リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
宮埼はそれの最終形という感じです。
俺の間抜けた声を聞いた絵里ちゃんは飛び上がって喜んだ。
「っ!!本当ですか?私嬉しいです!」
「え?どういうこと?」
今回は俺の頭が混乱し始めた。
まさか、俺が困惑して言ったはいを了承の意味として捉えたのか?
なんて強引な!
「今、はいって言いました。」
案の定のことを言う絵里ちゃん。
俺は一旦状況を整理するために否定することにした。
「言ってない。」
「言ったもん!私聞いた!」
もはや駄々を捏ね始める絵里ちゃん。
絵里ちゃんの子供らしい一面を初めてみた気がした。
やはり、彼女の本性はもっと活発で自由な感じらしい。
今はそんなことより…
「えっと、絵里ちゃん落ち着いて…俺に状況の整理をさせてくれる?」
「はい。」
そこは俺のお願いを聞いてくれるんだ。
俺は見当違いなことを考えながら、絵里ちゃんに質問を続ける。
「俺としては、絵里ちゃんは俺が好きではないと思っていたけど…」
「そんなことありません!私は瑛二くんが大好きです!」
絵里ちゃんは俺の言葉を遮ってきた。
今まではなかった反応だ。
今までは俺の言葉が全部終わることを待ってから、絵里ちゃんは発言したりしていた。
そんな絵里ちゃんが俺の言葉を遮るとは…
余程絵里ちゃんは自身が俺を嫌っていると誤解されるのがたまらなかったみたいだ。
「そう、なんだ…じゃあ、俺の体に触れる前に一々ビクッとなって止まってたけど、それは俺に触れたくないからではないの?」
絵里ちゃんは普段の飛びつきや腕に引っ付く以外は俺の体に触れる前に一瞬ビクッとなって止まる癖があった。
俺はそれで絵里ちゃんが無理をして俺を好きなふりをしていると判断したのだ。
今日のデートでは特にその傾向が強かった。
「そんな!それは誤解です!」
またも必死に否定する絵里ちゃん。
絵里ちゃんは今回は何の迷いもなく俺の手を掴んできた。
「瑛二くん、私そんなつもりは全くありませんでした。不快な思いをさせてしまってごめんなさい。」
絵里ちゃんは俺に謝罪をしてきた。
自分の行動が俺に不快感を与えたことに大いにショックを受けたみたいだ。
「いや、不快とか思ってなかったから大丈夫だよ。ちょっとだけ配慮が足りなかったかなと思っただけ。」
俺は絵里ちゃんを落ち着かせた。
そこでやっと絵里ちゃんは意を決したのか、自身の感情を打ち明けた。
「実は…それが…瑛二くんが好きすぎて、好きすぎて…、自分の感情を抑えきれなくて、でも、瑛二くんに恩を受けた私が自分の欲望のために、瑛二くんに触れてしまってもいいのかと思ったんです。それで、何時も何回も迷ってしまって…それで…それで…」
つまり、ことの顛末はこうだった。
飛びつきや引っ付きは無意識の行動だから、何の躊躇いもなくしてきたけど。
手を取るとかの身体接触については、自分の欲望からの行動だったから抑えていたとのことだった。
絵里ちゃんは顔がリンゴのように真っ赤になりつつも、俺の誤解を解くために絵里ちゃんは言葉を紡いで行った。
その純粋な好意で俺も顔が赤くなってくる。
「その、あ、ありがとう。」
何気にこうやって告白されたのは初めての経験だ。
俺も平常心ではいられなかった。
しかし、絵里ちゃんはそれで止まらなかった。
恋する乙女は無敵という言葉が頭を過ぎる。
「瑛二くん、本当に好きです!いや、好き!」
絵里ちゃんは俺に敬語を使うことをやめた。
自身の行為が恩を受けたから出来たものだとは思われたくなかったみたいだ。
そして、遠慮なく俺をハグしてガッチリ俺の胴体をホールドしてきた。
「うっ…」
力強いハグに俺は少し呻き声を上げる。
それでも絵里ちゃんは止まらなかった。
もっと俺を強く抱きしめる。
「さっきは手を取ってくれた瞬間から好きと言ったけど、あれは嘘!瑛二くんが私を安心させるために笑いかけてくれた時から好きになった!」
頭のいい絵里ちゃんは俺が何を躊躇っているかわかっていた。
自身の感情が吊り橋効果によるものだと思われることも先手を打って阻止してきた。
自身の好意は命を救われたからではない、俺の優しさこそが惚れた理由と言ってきた。
「それにさっきはいと言ったから!私たちは恋人!」
「それは…」
「私は聞いたもん!自分の感情に素直になってと言ったのも瑛二くんだから、責任とって!」
絵里ちゃんは更に駄々を捏ねてきた。
まさか、あの西之宮絵里がここまで駄々っ子とは…
仕方なく、俺は絵里ちゃんの恋人になれない本当の理由を伝えることにした。
「実は、俺もう恋人がいるんだよね。」
「そんな!」
絶望した顔で言う絵里ちゃん。
しかし、絵里ちゃんはすぐに気を取り直した。
そして、勇ましい顔で宣言した。
「私は負けないから!瑛二くんの恋人を蹴散らして、私に振り向かせて見せる!」
俺は酷い疲れを感じた。
こうやって未来の岬の親友は、岬の敵になってしまった。
それからも絵里ちゃんは俺から離れなかった。
しばらくして、やっと絵里ちゃんは落ち着いてくれた。
一旦は友達からということで、納得はしてくれた。
流石の絵里ちゃんも先ほどの痴態が恥ずかしいのか顔を赤くしていたものの、俺の胴体をハグしたままだ。
時刻は16時半、そろそろ飯時になり、俺たちは西之宮家に向かった。
そこには蓮さんがシャッキシャキと音を立てて庭の手入れをしていた。
本当に多趣味な人である。
「お父さん、ただいま!」
「ただいまです。」
俺たちは蓮さんにただいまの挨拶をした。
俺が言うのは何か可笑しいのかと思ったけど、俺も絵里ちゃんに釣られて無意識的にただいまを言った。
「おかえり。」
そう言ってから作業の手を止める蓮さん。
庭用の鋏を近くの箱に入れて俺たちを迎えてくれた。
それから、俺は夕食の時間になる前に上原家に帰ることにした。
流石にまた食事をご馳走してもらうのははばかれたのだ。
もちろん、絵里ちゃんは激しく抵抗していたけど、蓮さんの仲裁でなんとか俺を解放してくれた。
蓮さんはそんな娘の姿を見て驚いていた。
帰り道はまた蓮さんに送ってもらうことになった。
蓮さんと二人きりになることで俺は娘煩悩のおじさんの恨み言に備えたけど、そんな事態にはならなかった。
「瑛二くん、何かしたのか?」
蓮さんの急な質問に俺は頭を傾げるしかなかった。
「何のことですか?」
「絵里のことだ。」
何の脈略のない話題振りに俺は困惑した。
そんな俺を見て、蓮さんは説明を始めた。
「絵里は昔はもっと自分に素直な性格でね、もっと活発な感じで、良く笑って、今日みたいに駄々を捏ねたりしていたものだ。それがいつしか笑わなくなったと思えば、自分の感情を隠すようになっていたよ。」
蓮さんは前を見ながら言った。
「そうだったんですね。」
「そう、私としては絵里にそんな痩せ我慢なんてして欲しくないのに、何が原因かもわからなくて困っていた。」
「痩せ我慢って、それは家族にもですか?」
俺は質問した。
俺としては心当たりがあった。
「そうだ。絵里はいつしか俺にも本音を隠すようになってね。困ったものだったよ。」
「そうですか…」
俺はその原因に気づいた。
絵里は宮埼のガスライティングによって、常識を歪ませられていた。
受けた恩は必ず返さなければいけないという認識。
その恩は自身のことよりも重要視される。
だから、絵里ちゃんは自分の感情より他人の都合を優先するようになったのだろう。
そして、恐らくそれは親子の関係にも影響を与えた。
絵里は育ての恩を返すべく、自身の感情を押し殺したのだ。
「しかし、絵里の君に対する態度は昔の絵里の姿そのものだった。瑛二くん、一体どんな魔法を使ったんだ?」
蓮さんは俺にその方法を聞いてきた。
「別に何も特別なことはしてません。絵里ちゃんは過度に俺の目を気にして、恩を返そうとしていたので、俺たちの関係に置いて、そんなことは必要ないと言っただけです。」
俺が取った方法を簡潔にまとめて伝える。
「それだけかい?」
以外だという顔をしている蓮さん。
しかし、本当にこれだけだった。
俺が絵里ちゃんのガスライティングを突破できた理由は一つ。
絵里ちゃんが俺にただならぬ恋心を持っていたからであった。
だから、絵里ちゃんに俺の遠慮するなという言葉が効いただけである。
「はい。」
俺はそう答えるしかなかった。
ここで宮埼がやったこととかを説明しても理解してくれるはずがない。
宮埼がしたことについて説明しても、俺の方が疑われるだけだ。
俺の言葉に蓮さんは残念だという顔をしていた。
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その日の夜、俺は岬を抱っこしていた。
「もう、どうしたの?ヨシヨシ」
理由もわからずに俺の頭を抱っこして慰めてくれる岬。
「ちょっとね。今はこうしていたいだけ。」
俺は今日あったことについて考える。
宮崎によって良いように弄ばれた西之宮家。
確かに最悪な行為だったけど、俺はそれを非難する資格がない。
それは俺が上原家にしたことと全く同じ行為だ。
「ううう…」
俺は自己嫌悪に落ち込んでいた。
目の前の最愛の女の子は、俺の手によって洗脳されている。
俺がした洗脳はいい洗脳で、宮崎がしたガスライティングは悪いガスライティングではない。
どれも同じ最悪な行為だ。
俺も宮崎と寸分違わないクズだ。
「ヨシヨシ」
俺の頭を撫でる岬の手が更に俺の良心を締め付けているような気分だ。
「岬、ごめん。」
俺は岬に謝った。
急に謝られた岬はきょとんとした顔をしている。
「本当にどうしたの?」
「俺、岬に最悪なことをした。」
「どんなこと?」
「俺、岬を洗脳した。」
俺は岬に自身の罪を告白した。
洗脳のことについて説明して、岬が感じている感情も何もかもも嘘だったかもしれないと伝えた。
もしかしたら、岬に嫌われるかもしれないという恐怖で手が震えてくる。
しかし、岬は笑った。
「それは別にいいよ。」
余りにも男らしい岬の言葉。
逆に俺が戸惑った。
「どうして?」
「あたしはずっと前から瑛二が好きだったの。その洗脳?の前から。」
意外な事実を明かしてくる岬。
俺は岬が洗脳で俺を好きになったと思ったけど、そうではなかった。
岬はずっと前から俺のことが好きだったみたいだ。
「瑛二って本当バカ。普通はただの友達の匂いなんて嗅がないもん。」
確かにそうかな?
俺としては重度の匂いフェチの岬ならありかなと思ったけど、違っていたらしい。
俺は岬の言い分に説得されかけていた。
「覚えている?あの日のこと。」
「…」
どの日のことだろう?
俺は全く心当たりがなかった。
初めてタイムマシンを使った日以前の記憶がほぼないのだ。
そうやって言葉に詰まっていると。
「むう…」
岬は俺が覚えてないことを気づいたのか頬を膨らませた。
プンスカと怒り出す岬。
俺は岬に謝って詳細を聞こうとする。
「二人の大切な思い出を忘れた悪い子には教えてあげない!これはあたしだけの宝物にするから!」
それから、俺は必死に岬に謝った。
しかし、岬はそのきっかけと言うものを教えてくれなかった。
どたどたと俺たちは暫く戯れ合った。
岬、ありがとう。
おかげで気持ちが楽になったよ。
次の話は岬とのデート回になります。