リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
佐藤葵は俺にとって特別な存在だった。
もちろん、岬や美鈴も俺の中では特別なことは違いない。
だが、岬が最愛の恋人というなれば、葵は大切な友達だった。
岬や美鈴、絵里ちゃんの場合は未来の情報を持って関係を構築したけど、葵との関係は純粋に俺の力でのみ作り上げたものだった。
俺が自力で勇気を絞り出して、俺の手で掴んだ初めての友達。
いくつもの世界を経験してきながら、俺は一人も友達という存在を作れなかったのである。
どの世界の記憶の中でも俺には、岬以外は友人と呼べる存在がなかった。
今までの俺には誰かに友達になろうと言える勇気なんてなかったのだ。
そんな俺が4つ目の世界でやっと友達を手に入れた。
4つもの世界を超えて手に入れた初めての友達。
だから、佐藤葵は俺にとって特別だ。
そんな大切な友達である葵のことだから、最初は本当に恋人にするつもりはなかった。
葵との関係で誠実にありたかった俺としては、葵を恋人にすることは何だか自身への好意を利用するようで気持ち悪かったのだ。
まさか、あんな形で葵と恋人になるとは思わなかったけど。
俺は葵とも恋人になれて本当に嬉しかった。
だけど、一方で俺は葵が心配だった。
本当に彼女は大丈夫なのかという不安がいつも脳裏にあったのだ。
日曜日の朝、俺は葵と自宅(牧田家)の俺の部屋に2人きりでいた。
前までは普通に2人で会うこともあったけど、葵が俺と恋人になってからは2人で会うことがなくなった。
どうも、葵は俺の正妻ポジションの岬に負い目を感じているみたいだ。
そもそも恋人関係の始まりから、岬の譲歩によって出来たものである。
だからなのか、葵は俺と2人で会うことを避けるようになった。
「瑛二、おはよう。あれ?岬ちゃんはまだなのかい?」
部屋に上がるや否や岬を探す葵ちゃん。
「葵、今日は岬は来ないよ。2人きりってこと。」
「それって岬ちゃんは大丈夫なのか?」
やはり葵は岬を気にした。
まるで自分がメインではないと言わんばかりの態度である。
「大丈夫、問題ないよ。」
俺は親指をあげて答えた。
別に岬に何も言わずに出てきたけど、問題はないはず。
だって、岬に何かを言って出てくると今回の密会の意味を失うからね。
「わかった。それで、今日は何をするんだい?」
葵はいいように解釈してくれたようで、手慣れた感じでそのまま俺のベットに腰掛けた。
最近はここで3人で寝取られセックスをしているからか、葵もすっかり俺の部屋に慣れたみたいだ。
しかし、ここにきたら毎日のようにセックスをしているのに、何をするんだとは。
岬がないだけで、そう言ったことを全くしないと思うくらい、葵は岬に負い目を感じている。
「いつものこと。」
葵の質問に俺は簡潔に答えた。
「いつものことって、今日は岬ちゃんもいないんだろう?」
それだけで全てが伝わったのか、岬の名前を引き出しにする葵。
いつものって言われただけで、セックスって分かるなんて、俺の親友は本当にエロくなったものだ。
「うん、岬は来ない。」
「それじゃ、流石に岬ちゃんに悪いというか…そうか!岬ちゃんに録画でもしてほしいと言われたのか?」
「岬なら確かに言いそう…でも、違うよ。今日は岬は来ないし、録画なんてしない。録音とかもしない。」
「では、どうして…」
本気で分からないと言った態度の葵に俺は苦笑した。
それだけ俺たちの恋人関係の始まりは歪だったのだ。
葵は自身を岬のオナニー道具くらいに考えている節がある。
その上、俺も葵自身をそう扱っていると勘違いしていた。
イジメにより自己肯定感は下がった弊害である。
「葵が可愛いから、葵が魅力的だから、葵が好きだから、今日のセックスは葵と俺だけのものだよ。岬にも見せない。」
「ふえっ!?そんな、僕が…可愛いとか…、しかも、好きだなんて…」
俺の言葉に驚いて葵は頬を赤くした。
俺は更に葵に畳み掛ける。
「これは本気だよ。葵は本当に可愛いよ。」
「ううう…僕なんかにそんな…」
葵は恥ずかしがりながらも、どこか怯えた感じだった。
やはり、俺が思った通りだった。
普段は何ともないふりをしてきたけど、葵は大きく傷ついていた。
信じていた友達もイジメが始まって自身を裏切った。
そんな傷跡がいるから、葵は俺たちとの関係でも奥手になっていたのだろう。
いつか俺たちにも裏切られるかもしれないという恐怖でいっぱいだったのだろう。
俺は自身の不甲斐なさを感じた。
俺は葵と目を合わせた。
「葵は、なんかじゃない。葵は俺の大切な人だ。」
俺は葵の目を見て必死に訴えた。
少しでも俺の本気が伝わるように必死な顔で話し続ける。
「ぼくが…たいせつな…ひと…」
葵は俺の言葉を口の中で噛み砕いている。
「そう、葵は俺の大切な人だ。たとえ、葵が俺の恋人でなくなっても、俺が嫌いになっても、俺だけはずっと葵と一緒にいるよ。約束する。」
俺は葵に誓った。
これは紛れのない俺の本心だった。
俺たちはジッとお互いの目をみた。
それでやっと葵は俺の本気だとわかってくれた。
「本気、みたいだね。」
「ああ、本気さ。葵は俺の大切な人だからね。」
「本当に僕で大丈夫かい?君は後悔しないのかい?」
恐る恐る聞いてくる葵。
葵は俺にとって特別な存在だ。
だから、葵自身にも自分が特別だということをわかって欲しかった。
「後悔なんてするものか。葵だからいいんだ。」
「ふふっ、何だかプロポーズでもされた気分だよ。僕、ものすごくドキドキした。」
そこでやっと葵は笑いを取り戻した。
俺もそれに釣られて笑った。
「どれどれ、本当だ。すごくドキドキしている。」
俺は葵の胸に耳を当てて葵の心音を聞く。
暖かい感触とドクンドクンとする脈動が耳に伝わってきた。
「瑛二、君は本当に僕に甘くて甘くて、僕、虫歯になりそうだよ。」
「なっちゃえ、なっちゃえ。もっと俺に甘えていいから。」
俺はそう言って、葵を抱き寄せて頭を撫でた。
サラサラと葵の髪が手の中で溢れていく。
葵は気持ち良さそうに目を閉じた。
「ふふっ、もっとしてくれ。僕を甘えさせてくれるんだろう?」
普段とは違う妖艶な笑みを浮かべて俺を見上げる葵に俺はドキッとした。
俺はしばらく葵の頭を俺の膝に乗せて撫で続けた。
やっと葵は本当の意味で俺に心を開いてくれた。
そこで俺はもっとお互いに正直になる必要を感じた。
「葵、誤解しないで聞いてほしい。俺は葵と恋人になれてすごく嬉しいよ。でも、これだけは教えて。葵が俺の恋人になったのって、やっぱり俺と岬に気後れがあったからなの?」
俺は恐れ恐れ葵に質問した。
葵は少し思案するような顔をした。
しばらくして葵は口を開いた。
「それもあったかもしれない。でも、やっぱり僕が君を好きなのは本当だった。実際に役得とも思ったよ。僕の心については前言った通りだよ。」
葵は熱っぼく自分の感情を語ってくれた。
前言った通りか、俺の優しさに惚れたというあれか。
本当、嬉しいこと言ってくれる。
「葵、俺を好きになってくれてありがとう。」
「ふふふ、どういたしまして。」
俺に微笑みかける葵は美しかった。
「葵…」
「瑛二…」
俺たちの顔はお互いの息が届く距離まで近づいた。
葵の甘い息が俺の鼻をくすぐって、お互いの体温が感じられる距離まで近づいた。
その時だった。
ガチャと扉が開くという音が聞こえた。
「!?」
俺たちは急に現実に戻された。
「何の音だい?」
「玄関が開いたみたい。」
俺は自分の推察を葵に伝えた。
家の構造的に俺の部屋は玄関の真上だから、玄関の方の音が良く聞こえる。
それに今は換気のために窓を開けっぱなしだったから、外の音も良く聞こえた。
「玄関が?もしかしてご両親か?」
「それはないと思うな。帰ってくるとなると連絡をしてくれていたと思うし。」
少なくとも両親の方からそんな連絡はなかった。
「じゃあ、泥棒とかか!?」
葵は珍しく怯えたような感じになった。
俺はそんな葵の頭を撫でて落ち着かせる。
「しっ、静かにして。よしよし大丈夫だから。ううむ、その線が濃厚ではあるけど…」
音からして、普通に鍵で玄関を開けているんだよね。
俺は音を立てずに葵を撫で続けた。
そこでやっと葵は落ち着いたみたいだ。
「ちょっと見てくるよ。葵はここにいて。」
「そんな危ない!」
葵は必死に俺を止めようとした。
「大丈夫、何かしようと思っている訳ではないよ。普通に誰か見てくるだけ。相手に気づかれないようにするから。本当に危ない相手だったら、俺が葵を守らないといけないからね。」
「瑛二…本当に見てくるだけだからな。」
葵は俺に念押ししてきた。
俺は再三約束をして葵はやっと俺を送り出した。
俺が階段の下を降りると冷たい風がガンガンと流れていた。
どうやら、エアコンがついているみたいだ。
それに煩い音が廊下に鳴り響いている。
これは…テレビの音だね。
「足音を気にする必要はなさそうだね。」
多分、暫定泥棒さんはリビングにいるみたいだ。
俺はゆっくりとした足取りでリビングに近づいた。
そして、リビングの方を覗き込んだ。
「!!」
俺は驚愕した。
禿の爺さんがリビングで、半裸姿でテレビを見ながら酒を飲んでいた。
「くはっ、ぐへへへ、やっぱり冷たいところで飲む酒が沁みるなあ、ひくっ!極楽極楽!」
俺はこいつを知っている。
こいつは…
「荻田亀太郎…!」
世界Aで俺の頭をぶっ壊したクソ野郎だった。
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家に荻田亀太郎がいることを確認した俺はすぐに2回に上がった。
葵を安全圏に逃すためだった。
あの野郎は酒を飲んだら何をしでかすかわからない。
それに復讐なんかよりは葵の安全が優先だった。
「瑛二、どうだった?」
心配そうな顔で聞いてくる葵。
「別に大したことではなかったけど、今日はもう帰った方がいいかも。」
「わ、わかった。」
俺は葵を安心させてから、葵を家の外に出した。
幸い爆音でついているテレビのせいで荻田亀太郎は俺たちに気づかなかった。
葵の無事が確定して、俺は行動を開始することにした。
「俺はちょっと電話で両親に確認してみるよ。葵は一旦今日は家に帰って。これは俺が何とかするから。」
そう言ってスマホを取り出して葵に見せる。
最悪の場合には俺が何かをすることはせずに、警察に連絡することを伝えた。
葵は一旦それで納得して、自身の家に帰ることにした。
「わかったよ。でも、無茶だけはしてくれるなよ。君は僕と永遠に一緒にいてくれるんだろう?」
「うん!もちろん!」
葵を見送って俺は父親に連絡した。
電話に出てくれるか少し不安だったけど、意外にも父はすぐにでてくれた。
「瑛二?どうかしたのか?」
「今、家に変な人がいるよ。」
「変な人?もしかして白髪の爺さんのことか?」
俺の言葉を聞いた父はすぐに聞いてきた。
心当たりがありありみたいだ。
「うん。」
「あ、あれは荻田さんなんだ。瑛二、家というものは誰かが管理をしないと傷んでしまうからね。そこで、荻田さんに家の管理を任せているんだ。だから、荻田さんは大丈夫だ。」
家の管理か…この世界ではそんなことになっているっとは。
ここ2ヶ月の間、何回も家に行ったことがあるけどきづかなかった。
奇跡的にすれ違い続けたみたいだ。
「管理ってどんなものをするの?」
「どんなものって、掃除とかを一週間に一回、あとは庭の管理とかもしてくれている。荻田さんには感謝だ。」
掃除に庭の管理?俺が見た時は庭は雑草でいっぱいになっていたけど。
俺は父に荻田亀太郎の仕事ぶりを聞くことにした。
「へえ、そうなんだ。荻田さんってちゃんと仕事しているの?」
「してるぞ。毎回写真で報告してくれているからね。あの人丁寧なんだ。」
庭は草でいっぱいなのに、写真で?
俺は違和感を感じた。
俺は一旦そこで電話を切った。
一応、記憶にないだけで、どの世界でも瑛二は葵と中学前まではずっと同じクラスという関係性がありました。
岬も瑛二自身の力で作った友達ですけど、記憶にないのと未来の情報で関係を修復したことで、瑛二は自分の力ではないと感じています。