※この作品はR-18です。

リスタート:過去へ戻って孤高な女達を手駒にして現在の危機を打破する   作:霧江

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焼肉

俺は想定外の展開に少し戸惑っていた。

しかし、絵里ちゃんはそんな俺に全く気づいてないのか、平常運転だった。

絵里ちゃんは楽しそうに俺に話しかけてきた。

 

「今、向かってるところのお肉、凄く美味しいよ!」

 

絵里ちゃんの口振りからすると、恐らくだけど、俺たちは焼肉屋に向かっているらしい。

焼肉か…俺もすきだけど、他所の家の食事で焼肉屋に行くのは初めてだな。

因みに上原家でも焼肉には行ったことがないから、本当に初めての経験だった。

 

「へえ、そうなんだ。」

 

俺は借りてきた猫のように硬直して相槌を打った。

まさか、焼肉を奢ってもらうことになるとは。

俺としては普通に食事をご馳走してもらうだけでも、申し訳ないという気持ちで一杯になる。

それが焼肉くらいになると、どんな反応を返したらいいかわからなかった。

 

「牧田くん、大丈夫。普通に食事しに行くだけだから、緊張しなくてもいいよ。」

 

俺が緊張していることを気づいたのか、舞さんは俺の緊張を解すためにそんなことを言った。

緊張が解けるかは別として、舞さんは普通に気の利く人だと思った。

 

「何、緊張してたの?緊張している瑛二くんも可愛い!」

 

絵里ちゃんはスマホを取り出して俺の写真を撮り始めた。

俺はそんな絵里ちゃんの様子を見て、少し笑ってしまった。

 

「可愛いって、可愛くないと思うけど?」

 

「瑛二くんは可愛いもん!ほら、もっと笑って!」

 

絵里ちゃんはパシャパシャと俺の写真を撮り続けた。

俺も絵里ちゃんのリクエストに合わせてポーズを取ったりする。

流石の絵里ちゃんも親の前では変なポーズを取らせたりはしなかった。

絵里ちゃんはスケベではあるけど、陽気なムッツリスケベだからね。

そこら辺はしっかりしていて安心できる。

 

「着いたよ。」

 

俺たちのじゃれ合いは蓮さんの声と共に終わりを迎えた。

しかし、30分とは…かなり遠いところまで来たものだ。

 

「結構遠い所ですね。」

 

「そうだね。でも、ここにはそれだけの時間をかける価値があるから。きっと瑛二くんも気にいるよ。こっちだ。」

 

蓮さんはそう言って歩き出した。

俺はそんな蓮さんの後ろを黙々とついて行った。

それから、俺は一目でも分かるくらい高級な焼肉屋に着いた。

内装とかも凄くオシャレで焼肉屋というよりはフランス料理とかを売りそうな内装だった。

完全に高級焼肉屋である。

 

「今日、予約していた西之宮です。」

 

「西之宮さんですね。お久しぶりです。はい、こちらにどうぞ。」

 

店員は俺たちを奥へと奥へと案内した。

案内されたのは個室部屋で、こちらもかなり高級感のある部屋だった。

俺は西之宮夫婦の向かいの絵里ちゃんの隣に座った。

そして、予約のおかげなのか俺たちが席につくや否や肉が運んで来られた。

肉はどうやら従業員の人が焼いてくれるみたいで、テーブルの横に制服を着た人が待機していた。

店員さんは手慣れた感じで肉を焼き始めた。

 

「すごい高級そうな店ですね。凄く高そう。」

 

俺は今までの感想を述べた。

これくらいだと1食に5万は出そうだなと思った。

 

「いや、そんなことは気にしなくていいよ。君が絵里にしてくれたことを考えるとこれくらい安いものだ。」

 

「そうよ。今日はもう食べられませんっていうまで、返さないんだから。」

 

俺がしたこと?

蓮さんの言葉に俺は頭を傾げた。

確かに絵里ちゃんを助けてはいる。

でも、それって1ヶ月以上前のことだけど?

今更、それをこんな風におもてなしするのか?

 

「どうだ?瑛二くん、何かのむか?」

 

俺が悩んでいると蓮さんが飲み物を勧めてきた。

俺は素直に好意を受け入れることにした。

 

「あ、はい、それなら麦茶でお願いします。」

 

「私はコーラで!」

 

「わかった。はい、こちら生ビール2杯に、麦茶に、コーラをお願いします。サラダーも追加で。」

 

「かしこまりました。」

 

俺たちの注文を受けて、蓮さんは店員さんに注文をした。

ビール2杯だと、まさかこの人酒飲むきか?

 

「あら、あなた運転は?」

 

舞さんが俺の心を代弁するようなことを言った。

 

「いいよ。今日は特別だ。それに運転は運転代行を呼ぶから大丈夫。」

 

「なら良いけど、私は初めはビールより、ハイボールの方がいいからね。もう、いつ覚えてくれるの?」

 

「ごめんごめん、忘れてた。すみません。ビール一つはハイボールでお願いします。」

 

二人でイチャイチャし始める蓮さんと舞さん。

しかし、今日は特別、か。

今日絵里ちゃんに何かいいことがあったということかな?

一体どんなことがあったんだ?

 

「はい、かしこまりました。それとこちらはもう食べても大丈夫です。この部位は塩とタレでお召し上がりください。」

 

俺が悩んでいるところで、肉が焼き終わったのか店員さんがそう言ってきた。

 

「はい、ありがとう!ほら、牧田くん、遠慮なんてしなくていいから、一杯食べてね!」

 

舞さんはそう言って、俺の皿に肉をよそってくれた。

俺はここまで来て遠慮することもないと思ったので、素直に肉に塩を付けて口に運んだ。

 

「美味い!」

 

口の中で蕩けるように柔らかい食感に、一口噛む度に広がる肉汁の旨み。

ただ肉を焼いただけなのに、こんなにも旨くていいのかと思えるくらい美味い。

多分、人生で食べた中では一番美味い肉ではなかろうか?

 

「これ、凄く美味しいです。」

 

俺は思わず破顔した。

これはマジで美味いとしか言いようがない。

流石に卑しい感じになるかと思ったけど、他の3人は俺を微笑ましそうに見ていた。

俺はそこで考えることをやめて、肉に集中し始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ではごゆっくり。」

 

大体、肉が焼き終えた店員は席を外した。

俺も心行くまで肉を食べて満足しているところだった。

流石に食べすぎたと顔を赤くしていた。

それでも俺を微笑ましく見ている3人の目線に俺はたまらず、今日あったいいことについて質問した。

すると、絵里ちゃんが口を開いた。

 

「実はね。私、今日、他の子に話しかけられて、謝られたんだ。」

 

「謝られた?」

 

一瞬、誰に何をと思ったけど、ここでやっと俺は今日絵里ちゃんに何があったか気づいた。

俺にはその心当たりがあったのだ。

 

「私をパツ菌と呼んでいじめたことについてだって。」

 

「パツ菌…」

 

そう、俺が木曜日にしていた活動が実を結んだのだった。

俺としてはその噂を広めたやつを特定しようとしただけだが。

まさか、こんな風に、こんなにも早く結果が出るとは思わなかった。

 

「実はね、私、裏でそんな風に言われていたなんて知らなかった。それにいつからそんなこと言ってたのと聞いたら、結構前からだったんだって。」

 

俺は開いた口を閉じられなかった。

絵里ちゃんが鈍感だとは思っていたけど、これくらいだったとは…

街中の子供が自身を罵っていたのに、それを気づかなかったとは想像を絶する鈍感さだった。

そりゃ、パツ菌が話題に上がることないのも当たり前だ。

でも、その鈍感さが絵里ちゃんの心を守ったと思うと、その鈍化さもまた絵里ちゃんの愛すべきところなのかもしれない。

 

「それでね。その謝った人が、中村くんって人だけど、中村くんに何で今更謝る気になったかと聞いたの。」

 

ここでまさかの新しい友人の中村の名前が出るとは。

あいつ、ちゃんと俺の言葉通り謝ってくれたんだな。

やはり、中村はいいやつだった。

 

「そしたら、中村くん、瑛二くんに言われて初めて自分が悪いことをしていたんだと気づいたって。」

 

絵里ちゃんはそのまま言葉を続けた。

 

「えへへ、それを皮切りにどんどん他の子たちも私に謝りにきてくれて、今日は何と瑛二くんと剛太以外にまた友達ができました!」

 

輝かしい笑顔で笑う絵里ちゃん。

絵里ちゃんはボッチを脱していた。

俺は何だか物凄く感激していた。

 

「絵里ちゃん、本当によかった!本当によかったよ!」

 

「えへへ、全部、瑛二くんのおかげだよ。」

 

絵里ちゃんは俺に笑いかけてくれた。

この屈託のない笑顔を見れただけで、何だか報われた気がした。

これからは他の子たちとの付き合いで時間が取れなくなるかもしれない。

それでも、俺は心から絵里ちゃんのボッチ脱却を喜んだ。

 

「瑛二くん、君には何時も助けられるばかりだよ。」

 

今度は蓮さんが口を開いた。

 

「くっ、まさか私がこんなことを言う日が来るとは夢にも思わなかったよ。それもこんなに早くなるとは…」

 

本気で悔しそうな顔をする蓮さん。

何か言いたくないことを言おうとしているみたいだ。

 

「本当瑛二くんには感謝している。いつも絵里を助けてくれてありがとう。」

 

俺に頭を下げて感謝の意を示す蓮さん。

そして、蓮さんはまたしばらく、ぐっとかくうとかの音をあげながら言葉に詰まっていた。

それを舞さんは呆れたようにながめている。

これはまたあれか…何時もの娘煩悩関係の…

 

「瑛二くん、誤解しないでほしいんだ。私としては人生で誰にもこのセリフを言いたくなかった。別に君だからこんな風に渋っているわけではないんだ。私の可愛い娘を誰にも取られたくなかったよ。でも、でも。」

 

蓮さんはそう前おきをしてからもまた口を噤んだ。

 

「はいはい、早く言ってあげてね。本当に娘煩悩なんだから…そろそろ運転代行の人がきちゃうわよ。」

 

「ぐぬぬぬぬ!」

 

蓮さんは舞さんの催促に耐えきれずに、娘煩悩で閉じていた口をやっと開いた。

 

「先ほどの君の反応を見てわかった。君は本当に娘のことを慮ってくれていた。悔しいけど認めるしかない。瑛二君、君になら、私の可愛い可愛い愛娘の絵里を任せられる。」

 

「!!」

 

まさかの思いも寄らないセリフに俺は驚いた。

何だか結婚の許しを得たみたいな雰囲気になっているけど。

あの娘煩悩のおじさんが娘を誰かに任せられるという言葉を口にすることはとんでもないことであった。

少し前までは夢にも思ってなかった事態である。

俺は蓮さんに認められて嬉しい気持ちになった。

 

「はい、任せてください!」

 

だから、蓮さんの気持ちになるべく、応えたいと思った俺は思わずそう答えたのであった。

それからは運転代行の人がきて、蓮さんの車で帰ることになった。

片道30分の時刻の道で、元々は8時に西之宮家に着く予定だったけど。

残念なことに運転代行の人は初心者だった。

片道30分の道を1時間30分かけたのである。

俺たちが西之宮家についた時刻は9時だった。

 

「それじゃ、俺はこれで…」

 

一応、ポーズとしてそのまま退散する感じを出してみた。

 

「ダメよ。もうすっかり夜だから。」

 

「そうだよ!危ないよ!」

 

絵里ちゃんと舞さんが俺を止めた。

普段だったら蓮さんが車で送ってくれるところだったけど、蓮さんは酒を飲んでいる。

この流れでまたお泊まりかなと思ったその時だった。

 

「その、なんだ…夜も遅いから、今日は泊まっていきなさい。」

 

蓮さんは辿々しい感じでそう提案してきた。

 

「あなた!?」

 

「お父さん!?」

 

「蓮さん!?」

 

まさかの蓮さんから俺にお泊まりの提案をしたのである。

これは今日一番驚愕したかもしれない。

その証拠に俺どころか、絵里ちゃんと舞さんも驚いている。

普段の蓮さんだったらタクシーを使ってまで俺を家に送ろうとしていたのだろう。

しかし、そんな蓮さんが俺に泊まっていけといったのだ。

これは驚かずにはいられない。

 

「…。」

 

俺たちの反応に蓮さんは少しむっとなったみたいだ。

だが、普段の自分の行いに自覚があるのかそれ以上は何も言わなかった。

 

「わかりました。」

 

俺は普通に蓮さんの好意を受け入れることにした。

 

「え?やった!!」

 

俺が泊まっていくことになって、絵里ちゃんはぴょんぴょんと跳ねながら喜ぶのであった。




8月最後の投稿になります。
みなさままた来月にお会いしましょう。
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