邪魔にならないように口を噤んで、絵里ちゃんを眺めていた。
しばらくして、絵里ちゃんは目を開いた。
「剛太…」
「!!」
ここで宮崎か。
「宮崎がなんて言っていたの?」
「剛太は…恩を受けたら同じ分だけ返すのが当たり前と言ってました。」
「そうなんだ。それでそれをお父さんとお母さんに聞いてみたということ?」
「はい…そうだったと思います。」
俺の言葉に頷く絵里ちゃん。
俺は戦慄するしかなかった。
宮崎は本当に恐ろしい男だ。
「でも、そのままその内容を蓮さんに伝えても、蓮さんは頷かなかったと思うんだけど、どうやって蓮さんを頷かせたんだろう?もしかして覚えているの?」
「はい、確か剛太くんに言われた内容をそのまま言った気がします。うん…助けてもらったらお礼をするというとかで…」
まあ、それだけ言われたら両親も普通に肯定もするだろう。
恐らく、宮崎はその両親の肯定を用いて、絵里ちゃんを巧みにガスライティングしたに違いない。
ガスライティングとは洗脳と近い物であるけど、長年時間を掛けて対象の認知を歪ませる方法だ。
そんなとんでもないことを単なる子供の宮崎は成し遂げた。
しかも、その過程で蓮さんや舞さんをも利用している。
つまり、絵里ちゃんの異常な態度は長年のガスライティングの結果だったのか。
本当に恐ろしい。
俺は大人の意識を持っているからできたものを宮崎は息を吸うように出来てしまっている。
このまま宮崎のガスライティングを利用することもあるかもしれない。
でも、岬の親友である絵里ちゃんにそんなことをすることはできなかった。
俺は決意を改めて口を開いた。
「絵里ちゃん?」
「はい?」
「もういいよ。無理にそんなことをする必要はない。俺はそんなことを望んで絵里ちゃんを助けたわけではないよ。」
俺の言葉に絵里ちゃんは戸惑っていた。
当たり前のこと、長年刷り込ませられた価値観を俺の一言で変えるのは難しいだろう。
俺は敢えて正面からぶつかる事をやめた。
「俺は恩人なんかより、絵里ちゃんと友達になりたいんだ。」
あくまでも俺と絵里ちゃんの関係においては、その価値観はなしであることを告げる。
絵里ちゃんは混乱した目つきで俺の言葉の続きを待っていた。
「もし、俺に命を助けてもらったから、俺に好意を抱いているふりをしているのならやめていいよ。絵里ちゃん。もっと自分の感情に素直になってもいいんだよ。」
「そんな…大丈夫ですか?」
そこでやっと絵里ちゃんは口を開いた。
「いいよ。」
「本当にもっと素直になってもいいですか?」
絵里ちゃんは不安そうな顔をした。
「もちろん。俺といる時は、恩とかもう気にしなくていいから。」
俺はそれを肯定する。
これで俺が絵里ちゃんを手籠にすることは出来ないかもしれないな。
絵里ちゃんはちょくちょくボディタッチをしてきて、喜ぶ素振りを見せた。
しかし、それをする前に何か悩むような行動をとっていた。
恐らく、そういった身体接触とかそれで見せた反応とかも全部恩返しの一環だったんだろう。
本当は俺という男と体を触れることすら嫌いなのかもしれない。
絵里ちゃんはしばらく何かを考える素振りを見せた。
「牧田さん、いや、瑛二くん。」
俺は唾を飲み込んで絵里ちゃんの次の言葉を待った。
「あなたが私の手をとってくれたあの瞬間から、貴方のことが好きになりました。私と付き合ってください!」
「はい?」
予想だにしなかった言葉が聞こえて、俺は馬鹿みたいな声をあげた。
来週はちょっと里帰りがありまして、木曜日と金曜日は休載になりそうです。