リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する 作:霧江
今週も月曜日に大量の仕事が入って、それの処理に追われてました。
金曜日の昼、俺は絵里ちゃんとの勉強会のために、絵里ちゃんの家に向かっていた。
時刻はまだ15時40分ということもあり、周りは明るいままだった。
人が疎にいる駅のホームにも眩しい太陽の光が差し掛かっている。
「今日は暑いな…」
俺は胸元の襟元を掴んでパタパタとする。
それでも暑さを紛らすことはできなかったから、俺はパタパタをやめた。
駅のホームの中もすっかり夏の気配でいっぱいになって、日陰のところに立っていても普通に暑い。
時刻も夕方に近いというのに、まだこれだけ暑いとなると、本格的に夏になる8月が心配であった。
しかし、一方でこの夏という季節に対して俺は期待感を抱いてもいた。
「夏休みかぁ…」
そう、夏は夏休みの季節である。
俺はそれを夏休みが始まる当日である今日になってやっと実感した。
長らく夏休みというものをしてこなかった俺としては新鮮な衝撃だった。
まさか、夏休みというものを大人になった俺がもう一度味わえるとは、夢にも思えなかったのである。
ワクがムネムネしてドキドキするのだった。
「本当に楽しみだな。」
自然と口からそんなことが漏れ出る。
口角も自然と吊り上がって、ニヤニヤが止まらない。
実際に子供になっているけれども、本当の意味で子供になった気分である。
俺としては別に何かをしようという具体的な案とかはなかった。
けど、夏休みという漠然とした期待感だけでも俺は高揚していた。
「何せ、これは人生で初めて直接経験するまともな夏休みだからね。」
世界Aでの俺は荻田亀太郎によって、学生時代を滅茶苦茶にされた。
それは夏休みどころか、登校さえもままならないくらいのものだった。
世界Bと世界C、世界Dでは普通の学生時代を送ったものの、それはあくまでも記憶の中の話でしかなかった。
つまり、俺が直接経験したわけではなかったのである。
だから、この夏休みは本当に俺にとって特別なものだった。
「二度とないチャンス、余すことなくこの夏を堪能してやる!」
この瞬間だけは、大人の俺が監獄にいるという事実を俺は完全に忘れられた。
閑話休題、俺は知らないことだったけど、学校によって夏休みの時期は違うこともあるみたいだ。
何かで聞いて地域によって違うという話は知っていたけど、まさか、学校別でも違うことがあるとは…
俺としては、てっきり地域一括で実施しているとばかり思い込んでいたのである。
俺はそれを絵里ちゃんと話して初めて知った。
元々の予定としては、終業式が終わってすぐに絵里ちゃんの家に向かう予定だった。
しかし、それを絵里ちゃんに伝えたところ、今日はまだ夏休みではないとのことだった。
絵里ちゃんの学校の終業式は7月21日とのこと。
それで今回は絵里ちゃんに時間を合わせて16時くらいに絵里ちゃんの家に着くように調整したのである。
「よし、16時ぴったり!」
絵里ちゃんの家の前で俺はスマホの時計を確認した。
いつもより少し早いけど、恐らく絵里ちゃんは家にいるだろう。
絵里ちゃんの家はかなり学校から近いみたいだからね。
俺はインターホンを押そうと西之宮家の玄関に近づいた。
「?」
ふとした違和感で俺は一瞬立ち止まった。
大した違和感ではないけど、何かが引っ掛かる。
俺は自分の直感に従って、西之宮家の庭を一目見た。
それで俺はやっと違和感の正体に気づいた。
「あ、車がある。」
そこには何回か俺も乗せてもらったことがある蓮さんの車が止まっていた。
本当に大したことのないことだった。
「ううん?でも、確か蓮さんって車で出勤してなかったけ?」
俺が覚えている限りだとそうだった。
先週とか、先々週も金曜日のこの時間帯には車がなかったのである。
だからこそ、俺も違和感を抱いた。
というと、今日は蓮さんが在宅ということ?この時間に?なんで?
そう思ったけど、俺はすぐに正解に気づいた。
「多分、絵里ちゃんのことだろうな。」
あのとんでもない娘煩悩の蓮さんのことだ。
割としっかり目な印象の蓮さんが仕事をほったらかすとしたら、それ以外はないと思った。
「となると、絵里ちゃんの何で仕事まで休んだんだ?」
俺としては心当たりがありすぎて不安だった。
まさか、スマホを見られたとか?
絵里ちゃんのスマホはとんでもない爆薬庫だ。
普段の会話の内容とかもそうだけど…
一番バレたら拙いのは写真だった。
絵里ちゃんのスマホのアルバムには、俺を逆夜這いした時の写真も入っている。
それがバレたと考えるだけで、俺はストレスでお腹の辺りが痛くなってきた。
「うう…急に入りたくなくなってきた。」
俺はしばらく玄関の前でウジウジとしていた。
だけど、こうしていても何か変わるものは何もない。
俺は意を決して玄関のベルを鳴らした。
「はーい!瑛二くんね、少しだけ待って頂戴。今扉開けるから!」
舞さんの声がしてからすぐに扉が開いた。
いつものように元気な感じで俺を迎えてくれる舞さん。
心なしかいつもより更にテンションが高い気もする。
そして、その後ろには蓮さんが立っている
表情は…特に怒ってはなさそうだけど、何だか複雑な感情が見え隠れする顔だ。
これなら大丈夫そうと思った俺はそんな二人に挨拶をした。
「こ、こんにちは。」
「牧田くん、こんにちは!」
「ああ、こんにちは。」
少し変な感じの挨拶になったけど、二人は特に気にする様子もなく、普通に俺を向かい入れてくれた。
取り敢えず、絵里ちゃんのスマホのアルバムは無事みたいだ。
俺はそこで一つ胸を撫で下ろした。
「蓮さん?今日はお休みですか?」
「実はそうなんだ。少し色々あって…ね。」
蓮さんはぎこちない感じでそう答えた。
蓮さんって普段はこんな感じじゃないのに。
おかしい、何かがすごくおかしい。
俺はそう思った時だった。
隣で舞さんの横槍が入ってきた。
「牧田くん、絵里が物凄く会いたがっていたよ。絵里は自分の部屋にいるから、早く顔見せてあげて。」
舞さんはそう言って俺を急かしてきた。
俺としても特に断る理由もないので、素直にその言葉に従った。
俺が絵里ちゃんの部屋に行くと絵里ちゃんはいつものように俺を出迎えてくれた。
「瑛二くん!会いたかったよ!」
ドアを開くと同時に絵里ちゃんは俺に飛びついた。
俺は絵里ちゃんが怪我しないように軽く受け止めた。
最近は毎日のように通話しているというのに、絵里ちゃんは俺に会いたくて会いたくて我慢ならなかったみたいだ。
俺はそんな絵里ちゃんの真っ直ぐな好意が嬉しかった。
「絵里ちゃん、一週間ぶり。俺も会いたかったよ。」
しかし、良かった。
舞さんと蓮さんと違って、絵里ちゃんはいつも通りの絵里ちゃんだった。
俺は安心して絵里ちゃんの頭を撫でた。
「えへへ、もっと撫で撫でして。」
そう言って俺の手に頭をグリグリ擦り付ける絵里ちゃん。
絵里ちゃんの柔らかい髪の毛が手の平をくすぐってくる。
しばらく、俺は絵里ちゃんの頭を撫で続けた。
「絵里ちゃん、そろそろ、離れてくれない?」
「何で?瑛二くんはこうしているの嫌い?」
絵里ちゃんは少しショックという感じの顔になった。
俺はそんな絵里ちゃんの誤解を解くことにした。
「いや、今日は凄く暑かったから。来る途中少し汗を掻いて、少し汗臭いかも。」
「そんなの、別にいいよ。私、気にしないから!」
絵里ちゃんはそう言って、更に俺に抱きついてきた。
俺はそんな絵里ちゃんを抱き返してやった。
「ふえっ!?瑛二くん!?」
「これはお礼ね。」
絵里ちゃんは初めて俺からの抱っこに面白いくらい反応してきた。
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それからは何もなく、俺たちはいつものように勉強会をした。
絵里ちゃんはイチャイチャタイムが減ってしまって、少し不機嫌そうだったけど。
俺としてこの勉強会は絵里ちゃんのイチャイチャタイムと同じくらいに大切だった。
だから、やらないという選択肢は存在しなかった。
その代わりと言っちゃ何だけど、俺は絵里ちゃんに今日のおかずをいっぱい提供した。
「ふう、今日は本当に暑いね。」
「!?」
少し背中を曲げて、パタパタと襟元で風を引き起こしたりして、素肌を見せたり。
「俺って汗臭くない?少し確認してくれる?嫌だったらいいけど…」
「え!?全然嫌じゃない!やるやる!」
絵里ちゃんに頸の匂いを嗅がせたり。
「絵里ちゃんどうしたの?熱でもある?」
「ふえっ!?ないよ!大丈夫、少しぼうっとしただけ!」
俺をぼうっとした表情で俺のことを見つめてきている絵里ちゃんに熱を確認するふりをして顔を近づけたり。
「何なら少し休む?」
「うん!」
そう言って、膝枕を提供したりして、勉強の合間にも絵里ちゃんを揶揄った。
そして、絵里ちゃんは全てのことについて面白いくらい反応した。
最終的に絵里ちゃんは見事に発情して足をモジモジさせ始めた。
くっくっく、これで今日も西之宮家でお泊まりできるはず。
俺は勉強会が終わるまで絵里ちゃんを揶揄い続けた。
それから、勉強会が終わった。
一応、蓮さんに対するポーズとして、俺は家に帰る支度をした。
「今日はもう遅いので帰ります。」
俺は下に降りてそう言った。
俺は内心で絵里ちゃんのやだやだを待つ。
しかし、絵里ちゃんは駄々をこねなかった。
これはどういうことだと思ったその時だった。
「瑛二くん、ちょっと待って欲しいんだ。」
まさかの蓮さんが俺を呼び止めた。
「え、どうしました?」
俺を呼び止めたのは蓮さんだった。
今まではこんなことがなかったから、俺は少し困惑した。
「今日は夕飯を食べていきなさい。」
真剣な表情でそういう蓮さん。
まさか、蓮さんからこういう誘いが来るとは。
これは今までは全くなかったパターンだった。
今までの蓮さんはなるべく早く俺を家に返すようにしていたのである。
夕食を食べて行くとしても、舞さんからの勧誘か、絵里ちゃんの駄々こねによるものが全部だった。
それをこうして蓮さんから誘ってもらえるとは…
「良いですよ。」
俺は嬉しさのあまりに、蓮さんの誘いを二つ返事で受け入れた。
「じゃあ、行こうか?」
蓮さんはそう言って、玄関の方に向かった。
俺としてはてっきり、家でご飯を食べようという話かと思ったけど、違ったみたいだ。
俺以外の他の二人も普通に準備を完了しているのか、そのまま蓮さんに続く。
俺は少し戸惑った。
「牧田くん、どうしたの?早くいきましょう。」
「そうだよ!早く行こう!」
絵里ちゃんと舞さんに手を引かれて、俺はそのまま蓮さんの車に乗り込むのであった。
私も社会人になってかなり時間が経ちまして、夏休みというものの習慣が完全に消えていました。
それで作中では夏休み時期という匂わせ無しに急に夏休みに入ってます。
偶然、朝に外で遊んでいる子供を見なかったら、夏休みなしで物語が進んでいたと思います。
今回の件で自分がすっかり社畜になったと自覚しました。
何だか悲しいです…